キャラ名無き作品 その5
キャラの名前を考えずに、気晴らしで書いた作品です。
息抜きのように勢いで書いたので、キャラクターの名前はありません。これだけはご了承下さい。
エピソードタイトル
さようなら、元番殿
執務室で目の前の竜族の男を睨み告げる。王に対して不敬だと、自分を睨み腰の剣に手を伸ばす騎士達には、殺気を込めて睨み付けた。
「私は何度も、人違いだと、言いましたよね? 人違いだと、再三再四朝から晩まで会う度、何度も言いました。私の主張を無視して、番だと騒いだのはそちらでしょう? 今になって、騙したのかと私を訴えるのは、どんな了見なのか、説明して下さい」
「そ、それは、番が見つかったと浮かれてしまったからで……」
「まぁ。陛下ともあろうお方が、浮かれて相手の意思と意見を散々無視してしまったと仰るのですか? それで熱が冷めてしまったから、騙されたと私を訴える事が正しいのですか?」
嫌味っぽく聞こえるように言葉を選んで発言する。王に対して相応しい発言ではないが、言わずにはいられないくらいに自分は腹を立てている。
「済まなかった」
長い沈黙を挟み、王が俯いて絞り出すように言葉を呟いた。それは間違いなく謝罪の言葉だった。
けれど、そんなたったの一言で、自分が受けた迷惑と被害は消えない。
「陛下。一つお尋ねしても良いでしょうか?」
「宰相。……こんな時に何が聞きたい?」
王の横に控えていた宰相が口を開いた。宰相は発言の許可を得てから、王への質問を口にする。
「私はずっと疑問に思っていたのです。陛下は何故、彼女を番と認識したのですか?」
「それは、私でも解らない。ただ、子供の事から同じ夢を何度も見るんだ。やっと見つけた。やっと出会えたと思った女性に、三度も去れらてしまう、そんな夢を。その夢の中の女性と彼女がそっくりなんだ。初めて会ったあの時も、やっと会えたって気持ちでいっぱいだった」
「正に番を見つけた竜族の反応と同じですね。私も同じ事を経験しました」
「森人族の私では理解不可能です」
王の心情を聞き、宰相が頷いた。だが、種族が違う自分では到底理解出来ない。
今回の自分は珍しい事に、ファンタジー系創作物でおなじみの『エルフ』に近い種族として誕生した。全く同じと言う訳では無いので、近いと感じている。耳の形状も先が少し尖っているだけだしね。
それでも幼い頃に菊理としての記憶は取り戻してしまったので、今後の人生も大分諦めている。けれど、流石に竜族の番と間違われるとは夢にも思わなかった。
種族が違うと言う事もあり、空気を読まない発言をしても白い目で見られるだけで済んでいる。
このあと出て行くから、もう良いんだけどね。
しかし、話が進まない。もう一度、宰相をせっついて話を進ませるしかないのか。
既に慰謝料を受け取ったり、栄誉回復をして貰ったりしたんだけど、王がしつこく絡んで来るので、今に至っている。
国外に去るからそっちはそっちで好きにやっていろ。自分がそう突き放せば、腰を浮かせた王が引き留めるの繰り返しだ。ぶっちゃけると埒が明かないし、もう飽きた。
深くため息を吐いてから『臣民に示しが付かないから諦めろ』と突き放す言葉と共に、引き留める王の声を無視して退室した。
そのまま城内を歩くと、自分を見てひそひそ話をするものが必ず湧いて出て来る。しかも、わざわざ自分に聞こえるように言う奴がいる。
魔法で姿が見えないようにしてから廊下を歩いて、城から出た。
その足で王都と外を繋ぐ門にまで向かう途中、王が自身の番を間違えた理由について考える。
実は世界、大変珍しい事に『魅了魔法』が存在しない。番除けなるものも存在しない。
魅了魔法が使われると、色々と被害が大きいからどこの世界でも『禁忌』扱いだった。
でも、番除けは違う。
番が見つかるまでに意中の人物と仲を深めた場合か、政略的な理由で番ではない人物と婚姻せざるを得ない場合など、様々な事情で『己の番と会う気が無い』ものが身に着ける、『番に番と認識させない道具』が番除けだ。
魅了の魔法も番除けも存在しないので、番を間違えるなんて事は基本的に起きないし、あり得ない。
そのあり得ない事を国王が引き起こした。その結果、国は上へ下への大騒動となった。
何故、王は自分を番と誤認したのか?
『三度も去られてしまう』
ふと、王の言葉を思い出した。
何かの文献で記載が在った。『番に三度も拒まれたら、獣神の罰が下り、番ではなくなる』と。
だが、自分と王は初対面の筈で……。
「あ」
記憶を探って思い出した。
そう言えば、自分を番と認識した獣人族や竜族を三度も拒んだ過去が在る。
相手の顔は思い出せないんだけど、確かに三度も拒んでいる。
「そうだとすれば、これが四度目になるのか」
番では無くなってからの再会。
それならば確かに誤認するし、あの日、番判定する宝珠が光らなかったのも納得出来る。
王都と外を繋ぐ門を透り抜けて暫し歩いた。
振り返って、小さくなった王都を見た。もう二度とここには来ないだろう。それは、あの王とも会わない事を意味する。
切りたかった縁が知らない内に無くなってた。
それが良いか悪いかは知らないし、どちらへの罰かも判らない。
基本的に『捨てたものは拾わない』主義だからか、未練も残っていない。
「さようなら。元番殿」
王都に背を向けて歩き出す。
二度と道が交わらないのならば、彼の事も忘れた方が良いだろう。
それが、向こうの為だ。
ここまでお読みくださりありがとうございます。
キャラ名すら考えずに書いた話です。菊理が人族ではないのも珍しい話です。思っていた以上に短った。
終わりをどうしようか悩み、過去に三度番を求める男と会っている事を思い出し、この結末になりました。




