第2話 死ななかった
俺は死ななかった。教えられた通りにポーションを飲み、生き延びた。
目の前では腕を組んでドヤ顔をする女の地縛霊。箱の中にあったポーションに執着していたのだろう。
『助かった。感謝する』
『うんうん。素直でよろしい!』
こいつ、調子にのっているな。祓ってやろうか?
『ところでお前は何者だ?』
『私? 天才錬金術師のニンニンだけど』
名前が強烈過ぎて、情報が入ってこない。
『もう一回いいか?』
『仕方ないなぁー。世界最強天才錬金術師のニンニン様だよ?』
『世界最強なのに、死んだのか?』
『うっ……』
ニンニンはじっと俺を睨む。
『どうした? 誰かに殺されでもしたのか?』
『アスター教の奴等に』
『アスター?』
『……なんで知らないの?』
話すか。
『俺はやばい霊……モンスターに喰われてこの森に飛ばされた。多分、この世界の人間ではない』
『なるほど。落ち人ってことね』
『落ち人?』
『そう。たまにいるのよね。別の世界から落ちてくる人が』
ニンニンはうんうんと納得した。
『話を戻す。ニンニンはなんでアスター教の奴等に殺されたんだ?』
しばらく黙っていたあと、ニンニンはぽつりぽつりと話始めた。まとめると、こうだ。
まず、この星は地球ではない。こっちの世界の人間はこの世界のことをブラフスターと呼んでいるらしい。
次に、この世界にはアスター教という宗教がある。勢力は最大で、全ての人間の国には教会が建てられている。どんな国王や皇帝も、アスター教には逆らえないらしい。
何故か? それはアスター教が回復魔法とポーションを独占しているから。怪我を直したければ、自然に治癒するのを待つか、神官に回復魔法をかけてもらう。もしくは教会でポーションを買う。しかもそのポーションは庶民が簡単には買えないぐらい高価らしい。
アスター教は回復魔法とポーションを独占することによって人の信仰を集める集団なのだ。
で、ニンニンはそれに異を唱える異端の錬金術師だったと。【安価なポーションを世界に広げる】ことを目標に掲げ、研究を重ねていたそうだ。そして──。
『天才錬金術師のお前はポーションの合成に成功。アスター教に目をつけられて、刺客に殺された。と』
『そうなの! あいつら許せない!』
『お前、ポーションの合成に成功したことを公表したのか?』
『えっ、当然でしょ?』
こいつ、とんでもない馬鹿だな。そんなの狙われるに決まっているだろう……。
『ニンニン。お前の希望を聞いていなかったな。俺に何をして欲しい』
考え込む地縛霊。
『なんでもいいの?』
『とりあえず、言ってみろ』
『アスター教をやっつけて欲しい』
ニンニンが持つ知識はこの世界ではとんでもない価値を生む可能性がある。絶対に手懐けるべきだ。
『分かった』
ニンニンが大きく瞳を見開く。
『本当にいいの?』
『ニンニンは命の恩人だからな。ただし……』
『ただし?』
『俺のやり方でな』
ようやく動くようになった身体で立ち上がる。箱の中に入っていた紙を握りしめて。
この紙に書かれている紋様は、ポーションを合成する時に必要な魔法陣。これを上手くつかえば、とんでもない金を生むはずだ。今度こそ、上手くやる……!
俺は成功を心に誓い、森の中を歩き始めた。





