風呂は命の洗濯
何も見てない、何も聞いていない。一所懸命、無心になるのだ、目を瞑って。
「慎司? 用心の為に居るんだから目を瞑ったら駄目なんだぞ」
ギク! なぜバレたんだろう。ハッタリか?
「なぜバレたのか不思議なのかな? なぜバレないと思ったのかな?」
「もう、真紀、そんなにいじめてあげないでよ」
「梨花? 本当にこのヘタレで良いのかい? 考え直すんなら今のうちだよ」
「そこが慎ちゃんのいい所でしょう!」
「うーん、すりガラス越しに見放題なのに天井と床しか見ないようなヘタレだよ」
ギク! ばれている。風呂場からは暗い脱衣所の様子がわからないと思っていたがすりガラス越しに確認できるようだ。少なくとも僕の頭の動きは。
***
「もう少し右、そこそこ。もうちょっと強く、そう。そのまま耳の後ろも!」
結局、解放されるかとの淡い期待も儚く散り、姉さんと真紀の二人の髪を洗わされる事になった。
二人とも水着を着ているから平気だそうだ。うん。僕も平気だ……たぶん。
温水プールにでも行ったと思えばいいだけだ。
しかし、お泊まりに水着を持参する、とは納得がいかない。真紀のことだから何か良からぬ事を企んでいるに違いない。
真紀が身に付けているのは、モノクロ縦縞のショートパンツと、横文字の白色ロゴ入りの黒色のタンクトップ。赤色だと金太郎の前掛けにしか見えなかっただろう。危ないところだった。ボーイッシュ、侮りがたし。
ポニーテールを解くと肩まである髪、思ったよりも細くてしなやかで艶々で洗っている指がスーッと通る。意外と女の子なんだと驚かされた。
なのに時折見えるうなじも耳も鎖骨も艶っぽさを感じさせないのは何でだろう? 正直、不憫だ。
「慎司? 何か良からぬ事考えていないかな?」
ギク、絶対にエスパーだろう? 心読まれてるよ。
「一瞬、指が止まってるよ。不埒な事考えたら駄目だぞ」
「あらあら、慎ちゃん、不埒な事考えてるの?真紀じゃなくて私を見てればいいからね」
一瞬姉さんの声に反応して横を向く。湯舟につかり肌を上気させて艶っぽさを増してる姉さんとその前に浮かぶ二つの丸い物体が目に止まった。
「こら慎司! 指が止まってるぞ! しっかり頭を洗うんだぞ。まったく、もう!」
真紀の叱責に我を取り戻して真紀の頭を洗う作業に戻った。心が洗われる気がした。恐るべしボーイッシュ。
「なかなか筋は良いぞ。美容師に向いてるかもね。そこそこ、少し左。そう、そこ!うんうん。少し強めにね」
真紀の声が浴室に響いた。




