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モブはモップ清掃員として生きます!!

作者: せつり

俺は鈴木彰、31歳だ。

清掃員、として働いている。

給料は低めだが生活は苦しくない。元々物欲はないし、"モップ清掃員"だからな。

モップ清掃員ってのは俺の会社だけの制度で、モップ、窓拭き、掃除機など、いくつかの清掃作業の中から優れた技術を持つ人が選ばれる。

何種類か持っている人もいたが......俺はモップ掛けだけが上手くてそれ以外は人並み。まあ、このよくわからん制度のおかげで俺の給料はほかの人より多めだし、とてもありがたい。

つまり、俺は平凡なアラサー男だ。いや、だった。




今の俺はアキトザーラ、5歳だ。なんだその名前って?知らん。俺も変な名前だと思っている。

そんなことより、今のこの状況の方がおかしいからな。どこだよ、ここ!!日本じゃないし、そもそも地球かも分からん。いや、ほんとどこ?

......現実逃避してもダメだな、ここはこの世界の王立学園が舞台の乙女ゲーム、「どきどき!?学園物語」らしい。なんで俺が乙女ゲームを知っているのかって?一つ下の妹がやってたからな、リビングで。それも結構な音量で。うるさいし、何度もやるし、挙句の果てには、

「このモブA、彰に似てるー。ねえみてみてー。

ほら、悪役令嬢に振られた時のこの嘆きとか、彰にそっくり!びみょーに顔も似てない!?ほらほら!!」

いや、知らねーし!!こちとら勉強してんだぞ!ていうか、なんで俺が振られた時の姿知ってんだよ!全部合ってるから文句も言えねーし!!

やべ、今更怒れてきた。まあでもこの世界にはいないだろうし?そのおかげでモブAっていう立場からも逃れそうだし?いいけどね?

そう、俺がモブAなのである!悪役令嬢に振られる、ただのモブ!!最悪。

それがわかってからはもうてんやわんやよ。

悪役令嬢である公爵家の3女(名前、覚えられん)と成金伯爵家の3男の俺との婚約はもう成立してるし、破棄したくても破棄出来ない。

やりたいこともあるし......と行動していたら、初の顔合わせの日になった。(家を継げないもの同士だからどうなるかと思ったら将来的には俺の実家の分家として独立するらしい)



おう、綺麗。眩しい。年齢=彼女いない歴を更新中の俺にはもったいないぐらいの相手だ。

ま、婚約破棄されるから関係ないけどね!

俺がこんなことを考えている間も会話はしている。社会人には必須のスキルさ。

「綺麗な家ね」

(お、わかるか?この前モップをやっと作れたから家中掃除したばかりなんだよなー。やっぱり掃除っていいなあ。またやるか。)

「まあ、じゃあ私の家も綺麗にしてくれる?」

「え?はあ」

声に出してないはず......あれ?

「じゃ、お願いね。次のお茶会は私の家に、今日と同じ時間に来て、掃除してちょうだい」

??

「はあ、わかりました」

あっれー?婚約者サマ行っちゃったぞー?掃除してって言ってたけど、嘘だよな?一応、準備しとくか。



1ヶ月後.....

「いらっしゃい。水場はここだから。使う許可はとっているわ。じゃ、お願いね。私は私の部屋にいるから、何かあったら呼んで」

「はあ」

あっれー?またまた行ってしまった。やれって言われたぶんはやるか。


コンコン.....ガチャ

「あのー」

息を止めてしまった。一瞬、婚約者サマが天使に見えた。

天使、いや、婚約者サマは午後の光が射し込む中、窓際の椅子で編み物をしていた。

「あのー」

ハッとした顔であげる婚約者サマ。そして作ったであろう沢山の入れ物が落ちていく。

ん?"沢山"の?"入れ物"が?

「なに?ああ......ありがとう。ってなに?」

「いや、なんでそんなに沢山あるのかなーって......」

「な、なんだっていいじゃない!......何する気!?」

「ああいや、大変そうだし、手伝おうかなーって」

「やめて!!それは売りもの...!?」

ん?売り物?ああ、それならこの量は納得だ。って、公爵令嬢が?

「帰って!!今日はありがとう!!用は終わったでしょ?!帰って!!」

そして俺は公爵家を追い出された。


「結局なんだったんだろ?」

その夜。俺はモップを作りながら思案していた。

そう!なんとモップはこの世界に存在していなかったのだ!!だから手作りしているのである。婚約者サマには認識すらされなかったけど。

婚約者サマといえば、綺麗だったなー。射し込む光。窓際で編み物をする彼女。そして沢山の入れ......。

うん、やっぱりなんだ?公爵家だからお金には困ってないだろうし。

その日は結局答えが出なかった。



次の日。婚約者サマが我が家に来た。なんでも、昨日のお詫びのようだ。今忙しいのに。

俺が作ったモップを売ってみたところ、意外と売れた。そして、爆売れした。そのおかげで親父は今の商会の傘下として清掃に関する物を売っり、前世の清掃会社のように掃除も行う商会を作ってくれた。我が親ながら、話がわかる。

しかし、注文が沢山入り、モップを作っても作っても追いつかず、今は寝てる時間すらも惜しい。婚約者サマとの時間は尚更だ。


「昨日は、ごめんなさい。改めて掃除、ありがとう。ところで、昨日は何か聞いた?」

「いえいえ。昨日ですか......"売り物"という言葉ですか?不躾ですが、もしかして公爵家は......」

「うん、我が家はお金が無いの......私でギリギリで、弟妹が学園に入学するだけの資金が足りないの。だから私も少しでも協力するために、と......」

「編み物をしていた、と?」

こくん。

婚約者サマは可愛く、頷いた。え?かわいい。いや、それはあとだ。ひとまずは話を聞かねば。

「なにか手伝えることはありますか?また、今足りないお金を得る当てはありますか?」

「そこまで甘えるわけにはいかないよ。この婚約も援助を当てにしているものだし」

「しかし......」

たぶん、足りないんだよなあ。だからこそ、彼女はゲームの中で王子に擦り寄ったんだろうし。あのゲームのようなモブAにはなりたくないし、少しモヤモヤする。

「本当に良いの。これ以上、お世話になる訳にはいかない。」

「......」

傲慢な子かと思っていたけど家のことも理解している、真面目でいい子だなあ......。俺としてもメリットというか、避けたい未来があるからなあ。......あっ。

「では、これはどうでしょう?私は親じ,いえ、父上からある商会を任されているのですが、"モップ"という商品の生産が追いついていないのです。こちらを作るのを手伝ってくださいませんか?その際、給料は払います。」

「え?でも、......」

「本当に間に合わなくて、寝れていないのです」

「あの...えっと、.......」

「お願いします!!」

「うん、わかりった!!だから頭をあげて!!」

「では、お願いします」

この日から、婚約者兼雇用関係という歪な関係が始まった。



「あの、多すぎない?」

俺はモップを持って公爵家にいた。あのあと、月1回のお茶会を週1回にし、モップ作りを行うという取り決めをして別れた。そして今日は初めてのお給料日。

「いえ、正当な報酬です。受け取ってください。そして今日はモップ作りは休憩して、違うことをしましょう」

強引に握らして、この話を終わらせた。

ちょっっっと多いかもだけど、将来の俺たちのための投資だ。安い安い。

あれ?顔が赤い。あれ?

「もしかして、声に出てた?」

あ、俯いちゃった。かわいい。



そして現在、学園の卒業パーティー。ゲームの中では俺は婚約破棄をされるはずである。

まあでも今世では公爵家の資金繰りは改善されたし、俺達の関係もいい(はず)。少なくとも、こうして庭で2人きりになれる程の関係は築けた。

「なあ、ナルファ。将来的には平民同然の暮らしになる俺とこのまま婚約しててもいいのか?」

「あら、いいわよ。元々公爵家ともいえないような生活をしていたもの。それに、私のためにたくさんのことをしてくれて感謝しているのよ?あなたは、口の悪い私のとも接してくれる、......私の大好きな人よ」

「え?」

顔に熱が集まるのがわかった。

「ふふふっ」

「あーもーかわいい」

完敗です……。




その後、アキトザーラとナルファはそのまま結婚した。

アキトザーラは親から正式に譲られた商会を会長として大きくしていく一方、清掃員としても活躍。掃除のスキルは全て一流だったが、その中でもモップの扱いが上手く、"モップ清掃員"と呼ばれた。

ナルファは夫を支えながらも趣味として続けていた編み物の作品を売るお店を出し、繁盛させた。

衛生管理の技術を向上させたとして王都の広場にはアキトザーラの銅像が立っている。


そこにはこう書いてあるそうだ。

『モップ清掃員として生きた男、アキトザーラ』 と。

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