キャラ名無き作品 その4
キャラの名前を考えずに、気晴らしで書いた作品です。
息抜きのように勢いで書いたので、キャラクターの名前はありません。これだけはご了承下さい。
エピソードタイトル
我が家は、元々壊れていた
一年前に伯爵令嬢としての身分を捨てて家を出たのに、何故か自分は王城にいた。
貴族籍を持たない平民なのに、何故か貴族令嬢のように扱われている。冒険者ギルドの受付所で今日の仕事を探していたらギルド長に呼び出されて、そのまま王城まで連れて行かれた。
勅令の呼び出しだったが、身分が貴族じゃない事を理由に無視した。拳で訴えようかと思ったが、ギド丁が『お願い。ちょっと待て』としがみ付いて来た。ギルド長を引き剥がしに時間が掛かり、その隙に馬車に乗せられて運ばれてしまい――現在、独りで王城の応接室にいる。
用件を済ませてさっさと帰ろうと考えていたが、出されたお茶を飲みながら待っていた応接室に現れたのは深刻な顔をした宰相を名乗る男性だった。
呼び出しの要件を知らないまま連れて来られたが、縁を切った実家絡みか?
何が起きたのか詳細を尋ねたかったが、宰相から実家の様子について質問を受けた。
意味が解らないので素直に答えて行ったが、宰相の顔は困惑を深めて行く。
致命的な食い違いを感じ取ったので、自分が家を出るまでに起きた事を――家との絶縁の切っ掛けと一
一年前、いや、事の始まりは二年前か。
二年前に父伯爵が再婚した。相手はどこかの没落貴族の夫人だ。この夫人には、連れ子がいた。
家が没落したと聞いたが、詳細を聞くと一代限りの騎士爵家だった。家の当主がたまたま罹った流行りの病をこじらせてそのまま亡くなったらしい。
没落と言うよりも、当主が逝去して、『爵位の維持が不可能となった』が正しいか。
この国では、王立騎士団の所属年月が十年を超えたものに一代限りの爵位『騎士爵』が与えられる。当主が騎士を引退したら爵位は返上しなくてはならないが、直系の子供が騎士に成って五年を経過していた場合に限り、爵位はそのままとなる。
夫人の夫の騎士と父は乳母兄弟で仲も良かった事から、夫人の『後見』を引き受けていたらしい。
うん。後見だよ。第二夫人とかじゃなくて後見。
では何故再婚をしたのかと言うと、十三年前に伯爵夫人の母が病死していたからだ。
母は兄を生んでから体調を崩すようになり、自分を生んでから二年後に逝去した。
第二子を求めた父が悪いのに、何故か自分が恨まれ、父と兄から何度も殺されそうになった。
当時まだ存命だった祖母の判断で、三歳の頃に別居が決まった。父と兄は王都の屋敷、自分と祖母は領地の屋敷だ。祖母は父に何度も『出産が原因で体調を崩した妻に、第二子を作りたいと迫ったお前が悪い』と言った。父は他責思考の持ち主だったので、祖母の意見を受け入れなかった。五つ年上の兄も父と似た性格をしていたので、自分が責め立てられた。だからと言って殺そうとしても良い理由にはならない。
三歳の時点で記憶を取り戻していた自分は、祖母と相談して家を出る計画を立てた。兄がいるから自分が家を出ても問題は無い。この国での家督相続人は基本的に『長子相続』で、男女問わずに家を継げる。
だが、父の再婚で色々と予定が狂った。
予定が狂った最大の原因は、父の再婚相手の連れ子にあった。
連れ子は自分の一歳下の少女だった。自分の誕生日が半年早いから、連れ子は義妹となる。
この義妹、家に来た当初は大人しかったが、一ヶ月が経過すると典型的な我儘令嬢と化した。
幸いな事に、この国には学校と呼ぶ施設が無かったので、義妹の我儘ぶりを知るものは少なかった。
自分が義妹にと会ったのは、祖母が亡くなった半年後の、家を出る直前の一年前だ。
王城で王家主催の、伯爵家以上の十五歳になった令息令嬢デビュタントの夜会に参加する為だった。
だが、義妹の散財が原因で家計は傾いていた。たった一年で、自分のデビュタントの準備すら出来ない程に、家計は傾いて借金まみれになっていた。
借金は全て義妹の散財が原因だが、王都の屋敷にいた人間は誰一人として気にしていない。
目は濁り切り、カルトの信者のようになっていて、義妹の行動を『当然だ』と捉えていた。
自分はその行動を『異常』と感じ取ったが、あの家の中では自分こそが『異端』と扱われた。
異端を家から追い出す為に、自分を金持ち男爵(御年七十歳)に嫁がせようとする始末だった。
元々家を出る予定だった事もあり、その場で絶縁宣言をして家を出た。家を出て行く際に『金目のもは置いて行け』と父と兄がほざいたので、どちらも顔を一発ずつ殴ってから家を出た。初めて会った義母と義妹、使用人一同は一睨みしたら動かなくなった。
父と兄が言った『金目のもの』と言うのは、母と祖母から受け継いだ宝飾品と遺産の事だ。
領地で祖母と暮らしていたが、家を出る為の勉強を優先していたのでお茶会類には参加しなかった。参加の為に必要なドレス類は買わなかった。
ドレスを強請らなかった代わりか、祖母の金銭系の個人遺産は全部自分が受け継いだ。
絶縁宣言と同時に家を出たが、お金には余裕があったし、何より冒険者ギルドが存在したから、お金を稼ぐ方法に困らなかった。そしてそのまま、一年が経過した。
全てを話し終え、喉を潤す為に冷めたお茶を口を付けた。話を聞いていた宰相は呆然としている。
「その話は事実かな?」
「事実ですが? 領地の屋敷にいる使用人に聞いていただいても構いません。王都の屋敷の使用人は手遅れだと思うので意味はありません。ご存じかと思いますが、私は王城で行われた催しものには一度も参加していません」
「確かに、毎回病気を理由に欠席していたな」
宰相が黙り込んだのを確認してから、伯爵家で何が起きたのか説明を要求した。
「……はぁ? 魅了魔法?」
「先日行われたデビュタントの夜会で、伯爵家の養女が王太子殿下に魅了魔法を行使した。王家には魅了魔法を無効化する魔法道具が伝わっており、殿下も身に着けていたから無事だった。だが、意図的にしろ、無意識にしろ、王族に魅了魔法を行使した事実は変わらない。現在、魔力封じの枷を嵌めた状態で、地下牢に収容した。伯爵家の面々は養女の魔力を封じた瞬間に発狂した。こちらは貴賓牢に収容し、事情聴取を行っている。だが、魅了魔法の影響なのか、精神に異常をきたしている」
「そうですか。王族に魅了魔法は極刑ものですが、元義妹は伯爵家の家計を傾けた張本人です。馬車馬以下の扱いでも良いので、元義妹を働かせて全額返済させて下さい」
「君は義妹についてどう思っているんだ?」
「一度しか会った事が無いので、『家計を傾けた我儘な馬鹿』としか言いようがありません。それに、デビュタントの為に王都の屋敷に戻ったら、棺桶に片足を突っ込んだ金持ち爺との結婚を押し付けられそうになった原因です。絶縁宣言をしたら、父と兄は『金目のものを置いて行け』と言い出しましたし」
「………………そうか」
長い沈黙を挟んでから、宰相は絞り出すようにそれだけ言った。宰相は眉間を揉んでいる。
「それから、既に縁を切っていますので家督は継ぎません。貴族籍に戻るつもりもありません。伯爵家を潰したいのなら、どうぞ好きして下さい。私はもう、伯爵家の一員ではありません」
好きにしろと宰相に言い放ってから立ち上がった。
「私は伯爵家とは無関係です。これ以上用事が無いのなら失礼します」
待てと言いかけた宰相に、殺気を込めて一睨みすると黙った。
深いため息を吐き、諦めてくれた宰相が騎士の一人に指示を出した。騎士の案内に従い、駐車場に残っていた馬車に乗りこみ、自分は冒険者ギルドの受付所へ戻った。
ギルド長に他国へ移動する為に必要な書類にサインをさせてから、冒険者ギルドの受付所を出る。
この世界の冒険者は、国ごとに登録しなくては仕事を引き受ける事は出来ない。一度登録すれば問題は無いし、冒険者としての評価は書類を作れば引き継がれる。その書類はたった今作った。
今日はもう仕事をする気になれないので、その足で宿に向かった。
翌日。
所持金の残高を確認し、王都から出た。
仕事で王都から出たのではない。他国へ向かう為に王都から出た。
冒険者証は身分証明証の代わりにもなるから、すんなりと出られた。
こそこそと移動を続けて、一ヶ月後。
その日、隣国のそこそこ大きな街の冒険者ギルドの受付所に訪れた。受付所に併設された食堂で、故国の事が話題になっていた。
待っている振りをして耳を澄ませると、王族に魅了魔法を使おうとした令嬢が公開で処刑されたらしい。
その家族は被害者だが、家から追い出した長女の殺人未遂を理由に身分を剥奪され、強制労働所送りになったらしい。そして、当主の身分の剥奪に伴い、伯爵家は没落した。没落の余波で、幾つかの爵位を保有する家に調査が入り、爵位の剥奪か降格などの処分が下った。
今日は登録の為に訪れたが、もう少し離れた国で登録した方が良さそうだ。
ため息を零し、受付所から去る。資金にはまだ余裕があるから心配は無い。一年で稼いだ分がある。
家が潰れたと聞いて、何も思わないと言えば嘘になる。
「でも、……我が家は、元々壊れていたからねぇ」
そう、没落せずとも伯爵家の家庭は壊れていた。前伯爵夫人の死が切っ掛けだが、壊れていた事には変わらない。罪の在りかを求めて、父と兄は壊れた。
壊れた家庭は更に駄目になって、遂に家庭と言う形すら失った。
誰が悪いのかと聞かれたら義妹としか答えられないが、発端は誰かになると回答出来ない。
幾つもの要素が重なって亀裂が入ったところへ、致命的な一撃が入って壊れた。
ため息を深呼吸に変えて空を見上げる。憎たらしい程に晴れた空だ。
「縁は切れている。宰相にも色々と言った。これ以上、考えるのは止めよう」
敢えて言葉に出して、己に言い聞かせる。
そんな事よりもと思考を切り替えて、歩きながらどこの国へ行けば良いか真剣に悩んだ。
ここまでお読みくださりありがとうございます。
キャラ名すら考えずに書いた、ザマぁを知る話です。
書きませんでしたが、伯爵家没落の理由は他にも有ります。