変わりゆく日常5
放課後の校庭の片隅に僕と姉さんと真紀先輩の三人はいた。真紀先輩の練習に付き合うためだ。
真紀先輩がどう交渉したのか分からないが、今日から僕たちは陸上部のエースである真紀先輩の専属マネージャーとして活動する事になった。
「こんな特例措置いいんですか?」
「学校長直々の書類もあるし大丈夫じゃないかな?それよりこれからしっかりと頼むよ」
バシッと真紀先輩に背中を叩かれる。
タオル、替えのウエアの用意、スポーツ飲料の準備、走行記録の管理etc、結構する事が多い。
「彼氏が彼女の為に尽くすのは当たり前じゃないか、それとオマケの梨花。親友枠でねじ込んだよ」
「オマケなんて失礼なこと言うならもう知らないんだから! 慎ちゃん、帰りましょう」
「冗談だよ、冗談。冗談に決まってるじゃないか。梨花は怒りっぽくて困るな。じゃあ、慎司、早速走ろうか?」
姉さんを宥めていた真紀先輩がこちらに振り返りながら言う。
「えっ? 走るって何ですか?」
「慎司にはボクの練習に付き合ってもらうよ。いやあ、女子3000mってうちの陸上部だとボク唯一人なんだよ。皆んなと練習方法が違うから寂しくてね」
絶対に嘘だ。真紀先輩が寂しがるとか想像がつかない。
「数日はボクと一緒に走って練習の流れを覚えて貰う。その後は仮想ライバル役をお願いするよ。週に一度のタイムトライアルで体力の続く限りボクの前を走ってくれればいいから」
陸上初心者にハードルの高い注文だ。しかし、僕に言えるのは一つしかない。
「真紀の頼みなら仕方ないね。どこまでやれるかわからないけど出来る限りの事は協力するよ」
姉さんと同じように真紀先輩にも対応する。姉離れの為だ。
「そう言ってくれると思ってたよ、慎司」
にこやかに言う真紀先輩の笑顔が爽やかで眩しかった。
その時は確かに。しかし、一時間後の練習終了時には悪魔の笑顔にしか見えなくなっていた。
「どうした、慎司? これぐらいでへばっていたら梨花に笑われるぞ」
ああ、ツノまで見えて来た。
「さあ、最後の仕上げにダッシュ3本行こうか!」
尻尾も見えるぞ。
「今日は初心者の慎司の為に量を減らしていたからな。明日からは倍だぞ」
口の端からチラチラとした蛇のような舌まで見える。
「可愛い彼女の側にいれて慎司も果報者だよな?」
「もちろんだよ、真紀。これで練習終わりだよね」
もはや無駄口叩く余裕すらない。
「後はストレッチして終了。あーボクもうお腹ペコペコだよ」
これだけ運動した直後に食欲あるとか運動部員は化け物なのかな? 真紀先輩の食事量を思い出して身ぶるいする。正真正銘の怪物だよ。
「慎ちゃん、大丈夫? 無理しなくていいからね」
タオルを持って掛け寄って来る姉さんの喋りを遮って、真紀先輩が嗜めるように言う。
「梨花は甘〜い! 大甘だよ、角砂糖より甘いよ。慎司も鍛えて、一皮剥けて男になるってもんだよ。ほれ見てごらん、昨日より男前が一段上がったろ?」
真紀先輩が僕に見せる笑顔の下、口の両端から牙が生えてるのが見えた。




