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ゾンビを追い掛けて異世界転移したら、そこは地球だった

 西暦二千二十年十二月。

 皆既日食と言う、天体ショーが起きたその日に、前触れ無く月とほぼ同じ大きさを誇る赤い星が地球の衛星軌道上に出現した。僅か数分間の出来事だったが、世界中の人々の興味を集めた。

 だが、その翌日以降――人類は、突然現れた爛れた皮膚を持った異形の生物に襲われるようになった。

 異形の生物に引っ掛かれたり、噛み付かれると、同じように変貌してしまう事から空想の生物を連想させ、誰も彼もが、異形の生物を『ゾンビ』と呼称するようになった。

 半年後。各国が軍隊を総動員してゾンビはその数を大分減らした。だが、再び起きた日食後に世界にゾンビが再度出現した。二度目に出現したゾンビの数は圧倒的に多かった。

 装備を消費し切っていた軍隊では対処しきれず、人類は危機に陥った。

 この時、ゾンビの発生原因は同時期に発生していた『世界的なパンデミックが原因では?』と疑うものは一定数いた。疑っても『科学的な証明』は出来ない。真実は『オカルトの中』に存在したからだ。

 外に出て、昼夜問わずに徘徊するゾンビに襲われるか。

 大勢の人間と共に屋内に避難して、蔓延している病に罹るか。

 極端な二択を迫られた人類はその数を減らして行った。


 ※※※※※※


 新録大陸暦三百年。

 大陸全土で『人が別の生物に変貌する』奇病が発生していた。

 いや、正しくは奇病ではなく呪いの一種と言うべきか。

 この大陸は永らく精霊と共に暮らしていた。だが、時代が移り変わり、技術が進歩した結果、精霊の扱いは悪い方向へ変わって行った。

 その結果、力を失った数多の精霊が『呪霊』と呼ばれる負の存在に堕ちてしまった。呪霊は寄生した生物を異形の存在に変えてしまう、呪われた闇の精霊とも言われている。

 その呪霊が寄生する先は、大陸で最も個体数が多い人族だった。勿論、獣に寄生する呪霊もいたが、寄生された数は圧倒的に人族が多かった。

 呪霊に寄生された人族は異形の姿に変貌し、理性と知性を無くして周辺のもの達に襲い掛かった。

 抵抗する事は出来ても、人が異形の生物に変貌する現象の解明は出来ないまま、数年が経過した。



 新録大陸暦三百九年。

 呪霊が大量に発生して数年が経過したある日、精霊王はある決断を下した。

「星の星辰が重なりし時に、呪霊を別の星へ放逐する」

 呪霊を元の精霊に戻す事は出来ない。呪霊は存在するだけで、他の生き残っている精霊にも悪影響を与える。呪霊は死して初めて無力化されるが、精霊では呪霊を滅する事は出来ない。

 人の手を借りても、呪霊が誕生した経緯を考えると遠い別の星に捨てるしか、残された手段は無い。

 精霊王もまた、他者の事を考えない存在だった。


 ※※※※※※

 (主人公視点)


「そんな馬鹿な理由で呪霊を、不法投棄してんじゃないわよーっ!!」

 前触れ無く呪霊が数を減らした原因の調査を知り合いに依頼され、真相に心当たりがありそうな人物として精霊王を訪ねたら、モノローグと共にまさかの真実を聞かされ、力一杯に叫んだ。

「訂正せよ。不当投棄では――」

「関係の無いところに捨てている時点で似たようなもんでしょ!? てか、捨てた先に人がいたらどうするのよ!? アンタが責任取るのか!!」

「取れる訳が無かろう」

 精霊王は胸を張って言った。反射的に精霊王の頭を叩いた。

「胸を張るな。無責任にも程があるわっ」

「……一応、放逐先は選定した。その星で最も栄し種族が危機に瀕している星だ。全滅が速まったところで、星の運行に些かも――」

「そう言う問題じゃないのよ!? いい? アンタの思惑とは関係無く、ここと全く関係の無い奴を巻き込んで、一方的に虐殺しているようなもんなんだよ!! お前は殺戮者になりたいのか!?」

 短時間で叫び倒したので流石に息が上がって来た。精霊王は息が上がった自分の様子を暫し観察し、『済まん』と一言言った。

「済まんで済む訳無いでしょ。――んで、どこに捨てたのよ?」

「人間が住んでいる青い星だ。よく分からん伝染病が星一杯に広まり、各所で混乱が発生していた」

「よくそんな星を見つけて、追い打ちを掛ける気になったわね。それ以前に、どうやって送り込んだのよ?」

「うむ。丁度、その星と二つの星――合計で三つの星が直列に成り掛けていた。直列になった瞬間に、道を一時的に繋いで放り込んだ。運良く、半年後にもう一度発生した。この二度しか行っておらん」

「二度でも十分過ぎるわ。その星の直列が次に起きるのは何時なの?」

 流石に精霊王が前回を何時行ったかは不明だ。精霊王の態度から、次に行う条件が揃っている日を知っているだろうと推測して尋ねたら、即答された。

「四十日後だ」

「思っていた以上に早いのね」

「この星でも起きる現象だからな」

「あっそう」

 興味を失くした自分は、三十九日後にもう一度ここに来ると精霊王に言い残して去った。

 四十日後ではないのは、念の為と、この世界には時計が無いので正確な時間が計れないので、前日にいればタイミングを逃す事は無いだろうと言う安易な考えだ。

 


 各地にいる知り合いを訪れて、呪霊と精霊王のやらかしについて説明――説明を聞いた知り合いは、精霊王の愚行を知って全員呆れた――し、移動の準備を始めた。

 心強い事に、何名かの知り合いが一緒に行動してくれる事になった。


 

 月日は流れて三十九日後。

 自分は、知り合い――と言うか、かつてのパーティメンバーと共に精霊王のところにいた。

 折角、十人が勢揃いしたって言うのに、何の因果でゾンビ退治で異世界に渡らなくてはならないのか。

 別に自分が尻拭いをしなくてはならないと言う訳では無い。たまに利便を図ってくれる大聖堂のトップの爺さんからの頼みでなければ動かなかった。

 

 精霊王のところで一泊し、遂に異世界へ移動した。したんだけど……、移動先が予想外過ぎて困り果てるとは思わなかった。

 

 降り立った場所にはゾンビが大量にいた――ゾンビの群れのど真ん中に出てしまったが正しいか。

 防護障壁を展開し、協力してゾンビを焼き払い、燃え滓にしてから周辺を探索する。赤茶色の金属性の建物間の裏路地に該当するところだったのか、人気は無い。

 地面に散乱しているのは金属片や硝子で、地面は何かで固められている。落ちていた硝子を拾い上げて見る。硝子片の透明度と薄さと強度の高さから、文明の水準が高い事が伺える。

 迷彩障壁を展開し、皆で金属の建物の上に出る。工場か港らしいところに出たが、人気は無く、先程ゾンビを焼いた時に発生した焼け跡が残っているだけだった。

「ねぇ、見覚えのあるでっかい像があるんだけど、気のせいかしら?」

「ミレーユ。どう見ても気のせいじゃねぇだろ」

「アルゴスと同じく。……いやぁ、『地元のアレ』を再び見る日が来るとは、思いませんでしたね。あはは」

 ミレーユとアルゴスは呆然と、ベネディクトは半笑いになって三人が視界に飛び込んで来た『とある女神像』を見上げた。

 他の面々も、声を無くして呆然と見上げている。

 自分も写真でしか見た事は無いが、覚えていた。


「ねぇ、ベネディクト。自由の女神像って、フランスがアメリカの独立記念か何かで送った像だったよね?」


 うろ覚えの知識を引っ張り出し、自由の女神像保有国出身だったベネディクトに話し掛けるが、当人は半笑いから、虚ろな目で乾いた笑い声を上げている。 

 これは現実逃避しているな。

 暗い空に向かって息を吐き、気を取り直して地面に降り立つ。全員が呆然としているから、重力魔法で纏めて地面に下ろした。

「これ、どうするの?」

「どうもこうも、ここは港だ。別のところに移動するのしかないだろ」

 呆然としていた面々の中でも、比較的軽症だったロンとギィードが今後の行動について語り合っている。地面に降りた事で正気に戻った幾人かも『あそこに移動しよう』と意見を出している。

 土地勘のない自分は話し合いに加わらずに周辺を調べる。

 周辺建物だと思っていた物体は、よく見ると金属製のコンテナだった。地面に散乱していた硝子は車のフロントガラスだった。

 ゾンビがここにやって来ない内に、土地勘を保有するベネディクトの案内で移動を始める。



 ここが、かつて自分達がいた地球では無い事は知っている。

 同じ地球だけど、全くの違う星。それがここだ。

 そうだと解っているけど、やっぱり皆の顔はどことなく嬉しそうだ。

 全く同じでは無くとも、故郷に近い場所と言うのは嬉しものなんだろう。

 良い思い出がすぐに思い出せない自分とは、やっぱり違うんだな。



 予想外の形で地球を救う。

 あの時――転生の度が始まる切っ掛けとなったあの時とは違い、今度は救えるかもしれない。


ここまでお読み頂きありがとうございます。

ゾンビものと、『地球に来てしまったぞ?』を組み合わせた作品です。

珍しく十人揃っているのに、短いし喋っている人数も少ない。

ゾンビネタとして思い付いて、ざっくりと書いたは良いが『没』を確信させる感じになり、一先ず書き上げてここに投稿する事にした作品です。

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