姉じゃなくて、義姉だったと判明した
昨日までは普通の関係だった。でも今日からは違う、、、いや、違わない。違っていてはいけないんだ。
「おはよう!今日も姉さんは可愛いね」
毎朝言ってる台詞が口から出ない。無理矢理捻り出すが顔が赤くなるのが自分でもわかる。
「あら、今日はお寝坊さんね。急いで朝ごはん食べなさい、遅刻しちゃうわよ」
流し台から振り返った姉さんの笑顔が眩しくて直視できない。
「あら、どうかした?ちょっと顔が赤いわよ?熱でもあるのかしら」
エプロンで手を拭いながら近づいてくると後頭部に手を当てて僕の顔を引き寄せ、額と額を重ね合わせた。
顔が近くてドキドキする。こんなにまつげ長かったんだ。
「うーん、ちょっと熱っぽいかな。大丈夫?無理しなくていいからね。今日は学校休んだらどうかしら?」
「いや、大丈夫だよ。今日も元気、元気!心配掛けてごめんね。姉さんの優しい言葉にパワーアップ!元気100倍だよ」
「ふふふ、それならいいんだけど」
*********
それは先一昨日ことだった。
夜中にトイレに起きたらリビングの電気がついていた。消し忘れなら消そうと近いた時に両親の声が聞こえてきた。
「相変わらずあの子たちは仲が良くて。仲が良いのはそれでいいのだけど、そろそろ思春期だから間違いでも起こらないかと心配なの」
姉さんと僕の事を話している様だった。
確かに僕たちは高一と高二、青春真っ最中の思春期だけど、間違いってなんだ?姉さん相手にやましい気持ちを抱くわけないだろ。失礼な!
「おいおいおい、そんな心配しなくても大丈夫だよ」
「そうかしら?」
「気にしすぎだよ」
「でも距離感が少し近すぎるわよ」
確かに姉さんへの距離感は近いかもしれない。だけどそれは姉さんが碌でも無い男に引っ掛からない様にする為だから仕方ない事だ。
「慎司はシスコンだからな。梨花に甘えているけど弟として慕っているだけじゃないか」
「小さい頃は『姉さんをお嫁さんにするんだ!』ってよく言ってたもの」
今でもたまに言ってるけど流石に姉弟では結婚できない事くらいは知ってるさ、いつまでも子供でいるわけじゃ無いんだから。
「ははは、そうだったな!子供の頃はお気に入りの子に『将来大きくなったら結婚しよう』って言うもんだよ。俺も隣のみよちゃんに言ってたな」
「あなた!」
「ごめん、ごめん、話がそれたね。本当に慎司は姉として梨花を慕っている様に見えるよ。それに梨花にしても普通に姉として慎司に接している様に見えるね」
「私もそう思うのだけど、何しろ二人揃って微妙なお年頃でしょう?二人の間に何か間違いがあってからだと遅いじゃない」
しつこいな、実の姉弟で欲情したりしないよ?僕は姉さんにやましい気持ちを抱いた事ないからね。
「うーん、そうだけど、僕たち二人が腹を括ればいいんじゃないかな?もし二人がそういう道を選ぶと決めたのなら親として祝福してあげればいい。僕はそう思うよ。君は違うのかい?」
「それはそうよ。私も子供達が幸せであってくれたらそれで嬉しいの。でも子供とか出来ちゃったら私お婆ちゃんになっちゃうのよ。まだ30代なのに」
ぶふっ!?僕と姉さんとの子供!?二人して何考えているんだろ?第一姉さんに失礼だよ。姉さんには最高の男性と結婚して貰いたい。碌でも無い男に引っかからない様にしっかりと教育してガードするんだ!姉弟で結婚出来ないと知った時に淡い恋心を封印するのと引き換えに心に誓ったんだ。
「例えお婆ちゃんになってもうちの奥さんは世界一可愛くて素敵だよ。とても子供産んでるとは思えない程だもの。彼ら二人は血が繋がっていないんだから、お互いを選んだ時は親として支えてあげよう」
えっ、、、!?血が繋がっていない?姉さんと僕が血が繋がっていない?嘘、、、だよね?
「もう、あなたったら私も大好きですよ♡そうなった時は私も反対しないですけど、梨花も慎司も今は他の人と付き合ったりして、自分たちの世界を広げる時期ですからね」
「人生においてどの選択肢を選ぶのが正しい!という正答はないんだから、二人を信じて親として支えてあげよう」
「そうですね、あなた。それでも私はあなたを選んだのは間違いではないと確信してますよ」
「僕も君を選んだのは間違いじゃないと思ってるよ」
母の高校卒業と同時に結婚した二人は今でも当時と相変わらずラブラブだ。
大学在学中に僕たちを産んだ母。
『今時の大学はキャンパス内に保育所や託児所もあるから全然平気だったわよ!』
と豪快に笑い飛ばしていた。
それでも子供を二人の育児と勉学と両立させるのは大変だったと思っているが、そのうちの一人は自分の産んだ子供ではないとなるともっと大変だったのではないだろうか?
偶然に聞いた両親の会話が本当の事かどうか不安になる。正直なところ、今聞いた話が全部嘘で本当は姉弟だと言われる方がまだ納得出来た。
***
『花澤高志』
身分事項:養子縁組---更科梨花
翌日、学校をサボって役所に行き手に入れた父親の戸籍謄本を目の前にして固まっていた。
更科、聞き覚えのある苗字である。確か母親の親友の名前だったはず、、、
何かの冗談だと思いながらも真実を確かめたら冗談では済まない事態に陥ってしまった。
姉さんが義姉だった、、、
今までの姉さんへの対応は全て実の姉への親愛を表す態度であって、異性に対してのそれではない。逆にそういう意図で行動していたと捉えられると赤面の至りである。
『やらかした!』
その一言しか出て来なかった。明日から姉さんとどんな顔をして会えばいいのか分からない。しかし、急に変な態度を変えるとその理由を問われかねない。
『姉さんとは血が繋がっていなかったんだ、ははは。おかしいよね』
なんて笑い飛ばしたり
『義姉弟とは知らなかったから距離感詰めすぎていたみたいだ。これからは適切な距離を取るからね』
と宣言して済む問題ではない。
どうすればいいんだ?いっその事何も知らなかった事にするか?そうだ何も知らない、これからも知らない事にしよう。そうしよう。
混乱で考えがまとまらない。頭の中がぐるぐる回り、そのまま気絶する様に眠りに落ちた。
*********
「やっぱり具合悪そうだわ。食べさせてあげましょうか?」
「えっ?」
つい声が出た。
「どうかしたの?」
不思議そうな顔で姉さんがこちらを見つめる。不信感を与えてはいけない。いつものように、いつものように。
「じゃあ、お言葉に甘えようかな?ありがとう!いつも姉さんは優しいよね」
「褒めても何も出ませんからね。ほら、あーんして」
姉さんがスプーンに乗せたグラノーラを口に運んで来る。それに合わせて口を開き食べる。
「うん、姉さんが食べさせてくれるとグラノーラは最高だよ。元気出て来た!」
「もう、おしゃべりはいいから。次、あーんして」
雛の口に餌を運ぶかの様にスプーンは止まらずに結局最後まで姉さんに食べさせてもらった。




