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13話:新しい仲間

ライゼンは父デービットの食堂の扉を開け、4人の冒険者たちを招き入れた。昼の営業が終わった後で、スケルトンが店内の掃除を終わらせたばかりだった。床はきれいに磨かれ、木のテーブルには埃一つなかった。デービットもキッチンの片づけを終え、背後のカウンターに寄りかかっていたが、ライゼンが連れてきた4人を見て軽く笑みを浮かべた。


「さあ、座ってくれ。こっちは片付けも終わってるから、気にしないでゆっくりしていってくれ。」デービットは穏やかな口調で言いながら、空いているテーブルに椅子を5つ並べた。


「すまないな、急に押しかけて。」ダリックが礼儀正しく頭を下げた。彼の表情には疲労と空腹が見え隠れしていた。


「いいんだよ、遠慮しなくていい。」ライゼンが笑顔で答えた。「ここは俺の父の店だからな。なんだって出してやれるさ。とりあえず、スープを温めなおすよ。パンも少し冷えてるけど、それでも腹は満たせるだろう。」


「スープとパン…それだけでも十分だ。」カイルがうつむきながらぼそりとつぶやいた。


デービットは黙ってキッチンに戻り、マトンのスープを大きな鍋から慎重に取り分け、火にかけて温め直した。パンはすでに少し冷めていたが、デービットは窯の火を起こす時間もないことを考え、急いでそれを盛り付けた。


ライゼンがパンをテーブルに置くと、アリスはパンを手に取り、慎重に一口かじった。「少し冷たいけど、久しぶりにまともな食事だわ…ありがとう、ライゼン。」


エリナも感謝の言葉を口にした。「本当に助かるわ。王都を離れてから、ろくに食べてなかったから…」


カイルは黙ってスープをじっと見つめていたが、ふと口を開いた。「なあ、ライゼン。お前、こんなところにいるなんて、なんか不思議だよな。クラン『輪舞』であんなに戦ったのに、こんな静かな町に戻ってきてるなんて。」


「まあ、俺もいろいろあってな…」ライゼンは軽く肩をすくめながら答えた。「父さんを手伝ってるんだ。ここで静かに暮らすのも悪くないよ。」


ダリックがスープをすすりながら、ライゼンに視線を向けた。「でも、こんな小さな町で、何かやることはあるのか?お前は戦士だろう?戦わないと生きていけないんじゃないのか?」


ライゼンは少し黙り込み、スープの鍋を見つめた。「そうだな…確かにそうかもしれない。でも、今は戦う理由がないんだ。ここに来て、落ち着いて生きる道も悪くないって思えるようになった。」


「落ち着いて生きる道か…」ダリックは考え込むように、静かに言葉を繰り返した。


デービットがスープの鍋を持ってテーブルに戻ってきた。「ほら、スープが温まったぞ。これで少しは元気が出るだろう。」


4人は感謝の気持ちを込めてスープを受け取り、パンと一緒に口に運んだ。マトンの肉が柔らかく煮込まれたスープは、疲れ切った彼らの体に染み渡った。しばらくの間、皆が黙々と食べ、空腹を満たすことに集中していた。


やがて、カイルがスプーンを置きながらぽつりと口を開いた。「なあ、俺たち…これからどうするんだ?」


ダリックもパンをかじりながら思案するようにうなずいた。「そうだな。ノーザン・グリーンに来たはいいが、この先のことは何も決めていない。」


エリナが少しため息をつきながら、「でも、今はここで少し休んでから考えましょう」と静かに言った。


アリスがライゼンに目を向け、「この町で何かできることはないのかしら?しばらくここに滞在してもいいと思うんだけど…」と尋ねた。


ライゼンは少し考え込んだ後、ふっと笑顔を浮かべて答えた。「まあ、父さんの手伝いが増えるかもしれないけど、それでもいいなら、ここにしばらく居てくれてもいいさ。仕事が見つかるまで、ゆっくりしていけよ。」


4人は再び顔を見合わせ、ほっとした表情を浮かべた。ダリックが少し肩の力を抜き、微笑んで言った。「それなら助かるよ。けど、さすがにタダで泊まるわけにはいかない。どうにかお礼をしないと。」


ライゼンは手を振りながら、「気にしなくていい。今は宿の営業はしていないけど、食堂の二階に部屋があるんだ。もしよければ、そこに泊まるといいよ。ただ、一泊銀貨3枚、食事はついてないけど、それでもよければな。」と提案した。


「それなら十分だよ。ありがとう、ライゼン」とアリスが感謝を伝えた。


「いや、本当に助かる。しばらくはここで落ち着けそうだ」とカイルも続けた。


ライゼンは頷き、父デービットにその旨を伝えるため、カウンターの方に向かった。4人は少し安心した表情を見せ、互いに目を合わせた。彼らはライゼンの厚意に感謝し、しばらくの間、彼の元で落ち着けることにほっとしていた。


ライゼンは一息ついて、再び4人の方を向いた。「それと、ちょっと相談なんだけどさ。うちの食堂で使うソーセージの肉を調達してもらえないか?最近、肉の仕入れが追いつかなくてね。オークやウルラビットなんかが狩れたら、1匹につき銀貨1枚払うからさ。」


ダリックは驚いた表情を浮かべた。「ソーセージの材料か…まあ、俺たち狩りの腕には自信があるし、それくらいなら楽勝だろうな。銀貨1枚ってのも悪くない報酬だ。」


アリスが笑顔で頷き、「狩りを手伝うっていうのはいい考えね。ちょっとした運動にもなるし、それに、私たちもこれで生活ができるしね」と同意した。


カイルも少し考え込んでから、「いいんじゃないか?俺たち、当面はここに落ち着けるし、それなら狩りで少し稼ぎながら力を蓄えられる」と言い、やる気を見せた。


エリナが少し遠慮がちに、「それなら、私も一緒にやるわ。うまくいけば、何匹かは仕留められるかもしれないし」と付け加えた。


ライゼンはにこやかに頷いて、「ありがとう。助かるよ。それじゃ、明日から早速頼むよ。狩れた獲物は、食堂の営業が終わった昼過ぎにでも食堂に持ってきてくれればいい。裏で解体してくれるからさ。銀貨1枚、確実に支払うから」と感謝の意を示した。



エリオンが市場からの買い物を終え、食堂の扉を開けて中に入ると、店内で食事をとっている4人に気が付いた。目を見張った彼は、驚きの声を上げる。


「おい、これは…! ダリック、アリス、カイル、エリナじゃないか! なんでここにいるんだ?」


4人はエリオンの姿を見て、驚きとともに喜びの声を上げた。ダリックが先に立ち上がり、エリオンを強く抱きしめる。「エリオン!久しぶりだな!」

エリオンの乳が押し潰れまいとダリックの胸板を押し返す。

チラりと見たライゼンは胸の奥がズキンとした。


エリオンも感激して、「まさかこんな田舎町でお前らと再会するとは思わなかったよ!」と笑顔で応えた。


しばらくお互いの無事を確認し合い、再会を祝う言葉が飛び交った後、エリオンはふとライゼンに目を向けた。「そうだ、ライゼン。エールの買い付け、どうだった? アラン商会に頼んだって話だったよな。」


ライゼンは少し困った顔で、テーブルの上に手を置きながら答えた。「それが、ダメだったんだよ。アラン商会ではエールを扱ってないってさ。この町ではエールは自家製らしい。俺、全然知らなくてさ…」


その時、カイルが静かにスプーンを置いて、ぼそっと言った。「エールの醸造方法なら、少しは知ってるよ。」


ライゼンとエリオンはカイルの方を振り返り、驚いた表情を浮かべた。「ほんとか?」ライゼンが尋ねた。


カイルは少し躊躇しながらも続けた。「全部じゃないけど、だいたいのことは分かる。14歳まで、村を出る前は父さんの仕事を手伝ってたんだ。父さんがエールを仕込んでるのを、ずっとそばで見てたからな…」


その言葉を聞いて、エリナが優しくカイルの肩に手を置いた。「カイルのお父さんは、本当に立派な職人だったわよね。今でもその味、忘れられない。」


カイルは少し寂しそうに笑いながら、「もう父は死んで、今はいないけどな。でも、あの頃手伝っていたことは、今でも覚えてる。エールの仕込みの基本的なことなら、教えられるかもしれない。」


ライゼンとエリオンは顔を見合わせ、突然のカイルの申し出に驚きを隠せなかったが、同時に小さな希望が見えてきた。


「カイル、それは助かるよ!」ライゼンは興奮気味に声を上げた。「この町ではエールの醸造所がないから、作れれば需要もあるはずだ。俺たちで新しいエールを作れるかもしれない。」


エリオンも同調し、「そうだな! この町の人たちにとっても新しい試みになるし、何より俺たち自身が困らずに済む。やってみよう!」


カイルは少し照れ臭そうに笑い、「そんなに大した知識じゃないけど、やれるだけやってみるよ。」と静かに答えた。


次の日、ライゼンは仲間たちと共に森へ向かう準備を整えていた。アラン商会から借りた道具を持ち、皆の期待と不安が入り混じった顔を見ながら、心を決めた。


「これからエールの醸造所を作るんだ。まずは木を切り出して、改装するための材料を集めよう。」ライゼンは仲間に声をかける。


ダリックが頷き、斧を背負いながら言った。「俺が先導する。木を切るのは得意だから、心配するな。」アリスとエリナはそれぞれ手に斧を持ち、カイルも刃物を準備した。


森に入ると、静かな空気が彼らを包み込む。周囲には木々が生い茂り、鳥のさえずりが聞こえてくる。「いい場所だな」とカイルが呟いた。




しばらくすると、ライゼンたちは森で木を切り出し始めていた。ダリックが最初に斧を振り下ろし、木の幹に深い切り込みを入れる。カイルとアリスは周囲の木を探し、使えそうな材を見つけるために動き回った。


「これ、どうだ?」アリスが良さそうな木を指差す。エリナも近寄り、木の状態を確かめる。「いいと思う。これを切り出そう。」

数時間の作業の後、彼らは十分な木材を集めて、小屋へ戻る準備をした。


ライゼンはスケルトンに木材を運ばせながら、仲間たちの反応を楽しんでいた。4人は戦い以外の場面でライゼンがスケルトンを使うのを見るのは初めてのことだった。彼はこの骨の兵士にフードをかぶせて偽装させることで、周囲の目を気にせずに作業を進められると考えていた。


「これが新しい仲間なんだ。少し手伝ってもらおうと思って」とライゼンは説明した。ダリックは少し驚いた表情でスケルトンを見つめ、「戦闘以外でも使えるのか。面白いな。」と感心した。


アリスが笑いながら言った。「でも、フードを被せてるのがちょっと不気味だよね。」その言葉に、エリナも頷いた。「でも、使えるなら問題ないかもね。」


ライゼンはそのままスケルトンに指示を出し、さらに木材を運ぶように命じた。スケルトンは無表情で従い、忠実に木材を運んでいく。その姿を見て、仲間たちはますます興味を持ち始めた。


やがて、彼らは2軒隣の小屋に到着した。ライゼンは木材を乾かすために庭に芝くように指示した。「ここで少し干しておこう。乾燥させないと、エールを作るときに問題になるからな。」


無人の小屋に到着した彼らは、早速作業を始めることにした。古びた小屋の中は、薄暗く埃だらけだったが、希望の光が差し込んでいるように感じた。


「まずは、この掃除からだな。古い木材を取り除いて、改装するスペースを確保しよう」とライゼンが指示を出す。


ダリックは剣で古い木材を切り倒し、アリスとカイルがそれを運び出した。エリナは小屋の壁に掛けられた道具を片付けながら、皆が働く姿を見守った。


清掃が終わると、仲間たちは小屋の中に戻り、カイルが中心となって必要な道具や材料を確認し始めた。小屋の内部はほこりまみれだったが、彼らの作業で明るさを取り戻し、少しずつ活気が生まれてきていた。


「まずは、エールを醸造するために必要な道具を確認しよう」とカイルが言った。彼は小屋の隅にあった古びた木箱を開け、中に入っていた道具を取り出していく。アリスがその様子を見守りながら、「その箱は何が入っているの?」と尋ねた。


「うーん、古い酒瓶やら、計量器が入ってるみたいだ」とカイルは道具を一つずつ引っ張り出し、目を通しながら答える。「これなら、エールを醸造するのに役立つかもしれない。だけど、これが全部じゃ足りないかな。」


「他に何が必要になるの?」エリナが質問し、カイルは一瞬考え込んだ。「まず、発酵のための大きな樽が必要だ。それに、温度を管理するための道具や、原材料の麦芽も必要になる。あとは、ろ過のための布や、瓶詰め用の器具もあった方がいい。」


「そうか、じゃあどこでそれを手に入れるかを考えないといけないね」とアリスが言った。「アラン商会には行ったけど、必要なものは置いてなかったわよね。」


「それに、もし無理なら自分たちで作るしかないな」とダリックが口を挟む。「樽は作れるかもしれないし、ろ過用の布も、街の人に頼めば手に入るかもしれない。まずは近くの材料屋を見てみようか。」


「それいい考えね」とエリナが賛同する。「今のところは、できる限り自分たちで工夫しながら進めていくべきだと思う。」


カイルは道具を戻しながら、彼らの提案を考えていた。「じゃあ、まずは必要な材料をリストアップしよう。樽や布、麦芽を手に入れるために、どこに行くか決める必要がある。」


「それと、食材の調達も忘れないで」とライゼンが加わった。「エールのためには良質な麦芽が必要だから、信頼できるところから調達したい。エリオンにも手伝ってもらおう。」



小屋の外に出たライゼンたちは、明るい日差しの中、ノーザン・グリーンの風景に目を奪われた。青空の下、周囲には穏やかな緑が広がり、町の人々が忙しく動き回っている姿が見える。


「やることがいっぱいだけど、すごく楽しいわ!」エリナが笑顔で言った。彼女の表情には、希望と期待が満ちていた。初めて自分たちの手でエールを作るという大きなプロジェクトが、仲間たちとの絆を深める機会でもあることに気付いていた。


「そうだな!」カイルも頷きながら、腕を組んで景色を見渡す。「この町に根付いて、新しい仕事を始めるなんて、俺たちにとっての新しい冒険だ。失敗したって、それが経験になるし、仲間と一緒に乗り越えられればいい。」


「それに、エールが出来たら、みんなで飲むのが楽しみだ!」ダリックが言い、目を輝かせた。「自分たちの作ったものを仲間と分かち合えるって、すごく特別なことだと思う。」


「ええ、楽しみね」とアリスが微笑む。「私たちの手で作ったエールを、食堂のお客さんたちにも提供できるようになったら、みんなの笑顔を見るのが待ちきれないわ。」


ライゼンはその様子を見守りながら、心の中で自分たちが築いている新しい生活に希望を抱いた。「仲間と一緒なら、どんな困難も乗り越えられる。俺たちは一緒にいる限り、何だってできる。」


「じゃあ、まずは材料屋に向かおう!」カイルが言うと、みんなは頷き、足を進めた。道を歩く中、互いに冗談を言ったり、励まし合ったりしながら、彼らの心は次第に明るくなっていった。


ノーザン・グリーンの町で新しいスタートを切る彼らにとって、楽しさと希望に満ちた未来が待っていることを感じながら、彼らは確かな一歩を踏み出していった。

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