キャラ名無き作品 その10
R15は念の為です。
キャラの名前を考えずに、気晴らしで書いた作品です。
息抜きのように勢いで書いたので、キャラクターの名前はありません。これだけはご了承下さい。
エピソードタイトル
名無しの王女は国を捨てる
とある王国の末の王女として生を受けたが、この国は男尊女卑が根強い国だった。
王子が五人もいる中で誕生してしまった。王女は政略婚にしか使えないからと、『名前も付けられないまま』、誕生して僅か一ヶ月も経たない内に、避暑の離宮が存在する離れた領地に乳母と共に追いやられた。
だが、この乳母は最悪だった。金にがめつい性悪女と言って良いだろう。
この乳母は職務を放棄して、自分を領地の孤児院に捨てた。
そんな事が可能なのかと思わなくも無いが、離宮の使用人と共謀すれば可能だった。皆、金の亡者だった。
杜撰極まりない計画だが、国王夫妻が興味を持たなかった事もあり、誰も疑う事は無く成功した。
孤児院に捨てられた自分はと言うとね。
乳母は自分の殺害を計画したのか、菊理としての記憶を得てしまった。
そんな状態で孤児院に捨てられたのではない。
乳母は執念深い事に、孤児院に毒入りの乳児用の食事を差し入れた。乳児食が必要な子供一人だけと事前に調査したとしか思えない行動だ。
毒入りの食事を食べて、一昼夜生死の境目を彷徨うも、菊理の記憶を得た事で運良く助かってしまい、そのまま孤児院で過ごす事になった。乳児の状態で記憶を正しく思い出せるとは思わなかったよ。
杜撰な計画が成功して、十年の月日が経過した頃。
王国は隣国と戦争して――完膚なきまでに敗北した。
この知らせを聞いた自分は孤児院から去る事を決めた。
勿論、孤児院で文字の読み書きを覚えて、院長の紹介で街の食堂で社会体験として、野菜の下拵えの仕事を手伝いお金を貯めてから出たよ。トラブルが起きたけど、ちゃんと貯めた。
孤児院のシスターの一人が金にがめつい女で、日給を持って孤児院に帰ると『孤児院の運営費が必要なのよ』と取り上げられたので、食堂の女将さんに相談して商業ギルドが保有する銀行みたいなところに預けた。
当のシスターは、『自分がお金をどこかに隠している』と確信したのか。フライパン片手に襲い掛かって来たが、院長に目撃されて未遂で終わった。
だが、自分が稼いだお金を取り上げていた事実は消えない。
運営費と言われて稼いだお金を取られた事をその場で院長に相談したら、このシスターからそのお金を受け取っていない事が発覚した。
どう言う事か、院長が尋問すると、呆れた事実が発覚した。
このシスターはとある男に貢いでいた。お金が足りなくなり稼いでいる自分から強奪して足しにしていた。
激怒した院長はシスターの解雇を選択したが、シスターの父親にも連絡が行った。
意外な事に、このシスターは街の代官の娘だった。素行不良が原因で教会で奉仕活動を通して反省させようとしたが、男に毎月貰っていたお小遣いを貢ぐ馬鹿だった。
院長から連絡を貰った代官の男爵は怒髪天を衝く勢いで怒り、娘の頬を張り飛ばした。
男爵令嬢だったシスターは正式に勘当された。男爵は戒律の厳しい修道院で十年の奉仕活動をさせると、言って娘を即日で送り出した。
自分は取られたお金を男爵から慰謝料付きで貰う事になった。孤児院にも迷惑料のお金が支払われた。
男爵とは言え貴族からの慰謝料の金額は大きい。平民からすると大金扱いだ。商業ギルドの銀行に全額預けた。そうしないと、どうなるか分からないからね。男爵にもそこに預けて欲しいと頼んだ。
男爵が快く応じてくれたので、この一件は幕を下ろした。
馬鹿げた騒動はあったものの、冒険者ギルドで仕事を引き受ける事が可能となった年齢に達した事と、本人希望を理由に、孤児院から出られた。
孤児院から去る際に、面倒なものを渡された。
自分が孤児院の前に捨てられていた時に使われていた、お包みの留め具だ。この留め具には水晶が使用されていて、王国の国章が刻まれていた。留め具だから、流石に乳母も気づかなかったのか。あるいは硝子と勘違いしたのか。金の亡者にしては変な凡ミスだな。それ以前に、お包みって留め具を使うんだっけ?
御両親を探す手立てにすると良いと、院長から手渡された。
ごめん院長。自分は名無しの王女なのよ。
院長から貰った名前は今後も使う予定だけど、本当の身分は明かせない。
そもそも、王女が乳母の独断で孤児院に捨てられるとか前代未聞だ。国王夫妻から名前すら与えられていないしね。前代未聞と言うか、空前絶後の珍事だろ。
最後に入らないものを受け取る羽目になったが、拒むと怪しまれるので受け取った。
最後の最後で予想外の事が起きたが、無事に孤児院から出られた。
商業ギルドに寄って預けていたお金を受け取り、隣り街の冒険者ギルドで登録して、講習を受けて、登録証を貰った。
こうして冒険者として活動を始めた。
魔法が存在する世界なので、特に困った事態にはならなかった。
冒険者として活動を始めて六年が経過した頃に、その男は使者としてやって来た。
何でも、自分が孤児院を出た頃とほぼ同じタイミングで離宮に調査の手が入り、乳母達の杜撰な計画が発覚した。今更だな。
十何年も放置していたのは国王夫妻の――国の意思だ。
散々放置しておいて、今になって国に戻って来いとか、言われても困るのよ。乳母に至っては自分を毒殺を計画実行したし、何より世話になったのは孤児院であって、国じゃない。王国の孤児院に、国の税金は投入されていないのよ。残念ながら。
だから、自分が王女として戻らないと王家の血が絶えるとか言われても困る。王子が五人もいたんだから困らないと思ったが、敗戦が決まった時点で全員捕虜として捕まり、暴れ過ぎて処刑されていた。
何だその状況は? 意味が解らないぞ?
何で王子が捕虜になっているんだよ。つか、処刑の判断が速いな。
ガタガタ文句を言われたので、お包みの留め具を渡した。『死んだ事にしておいて』の言葉と共に。
男は呆然としたけど、これ以上付き合っていられない。
だって、自分が国から与えられたものって何よ?
名前は与えられず、性別を理由に生後一ヶ月も経たない内に遠く離れた領地の離宮に送り出され、乳母に捨てられて――殺されそうになった。
これのどこに国への恩を感じろって言うのか?
無理に決まっているでしょう。
乳母達を恨んでいないのかって? 顔すら覚えていないのにどうやって怨めって言うのよ。
どうせ、王族殺害実行罪で全員極刑に処されているんでしょ。
仮に捨てられなかったとしても、真っ当な扱いをしてくれる訳ないよ。絶対、乳母達は嘘を吐いて自分を虐げるって。王と王妃には虚偽報告をすれば良いんだし、あの二人が確認する筈も無い。
乳母達の行動も、国王夫妻が『自分を見捨てた』事が原因だ。
諸悪の根源たる、元凶を助ける気なんて起きないよ。
自分は言いたい事を全て言って、使者の男を放置して去る。
国が滅びようがもう知らない。
一度も王女として扱われた事は無い。
そもそも、『名無しの王女』って時点で、国の異常さに気づけよ。
誰も何も言わなかった時点で、自分に助けを乞う資格は無い。
そのまま潔く滅びれば良い。
半年も経過しない内に、祖国は『名無しの王女に捨てられた国』として滅びた。
祖国を滅ぼした国が自分を探しているみたいだけど、名前はおろか、絵姿すら存在しないので捜索は難航している。黒髪黒目は珍しくも無い色彩だった事に感謝する。
それでも念の為に、有り金(男爵から貰った慰謝料が想像以上に多かった)が尽きるまで旅を続けてから転生の術を使って去った。
ここまでお読み頂きありがとうございます。
キャラ名すら考えずに書いた、追放系(?)作品となりました。
思い付きかつ、突貫で書き上げた没作品です。
菊理が王族として転生しても、『こんな感じの扱いだろうな』のノリで書き上げました。