14話:スケルトンと樽の夢
朝早くから狩りに出かけた4人は、陽が高く昇る頃には少し疲れを感じ始めていた。彼らはそれぞれの目標を胸に抱きながら、木々の間を行き交い、静けさの中で狩りを楽しんでいた。
時間が経つにつれ、彼らはとうとう目標のオークを見つけた。慎重に近づき、見事に仕留めると、カイルがそれを肩に担ぎ、仲間たちは誇らしげに微笑み合った。オークは大型の獲物であり、彼らは一定の血抜きをして持ち帰ることにした。さらに、4羽のウルラビットも見つけ、獲物を増やすことに成功した。
昼を過ぎた頃、4人は意気揚々と町に戻ってきた。エリオンは早くも心が躍っていた。昼の営業を終えたデービットの元で、解体の準備をするために早速食堂の裏手に向かった。
「ただいま!狩りから帰ったよ!」とカイルが言いながら食堂の裏から入ると、デービットは微笑みながら彼らを迎えた。
「おかえり、カイル。いい獲物があるようだな。早速解体してみようか」とデービットが声をかけると、準備をして待っていたエリオンは頷き、裏手の解体スペースにあるテーブルの上にオークを置いた。皮は干して、後で材料屋に売る予定だ。
「これがオークの皮、そして肉はソーセージの材料にするわ」とエリオンが言うと、デービットはうなずきながら手伝いを始めた。
「まずはこの部分を切り取って、血抜きをしっかりとたのむよ。新鮮な肉を使うことが大切だからな」と、デービットは解体の手順を丁寧に説明しながら進めていく。
一方、狩りに出かけた他の仲間たちも、持ち帰ったウルラビットの処理を手伝うため、食堂に駆けつけた。彼らは自分たちの成果を誇らしげに見せ合いながら、忙しそうに動き回っていた。
「これだけ持ち帰れば、しばらくはソーセージを作る材料には困らないな!」カイルが言い、仲間たちは頷き合った。
燻製にしたソーセージは何か月も保存が効くので、エールの仕込みや売れ行きでの調整が効きやすい、食堂にとってはいい商品なのだ。
1週間が経過し、4人は毎日のように狩りに出かけては、オークやウルラビットを捕らえてきた。捕獲した肉は、解体されてソーセージとして加工され、彼らの新たな拠点である小屋の一角には香ばしい匂いが漂っていた。エリオンはデービットの教えをもとに、ソーセージ作りの腕を磨いていた。
狩りの合間に、彼らは小屋の修理にも力を入れていた。乾燥した木材を使い、清潔感のある空間を整えるために、カイルが主導して作業を進めていた。「まずは床をしっかりと作ろう。隙間なく板を敷き詰めれば、清潔で快適な環境が保てるはずだ」とカイルが言うと、仲間たちも頷き、手際よく作業を進めた。
板を一枚ずつ丁寧に並べ、釘を打ちながら進めていくと、次第に小屋の雰囲気が変わっていくのを感じた。土の舞い上がらない空間が整うことで、作業の効率も上がっていった。
「これでエールの醸造も問題なく進められるね」とカイルが言い、仲間たちもその言葉に賛同した。エールの醸造は彼らの新しい挑戦であり、興奮と期待に胸が高鳴る。
カイルは小屋の中でエールの醸造準備を進めていた。出身の村で父が行っていた伝統的なエール醸造方法を参考にし、仲間たちに指示を出しながら作業を進める。
「まずはアラン商会から仕入れた原料を使おう」とカイルが言った。「モルトとホップを確認して、必要な道具を用意しよう。」
エリオンがアラン商会から手に入れたモルトの袋を広げ、仲間たちと一緒に粉砕する準備を始める。「このモルトの質が、エールの風味に大きく影響するから、丁寧に粉にする必要がある。」
粉砕を始めると、甘い香りが広がってきた。カイルは、粉砕が終わると、次のステップを説明する。「次は、粉にしたモルトを温水でマッシングする。温度、手のひらで熱くて無理と感じる熱さが理想だ。これが酵素を活性化させて、うまさを引き出す。」
仲間たちは温水を用意し、モルトを混ぜていく。液体が濁った色合いになり、香りが一層濃くなってきた。「この状態を1時間ほど保って、うまさを抽出しよう」とカイルが指示すると、皆はその間に他の準備を進めた。
時間が経つにつれ、甘い香りが漂う中、カイルは「さあ、液体を分けて、うまさを抽出しよう」と声をかけた。彼らは濾過用の布を使って液体を分け、大きな鍋に移す。この工程で、モルトの中身が抽出され、エールの基本的なベースが完成した。
「次は、この液体を煮してホップを加える」とカイルは続けた。「ホップは苦味と香りを与えてくれるから、必ず必要だ。」
仲間たちは液体を煮立て、ホップを追加する。煮こみが進むにつれて、豊かな香りが広がり、完成に向けての期待感が高まった。
煮こみが終わり、冷却のために液体を別の容器に移すと、カイルは最後の工程を説明した。「冷やしが終わったら、アラン商会で購入した酵母を加えよう。酵母がうまさとしゅわしゅわを付け加える、これがエールの基本的なプロセスだ。」
「なるほど、これでエールができるんだな!」とエリオンが期待を込めて言った。
「そうだ。数日間発酵させたら、樽を移して酵母を取り除けば、完成だ」とカイルは微笑んだ。
カイルは仲間たちと相談し、まずは試作として1樽のエールを醸造することに決めた。「いきなり大量に作る前に、まずはこのレシピでうまくいくか確かめる必要があるからな。」
「そうだね。失敗したら無駄が出ちゃうもんね」とエリオンが頷く。
小屋の中は風通しが良い具合で、十分ちょうどいい、見張りだけ立てておかないといけない、
ライゼンのスケルトンに頼めるか、確認してみるさ。
見張りだけは、ライゼンのスケルトンに任せて、数日間、カイルは醸造所にこもりっきりだった。彼は、醸造の工程に夢中になり、時間を忘れて作業に打ち込んでいた。スケルトンは静かに周囲を見守り、時折通り過ぎる人々に無表情で見つめ返す。お面とフードでまるで本物の人間のように偽装されているものの、一言も発しないその不気味さは払拭できない。
カイルは初めての試作に全神経を集中させていた。父の作業を思い出しながら、原料となる麦芽を適切に挽き、温水と混ぜ合わせて麦汁を作る。彼は火加減を調整し、適切な温度を維持しながら、香り高いホップを加える。ホップの香りが立ち込める中、彼は何度も味見をしながら、エールの完成を目指した。
「これがうまくいけば、大きな一歩になる」と自分に言い聞かせながら、カイルは手際よく作業を進める。
数日後、カイルが醸造所から出てくると、仲間たちが集まっているのが見えた。ライゼン、エリオン、アリス、ダリックが彼の帰りを待ちわびていた。
「おかえり、カイル!どうだった?」ライゼンが声をかける。
「うまくいった?」アリスも興味津々で尋ねる。
「まだ試作段階だけど、良い感じだと思う。数日間集中してやってみたから、次はもっと大きな樽を作れるかもしれない。」カイルは満足げに答える。
発酵時間が経過し、1樽目のエールがついに出来上がった。カイルは緊張と期待が入り混じった表情で樽を見つめ、仲間たちと共に試飲の時を迎えた。エールがどのように仕上がったのか、みんなが楽しみにしていた。
夕方、ライゼン、エリオン、アリス、ダリック、そしてデービットも食堂に集まった。樽の前にはカイルが立ち、彼の手には木製のタップが握られていた。皆がその瞬間を見守る中、カイルは深呼吸してから樽のタップを開け、木製のタップを慎重に回し、黄金色の液体をグラスに注いでいく。泡が立ち、ほのかな麦とホップの香りが食堂全体に広がった。
黄金色に輝く液体がグラスに溢れ、泡が静かに立ち上る。ほのかな麦とホップの香りが辺りに広がり、食堂全体を包み込む。
「さあ、みんな、飲んでみよう。」カイルは緊張の中、笑顔を浮かべて声をかけた。
まずライゼンが木のジョッキを手に取り、香りをかいでから一口飲む。しかし、その表情は少し微妙だった。「香りは良いんだけど…なんだか、味が薄いな。」と正直に感想を述べる。
エリオンも続いて飲んでみたが、彼女も同じように首をかしげる。「確かに香りは素晴らしいけど、味が少し物足りないわね。パンチが足りない感じ。」
アリスも慎重にジョッキを持ち、エールを口に含む。「悪くはないけど、コクが足りないわ。もっと深みがあれば、飲み応えが出るのに。」と考え込む。
ダリックも一口飲んで、「うん、後味がすぐ消えるな。もう少し強い後味が欲しいところだ。」と同意した。
最後にデービットが静かに一口飲み、しばらく考えてから頷いた。「香りは間違いなくいい。だが、味の深みが足りない。エールとしてはまだ未完成だな。発酵時間や材料のバランスを見直す必要がありそうだ。」
カイルはみんなの意見を聞きながら、少し肩を落としたが、すぐに前向きな表情に変わった。「なるほど…初めての試作だからな。でも、香りが良いってのは良い兆しだ。」
ライゼンが励ますように言った。「大事なのはここまでたどり着いたことだよ。次はもっと良くなるはずだ。」
エリオンも笑顔で、「次は発酵時間やホップの量を調整してみるといいかも。少しの工夫で大きく変わると思うわ。」と提案した。
カイルは最初のエールが思ったように仕上がらなかったことに少し落胆しつつも、父の言葉を思い出していた。「試行錯誤が大事だ。エールの味は、小さな違いが大きな結果を生む。」その言葉に背中を押された。
まずは、1つ目の樽。カイルはホップの量を増やし、発酵時間を少し長めに設定することにした。香りが良かった1樽目をベースにしつつ、味に深みを加えるために、ホップの苦味を引き立てようと考えた。
2つ目の樽では、モルトの種類を変えてみることにした。父がかつて教えてくれたように、カラメルモルトを少量加え、甘みとコクを増すことを試みた。「味に厚みが出るはずだ」と自分に言い聞かせながら、慎重に作業を進めた。
3つ目の樽では、発酵温度を少し低めに設定して、酵母がよりゆっくりと働けるように調整。フルーティーな香りと豊かな味わいを目指し、発酵の過程をじっくり見守ることにした。
「まずはこれで、どう変わるか見てみよう」とカイルは、慎重に3樽を発酵させた。それぞれが異なる味を持つエールになるはずだ。彼は自分の手でエールを仕込むたびに、父と共に過ごした日々のことを思い出しながら作業を続けた。
ライゼンは、カイルの集中した様子を見て「カイル、お前、真剣だな」と声をかけた。カイルは笑って、「これが俺の仕事だからな。うまくいくかどうかは、試してみないと分からないさ」と答えた。
その後、エリオンやアリス、ダリックも興味を持ち、カイルの醸造作業を手伝った。彼らはそれぞれが忙しい合間を縫って、小屋の修理や狩りをしながらも、カイルのエールがどうなるのかを楽しみにしていた。
「これでうまくいけば、もっと大きな樽で作ろう」とカイルは意気込みを見せ、仲間たちは頷きながら次の結果を待った。
ライゼンは食堂で出す料理に新たなメニューを追加することにした。羊の魔獣フェルブーの肉と野菜を煮込んだ特製スープに、ソーセージを1本追加して銀貨1枚という値段設定。さらに、ソーセージ4本を茹でて塩を少しかけただけのシンプルな料理も、同じく銀貨1枚で提供し始めた。
お客たちはそれなりに満足していたが、ライゼンは次第に気づき始めた。店内には10個のテーブルがあるにもかかわらず、全てが埋まることはなく、毎日40人ほどのお客しか来ていない。やはり、店の雰囲気をより盛り上げるには、エールが必要だということを痛感した。
「エールがないと、食堂が賑わいきらないな…」ライゼンは食堂のカウンターでため息をついた。
父デービットも頷きながら、「そうだな。ソーセージとスープはうまいが、やはり飲み物がないと、お客たちは長居しないんだ」と同意した。
カイルが後ろで醸造用の樽を見ながら、「エールがまだ完成してないんだが…でも、次の樽はきっと成功させる」と意気込んだ。
ライゼンはカイルの肩を叩き、「ああ、期待してるよ。エールさえあれば、店はもっと賑わうはずだ」と励ました。




