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キャラ名無き作品 その11

キャラの名前を考えずに、気晴らしで書いた作品です。

息抜きのように勢いで書いたので、キャラクターの名前はありません。これだけはご了承下さい。

エピソードタイトル

~殿下。私の証人は貴方です~

 卒業式前日。自分は王城のとある一室にいた。

 遊びに来ているのでは無く、部屋の所有者に呼ばれて来ている。

 室内には自分の他に三人の初老の男性がいた。それぞれの男性は国王、宰相、伯爵の三人だ。

「さて、影の報告通り、明日行われる卒業式を兼ねた夜会で茶番劇を行うらしい」

「陛下、事実ですか?」

「うむ。あの馬鹿は浮かれている上に、護衛がいて当然の環境で生活していた。影を潜り込ませるのは楽であったが、ここまで歯ごたえが無いと落胆のしようが無い。寧ろ呆れるわ」

 国王は深くため息を吐いた。

 そりゃそうだろうな。誕生した経緯はどうあれ、アレでも第一王子なのだ。あ、王太子じゃないよ。


 今から二十年近く前、隣国と戦争が行われていた真っ最中だった。そんな中で、当時王太子だった国王は正妃と子供を作る余裕が無く、押し付けられた側妃が国王に夜這いして子供を身籠り、第一王子は誕生した。

 戦争が終わり、正妃との間に子供を作る余裕は出来て、三男二女の五人の子供が誕生した。

 一方、第一子を産んだのに冷遇され始めた側妃の態度は酷いものになって行った。そもそも戦争中に夜這いしたのは側妃の方だと広く知れ渡っているし、『戦争中に何やってんだ!?』と非難されるも、側妃は『世継ぎを生んでやったんだから喜べ!(意訳)』と反省心の欠片も無い事を言い放った。

 側妃の両親の侯爵夫妻は、どんな経緯があっても、第一子を産んだ事だけを喜んでいた。


 そんな喜び難い経緯で誕生した第一王子のやらかしだ。

 側妃の態度を含めて、面倒な人間を纏めて王家から追い出せる絶好のチャンスだ。逃す理由は無い。

「伯爵。お主の兄一家の公爵家の処遇だが、裏取りが取れた以上、極刑以外の処罰を下す事は出来ん」

「……覚悟は出来ております。陛下より、兄と姪が禁呪に手を出したと聞かされた時に、極秘で親族会議を開きました。その会議で『一族から兄一家を追放する』と意見が一致しました。禁呪に手を出したのは兄一家の公爵家のみになります。一族に影響が出ないのなら、どのような処罰でも受け入れる所存であります」

「それは関与しているかを調べてから決める事だ。本当に無関係で恩恵も得ていないのならば、処罰対象外となる」

「分かりました。温情感謝いたします」

 国王と伯爵の会話が終わり、二人の視線は自分に向いた。

「明日の夜会は余も出席する予定だ。茶番劇が始まるとするのなら、余が席を外した時だろう。その時には警備を厳重にする。君に危害が加えられないように手配する」

「ありがとうございます」

 素直に頭を下げて感謝の意を示した。気遣いが出来る王様は素晴らしい。だが、言葉には続きがあった。

「だからその、宮廷魔術師団入団辞退は撤回してくれないか?」

「陛下。明日の茶番劇が発生すれば、私は社交界から一生、好奇の視線に晒されます。安心して暮らすには国から出るしかありません」

「それは解っている。保証も十分に行う。何なら王家が後ろ盾になっていると公表しても良い」

 過剰としか言いようの無い対応だ。今度は嫉妬が混じった嫌がらせを受けそうだな。

「身に余る過分な対応ですが、……そうですね。ここは一つ、賭けを行いませんか?」

「賭け?」

「はい」

 怪訝そうな顔になった国王に賭けを提案した。

 賭けの内容は第一王子の発言内容について当てるものだ。

 第一王子が『指定の発言を言うか・言わないか』で、今後を決めるものだ。

 流石にそれは言わないだろうと、判断した国王は賭けに乗ってくれた。

 親だから息子の言動については詳しいぞと、言わんばかりの顔をしている国王には悪いが、自分の予想だと多分言う。この手の茶番劇だと、確実に言いそうだ。

 密談を終えて、自分は王家の陰の人の手引きで裏道を通り、王城から去った。



 翌日。

 王城にて卒業式を兼ねた夜会が遂に始まった。

 これは、貴族学校の二つの学科棟が、王都内と王都最寄りの街の二ヶ所に存在するからだ。卒業式と入学式(歓迎会含む)は王城の大ホールで行う事になっている。卒業生に第一王子がいる為、王妃の参加は今回だけ見送られた。

 夜会は国王の開催宣言から始まる。茶番劇が始まるのは、国王が休憩で探す時なのでもう少し先になる。

 それまでは、テーブルの上に並んでいる手の込んだ料理を堪能しよう。

 この夜会は卒業式でもあるが、成人式も兼ねているので、お酒などもテーブルの上に並んでいる。

 ちらりと第一王子を見ると、婚約者でも無い公爵令嬢を侍らせている。昨日会った伯爵の姪だ。国王がいる前なのでしおらしくしているが、裏でやっている事はかなりえげつない。

 発覚したら極刑レベルの事をやっていて、よくもまぁ『私こそが王子の女に相応しい』みたいな顔が出来るものだ。恥って概念が無いのか。



 夜会が始まって、少し時間が経過した。

 雛壇上の国王が席を外した。その数分後、第一王子が取り巻き令息と一緒に茶番劇を始めた。

 自分を名指しして、前に出て来いとか、悪女だと罵って来たり、ここで断罪してやるとか、馬鹿だろ。

 罪状を述べる前にお前の隣にいる女を見ろよ。『濡れ衣を着せる事に成功したわ』と言わんばかりに、にんまりとした顔をしている。ここまで来ると悪魔だな。

 それよりも、合間の小芝居がウザいな。正義(笑)と悲劇に酔っている馬鹿か?

「おい! 聞いているのか!」

「伯爵令嬢の分際で、殿下の言葉を無視するとは不敬よ!」

 小芝居が無視されたと判ると、馬鹿二人が顔を真っ赤にして叫んだ。対する自分は立ったまま大皿に乗せたデザートを食べていた。嚥下してから回答する。

「聞いておりますが? 身に覚えが有りませんし、私では実行は不可能なので、犯人は別にいるでしょうね。ま、証言が本人と取り巻きの方だけでは、信憑性は薄いでしょうが」

「なっ!?」

「自作自演と言う言葉はご存じですか? 実行する事で私に何の得もありません。そもそも、学科と校舎が違いますし、何より面識はありませんし、移動時間を考えると全て不可能ですね」

「寝言を吐くな! 貴様に直接刺されそうになって怖かったと、あんなに泣いていたのだぞ!」

「確認ですが、その日は何時だか覚えておりますか?」

「ああ゛? 先月二十日の昼だ!」

「では、殿下の母君である側妃殿下が倒れて、私に王命だと嘘を吐いて城に連行して行った日が、何時だか覚えていますか?」

「馬鹿にするな! 先月二十日の朝、だ……」

 ここで第一王子と取り巻きが、会場内にいる全員が、今の発言の矛盾点に気づいた。

 皆揃いも揃って、第一王子の隣にいる公爵令嬢に疑惑の視線を向けた。視線を浴びた公爵令嬢はアリバイ工作に失敗したと気づいたのか、顔を強張らせた。

「はいそうですね。朝から夕方までずっと、王城内に閉じ込められていました。書状が貰えなかったので、王命であるか否かの確認までしていたので、その日は学生寮に帰れませんでした。翌日、陛下からそんな王命の書状を出した覚えは無いと、回答を頂きました。確か褒美は『母の治療をさせてやったのだぞ! それ以上の名誉がある訳無いだろう!』でしたね。殿下の発言を報告したら、陛下は頭を抱えておりましたが」

 肩を竦めてその日の行動を口にすると、会場に内にいた殆どのもの達は小声で話し合う。やっぱり、人としてあり得ない対応だよね。恩を仇で返して良いとか、どんな教育を受けたんだ。


 この国では、王命による指示が出た際には『必ず王命の内容が書かれた書状が発行する』決まりがある。

 これは行動記録としての残す為だ。

 書状を発行する際に使用されるインクは『王が自ら作り、持ち歩く特殊なインク』で、偽造書状による『偽の王命』が出せないようにもなっている。過去の王太子が事あるごとに『王命だ』と叫んで我儘を通そうとした、王家の負の歴史が存在し、王族はおろか貴族は皆この歴史を学ぶ。


 冤罪を晴らす為に、もう一つの指摘を行う。 

「大体、魔法科の校舎は、殿下達が属している普通科と違い、王都最寄りの街にあるんですよ? 分かりますか? 魔法科の校舎は王都の外にあるんです。当然、学生寮も王都の外にあります。王都に入る為に掛かる時間を考えると、普通科と魔法科の校舎を往復するのは短時間では不可能なんです」

 普通科と魔法科の校舎は遠い。王都の外に存在するのは、制約無く実技が出来るようする為の配慮だ。

 その配慮のお陰で、馬車で片道半日は掛かる。普通科の校舎よりも、王城の方が近い。空間転移魔法が存在しない世界なので、一瞬で行き来する事は不可能だ。

 指摘を受けた第一王子がしどろもどろになるが、思い付きを口にした。

「で、では、貴様は取り巻きを使って……」

「あら? 私に直接刺されそうになったのでは無かったのですか? そこの御令嬢のせいで私に友人と呼べるからはいませんし、取り巻きもいません」

 再度指摘したら、何も言い返せなくなった第一王子は、金魚のようにパクパクと口を動かした。公爵令嬢も自作自演を行うに当たり、最も重要な点を忘れていたのか顔を真っ青にしている。

「それ以前に、私がやったと証言した方はどなたですか? まさかそこの御令嬢の取り巻きだけって事はありませんよね? 我が国では、口裏が合わせやすく、家の権力の都合で、無理矢理証言させられる可能性が高い立場の人の証言は、基本的に採用されませんよ」

 発言してから会場内を見回すと、そこかしこから『実際にの現場を見た事が無い』と言う声が上がった。それは『公爵令嬢の自作自演』を疑う声だ。

 いざ正義の断罪(笑)と、意気込んでいた馬鹿共は顔を真っ赤にしてプルプルと震えている。

「さて、殿下。私の証人は貴方です。祝いの席でまだ何かをやるつもりですか? これ以上恥を掻く前に、陛下の許へ、謝罪に出向いたらどうですか?」

「う、煩い煩い煩いっ!! 謝りもせず、詭弁を弄する女などこの国には不要だ! 王命による追放だ! 出て行け!!」

 顔を真っ赤にした第一王子がそんな事を言った。

 自分は嘆息しつつ、内心で賭けに買った事を喜んだ。

 賭けの内容は『第一王子が、王命だ、の言葉を言うか・言わないか』だ。はっきりと証言者付きでこの馬鹿は言った! よし、賭けに勝った!

 喜びをおくびにも出さずに、ワザとらしく肩を竦めた。

「王命ですか? それでは、陛下に確認を取らなくてはなりませんね」

「その通りだな」

 自分の言葉に合いの手が入った。気のせいか、合いの手には怒りが籠っていた。

 第三者の声に皆がギョッとすると、何時の間にか、雛壇上に国王がいた。第一王子と取り巻きに公爵令嬢の顔が真っ青になった。自分は国王の姿を確認するなり、皿とフォークを持ったままだがすぐに頭を下げた。

「皆、顔を上げよ。警備兵と影のものよ。状況を説明せよ」

「ち、父上!」

「この場では陛下と呼べと教えただろう! 何度言えばお前は覚えるのだ!!」

 国王に一喝された第一王子が竦み上がった。取り巻きと公爵令嬢は頭を下げずにカタカタと震えている。

 顔を上げても良いと許しを得たので、自分は何時でも大皿を置けるように、テーブルの傍へ移動した。

 その間に第一王子と取り巻きに、公爵令嬢が警備兵に拘束され、床に膝を突かされていた。

「状況は分かった。賭けには負けるわで、最悪だな!」

「ち、陛下。賭けとは、どう言う事ですか?」

「お前には関係の無い事だ! 冤罪で瑕疵の無い令嬢を夜会で吊し上げる馬鹿が息子で、余は恥ずかしいわ」

 眦を吊り上げて国王が怒っている。賭けに負けた事がそんなに悔しいのか。

「陛下! 何故私までこのような扱いを受けなくてはならないのですか!?」

「お前の悪事は全て余の耳に届いておる。そこの伯爵令嬢が無罪である事もな。王家の影が、数が多くて苦労しつつも、全て調べ上げたわっ。皆に説明をするよりも見せた方が速いな。――おい、背中の部分だけで良い。皆にも見せてやれ」

 国王の指示で警備兵の一人が短剣を使い、公爵令嬢のドレスの背中部分を裂き、隠されていた魔法陣が露わになった。

 会場内のあちこちから悲鳴が上がる。第一王子と取り巻きも瞠目している。

「忌々しい、これは禁呪の刻印だ。さて、言い訳はあるか? 他家を脅迫して令嬢や令息に、禁忌魔法で隷属させて、随分と好き勝手やっていたようだな。ああ、お前の家族も既に拘束済みだ。公爵家の人間は親族会議で追放が決まっておる」

「そんな!」

 公爵令嬢が絶望の声を上げた。公爵令嬢は更に何かを言い募ろうとしたが、すぐに猿轡を噛まされて、簀巻き状態で床に転がされた。

 公爵令嬢が罪人へ一気に転がり落ちた光景を見て、第一王子と取り巻きの顔が引き攣る。

「さて、馬鹿息子よ。お前が隣に置いていた令嬢は禁忌を犯した罪人だ。処罰は極刑もの。何も知らずに庇っていたとは思えん。取り巻きと共に大人と同じ相応の尋問を受けて貰う」

「父、上」

「陛下と呼べ馬鹿者。お前達は、今日をもって学校を卒業し、成人したばかりだろう。つまり、この夜会が始まった時点で大人と同じ対応を受ける」

 国王の発言から考えると、在学中にこの茶番劇を引き起こしたのならば、子供として扱われた事になる。手緩い対応に思えるが、法治国家なので法律を遵守せねばならない。

 これから来る未来を想像してか、第一王子が肩を落とした。そのまま王の指示で取り巻きと公爵令嬢共々どこかへ連れて行かれる。

「夜会は後日改めて行うが、今日も時間一杯まで楽しんでくれ」

 最後にそう言って国王も退場した。

 去り際の国王の顔は心底悔しそうな顔をしていた。賭けに負けた事がそんなに悔しいのか。

 残りのデザートを食べてから、自分も退場した。

 今日は王城に泊まって行くので、借りている貴賓室へ向かった。

 実家の伯爵家は、向こうの言い分だけを信じて自分に『卒業したら家から出て行け』と絶縁状を送って来た。冤罪だった事を知りどんな顔をするか気になるが、絶縁したからもう良いか。



 翌日。

 朝食を食べ終わった頃、国王の執務室に呼ばれた。昨晩の内に尋問などを全て終わらせたらしい。

 尋問のやり方は『スパイ向け』だったそうだ。


 この国のスパイ向けの尋問は『十分経過すると、どんな怪我でも完全に治る特殊な部屋』で行われる。つまり『拷問用の部屋』で、尋問が行われた。

 禁呪に手を出すような公爵の事だから、その娘の事も甘やかし倒しているだろうな。スパイ向けの尋問は爪を剥がすところから始めるんだったか。覚えていないから忘れよう。


 控えていた宰相から尋問して得た内容を聞き、何故自分が標的にされたのかも教えて貰う。

「中等部の歓迎会で殿下と踊った事が原因!? 踊る相手はくじ引きで決めるんですよ?」

 六年前の事が原因だったと知り、意外過ぎて思わず仰天した。

「そうだ。あの公爵令嬢はダンスの相手を決めるくじに細工をしていた。だが、細工が直前になって発覚し、別のものに交換された。その結果、お主は愚息とダンスを踊る事になった」

「完全な、とばっちりではありませんか。それ以前に、何度も足を踏まれて、痛い思いしかしていませんよ」

「……重ね重ね、愚息が申し訳ない事をした」

 謝罪の言葉を口にしてから、国王は天井を仰いだ。

 ダンスは貴族必須の技術で、色々なところで必要となる。六年前の時点で相手の足を踏んでばかりと言うのは、王族としては問題しかない。

 国王が一頻り嘆いたところを見計らって、昨日の茶番劇で捕縛された面々の処遇について尋ねた。


 第一王子は、二度も越権行為を行った事と、茶番劇で祝いの席を台無しにした事、側妃の母親が実家ぐるみで法に抵触する事を色々とやっていた事から、王位継承権剥奪と親子共々戸籍を王籍から侯爵家に移された。

 戸籍は母親の侯爵家に移されたが、侯爵家そのものが御家取り潰し級の事をやっていたそうなので、平民落ちの結末は避けられない。

 母親の実家の一件に関しては完全に無関係だったから、平民落ちで済むんだろう。禁呪にも関わっていなかった事が大きい。

 公爵令嬢は一家で身分を剥奪した上で『第一級の極刑』となった。

 この国での極刑はレベルが三段階存在し、第一級は心身全てを残さずに燃やす――火刑だ。禁呪の魔法陣を持った体を後世に、例え骨だけになっても残してはならないと判断されたのか。

 この火刑で使用される炎は魔法なので、灰はおろか塵すら残らない。

 ちなみに、極刑の二級は鞭打ち百回を一ヶ月間行ってから絞首刑、三級は三日三晩磔状態で広場に放置してから毒杯を呷るとなっている。

 事前の親族会議で追放すると宣言していたお陰か。公爵家は爵位を一つ落とし、禁呪に関する書物を全て焚書にする事と多額の賠償金の支払いと、次代から三代先まで王家との婚約禁止で済んだ。

 領民は無関係だし、取り潰したら誰が広大な領地を管理するんだとなる。誰に新しい領地を与えるかで揉める可能性も有るし、新しい領主が真っ当な人間でい続けるかも怪しい。

 そもそも、領主一家だけが罪に問われたから、領地は無事なんだろう。

 第一王子の取り巻きは、それぞれの実家が側妃の実家とグルになっていた事が発覚した。侯爵家と運命を共にする予定らしい。

  公爵令嬢の被害者の令嬢令息は、事情があったとは言え、全員婚約解消などの憂き目にあっていた。家族の為に体を張っていた事から、少額の賠償金の支払いと王家が新しい婚約を紹介する事で決着が付いた。

 少額とは言え、賠償金を支払う事になったのは、偽証と命令で実行犯を担当していたからだ。強制だったとしても、実行犯だった点は消えない。


 ここまで聞き、国内の政治バランスが崩れる未来を想像した。

 取り巻き共の実家は第一王子派閥で、派閥の中枢が丸ごと無くなるのだ。今後は第二王子派閥が力を付ける事になるだろう。

 正妃の息子は三人いるけど、三男と四男は『将来、第二王子を支える』と宣言しているから国内情勢が変わる事は無い。この国では王女にも王位継承権が与えられるが、二人の王女は他国の王子と婚約しているから、国内政治に絡む事は無い。

「国内貴族の足並みを早急に揃えねばならんが、お主は本当に国外へ去るのか?」

「はい。実家から絶縁状が届きましたので、帰る家はありません」

「……悪夢だ」

 国王が絶望顔で執務机に突っ伏した。

 

 この国と言うか、この世界の治癒魔法は魔力消費が激しい。簡単な攻撃魔法五発分に相当する魔力で、軽い裂傷を癒やす程度の事しか出来ない。

 必然的に治癒魔法を得意とするものは、保有する魔力量が常人の五倍の人間になる。

 治癒魔法を使う条件が厳しい為、使える人材は少ない。

 昨日卒業した時点で、通っていた学校において治癒魔法が使える人間は、自分以外に五人しかおらず、全員中等部の生徒だ。この人数は平民の生徒込みになる。


 そんな、一応貴重な人材側に入っている自分が国から去る。

 他国にはどう思われるんだろうね。

 元公爵令嬢のお陰で自分に近づきたい人はいなかったし、実家の従姉妹のせいで婚約は三度も白紙となっている。家を継ぐのは、父の十歳年下の叔父(父は三兄弟の次男)に決まっているから、心配は無い。

 仕切り直しの夜会に参加する事を条件に、第一王子絡みの慰謝料の増額を提示されたけど、秒で断ったわ。

 出国手続きとして、事前に準備をしていた諸々の書類を国王に提出し、貰うものを貰ってから、昼過ぎに王都から去った。



 各地を旅していた最中、いるとは思ってもいなかったギィードと再会し、彼が率いる傭兵団に入るのは、一年後の事だ。


 

 Fin



ここまでお読み頂きありがとうございます。

キャラ名すら考えずに書いた、久し振りの悪役令嬢系作品となりました。

悪役令嬢系だけど、断罪された時に備えて外堀を埋めて、ザマぁをする系です。

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― 新着の感想 ―
第一級の極刑が一番マシという気もしますな。鞭打ち一か月とか、3日間の磔って結構な拷問でしょう。さっくり死なせてもらえるだけ第一級は有情かも。 宗教的に、燃やし尽くされると天国に行けないとか転生できない…
何故王様は最後の交渉の場で爵位(領地なしのかわりに年給あり)をククリに提示しなかったんだろ?実家を追い出されたのは冤罪、それも王子のせいなんだから損害補填で押し切れたんじゃ。 貴重な能力持ち、事後承諾…
感想一覧
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