19話:食堂の朝食タイム
デービットの店は、今日はいつもより少し賑わっていた。普段は静かな朝の営業だが、今日は町の住人たちが集まり、テーブルのあちこちでライゼンの話題が飛び交っていた。
「ライゼンが夜盗を追い払ったんだろ?」と、髭を蓄えた老人が大きな声で言いながら仲間と談笑している。「しかも、2人も倒したって話じゃないか。」ソーセージを手に持って振り回しながら興奮していた。
「聞いたよ、聞いたよ!」隣のテーブルでは、パンをかじりながら若い女性が話に熱を上げている。「夜盗が来たってのに一人も怪我人が出なかったなんて、本当にすごいわ。彼、あんなに若いのに大したもんだよ。」
別の席に座っていた中年の男性も話に加わる。「そうだな、怪我人が出なかったのが何よりだ。取られた家があったって聞いたけど、大したもんは盗まれてないらしいし、町としては大勝利だよ。」
「それにしても、まさかスケルトンを操るなんてな。見たことないような魔法を使う奴が、この町に住んでるとは思わなかったよ。」別の男が通りの他の店からジョッキごと持ち込んだビールを口にしながら感心した様子で話している。
カウンターの奥で聞いていたデービットは、穏やかな笑みを浮かべながら、お客に食事の準備を進めていた。ライゼンが町の評判になっていることは、父として誇らしかった。彼が夜盗を追い払い、町を守る役目を果たしたことで、住人たちの信頼を得つつあることを感じていた。
「おい、デービット!」一人の常連客が声をかける。「息子さん、すごいことやってくれたな!誇らしいだろ?」
デービットは笑顔で返す。「ああ、あいつもようやく町の役に立てたみたいでな。俺も嬉しいよ。」
ライゼンの評判は一気に広まり、店の中はその話題で持ちきりだった。
ライゼンは疲れた顔で店の扉を開け、重たい足取りで中に入った。毎夜の警備で体力が削られていたため、今朝も遅れて出勤してきた。いつもなら店内は静かで、開店準備をするデービットがひとりで作業しているはずだった。しかし、今日は違っていた。
「お、ライゼン!」常連客の一人が大きな声で彼を呼び、笑顔で手を振る。「お疲れさん!大活躍だったって聞いたぞ!」
「……え?」ライゼンはまだ頭がぼんやりしていて、状況がよく飲み込めない。店内を見渡すと、なぜかいつもより多くの客が集まっていて、みんな彼に笑顔を向けている。普段は朝に営業していないはずの店が、なぜか営業していて、人々が席に座っているのだ。
「おいおい、あんたが夜盗を追い払ったって、みんな大騒ぎさ。ゆっくり休んでもいいのに、よく来たな!」別の客がライゼンに声をかけ、店の奥からも拍手が聞こえてくる。
「どういうことだ……?」ライゼンは戸惑いながらも、徐々に自分が何をしたかを思い出し始めた。夜盗を追い払ったこと、それが町の人々に知れ渡り、今こうして感謝されているのだと理解できてきた。
その時、階段から足音が聞こえてきた。ライゼンが振り返ると、エリオンが二階から降りてきたところだった。彼女は早朝にもかかわらず、きちんとした服に着替えており、真剣な表情でキッチンへ向かう。
「おはよう、ライゼン。」エリオンが小さく笑って彼に声をかけた。「今日はお客さんがたくさん来てるから、朝食の準備をしてるわ。」
「朝食?」ライゼンはさらに混乱した。「そもそも、うちの店って朝営業してないはずだよな?」
「ええ、そうなんだけど……みんな、あなたが夜盗を追い払ったって聞いて、感謝しに来たのよ。それで、デービットさんが急きょ朝の営業をすることにしたの。」エリオンは軽やかに朝食の支度を始め、手際よくパンを焼き始めた。
「そういうことか……。」ライゼンはようやく状況を把握し、少しだけ顔を緩めた。疲れは残っていたが、町の人々が彼を歓迎してくれていることに心から感謝を感じた。
「さあ、あなたも少し休んで。今日はみんなが喜んでくれてるんだから、無理しなくていいのよ。」エリオンは笑顔で言いながら、料理の香りを漂わせ始めた。
ライゼンはその場に立ち尽くし、店の中の温かい空気に包まれたまま、少しずつ疲れが和らいでいくのを感じていた。
エリオンは、手際よくパンに切れ目を入れると、フライパンで少しだけ焼き、表面をパリッとさせた。パンの香ばしい香りが店内に漂い始め、客たちの食欲をそそる。
次に、彼女は大きな太いソーセージを鍋で丁寧に茹で、ジューシーな仕上がりに。茹で上がったソーセージをパンに挟み、さらにたっぷりのチーズを豪快に載せて、軽く溶けるまで待つ。その上から、さっぱりとしたサラダ用のヨーグルトソースをたっぷりとかけた。
「お待たせしました!」エリオンは笑顔で出来上がった朝食をお客たちに運び始めた。
客たちは一つずつ出されたパンに驚きながらも、すぐに手を伸ばしてかぶりついた。熱々のパンに挟まれたソーセージとチーズの組み合わせに、みんな満足げな顔を見せていた。
「これ、うまいな!」一人の客が声を上げる。「ソーセージとチーズが最高に合ってるし、ヨーグルトソースがさっぱりしていいな。」
「まさかこんな豪華な朝食が出るとは思わなかったよ。」別の客も笑いながら頷く。
さらに、柑橘の爽やかな香りがする水がセットで提供され、これが食事の後味をさっぱりとさせてくれた。暑い朝にはぴったりの一品だ。
「これで銀貨1枚か……十分すぎるな。」客たちは皆満足げに頷きながら、ライゼンとエリオンに感謝の言葉をかけた。
ライゼンは少し照れくさそうに頬をかきながら、店の隅に座っていた。
客の一人が、朝食を食べ終わったあと、にやりと笑ってライゼンの方を見た。
「あんたの奥さんだろ?あんな手際よく朝食作ってくれるんだから、いい嫁さんもらったな!」と、わざとらしく声を上げる。
ライゼンは一瞬驚いて目を丸くし、すぐに顔を赤らめた。「ち、ちがう!まだ結婚してないってば!」と慌てて答えたが、客たちはさらに笑い声を上げる。
「まだ、か。なら早くしないとな!」別の客も笑いながら、彼を茶化すように続けた。
エリオンは、そのやり取りを聞きながら、料理の準備をしていた手を止め、少し顔を赤らめながらもクスクスと笑いをこらえた。
「何の話してるの?」彼女は微笑みながらライゼンに問いかけるが、その瞳には何となく楽しんでいるような輝きがあった。
「いや、その…お客さんが変なこと言ってさ…」ライゼンは視線をそらし、さらに赤くなって小さく呟いた。客たちはその様子を見てますます盛り上がり、店内は和やかな笑い声に包まれた。
「まあまあ、ライゼン。みんな君のことを応援してるんだよ。」デービットも笑いながら、彼を軽く叩き、店内の明るい雰囲気をさらに引き立てた。
昼営業の最後の時間、店が少し落ち着き始めた頃、ダリックとアリスが店のドアを開けて戻ってきた。二人とも少し疲れた顔をしていたが、ダリックの表情には何か緊張感が漂っていた。
「おかえり、どうだった?」ライゼンが二人に声をかける。
「悪くなかったが、問題がある。」ダリックは息をつくと、アリスと一緒にテーブルに座った。「俺の経験から言わせてもらうが、奴ら昼間は来ない。今夜か、遅くとも明日の夜には総攻撃をかけてくるはずだ。」
「総攻撃?」エリオンが驚いた表情で近づいてきた。「そんなに大規模なものになるの?」
「ああ、そうだ。」ダリックは真剣な表情を浮かべて説明を続ける。「これまでの襲撃を振り返ってみろ。奴らは最初の3回は成功しているが、その後の3回は失敗している。それも、かなりの失敗だ。夜盗の連中が3度も手ぶらで帰るなんて屈辱だろう。だから、次は全力でくると踏んでる。」
ライゼンは腕を組み、考え込むように眉をひそめた。「確かに、奴らが何か策を練っている可能性は高い。俺たちが守っている以上、奴らも簡単に引き下がるとは思えない。」
「だろう?それに、ここの警備体制を見ていて、奴らがどう動くかも大体わかる。今夜はかなり危険だ。」ダリックは言葉に力を込めた。「だから、今から俺たち二人は休む。夜に備えて体力を温存しておく必要がある。」
「確かにそれが賢明だな。」ライゼンも頷き、アリスの方を見る。「アリス、お前はどう思う?」
アリスは静かに頷いて、ダリックの言葉を支持した。「ダリックが言う通り。夜盗たちが同じ手で何度もやられるとは思えない。次はもっと狡猾で、力も入れてくるはず。今夜が勝負になるかもしれない。」
「そうか…」エリオンは少し不安げに視線を落とした。「私たちも何かできることがあればいいんだけど。」
ダリックは微笑みながら、エリオンを安心させようとした。「エリオン、君たちはこの店を守ってくれればそれで十分だ。俺たちは夜の警備を任された。あまり心配するな。」
「そうそう、あんたたちが無事なら、それでいい。」アリスもエリオンに優しく言葉をかけた。「私たちはそのためにいるんだ。」
ライゼンは深く息をついて、テーブルを軽く叩いた。「じゃあ、今夜の準備はしっかりやろう。スケルトンの配置も再確認しておくし、俺も少し仮眠を取っておく。」
「それでいい。俺たちも今から休む。」ダリックは立ち上がり、アリスと一緒に部屋の奥へと向かった。「今夜、奴らがどう出るかはわからないが、準備が全てだ。」
「そうだな。気を引き締めていこう。」ライゼンもその後を見送りながら、エリオンに向き直った。「俺も少し休む。もし何かあったら、すぐに知らせてくれ。」
エリオンは少し微笑んで頷いた。「わかった、休んでおいて。大変な夜になりそうだから。」
「ありがとな。」ライゼンは軽く手を振って二階へ向かい、少しでも体力を回復させるために横になった。
エリオンは静かに息を整え、町の長の家の前に立った。夕方の風が少し肌寒く感じられる中、彼女はしっかりと気を引き締め、ドアをノックした。
「誰だ?」中から聞こえる低い声に、エリオンは少し背筋を伸ばして返事をした。
「エリオンです。お話があります、町の防衛に関して。」
数秒後、ドアがゆっくりと開き、年配の町の長が顔を出した。彼はエリオンの顔を見ると、少し驚いた表情を見せた。
「エリオンか…こんな時間にどうしたんだ?」
「実は…」エリオンは短く息を吸い込んで、話を始めた。「今夜、もしくは明日の夜、夜盗たちが総攻撃をかけてくる可能性があります。ダリックがそう予測しています。これまでの失敗が続いているため、奴らは全力でくるはずです。」
町の長は眉をひそめ、彼女の言葉をしっかりと聞き取った後、重々しく頷いた。「そうか…夜盗どもが本気で来るか。」
「はい。なので、日が落ちたら、町の住民全員に家から出ないようにお願いしたいです。それに、鍵もしっかりかけて、安全を確保してください。」
「確かに、それが賢明だろう。だが、夜盗が総攻撃してきたら、町の警備だけで対処できるのか?」町の長は心配そうに問いかけた。
エリオンは少し迷ったが、ライゼンとダリックのことを思い浮かべながら、しっかりと答えた。「私たちは準備をしています。ライゼンがスケルトンを配置しているし、ダリックとアリスも今夜に備えて体力を温存しています。もちろん、簡単ではありませんが、奴らを追い払うつもりです。」
町の長はしばらく考え込み、その後深いため息をついた。「わかった。今夜は家にこもり、外に出ないように皆に伝える。だが、もし万が一、奴らが町に侵入してきたら…その時はどうする?」
「その時は私たちが何とかします。」エリオンは少し強い口調で言った。「ライゼンは夜盗を撃退するために力を使ってきましたし、今回も同じように戦う覚悟があります。だから安心してください。」
町の長はその言葉を聞いて少し落ち着きを取り戻し、エリオンに感謝の言葉を述べた。「ありがとう、エリオン。君たちが町のためにここまでしてくれていることに感謝するよ。」
「私たちもこの町を守りたいんです。」エリオンは微笑んで答えた。「では、町の皆さんに伝えてください。日が落ちたら絶対に家から出ないように、と。」
「もちろんだ、すぐに手配する。」町の長は力強く頷いた。「君たちも気をつけてくれよ。」
エリオンは深く礼をして、町の長の家を後にした。夕陽が沈みかける空を見上げ、今夜の戦いに向けて心を決めた。
「みんなの安全が一番大事だ。私たちがやるべきことをやろう。」そう心の中でつぶやきながら、エリオンは自宅へと足早に戻っていった。




