二人の関係が変わった日
梨花にとって慎司は弟というよりも、健気に頑張る男の子だった。
一途で健気、それは幼いといえ女心の琴線に触れ、恋を奏でるには十分だった。
王子様を気取る為に頑張る"へなちょこ"の弟、それは彼の自惚ではなく全てが梨花の為だったからだ。
『姉さんには最高の男性と結ばれて欲しい』
と健気な事を本気で言い、行動に移す。
梨花の想い描く恋のハードルを上げる為に、格好の良い男を演じるのだと頑張ってきた。
かけっこでドベが定位置だったのに
『早く走るのが格好良いんだ』
と子供目線のヒーロー像を語って父と基礎体力作りを始めた幼稚園時代。
クラスでスカートめくりが流行っている最中『女の子に優しくする男の子がモテるんだ』と梨花相手にナイトを気取る小学生時代。
慎司が変わったのは幼稚園年中の頃だった。
『梨花! 梨花!』
どこに行くにもヨタヨタとついてくる可愛い弟。
『いつか僕のお嫁さんになってね』
そんな可愛いらしい事言う弟。
だが心無い大人の一言が慎司の心を傷つけて変えてしまった。
『あらあら、梨花ちゃんと慎ちゃんは仲がいいわね。でも二人は姉弟だから結婚は出来ないのよ』
『姉弟だと結婚出来ないの? 僕、梨花と結婚したい。大きくなったら梨花をお嫁さんにする!』
『そうね。好きって気持ちは大事な事よ。でもね、姉弟は血が繋がっているから結婚出来ないよ。絶対に出来ないの。梨ちゃんは慎ちゃんとは別の人と結婚して幸せになるのよ』
最後まで余計な一言を言う人だった。
その後、数日塞ぎ込んでいた慎司だったが、吹っ切れた様に明るくなり、梨花の事を
『お姉ちゃん!』
と呼ぶようになった。その時から慎司は変わったのだ。
自分が梨花を幸せに出来ないのなら、代わりに梨花を幸せにするのは最高の人物でなければならない。
梨花にはどんな人物でも似合う。それでも梨花の目が節穴だったら碌でもない男に引っかかる可能性がある。それだけは絶対に阻止しなければならない。梨花の選ぶ、梨花に近寄ってくる人物を厳選すればいい。梨花の審美眼を養う為に僕が本物に、本当の理想の男になればいい。そして梨花の中での理想の基準を上げるのだと"へなちょこ"なりに頑張り出したのだ。
いつからか慎司を自分のものにしたいと思うようになる。それは梨花にとっては自然な流れだった。
『慎ちゃんの彼女になりたい』
そう呟く梨花に親友の真紀が不思議そうに首を傾げる。
「彼女なんかより余程大切にされてるのに何が不満なわけ? 普通ならあそこまでやらないぞ」
「そうかしら?」
「彼女相手にあんなに甘い言葉吐き続ける男の子、見た事ないな。あれは一種の才能だよ
『今日も姉さんは綺麗だ』
『姉さんの美しさに花も霞んでしまう』
『姉さんが世界で一番可愛いよ』
なんて正気なら言えるはずないよ。ある意味で突き抜けてどこかに行っちゃってるね」
「真紀! ふざけてても言っていい事と悪い事があるでしょう!」
「梨花、冗談だよ、冗談。あまりにも熱々なので揶揄いたくなっただけだよ。もちろん本気の訳ないじゃないか」
真紀が肩をすくめて梨花に謝った。




