キャラ名無き作品 その6
キャラの名前を考えずに、気晴らしで書いた作品です。
息抜きのように勢いで書いたので、キャラクターの名前はありません。これだけはご了承下さい。
エピソードタイトル
私の恋愛情緒が育たなくなった理由
それは中高一貫貴族学院に入学してから二ヶ月後――定期試験の結果発表後に起きた。
「貴様! 伯爵令嬢の分際で俺の視界に入りたいからこんな点数を取ったのか?」
「悪いけど、どちら様?」
成績を理由に、人前で顔も名前も知らない金髪緑眼の男子生徒に絡まれた。
余りにもウザい絡み方だったので、思わず『お前誰だよ(意訳)?』と言ってしまった。
名前を尋ねただけなのに、男子生徒は大口を開けて動きを止めた。
ここは過去に起きたトラブルが原因で、数え年で十三歳の伯爵家以上で、『王に正式な貴族の令嬢令息と認められた』ものでなければ通えない学院だ。
こんな規則が存在するのは、想像出来るかもしれないが、過去に下位貴族の令嬢が高位貴族相手に婚約破棄騒動を唆した事が原因である。こんな規則が存在する学校だと、もうお約束の領域だ。
自分には同い年の異母妹がいるけど、王に貴族として認められなかった私生児で、入学試験不合格だった事、場所を弁えない行動、止めに婚約者がいる王族男子に近づいた事などが原因で、父(伯爵家嫡男)と後妻と共に身分剝奪の上で国外に追い出された。
身分剝奪だけで良い気もするが、学院に規則が出来た原因を考えると、念には念を入れての国外追放だ。
成績順位の確認を諦めて、動きを止めた男子生徒を放置して立ち去った。
思えば、これが始まりだったのかもしれない。
この男子生徒はどこに行っても、必ず大声で絡んで来た。余りにもウザいので、校内では魔法で姿を消して移動する癖が付いた。そうでもしなければ耳目を集め、他の女子から嫌がらせを受けるようになった。面倒な事に、この男子顔立ちはそれなりに良かった。
クラスが別だった事が幸いし、魔法を使い隠れて移動すれば見つかる事も無く静かだった。こう言う時、クラス分けが成績順で無くて良かったと感じる。
この男子生徒は王族じゃないから無視しても問題は無い。在学している王子は三歳年上だ。
この国の王族は皆、色の濃い紫色の髪とルビーのような赤い瞳を持つ。これが王族の傍系だったら、毛先が紫色味を帯びた髪か、赤味を持った瞳を持つ。
対して、件の男子生徒は金髪緑眼だ。王家の傍系でも直系でも無い事は明白だ。
他国の王族が最後に輿入れしたのは、百年以上も前なので、他国の王族関係者と言う線も薄い。
高位貴族の可能性も残っているが、それでもボンクラな次男以下だろう。
そう判断して、魔法を使って隠れる日々を送った。
件の男子生徒とは、その後一度だけ隠れていない状態で遭遇したが、相変わらず大声で罵って来た。即座に逃げて魔法で隠れようとしたが腕を掴まれてしまった。
「迷惑だから金輪際近寄らないで」
その言葉と共に、男子生徒の手を振り解いた。しつこく掴もうと伸びて来た手も手刀で叩き落とした。
手を振り解いき叩き落としたからか、男子生徒は何故か絶望したような顔をして動きを止めた。相手が何を思っていようが、自分からすると『会う度に大声で罵って来る良く分からない傍迷惑な人物』だ。
男子生徒をその場に捨て置いて去った。
そして、三年が経過し、中等部を卒業した。
中等部には学科そのものが存在しないが、高等部には普通科、騎士科、魔法科、淑女科の四つが存在する。
この世界では魔力を持つ人間が全人口の三割程度と少ない。魔力を持つ人間は基本的に魔法科への進学を推奨される。
女子生徒は基本的に淑女科に進学する。自分と同じ魔力持ちでも、家の方針で淑女科へ進学する事が殆どだ。
この国で騎士に成れるのは男だけなので、騎士科に進学するのは男子だけだ。
普通科は、家を継ぐ嫡男嫡女か、文官を目指す男女が進学する学科だ。この国では男女問わない『長子相続』が基本だ。嫡女では無い女子が通う淑女科の授業は普通科と似ているが、内容は若干違う。
自分の進学先は留学だ。
未だに当主を務める祖父のお陰で父の一件があっても中等部に通えたが、卒業後は席を抜いて移住も考えた。でも、国の方針を考えた学院側から何度も進学を勧められた。勿論、国からも進学を勧められた。
けれど、身分を剝奪され国外追放された父の娘だと言う事を考えた、気にする必要の無い世間体を気にした叔父夫婦が騒ぎ倒した事が原因で、家を出なくてはならなくなった。
叔父夫婦も自分を追い出したいのか、やたらと嫌がらせをして来る。そんな叔父夫婦の許には自分の二歳年下の一人娘がいた。超我儘で、国外追放となった義妹とほぼ同じ性格をしている。
祖父は自分が家を出る事を嫌がった。叔父夫婦と従妹を見て『孫の代で潰れる』と予感したからだ。身分剥奪と国外追放を受けた人物と同じ性格をした奴が家の嫡女となるのだ。そりゃ、嫌がるわ。我が伯爵家で魔力持ちは自分しかいないのもある。
国の方には祖父が事情を説明して諦めて貰った。
かなり渋られたけど、叔父一家が何を仕出かすか判らない事を説明し、留学と言う形で『国外へ避難する』事になったのだ。
流石に、自分の食事に毒が何度も盛られた事を報告したら、留学の許可が下りた。
殺人未遂で訴えても良いんじゃないかと思ったが、祖父が言うには『家から追い出すにはもう少し罪状を積まないと無理』らしい。心底無念そうな顔をしていたから、国のお偉いさんがそう言ったのかもしれない。
今夜行われる中等部の卒業パーティー参加する準備をしようとしたら、ドレスがズタズタにされていた。
犯人は叔父夫婦と従妹だ。祖父が保管している事を知り、夜中に三人で犯行に及んだらしい。
簡単に口を割りそうにないのに、どうしてすぐに判ったのかって?
祖父が雇った護衛騎士に三人を取り押さえさせて、毒入りの自白剤を致死量寸前まで飲ませて吐かせた。自白剤を飲んだ三人は血反吐を吐いて、床の上をのた打ち回ったけど、祖父は見向きもしなかった。
余りの事にキレた祖父は、三人のパーティー用の衣装と宝石類を全て売り払った。そのお金で自分はお店に出向き、既製品のドレスやアクセサリーを買いお店で着替えて、卒業パーティーに出席する事になった。
祖父が言うには、今回の事も上に報告するそうだ。
なお、小遣い(賄賂)を貰って、三人に保父が保管していたドレスのところへ案内した侍女は即刻解雇となった。侍女の退職金と今月分の給金は罰金として祖父が取り上げた。退職金と給金の代わりに渡された紹介状には『主の犯罪を諫める事が出来ない。賄賂を簡単に受け取る馬鹿』と明記された。侍女は抗議したが『実家の男爵家を訴えてもいいか?』と祖父が真顔で言った事で諦め、侍女長監視の下で荷物を纏めて出て行った。
着々と罪状を積み上げている馬鹿な三人と侍女の事よりも、パーティーの事を考えないと。
この卒業パーティーはデビュタントも兼ねている。だから祖父もキレたんだけど、あの三人は判っていないのだろうか?
進級試験が不合格で、留年が決まった従妹を娘に持つ夫婦では判らないのかもしれない。
ちなみに、中等部を留年する生徒は従妹で十年振りだ。そんな十年に一度の逸材(笑)を娘に持つ夫婦では無理難題と言う事かもしれないな。自分も従妹が留年すると聞いて恥ずかしかったよ。
さて、卒業パーティーは学院の講堂で行われる。
婚約者がいる参加者の姿もチラホラと見える。
自分は義妹と従妹のせいで、婚約が出来なかった。魔力を持つ令嬢だと言う事もあり、釣書は自分にだけ来た。当然、『不公平だ』と騒ぐ義妹と従妹が潰して、祖父がキレると言う展開が何度も発生した。
自分も義妹と従妹に誘惑されるような馬鹿は要らないから良いんだけどね。
少し待っていると、卒業パーティーが始まった。
国王の開会宣言と祝辞を聞いてからは自由時間だ。ダンスをする必要も無い。開催時間は二時間なので、魔法で存在感を薄くして、料理を食べたり、壁の花になってのんびりと過ごそう。料理ばかりを食べていても、『留学するから、今の内に祖国の味を堪能したい』とでも言えば良いだろう。
一時間程のんびりと過ごしていたが、会場の中心部で何やら騒ぎが発生している。
グラスを片手に壁際にまで下がり事の推移を見守ると、ダンスの申し込みで令嬢達が揉めていた。その中心には何時かの男子生徒の姿があった。
モテる男は大変だね。
チラチラと何度もこちらを見るけど無視した。
会う度に大声で罵って絡んで来るような男を助ける気は無い。
グラスの中身を飲み干してから、中庭に出た。
「ん~~~~……」
のんびりと歩く中庭は静かだった。卒業パーティーの喧騒が微かに聞こえるだけだ。
空は曇天だが、所々が淡くライトアップされている中庭には幻想的な光景が広がっていた。
城の中庭には季節の花が大量に植えられており、王妃の希望で夜に見るとより一層美しくなるように計算された配置で花が咲く。このライトアップも王妃の希望で行われている。
中庭のツアーは国賓のもてなしの一つに取り入れられていて、その評価も上々と聞いていた。実際に見ると確かに凄いな。
今日は国内パーティーを行うだけで国賓や客人はいない。にも拘らず、中庭がこうしてライトアップされているのは、半月後に来る国賓へのもてなしの準備だ。
事実、このライトアップを長時間維持するのは難しく、一ヶ月もの時間を掛けた準備が必要になる。
ウチの国はそこまで大きくないから、頻繁に国賓は来ない。なので、中庭はライトアップされている時期に城の夜会に呼ばれるのは『運が良い』とされている。
中庭をぐるっと一周してから会場に戻る。ダンスの曲が止まっていた。会場の中央は未だに揉めていたが、そろそろ終わりの時間だ。
開会時と同じように、王の閉会宣言が行われて解散となった。
参加者達が退場して行く。自分のその流れに混ざって駐車場へ移動を始めた。
「おい! 待て!」
そんな声が背後から聞こえたけど無視した。
だって、誰に向かって待てと言っているのか判らないだもん。スタスタと歩いて駐車場に止めていた馬車に御者の手を借りて乗り込んだ。
ドアが閉まる直前、誰かがドアをこじ開けた。
誰かと思えば、先程女子に囲まれていた男子生徒だった。
「待てって、言――へぶっ」
馬車に乗りこんで来ようとしたので、反射的に扇子を使い刺突の要領で男子生徒の鳩尾を突いた。人体の急所一撃を受けて、男子生徒は背中から地面に落ち、痛みで転げ回った。
その隙に御者に出発するように指示を出し、ドアを閉めようとした。
「待て、待ってくれ。俺が、あの時、手を伸ばさなかったからなのか?」
「はぁ?」
何を言っているんだ? と、ドアを閉める手を止めて視線を向けると、男子生徒は地面に膝を突いたまま俯いていた。
「一体何の事か判らりませんが、すれ違う度に大声で罵って来るような人物に良い印象を持つ訳ないでしょう」
「……っ」
「言いたい事があるのならはっきりと言ってください。察してくれと甘えないでくれます? 目障りです」
ノーブレスで言い過ぎた。言葉を一度切り、一度息を吸う。
「それに、以前にも一度『迷惑だから金輪際近寄らないで』と言った筈です。顔も見たくないので二度と近づかないで下さい」
絶縁の言葉を男子生徒にもう一度言い渡し、素早くドアを閉めてから御者に出発してと指示を出した。
数秒後、小さな揺れと共に馬車は出発した。
……しかし、手を伸ばさなかったか。
まるで『助けなられなかった』と言っているようにも取れるが、心当たりが全くと言って良い程に無い。
三年間避けていた事もあり、男子生徒について全く分からない。
でも、明日で出国する。しつこかったけど、もう二度と会わないだろう。
「うん。忘れよう」
思い出せない=大した縁が無いと判断して、忘れる事にした。
忘れる事にしたから祖父には話さなかった。
翌日の早朝。祖父に見送られて家を出た。留学先の通学期間は四年だ。
今後の状況によっては『祖父と話すのがこれが最後になるかも知れない』けど、祖父は『後悔の無い選択をしろ』と言ってくれた。手紙のやり取りも行わない。自分の留学先の情報流出も防ぐ為だ。
今生(になるかも知れない)最後の会話を祖父と済ませて、荷物を載せた馬車に乗った。
留学先の王国の魔法学校は積極的に留学生を受けいている事で有名だ。留学するにはもってこいの学校である。唯一の心配は、王族の留学先にも選ばれる事だが、これに関しては祈るしかない。
そして、留学先で入学式を迎えた。
「……」
天に祈りは届かなかった。同学年、しかも同じクラスに王族が留学生としていると聞かされた。
覚えていないが、どこかの世界で神を自称した奴を殺ったっけ? それとも、どこかの駄女神からのお願いを無下にしたからか? 喧嘩を売って来た奴を返り討ちにしたらそれが神だったとか? それとも、武芸の師匠と一緒に行った『神狩り』が原因か? これが一番あり得そうだな。でも、あの時日今よりもずっと弱かったし、神は神でも怨霊に成り掛けの下級神だったよな。
駄目だ。心当たりが有り過ぎてどれが原因か判らん。
結構嘆いたが、王族は王族でも皇女、しかも魔導帝国の皇女様だった。馬が合うのか、友人と言っても良い程度の仲になった。
祈りは半分だけ届いていたのね。
留学してから三年後。
祖国は侵略戦争を受けて滅びた。
あの時の会話が本当の意味で、祖父との最後のやり取りとなった。
ここ三年間で代替わりした軍事国家が周辺国に攻め入った結果だ。
共に卒業した同級生の男子はおろか、高等部の騎士科の生徒までもが徴兵されて戦場で散った。
貴族夫人と令嬢達は侵略国の兵士か騎士に娶られる形で大多数が生き残ったそうだが、中には自決して拒んだものまでいたらしい。
徴兵されなかった貴族男性は十五歳以下だったら身分剥奪で済んだが、十五歳以上は農奴として別の土地へ連れて行かれた。炭鉱では無いだけマシかもしれないが、その判断は難しい。
叔父夫婦と従妹がどうなったかは判らない。叔父に農作業は無理だから、脱走を繰り返して炭鉱送りになっていそうだ。
義叔母と従妹はあの性格ではやって行けないだろう。見た目がそれなりに良くても、顔の良い男に媚びを売る事しか考えていなかったし。修羅場を引き起こして、早々にこの世を去っていそうだ。
薄情かもしれないが、故郷の事よりも自分の今後についても考えなくてはならない。
幸いにも、自分の成績がそれなりに上位である事と、入学時に四年分の学費を前払いしたお陰で卒業させてくれるらしい。ただし、卒業後は貴族では無くなる。
卒業後の進路だが、留学先で国仕えする選択肢は無い。ギルドみたいな組織も無いから、どうしようかな。
祖父は『後悔の無い選択をしろ』と言った。一年掛けて考えるしかない。
そう決意するも半年後に、自分とそれなりに仲の良い皇女のゴタゴタ(帝位争い関係)に巻き込まれて、帝国に引き抜かれる事態に発展した。
卒業後は皇女の勧めで帝国に移住し、皇女の側近として働く事になった。皇族の側近なので、当然のように帝位争いに巻き込まれたが、皇女を女帝の椅子に座らせた事でどうにか乗り切った。
物理で黙らせる事が出来るって良いね。
皇女が女帝になった数年後。
自分は帝国で爵位を貰い、女伯爵になっていた。
女帝の側近その一として忙しい日々を送っていたけど、女帝に性的な意味で襲われる日が来るとは、この時は夢にも思ってもいなかった。
女帝に襲われた日に思い出したのは、皇女時代の魔法研究内容だった。
その研究内容は『女同士での子作りの仕方』だ。
皇族の研究内容としては、罪深いものだった。
ここまでお読み頂きありがとうございます。
キャラ名すら考えずに書いたユリエンドで終わった作品となりました。
最初のエピソードタイトルは『ウザ絡みして来る男子に、金輪際近づかないでと言った結果』でした。書いている途中で、合わない気がして変更しました。
補足事項
主人公と男子生徒(公爵家嫡男)には、実は面識があります。出会いは六歳の頃に王城で開催された園遊会。
国外追放となった異母妹の一目惚れの相手がこの男子生徒だった。主人公がたまたま話し掛けられた事を知り、嫉妬でため池に突き落として殺害を試みた。男子生徒は主人公を助けようとしたが、自身に大声で泣いて(演技)縋り付く異母妹が振り払えなかった。その隙に主人公は溺れた。この時に記憶の取り戻した。
園遊会の真っただ中に起きた事で、男子生徒も加害者扱いされ掛けたが、目撃情報が多数寄せられたので無罪に。伯爵家には調査の手が入り、異母妹はこの一件が原因で父と後妻の二人と王都立ち入り五年間禁止令を受け、主人公は王都で祖父母に育てられる。
国外追放された本当の理由は、反省せずに逆恨みし、主人公の殺害計画を三人で立てていたから。
実は男子生徒も主人公に一目惚れしていた。自身が話し掛けた事で殺されそうになったところを見てしまい、どうすれば良いのか分からず悩む事数年後、学院で再会。
幼い頃に『名乗りもせずに話し掛けた』事をすっかり忘れて、どう接すれば良いのか分からず大声で絡んでしまった。『やってしまった』と後悔し、『これだけ話し掛けているのに、何で嫌われるの? 避けられるの?』と頭を抱えていた。
卒業パーティーで『完全に忘れ去られている』事が発覚。追撃で『お前のこの三年間の行動を思い出せ。悪印象を持つような行動しか取っていないだろ』と言われて自分の行動が間違っていた事を知る。
なお、主人公は溺れた事で、記憶が曖昧となり男子生徒の存在そのものを忘れている。ちなみに婚約の申し込みが四年前に来ていたが、異母妹と従姉妹が潰しました。
そして、留学先で知り合った皇女様は同性愛主義者だった。




