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61話 決戦前夜

 マイト達は、イオニア近くの街道から外れた、木々が生い茂る林の中にいた。

 ライグーやモネットも一緒にいて、小さな川の水を飲んでいた。

 

 もう夜になっていて、辺りは精霊光がふわふわと舞っている。

 星は、木々が遮っていてよく見えない。


「ここなら、見つかる事はないでしょう」

「こういう時、精霊光って便利ですね。明るくて、火が要らないのは助かります」

「そうですね。自然に紛れて隠れられる。……夜が明けたら、いよいよイオニアに突入ですね」


 もう、イオニアはすぐそこだ。


 マイトは、ここに至るまでの事を思い出していた。



                 ●


 

 オーリーホルン近くの小屋で、マイト達3人は眠るニーナを見守りながら、ラング達を待った。

 夜になってからラングと共に、プラネとロイも一緒に小屋へとやって来た。


 マイト達のために、パンなどの食事を持って来てくれていて、ありがたくそれを頂きながら、これからの事を話し合う。


 その結果、夜が明けたらイオニアに出発する事で話がまとまった。

 


 ニーナがこうなった以上、他の魔女はおそらくニーナを取り戻しに来るはずだ。

 イオニアを含む、中部全域を魔人に変えた2人の魔女が、再び襲って来る事が想定される。


 現在、南部を全て解放してここまで来ているので、イオニアへの街道は開けている。

 イオニアへ行くべきだと、ラングは主張した。


 イオニアで魔人になっている多くの詠唱師を戻せば、一気に人間が有利になる。

 反撃詠唱がある今なら、魔女への対処の幅も広がるはずだ。

 


 フィナとステラ、プラネとロイの2組の詠唱師と、ラングとマイトでニーナを保護しながら、イオニア突入を試みる事で一致した。


 イオニアは中部地域の中でも南に位置しているので、南部北端のここからなら遠くないが、かと言って近いというわけでもない。


 なので、ラングはモネットで牽引するキャリッジをオーリーから持って来ていて、一緒に食料や毛布などを持って来ていた。

 ここに、ニーナを乗せて移動できるので、一石二鳥だった。


「イオニアでは、何が起こるか分からないので、水や食料は多めに持って行きます。これを用意するのに、時間がかかって夜になってしまいました」

「ありがとうございます。助かります」


 準備を整えてくれた事に感謝して、明日に備えて一行は小屋で夜を明かした。

 

 


 翌日――。

 イオニアに向けて、出発しようとしていた時だった。


 2頭のライグーが小屋の方へとやって来て、アンナとリズ、イドラとメアリが、それぞれ乗っていた。

 

「良かった……! 無事で!」


「どうしたんですか? 一体……」

 慌てながら安堵するリズに、マイトは困惑しながら問いかける。


「魔女2人が、オーリーに来たの! 魔獣ライグーに乗って!」

「なんだって!?」 


 ロイが驚いた声を上げる。

 他のみんなも、同じ思いだった。


 以前会った時と、同じ仮面を付けているメアリも、ライグーを降りてマイト達に駆け寄って来た。


「明け方だったので、通りに人がいなかったのが救いでした。魔女は魔獣に乗ったまま協会支部へと行き、『ニーナをどうした! ニーナはどこだ!』と捲し立てたそうです」


「それで……なんと?」


「外に出て来た支部長が、『子供の魔女は、神の召喚者によって眠りについた。そのまま魔女は、召喚者や詠唱師達と共にイオニアへ向かった』と言うと、『やはりか!』と怒鳴って出ていったそうです」


「また、随分と正直に……まあ、嘘を吐いても仕方ない事ですけどね……」

 ぼやくように、ラングが呟く。


「でも、あの……みなさん無事ってことは、魔女はオーリーを、魔人にしていかなかったって事ですか?」


「そう! それどころじゃないって感じだったみたい!」

「私も騒ぎを聞いて大通りに行った際、魔女2人が魔獣に乗り、一目散に駆け抜けて行くのを見ました」


 アンナとメアリの証言を聞く限り、ニーナを取り戻したいという強い思いと焦りが伝わってくる。



「魔女としては、オーリーを再度魔人にして回るより、ニーナの行方を追うのが最優先という事ですね」


「その話を聞いて、これは一大事だって思ったの! たぶん魔女は、マイト君たちを探すために、街道沿いにイオニアへ向かうはずってね」

「オーリーからイオニアへは、街道を行くしかないですからね……」

 

 まさに昨夜、街道を進んでイオニアに行こうと、話し合っていたところだった。


「マイト君たち、大ピンチって思ったの! この小屋の事は聞いてたから、まだそこに居てくれー! って祈りながら、ここに来たってワケ!」


「この小屋は街道から離れてるし、存在を知らずに見つけるのは難しいですからね。助かりました」

「ここを根城にしてくれてた、ニーナに感謝ですね」


 とりあえず、魔女と鉢合わせという事態は回避出来たことに安堵した。



「それを、知らせに来てくれたのは分かりましたけど、どうしてイドラさんとメアリさんまで一緒に?」


 マイトが素朴な疑問を口にする。


 この前オーリーで会った時は、『何もしない。放っておいて欲しい』というスタンスだったのに……。

 イドラとメアリは、お互いの顔を見て頷き、ラングに向き合った。


「ラングさん……昨日はお断りしましたが、やはり私達もイオニア奪還戦に参加させてください」


「え!?」

 マイト達3人は、驚きの声を上げる。


「本当ですか?」

 ラングが、希望が浮かぶ表情で確認をする。


「はい、私達に出来る事があるのなら……」

「あの……イドラさん達も、イオニアへ?」


「考えがあって、ぜひイドラさんの力をお借りしたいと……昨日、お願いしたのですが……丁重にお断りされていたんです。参加して頂けるならありがたいですが、なぜ今日になって急に?」

 

 ラングも、イドラ達の心変わりについて質問した。


「魔女を直に見て、考えが変わりました。私達は、魔女は人間とは全く別の生き物だと思っていました。子供の魔女は、人間らしい感情を持っていたと聞いていましたが、にわかには信じられなかった。まして、イオニアを魔人に変えた魔女は、人の心など持ち合わせていない。絶対に相容れない……そんな相手に、私達の詠唱など無意味だと思っていました」


 メアリの言葉に、隣のイドラは同意を示すように頷いた。


「でも、実際に魔女を見て感じました。魔女は敵ですが、確かに人間に近い感情を持っているらしいと。ならば私達の詠唱が、お役に立つかもしれないと思いました……よろしくお願いします」


 イドラが、ラングに手を差し出して握手をする。


「心強いです!」

 ラングも、それに嬉しそうに応じていた。


 1年前のイオニア防衛戦では、イドラは戦力外で、アンナ達と同じくオーリーへと退避していたはず。

 でも、今回の奪還戦では戦力になるとラングは考えて、イドラもそれに応じた。

 プラネとロイも反応を見る限り、納得している様だった。



「さすがに私達は、ついて行っても足手まといだからお留守番ね。反撃詠唱も使えないのは、特化型詠唱師の辛いところね」

 アンナとリズは、申し訳なさげにそう告げた。


「そうですね、2人はオーリーで待機していてください。必ずイオニアを取り戻して、2人に良い知らせを届けますよ」

「頼むわ……よろしくね」


 2人はラングに挨拶した後、皆に激励をして回った。


「イドラ! メアリ! 私達の分まで頑張って来てね!」

「ええ、1年前参加できなかった分も含めて、2人の思いもしっかり受け取って行って来きます」  


 華やかな恋愛詠唱師の2人と、仮面に黒マントの2人が仲良さそうに話しているのを見て、マイトは意外な気がした。


「アンナさん達と、イドラさん達って親しいんですか?」


「はい。恋愛詠唱師の2人は、詠唱の師匠なんです」

 メアリが真面目な口調で、意外なことを言う。


「師匠なんて大袈裟よ! 詠唱のコツをアドバイスしただけ! それに2人には、肝心の恋愛詠唱をしてないし!」

「アンナ達と出会った時には、もう結婚してましたから」


「この2人って見た目に反して、糸がすっごい真っ赤なの! 今もそう! ずっとラブラブだからね! 恋愛詠唱師上がったりだわ!」


 これも意外な気がした。

 確かにイドラがメアリを大切に想っているのは伝わってきたが、そういった雰囲気を感じなかった。

 でも考えてみると、夫婦で同じ格好してるんだから、仲が良くて当然なのかもしれない。

 

 アンナとリズはその後も、プラネとロイ、フィナとステラにもエールを送った。

 最後にマイトに言葉を送る。


「マイト君、どうか無事で……あなたの勝利を願ってるわ」

「はい、頑張ります」


 アンナとリズそれぞれと握手をすると、2人が顔を近づけて小声で囁いた。


「本当は抱きしめてあげたいけど、フィナとステラが見てるからお預けね! 無事再会できたら思いっきりハグしてあげる!」

「は、はい……ありがとうございます……」

 冗談か本気か分からない言葉に困惑しつつも、2人流の激励だと思い、お礼を言った。

 

 みんなが集まり、これからの事を確認する。



「魔女はおそらく、イオニアで我々を待ち構えているはずです。いずれにしても、イオニアを取り戻すには、魔女との対峙は避けられない」


「1年前と同じ……イオニアで対決だな。あの時は手も足も出なかったが、今回は絶対に勝つ!」


 ロイが拳を握って、決意表明する。

 


 士気を上げた一行は、アンナとリズと別れ、イオニアへと出発した。


 プラネとロイが、ライグーで先行して様子を伺いながら走って行く。 

 もし魔女が魔獣に乗って現れたら、固有詠唱を発動して身を守る。

 その際、光の円柱が出来るので、それが見えたら後続は街道から離れて、隠れるという算段になっていた。


 フィナとステラのライグー、イドラとメアリのライグー、マイトのモネット、ラングのモネットキャリッジが最後尾という順で進んで行く。


 慎重に前へと進み、ついにイオニア近くまで辿り着いて、夜の木々の中で身を潜める状況となった。


             

                 ●



「みなさん、改めて確認です」

 ラングがみんなを集めて、作戦会議を始めた。


「イオニアを取り戻すには、魔女を何とかする必要がある。いくら反撃詠唱で戻しても、また魔人にされれば無意味だ。そもそも、戻してる時に我々も魔人にされてしまう。まずは、魔女を何とかするのが先決です」


「でも、ニーナのように眠らせるのは不可能だと思います。そもそも、ニーナを眠りによって封じらたのは、ニーナが友好的で、交流が可能だったから、寄り添う慈愛詠唱に効果があったんだと思います。ロレッタ君の存在も大きかったです。しかし、残り3人はそうはいかない。こちらに敵意を持っているのは明白なので、寄り添って共感なんて無理な話です」


 マイトは、イオニアにいる魔女2人に慈愛詠唱は効かないと訴えた。

 魔女は当然、守りの詠唱をしているだろうから、対魔女詠唱も効かない。

 魔女に対して、効果的な詠唱が皆無の状態だった。


「それに、そもそもニーナへの眠りの詠唱も効果は1度だけ……解除したら、同じ詠唱じゃ効かない可能性が高いんです」

「魔女への詠唱は不安定かつ、確実なものではないってわけか」


「そうですね、今回は魔女に有効な詠唱はない……困難な戦いになるでしょう。しかし、その魔女もニーナの眠りを解除するのは困難なはずです。目覚めの詠唱は、マイト君しか知らない」


「支部長が神の召喚者がニーナを眠らせたって、魔女に話してしまったから……」


「そう、魔女はニーナとマイト君を狙ってくるはずです。つまり行動が読みやすい。ニーナとマイト君を手にしている我々で、魔女を意図的に動かす事が出来る。これは大きなアドバンテージです」


「なるほどな……」


「そして、肝心の魔女が使う詠唱に関してですが……ロイ、話せますか?」


「ああ……魔女2人の詠唱は、言葉じゃないらしいんだ」

「言葉じゃない? 詠唱なのに……ですか?」  


「そうらしい……1人はシャボン玉。もう1人は口笛を使ってるって話だ。シャボン玉を見たり、口笛を聞いたら魔人になっちまうって仕掛けだ」

「そんなのどうやって、回避するんですか?」


 見たり聞いたりしたら、魔人になるなんて防ぎようがない。

 常に目を閉じて、耳を塞いでいないといけなくなる


「回避できないからこそ、1年前は負けたんだ」

 悔しそうにロイが口にすると、プラネも苦悶の表情になる。


「これに関しては対策を考えてはいますが、不確定要素が大きいので現地で臨機応変に対応するしかないですね」

「大した作戦は立てられないってことだ」

「あまり決め決めで行っても、何かあった時に対処が出来ない。柔軟性が大事なんですよ」

「はいはい、分かったよ」


 細かな事はさておき、大まかな流れを話し合ってから、明日に備えて寝る事になった。



 マイト達3人は、大きな木の下で眠る事にする。

 それぞれプランケットに包まりながら、少しだけ話をした。


「ついに明日……イオニアに行くんですね……」

「2人も、イオニアは初めてなんだよね」

「そうです。すっごく広くて、大きいってことしか知らないんです」


「みんなと協力して、なんとか成功させたいね」

「魔女と対峙する事になりますけど……ニーナと初めて対峙した、テリルの時より怖くないんです」

「きっと、成長したからだよ、プラネさん達が居るってのも大きいと思うけど」


「そうかもしれないです。でも、一番はマイトさんが一緒だからです」

「今回、僕は何の詠唱も用意していない。僕に出来る事は無いよ。足手まといにならないよう、心掛けるけど……」


「そんなことない! とても心強いです。でも、気を付けてくださいね。魔女はマイトさんを狙ってるんだから……もしもの事があったらって思うと不安です」

「十分気を付ける。2人に心配させないようにするから」


 フィナも、交換日記に決意を書いて、2人に見せた。


『明日、今までやって来た、すべてを出して頑張りたい。ステラ、マイトさんよろしく!』


「よろしく!」

 3人はお互いの手を重ねて、健闘を誓い合った。


 そのあたたかさを、手に残しながら決戦前の夜は更けていった。

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