死なば諸共
真紀にとって慎司は親友の弟というよりも、見ていて面白い観察対象だった。周りの目を気にしない姉弟二人合わせてのポンコツ具体が特に最高だった。
『姉さんは最高に素敵だ』
シスコンを突き抜けてどこに行くつもりだい、慎司?
『慎ちゃん、はい、アーンして』
ブラコンってそんなのだっけ、梨花?
本人達が大真面目だからこそ誰も何も言えないけれども、どこからどう見てもコントだよ。
両片思いとかそんな次元ではない。最高の娯楽、エンターテイメントだった。
観ている分には最高の娯楽なのに、逃げ損ねて姉弟のコントに巻き込まれてしまったのは痛恨の極みだった。
腹を括って積極的に参加するつもりの泥沼ゲーム。勝者が決まっている勝負なんて面白くもなんともないが、ゲームは過程を楽しむもの、と諦めるしかなかった。
主戦場が梨花の手のひらの上である時点で獲物である慎司の逃げ場はどこにもない。すでにチェックメイトだ。気付いていないのはポンコツ姉弟の当人たちだけ。
当て馬役を自認しているが、演じる度にダメージを受けるのは納得がいかなかった。
特に慎司が真紀の胸とお腹を見る度に残念そうな表情をするのが真紀としては解せない。
ボーイッシュキャラとしてファンクラブまであるというのに、梨花と比較されての扱いの悪さに閉口してしまう。
対外的には慎司の彼女ポジションのはずなのにだ。
こうなったら短期決戦しかない、真紀の脳裏に浮かぶのは"恋愛クラッシャー"と呼ばれている一人の女。
上手くいかなかった時はそれまでの事。考えても仕方がない。
最終秘密兵器の投入で幕を終えるとしよう、この茶番劇を。真紀の心が慎司の視線に削られ切る前に。
既にスマホを取り出して電話を掛けていた。
「あ、もしもし。そうそうボクだよ。明日なんだけどさ──」
死なば諸共。梨花には悪いけど、最悪の場合でも慎司だけは道連れにするよ。
ポッコリお腹の恨みは忘れてないからね。
そう心の中で呟く真紀であった。
***
「えっと? 真紀」
「なんだい?」
「慎ちゃん、どうかしたのかしら?」
「僕がここにいる意味ってあるかな?」
ここ脱衣所で待機する意味ってなんだろう?
正座した足が痺れてきたぞ。
「ええっ? 万が一に備えて?」
「ふふふ、そうね」
「万が一って何だろう?」
「石鹸やシャンプーが切れたり、タオルが無かったり、暴漢が侵入して来た時の為かな?」
「ふふふ、そうね」
「事前に補充してるからそんな事起こらないよね!? ここで正座する意味あるかな?」
目の前の脱衣がチラチラと目に止まってソワソワしてしまう。白いブラウスにその下からピンクのブラジャーの紐が見えている。
目を逸らそうと左を向くとすりガラスの向こうに二人の姿が薄っすらと見える。右を向くと洗面台のガラスに反射するすりガラス越しの二人の姿。
タラタラと身体中からガマの油が垂れてる気分になる。
何も見てない、何も聞いていない。一所懸命無心になるのだ、目を瞑って。




