表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
7/18

橘真紀視点3

「さて、素直に白状してもらおうかな」


 弟君が答えた話の内容は、梨花と弟君の間に血縁関係がないと判明した一連の経緯と、その事実を知らなかった事にしたいという願望だった。


「なるほど、なるほど!二人の間に血の繋がりがなかったと。なるほど」


 ふう!弟君が姉離れを希望する理由が大した事じゃ無くて安心した。


「納得したよ、うんうん」


 そして弟君の発言内容を再確認していく。


「今までは弟として、やましい気持ちが無かったから平気だった行為が恥ずかしくなったと。具体的には手を繋いだり、ハグしたり、膝枕してもらったり、あーんって食べさせてもらったり、そういう事?」


「はい」


 照れるということは相手を意識しているわけなんだけど。無自覚とは恐ろしい。

 梨花に引けを取らないかもしれない。ある意味、二人はお似合いだ。


「それらの行為を止めるにしてもいきなりだと怪しまれるので徐々に止めて姉離れしたいと」


「はい、そうです」


 弟君はこちらの問いかけに素直に頷き続ける。


「梨花といつも一緒にいるボクなら何かいい案が思い浮かぶんじゃないかと思って相談に来たと。そういう事でいいのかな?」


 着眼点は良かった。だが残念、弟君。君はまだその狭いテリトリーから抜け出せていない可哀想な獲物なんだよ。所詮は狩人からは逃れられない定め。


「はい」


「なるほど、なるほど。だけど肝心の梨花の気持ちを無視している所は気に入らないな」


「えっ?」


 ボクの言葉が予想外だったのか、弟君が一瞬固まる。


「それらは一方的な弟君の考えだよね。じゃあ、梨花の弟君への気持ちはどうなる?適切な姉弟の距離感なら勝手に収まると?ずいぶんと自分勝手な話だと思わないかい」


「でも、姉さんは立派な男性と幸せになって欲しいんです」


「それも弟君の一方的な考えだよね。梨花を幸せにする役は弟君だと無理なのかな?」


「残念ながら弟なので」


 狩人は絶対にそうは思っていないはずだ。誓ってもいい。


「血が繋がっていないのに?」


「ええ、弟なので」


「梨花の事を女として見た事ない?」


「ええ、姉弟が結婚で来ないと知って以来、姉さんを女性として見た事は無いんです」


 嘘をついてる自覚が無いから始末に負えない。もしかして『弟』の定義が違うのだろうか?


「可哀想な梨花。弟君に振られたんだね」


 でもそれで諦めるタイプじゃないんだよね、残念ながら。


「何か言いましたか?」


「うん?何でもないよ」


 親友の梨花の為に一肌脱ぐとしますか。責任までは取れないけれど。逃げて流れ弾に当たるくらいなら戦って前のめりに倒れる主義なんだ。


「よし、分かった。協力するよ」


 もちろん、梨花側として。


「ありがとうございます」


「姉離れ、というか、シスコン対策に有効なのはそれより大事な存在をつくる事。すなわち恋人を作ればいいんだよ!」


 胸を張ったボクに対する弟君の視線の位置がおかしい。明らかにポッコリお腹を凝視していた。デリカシーというものがないのか?


「こら、どこを見ている!」


 お腹だと、顔を上げた弟君の目が語っていた。

 ガツン!遠慮なくげんこつをお見舞いしておく。


「嫌なら帰っても良いんだよ」


 すでに出された料理は食べて終えてる。後はそちらの都合だ。ボクは何も困らない。


「すみませんでした」


 さすがは弟君、すぐさま大人の対応で頭を下げた。


「じゃあ」


 スマホがボクの声を拾わないように左手で胸ポケットを抑えながら、人差し指を立てた右手を口の前に持っていく。

 ゆっくりと弟君に近付き耳元で囁く。


「いいかい?今からボクの言う事を繰り返すんだよ、大きな声で。わかったら頷いて」


 弟君がゆっくりとうなづいた。

 ボクの顔が耳元にあるというのに平然とした顔をしている。これが梨花なら顔を真っ赤にしている癖に。

 胸ポケットのスマホに注意して微かに囁く。


「橘先輩、僕と」


「橘先輩、僕と」


「付き合ってください」


「付き合って下さい、えっ!?」


 オウム返ししていた弟君が驚嘆の声を上げた。その声をかき消す様にわざと声を被せる。


「ええっ!?いきなりでビックリしたけど、ボクで良ければ喜んで!」


 突然の成り行きに弟君が目を白黒させている。

 これで仕込みは十分、あとはこの会話を聞いた梨花の判断に任せよう。結果的に弟君を監視下置く事になるのだから多少のアドリブは許してくれるだろう。

 この梨花へのサプライズはきっと弟君へのお仕置きになるはず。弟君の梨花以外への対応が塩すぎるのがいけないのだ。

 決してボクのお腹を見た時の目に憐みが浮かんでいた事に怒っている訳じゃない。ボクは幼児体型じゃないからね。


「じゃあ、彼氏なのに弟君だとおかしいからこれからは慎司って呼ぶね。ボクの事は真紀って呼ぶ事!」


 あとは混乱しているうちに勢いで話をまとめて逃げる。


「真紀先輩?」


 ダメだね。やり直し。


「真!紀!」


「真紀」


「はい、よく出来ました!じゃあ、明日から彼女としてよろしく。梨花には連絡入れておくよ。今日はご馳走様!」


 呆然とする慎司を喫茶店に置き去りにして遁走に成功した。今晩、梨花がどんな行動を取ったのか、明日ゆっくりと聞くことにしよう。

 姉の親友を姉に内緒で呼び出して、姉を女として見たことがないと言い放ち、最後に姉の親友に告白して交際決定。


 どう考えてもやらかしてるぞ、慎司。

 ふっふっふ、勝った。ポッコリお腹の屈辱はきっちりと晴らしたのだ。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ