10話:肉はソーセージになる
14時の閉店を迎え、店内は静まり返っていた。スケルトンが床を掃き、テーブルを拭く音だけが響く。デービットはキッチンで慣れた手つきで片づけを進めているが、今日はやや稼ぎが少ないことに、少し思案顔だ。
ライゼンはその様子を見つめながら、狩りの準備を進めていた。エリオンと共に、弓と短剣、軽めの鎧をチェックし、装備が整ったところで二人は店の前に集まった。
「今日の稼ぎは銀貨25枚分か…まあ、悪くはないが、もっと増やさないとな」とライゼンが少しぼやきながら、装備を確認していた。
エリオンは苦笑いしながら、「そうだな。スケルトンのおかげで掃除は手間が省けた分、こうやって狩りに出られる時間があるのは助かるよ。さっさと狩りを終えて、次の準備を進めたいところだな」と前向きに返した。
ライゼンは頷き、「今日はフェルブー、ウルラビット、オークのどれかを狙うつもりだ」と告げた。
エリオンは興味深げに、「フェルブーか…あの羊の魔獣だよな。肉はうまいが、強力な角を持っている。狩るのは一筋縄ではいかないぞ。ウルラビットは見た目はかわいいが、あの跳躍力と俊敏さが厄介だし、オークは言わずもがな、手強い敵だ」と慎重な口調で答えた。
ライゼンは笑いながら、「わかってるさ。でも、その分の価値がある。フェルブーの肉は柔らかく、上質な料理になるし、ウルラビットは鍋に入れると絶品だ。オークも倒せば骨や皮も利用できるから、食堂のメニューに使える素材が増える」と力強く言った。
「そうだな、特にフェルブーの肉は店の新しい目玉メニューになるかもしれない。オークの皮も装飾に使えそうだし、全てが無駄にならない」とエリオンが頷きながら応じた。
ライゼンは軽く頷き、「狩りで稼ぎを増やして、店の立て直しにつなげる。それが今の俺たちにできる一番の方法だ」と決意を固めた声で言った。
エリオンもその言葉に力強く応じ、「よし、じゃあ早速狩りに行こう。時間を無駄にするわけにはいかないな」と笑顔を浮かべながら、出発の準備を整えた。
こうしてライゼンとエリオンは、狩りの獲物を求めて山へと向かった。フェルブー、ウルラビット、オークのどれを仕留めるかはわからないが、店を盛り立てるため、二人は意気揚々と狩りに出発した。
ライゼンとエリオンは森の中へ進み、まずはすばしっこいウルラビットを狙うことにした。エリオンはダークエルフの女性戦士で、直情的で真っすぐな性格。弓の扱いも得意だが、片手剣と盾を使う戦闘が彼女の本領だ。今はウルラビットを弓で仕留めるべく集中していた。
「ウルラビットはすばしっこいが、逃がさないわよ」と、エリオンは木陰に身を潜め、静かに弓を構えた。ライゼンは少し後ろに下がりながら彼女を見守る。二人の前方に、小さなウルラビットが草むらの間を動きながら、警戒する様子を見せていた。
エリオンは目を細め、集中力を高める。ウルラビットがピクッと耳を動かしたその瞬間、エリオンは躊躇なく矢を放った。矢は素早く飛び、ウルラビットの動きを捉え、その場で仕留めた。
「よし、一匹目は成功だな」とライゼンが声をかけると、エリオンは軽くうなずき、「ま、これぐらいは朝飯前よ。」
二人で協力しながらウルラビットを6羽仕留めると、あたりには見かけなくなってしまった。
エリオンは、「次のオークは手強いけど、あたしが仕留めてやる」と自信満々に言った。
次に二人が狙うのは、強力なオーク。オークは力も体力も高く、簡単に倒せる相手ではない。エリオンとライゼンは、深い森の中に進むと、ついにオークを発見した。大柄で、恐ろしい姿のオークが木々の間を歩いている。
ライゼンは冷静にスケルトンを召喚し、オークを囲むように配置する。
オークは急にスケルトンが現れたことで行き場を失って戸惑っている。
次に「ボーンガード、押し込め!」と命じ、ボーンガード4体はオークを取り囲み、盾を構えて押し込んでいった。オークはボーンガードに押され、動きが制限されて鈍っていく。
その隙を逃さず、エリオンが剣を抜いて突進する。「今だ!とどめを刺す!」と叫びながら、彼女は片手剣を振り上げ、スケルトンの盾に抑えられたオークの胸元へ強烈な一撃を放った。剣は確実にオークの急所を貫き、巨体が地面に倒れ込む。
「これで終わりよ」と、息を整えながら剣を振るエリオンに、ライゼンは笑顔で頷いた。「見事な一撃だった。君がいればどんな魔獣でも安心だな」と言うと、エリオンは軽く笑って肩をすくめた。
「これは持ち帰れなくなるから、1回の狩りで1頭が限界だな」ライゼンも笑って答えた。
「まあ、次のフェルブーも同じようにうまくいけばいいけどね」と、エリオンは周囲を警戒しながら次の獲物に備えていた。
ライゼンとエリオンは、次のターゲットである羊の魔獣「フェルブー」を狙い、静かに森を進んでいた。フェルブーは警戒心が非常に高く、ただでさえ捉えるのが難しい上、強靭な体力と驚異的な跳躍力を持っている。エリオンはすでにこの獣の特性を理解しており、慎重に周囲を探っていた。
「フェルブーの姿を見つけたら、いつも通り逃げないように囲むんだな」とライゼンが低く声をかけると、エリオンは真剣な表情で頷いた。
「もちろん。フェルブーは逃げ足が早いし、強力だから油断できないわ。見つけたら一気に囲んで、生け捕りにする。私が見つけたら、すぐにスケルトンで包囲して」と彼女は言い、目を鋭く光らせて前方の木々を見渡した。
しばらく進んだ先で、フェルブーの姿が見えた。灰色の毛並みを持つ巨大な羊のような魔獣が、警戒しながら草を食んでいる。その大きな角は威圧感があり、もし暴れ出したら簡単に人間を弾き飛ばしてしまうだろう。エリオンは、音を立てないようにフェルブーを観察し、その距離を慎重に測った。
「見つけた。フェルブーだ」とエリオンが小さな声で告げる。
ライゼンはすぐに動き、「よし、スケルトンを準備する。囲い込むタイミングは君に任せる」と言いながら手をかざし、低い声で呪文を唱えた。数体のスケルトンが地面から出現し、ライゼンの指示を待つ。
エリオンは片手剣を持ちながらも、慎重に距離を詰める。そして、フェルブーが動き出す前に、素早く声を張り上げた。「今だ、囲い込んで!」
ライゼンの指示でスケルトンたちが一斉に動き出し、群れの8頭のフェルブーを取り囲む。フェルブー達は驚き、鋭く目を光らせたが、スケルトンの数が多く、囲みが完璧だったため、逃げ場を失ってその場で立ち尽くした。
「もう逃げられないわよ」とエリオンは冷静に言いながら、剣を腰に納め、ゆっくりと近づいていく。フェルブーは警戒しつつも、スケルトンの動きに圧倒されている。
ライゼンはスケルトンたちにさらに圧力をかけさせながら、捕獲の準備を進めた。「これで生け捕りに成功だな。エリオン、動かないように見張ってくれ」と言うと、エリオンはその場に立ち、フェルブーが暴れないように監視した。
スケルトンたちがしっかりとフェルブーを押さえつけ、ライゼンとエリオンは慎重に魔獣を飼育用の柵へと連れて帰ることに成功した。
「ふぅ、やっぱり警戒心が強いだけあって、油断ならない相手ね」とエリオンは満足そうに呟き、額の汗をぬぐった。
ライゼンは彼女に感謝しながら、「見事な連携だった。これで8頭を飼育場に入れれば、貴重な食材も確保できる。
「そうね。今日の狩りは大成功だわ」とエリオンも笑いながら、二人はフェルブーを縄でつないで連れて、仕留めたオークとウルラビットをスケルトンに担がせながら、ゆっくりと帰路についた。
食堂に帰ってくると、父のデービットが夕飯の準備をして待っていた。
ライゼンとエリオンは父と共に、さっと夕食を済ませると、
ソーセージを作るための準備が整えるために、ライゼンとエリオン、と父のデービットは食堂の裏にある作業場へと戻った。獲物から確保した肉をさばき、4種類のソーセージを作る計画を立てた。これらの肉を巧みに使い、独自の味わいを生み出すことが狙いだ。
1. 肉の下処理
まず、狩りで仕留めた獲物を丁寧にさばく。オークの肉は筋肉質でしっかりとしており、噛み応えがある。フェルブーの肉は魔獣特有の風味が強く、脂肪が多いため旨味が詰まっている。ウルラビットの肉は柔らかく、さっぱりとした味わいが特徴だ。
デービットは、それぞれの肉を細かく挽くために大きな肉挽き器を用意し、少しずつ慎重に肉を挽いていった。彼は一つ一つの材料を丁寧に選び、香辛料とのバランスを考えながら肉を分けていく。
2. ソーセージ作りの準備
肉を挽いた後、各ソーセージに使う肉を分け、塩や香辛料、ハーブを加えていく。16世紀ヨーロッパの風味を生かし、地元で手に入るスパイスやハーブをふんだんに使用する。香辛料は貴重なため、慎重に計算しながら使用される。
1) オーク肉のスパイシーソーセージ
肉の割合: オークの肉80%、フェルブーの脂20%
香辛料: 黒胡椒、パプリカ、ガーリックパウダー
ハーブ: ローズマリー、セージ
オークの力強い風味を活かし、スパイシーな味付けを施したソーセージ。黒胡椒とパプリカで辛味を加え、ガーリックの風味がアクセントとなる。ローズマリーとセージが、肉の力強さを引き立てる。
2) フェルブーのハーブソーセージ
肉の割合: フェルブーの肉100%
香辛料: 白胡椒、ナツメグ
ハーブ: タイム、フェンネルシード
フェルブーの魔獣らしい強い風味に、タイムとフェンネルシードで爽やかな香りを加え、白胡椒とナツメグで風味を整えた。脂肪が多いため、口の中で溶けるような食感を持つ贅沢なソーセージになる。
3) ウルラビットの軽やかソーセージ
肉の割合: ウルラビットの肉90%、フェルブーの脂10%
香辛料: 塩、黒胡椒
ハーブ: バジル、オレガノ
ウルラビットの軽やかな肉質を活かし、シンプルながらも香り豊かなバジルとオレガノを加えたソーセージ。フェルブーの脂肪を少しだけ混ぜ込み、コクを引き出している。
4) ミックスソーセージ
肉の割合: オーク40%、フェルブー40%、ウルラビット20%
香辛料: 塩、白胡椒、コリアンダー
ハーブ: パセリ、タラゴン
三種の肉を均等にミックスした、肉の特徴をバランスよく味わえるソーセージ。コリアンダーとタラゴンの独特な風味が、それぞれの肉の味を引き立てる。
3. 腸詰めの工程
肉と香辛料をしっかりと混ぜ合わせた後、腸に詰めていく作業に移る。腸は羊の腸を使用し、伝統的な手法で慎重に詰めていく。ライゼンとエリオンは協力して、長さを揃えながらソーセージを作り、しっかりと結び目を作って一つ一つのソーセージを整えた。
「この腸詰めは本当に手間がかかるけど、完成すれば最高のソーセージになる」とライゼンが笑いながら言うと、エリオンも微笑んで応えた。
4. 燻製と調理
ソーセージを腸に詰め終わった後、次は燻製の工程だ。作業場の裏にある大きな燻製炉に、ソーセージを吊るしていく。ライゼンは炉に薪をくべ、低温でじっくりと燻製する。燻製には数時間かかるが、この工程が肉の旨味をさらに引き出す。
「燻製の香りが立ち始めると、食欲が一層そそられるな」とライゼンが呟く。エリオンも頷きよだれを抑えながら、完成を楽しみにしている。
燻製が終わった後、ほとんどのソーセージはそのまま茹でて保存し、一部は焼いて食堂で出せる状態に仕上げる。
5. 完成
数時間後、4種類のソーセージが完成した。燻製の香りが立ち込め、色合いもそれぞれ美しく仕上がっている。
「これなら、食堂の看板メニューになること間違いなしね」とエリオンが満足げに言う。
「うん。これで評判が広がれば、食堂の立て直しもすぐだろう」とライゼンは微笑みながら答えた。
食堂の裏手にある作業場で、ライゼンとエリオン、デービットは完成した4種類のソーセージをテーブルに並べ、試食を始めることにした。どれも自信作であり、それぞれの味を確かめ合うためだ。
ライゼンは、色とりどりのソーセージを皿に盛り付ける。スパイシーなオーク肉のソーセージ、ハーブが香るフェルブーのソーセージ、軽やかなウルラビットのソーセージ、そして三種の肉を使ったミックスソーセージ。見るからに美味しそうで、香りも漂ってくる。
「これがオークのスパイシーソーセージだ。食べる前に、香りを楽しんでみて」とライゼンが言いながら、皿をエリオンとデービットの前に差し出す。
エリオンは皿からスパイシーソーセージを一つ取り、慎重に切り分ける。「いただきます!」と声を上げ、まず一口頬張る。口の中に広がるピリッとしたスパイスと、肉の旨味に思わず目を細めた。
「これ、すごく美味しい! しっかりした味付けがいいね」とエリオンは満面の笑みで言った。
デービットも興味深げにスパイシーソーセージを一口。彼は静かに味わい、「確かに、これなら酒のつまみにも最適だな」と頷く。
次にライゼンが、フェルブーのハーブソーセージを指さす。「これもおすすめだ。肉の風味がしっかりしているから、味わってみて。」
エリオンは一口かじり、口の中に広がるタイムとフェンネルの香りに驚いた。「これ、すごく上品な味! まるでレストランで出てくるみたい」と感動を隠せない様子だ。
デービットも一口。彼は「ふむ、これは特別な一品だ。食堂に出すのが楽しみだな」とにっこりと笑った。
次はウルラビットの軽やかソーセージ。ライゼンが「これもぜひ試してみてほしい。柔らかくて食べやすいよ」と言うと、エリオンがさっそく手を伸ばす。
「柔らかい!」と驚きの声をあげた彼女。「バジルの香りがほんのりして、優しい味わいだね」と嬉しそうに言った。
デービットも一口。「ああ、これなら女性のお客さんにも好まれそうだ。上品で食べやすい」と続ける。
最後にミックスソーセージが残った。ライゼンが「これが三種の肉をミックスしたソーセージ。どんな味がするか、ぜひ試してみて」と期待に胸を膨らませる。
エリオンが一口かじると、「うん、いろんな味が融合してる!それぞれの特徴が引き立ってて、これも美味しい」と興奮気味に話した。
デービットはじっくり味わいながら、「これなら、一つの皿でいろんな味を楽しめるな。食堂の新メニューにはぴったりだ」と満足そうに頷いた。
試食が終わった後、3人は満足げに顔を見合わせた。ライゼンは自分たちの手作りの味に自信を深め、「これなら、食堂も繁盛するに違いない。新しい看板メニューができたぞ!」と意気込む。
「そうだね、みんなが食べたくなるようなソーセージだ」とエリオンも賛同した。「これからの営業が楽しみ!」
デービットも笑顔で、「しっかり宣伝して、お客さんを呼び込もう」と決意を新たにした。彼らは互いに笑い合い、食堂の未来に期待を抱いていた。




