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キャラ名無き作品 その3

キャラの名前を考えずに、気晴らしで書いた作品です。

息抜きのように勢いで書いたので、キャラクターの名前はありません。これだけはご了承下さい。


エピソードタイトル

その愛は命より重いですか?

「私に恋や愛など不要。貴様とは国の為の婚約だ。そこに何も感じない。それだけは、努々忘れるな」

 一年前、十五歳の時に婚約した冷酷王子とも呼ばれている目の前の四つ年上の王太子は、婚約の儀式が終わるなり、人払いをしてからそんな事を言った。偉そうと言うか、傲慢さが滲み出ている。

「奇遇ですわ。私も陛下の命令だから受け入れただけです」

 婚約解消のチャンスを嗅ぎ取り、自分は笑顔で言い返した。何の相談も無く、王命の名の下に強制的に決められた不満しかない婚約だ。仲良くする気が無いと言われたら、喜ぶに決まっているだろう。

「仕事上の関係となりますが、体面的に私が悪く言われるような事態が発生しましたら、その時は一言申し上げます。備忘録代わりとして、ここに署名をお願いします」

「――ふん。勝手にしろ」

 最悪な出会いで、互いの第一印象も最低だった。

 自分を鼻で笑う王太子に『こう言う時には文句を言う。こっちに文句を言うんじゃねぇぞ』的な事を書いた紙を事前に用意して、サインを求めた。王族としてあるまじき事に、王太子は内容に目を通さずにサインした。そして、自分を一瞥してから去った。

 言質は取れたから自分としては、あんな野郎なんかどうでも良い。

 王と王妃にこの紙を見せたら問題になるだろうから、誰にも見せずに手元で保管する。

 自分も意気揚々と王城から去った。



 婚約してからの一年間は苦痛だった。

 王太子は婚約相手を王命で決められて常に苛立っており、公務で行う夜会のエスコートすら嫌がった。月に一度の交流の為のお茶会は無く、婚約者としての最低限の義務すら果たさない。当然、王から公衆の面前で厳重に注意を受けても反省しない。

 婚約当初、父公爵は王太子と仲良く出来ていない事について毎日のように自分を罵倒して来たが、言質の証たる王太子のサイン入りの紙を見せたら黙り込んだ。


 本当なら、王太子の婚約者は三歳年上の姉になる筈だった。母親似の姉は両親から溺愛されていたが、自分が王太子と婚約する半年前に歌劇団の男優と駆け落ちしてしまった。ある日、自分と母と姉の、大量の宝飾品と一緒にいなくなったので、当然のように母はキレていた。お前が甘やかしたのが原因だろうと言いたくなったよ。

 家は五つ年上の婚姻済みの兄が継ぐから問題は無い。自分は十八歳になったら家を出ると前々から宣言していた。

 そこで前触れ無く姉の駆け落ちが発生したので、上へ下への大騒動だった。姉が駆け落ちした歌劇団は出国済みだった事もあり、父のキレようは凄かった。

 憶測だが、姉が甘やかされていたのは『王太子妃にする為だった』可能性が高い。徹底的に甘やかして、親の言う通りに動く人形にする為の溺愛。別の意味でヤバいな。


 婚約してから一年が経過した頃。王太子がとある男爵令嬢と仲良くしていると噂を聞いた。

 自分と王太子の不仲は有名だったし、そもそも王太子は女嫌い(他国の王女が原因)だったので、王太子の行動に誰もが驚いた。しかも、真実の愛とか馬鹿な事を言っている。

 ちなみに、自分は悪く言われなかった。公私問わずに王太子をフォローして罵られているところを、色んな貴族に見られていたからか、何時しか『どれ程罵倒されても、王命を守る健気な公爵令嬢』と称賛されるようになっていた。

 自分の評価が上がる一方、王太子の評価は下がった。所々で受けていたフォローの内容を見た貴族達が『王太子って、実は能力低いんじゃね?』と噂をするようになった。そんな中、社交界に王太子の浮気話が流れたので、『王太子を第二王子にしよう』と言う意見が王の許に集まるようになった。

 自分は『これで婚約解消出来る』と言外に喜んで、王妃から白い目で見られた。

 社交界に流れている王太子の噂は、王家が調査した結果事実だったが、二点のみ真実と違っていた。

 王太子と仲良くしているのは、男爵令嬢では無く、『準』男爵令嬢だった。

 これだけならまだ王家としても許容範囲内だっただろう。

 もう片方の相違点、件の準男爵令嬢が王太子に禁忌魔法の一つ『魅了』を行使して王太子に接触していなければ。

 禁忌魔法は『禁忌』の名が付く通り、国法で禁止されている魔法で、使用が発覚したら極刑になる。

 この真実を知り、国王は激怒した。

 準男爵令嬢が他国が派遣したスパイだったら、怒りの矛先を送り込んで来た国に向ければ良い。だが、この準男爵令嬢はスパイですらない。頭の中がお花畑になっている夢見がちな、ただのお馬鹿さんだ。

 馬鹿のご両親に当たる準男爵夫妻はとても真っ当な人格をしており、見た目も性格も血の繋がりを感じない。調べたら準男爵夫人(元男爵令嬢)の弟夫婦の忘れ形見だった。要するに、夫人の姪に当たる子供だ。身寄りがない事を理由に、親戚から押し付けられたらしい。育てた恩を仇で返されるとは、不憫過ぎる。王妃は泣いて同情した。

 また、報告を聞いた限りだが、準男爵夫妻は姪の所業を聞かされるなり、夜会の最中で卒倒した。この反応で『準男爵夫妻が嗾けた』可能性は消えた。けれども、禁忌魔法の管理は国が行っており、『どこで習得したのか』だけ謎だった。

 王太子を利用して適当な日に王城へ呼び出す事で決まった。

 


 そんなある日。自分は王城に呼び出された。呼び出した相手は王太子だ。前日に手紙を貰い、今日来たのよ。王侯貴族としての一般常識とマナーはどこに消えた? 最低でも、十日前に出せよ。

 クソ王子と、悪態を吐きながらも、予定の三時間前に登城し、宰相に王太子からの手紙を届けに向かった。宰相と仲は良い方では無いが、王太子関係で共に頭を痛めている。宰相の執務室前にいる護衛兵に『王太子殿下から預かった手紙を届けに来た』と言って部屋に入れて貰った。

 まぁ、宰相と面と向かい合うなり嘘とバレたけど、王太子から昨日貰った手紙を見せたらギョッとした。

 宰相はこちらの目を気にせずに天井を仰ぎ、ため息を吐いた。

「手紙の内容通りに、私一人で向かう許可を頂戴したく思います」

「却下だ。陛下の許へ行くぞ」

 王太子からの手紙を文字通りに握り潰した宰相は椅子から立ち上がった。そのまま城内を早歩き程度の速度で移動し、執務室で国王と面会した。



「何だこの手紙は!?」

 王太子が書いた手紙を読み終えた、国王の第一声はこれだった。宰相の手で一度握り潰され、元通りに整えられた手紙は内容を読んだ国王の手で再び握り潰された。

「陛下」

「解っておる。こうなっては腹を括らねばならん。王妃を呼べ」

 難しい顔をした宰相と国王が何やら話し合い始めた。自分は蚊帳の外だ。

 暫くして、呼び出された王妃が来て、国王から全ての事情を教えられ、その場で泣き崩れた。

 

 ここまで大人が騒ぐ王太子の手紙の内容は短く、『目下のものを虐げるしか能の無い貴様と婚約を破棄する。明日の午後四時に儀式の部屋に来い』とだけ書かれていた。

 頭に虫が湧いたとしか思えない内容だ。

 婚約した時に行った儀式は、魔法を使った儀式だ。婚約する時に儀式内容と注意事項の説明を受けたんだが、手紙の内容を読む限りだと忘れている可能性が極めて高い。

 サインを要求した時、文面を読まずにサインしていたから相当な馬鹿だとは思っていたが、ここまでだとは思わなかった。


 国王と宰相と、慰められて立ち直った王妃の、三人の話し合いが終わると次の矛先は自分になる。

 自分としてはクソ王子との婚約が無くなって万々歳なんだが、王侯貴族の婚約は契約の一種だ。自分勝手な都合で潰せないし、破棄も出来ない。特に王族の婚約を一方的に破棄したら、その損害は計り知れない。

 国の都合で他人の人生を拘束するのだ。その慰謝料の支払いは期間が長ければ莫大になる。

 だが、自分は抜かりない。

 王太子と婚約したその日にサインして貰った一枚の紙を宰相に提出した。すぐに呆れた視線を頂戴したが、父公爵にも見せている事を教えると揃って黙り込んだ。

 文句は言い難いだろう。王太子本人が内容を碌に読まずにサインしたのだ。その事実が大人に重く圧し掛かる。

 三人の大人が議論していると、騒ぎを聞き付けた他の大臣もやって来て大騒ぎとなった。けれど、よく耳にする『会議は踊る。されど進まず』の言葉通りで、ただ騒ぐだけだった。

 一人蚊帳の外に置かれてしまった。大人達の無駄な議論を眺めていると、王太子との時間が近づいてしまった。

 手を叩いて議論を中断させ、『時間だから行って来るわ(意訳)』と言って待ち合わせの部屋へ向かった。背後で大人達が騒いでいたが、王太子に勘付かれると面倒なので無視した。

 ドレスの裾を持ち上げて城内を走る。靴はハイヒールでちょっと走り難いが、長距離を走る訳では無いので転んだりはしない。

 暫しの間、城内を走って遂に到着した。息を整えてから室内に入る。

「来たか」

 時間ピッタリに入った室内には、王太子と噂の準男爵令嬢と思しき派手なドレスを着た令嬢がいた。令嬢の髪は見事な桃色で、瞳はルビーのように赤い。その容姿は整っていると言うよりも、幼く庇護欲をそそらせると言えば判るだろう。この王太子、ハニトラに引っ掛かって魅了の魔法を使われたのか。

 どこまで馬鹿なんだよ。

 ため息を吐きたい気分に駆られたが我慢し、台座へゆっくりと歩み寄る。

 その道中、身に覚えのない事で糾弾されたが全て無視した。

「貴様、俺の話を聞いているのか!」

「聞いていますが、身に覚えがありません。当事者の一方の証言だけで物事を判断すとは、王太子にあるまじき行為ですよ」

「なっ!?」

 言い返したら王太子は顔を真っ赤にして、悔しそうに睨んで来たけど無視する。

「馬鹿馬鹿しい。私だって婚約したくなかったのに。王命でなければ、馬鹿と婚約なんてしないわよ」

「っ!」

 王太子は息を呑み、歯軋りしてから……何故か準男爵令嬢の手を振り解いて台座へ走った。

「生意気なっ。俺も貴様のような阿婆擦れは願い下げだ!」

 王太子は台座に駆け寄り、そんな台詞を吐いてから魔石に手を伸ばした。王太子の自殺行為に眉を顰めて質問をする。

「何をしているのか理解していますか?」

「侮辱するな。理解している」

 いや、手を伸ばした時点で忘れているだろ。そんな言葉が出そうになった。嘆息してから王太子にとって最期となる質問をする。

「あらまぁ、その愛は命より重いのですか?」

「何を言い出す。そんなもの決まっている!」

 王太子は叫ぶなり、台座から隣り合うように窪みに置かれた赤と青の魔石の内、赤い魔石を引き抜いた。直後、王太子は虚空から出現した雷に打たれ、絶叫を上げて倒れた。

「呆れた。儀式の説明を聞いていなかったのね」

「おい、たす、け……」

「正しい手順を踏まないと『裁きの雷に打たれて死ぬ』って散々言われたのに、聞かなかったか忘れたお前が悪い」

「なっ!?」

「だから、言ったでしょう? 『その愛は命より重いですか?』って」

「……それは」

「重いから、死ぬと判っていて選んだんでしょう。恋や愛は要らないと言った男が、国で最も溺れた男になるなんて、滑稽ね」

「――」

 王太子は口を開いて何かを言おうとしたが、それは言葉にならなかった。そのまま虚ろな目をしたまま、王太子は事切れた。

「え? どうなっているの? 殿下、死んじゃったの? 嘘でしょ?」

 予想外の状況に、理解が追い付いていない準男爵令嬢は、途切れ途切れの言葉を呟きその場に座り込んだ。その目は虚ろで、ぼんやりと事切れた王太子を見ている。

 少し遅れて大人達が到着した。

 自分が説明をするまでも無く、大人達は室内で起きた事を正しく理解した。

 部屋の惨状を見て王妃が泣き崩れ、国王は慌てて共に来た大臣達に指示を飛ばし、連れて来た護衛兵に準男爵令嬢を拘束させた。

 突然の拘束を受けて準男爵令嬢は暴れるかと思ったが、意外な事に大人しく、衛兵の手でそのまま連れて行かれた。

 準男爵令嬢の今後は尋問か、喋らなければ拷問を受ける。禁忌魔法に手を出した以上、極刑は免れない。尋問は行われず、最初から拷問になる可能性も高い。だが、その辺に関わる事は出来ない。

 慌ただしい空気の中、放置されていた自分は国王が落ち着くまで待った。



 後日。王太子の訃報が国内を震撼させた。

 魅了魔法が王族に対して使用されただけでも大騒動なのに、王太子が急死したのだ。王位継承権を持つ王族は三人(王弟と双子の王子)いるから、世継ぎの心配だけは無い。

 けれど、国内の政治バランスを考えると……荒れるのは避けられない。長子相続だから王太子は既に決まっていたけど、こうなっては誰が王太子に成るのか分からない。

 父と兄は毎日、王位継承権を持つ三人の中で、誰を推すかで揉めている。我が家は男尊女卑の思想が根付いているので、母と義姉と自分の三人に父と兄が意見を求めて来る事は無い。

 でも、自分は王太子妃だった事実だけは無くならない。

 既に婚姻済みの王弟(国王の五つ年下)はともかく、双子の第二王子と第三王子には婚約者がいない。年齢も自分と同い年なので、『このままどちらからと婚約を』となりかねない。

 使用人に頼んで所有していたドレスと宝飾品を選別してから売り払い、資金を作ってから家を出る事にした。

 ドレスと宝飾品の売却を使用人に頼んだ時、家族からも怪しまれないように『王太子の事を忘れたいから売って来て』と告げてた。

 王太子と婚約していた間に身に着けていたものだけを選んで売ったので、そのままの通りに受け取ってくれたのだろう。自分に興味を持たない父と兄は当然のように気に掛けなかった。

 母と義姉は眉を顰めた。けれど、二人も自分が王太子から受けた扱いを知っていたので、顔には出すも、何も言わなかった。

 母と義姉は血縁上と戸籍上の関係でしかない。仲良くした覚えは無い。

 それに、先祖の色を持って生まれた時に、その場で殺されそうになった恨みは忘れない。



 逃亡の準備をしていた間に、国内が荒れる原因を作った準男爵令嬢の罪状が決まった。元々極刑が決まっていたが、改めて貴族議会で話し合った。

 その結果、一家の身分剥奪の上で極刑と準男爵家の取り潰しが決まり、魅了魔法を使った本人だけは断頭台で公開処刑が実行された。準男爵夫妻は非公開で断頭台の上で逝った。

 そうそう。魅了魔法の出所は、これまた禁忌とされている悪魔との契約だった。

 つまり、今回の騒動を引き起こした元令嬢は、悪魔と契約し、魅了魔法を手に入れた。悪魔との契約に必要なのは人間の魂だ。誰の魂を悪魔に差し出したのかと思えば、準男爵家の使用人だった。被害に遭った全員が揃って高齢で、被害者の人数も三人だけだったから、誰も怪しまなかった。

 残された遺族には、準男爵家の少ない財産が慰謝料として分配された。自分にも慰謝料をと言う話が来たけど断った。

 既に王家から相場の三倍の額の慰謝料と、王太子の残りの資産を丸ごと貰っていたので、これ以上は不要と断った。王太子の資産が貰えたのは、婚約時にサインさせたあの紙のお陰だ。貰い過ぎたから何割かは家に入れた。

 


 そして、身辺整理を終えた自分は、絶縁状を自室の机の上に残し、夜中にこっそりと家を出た。

 長女に続き次女までもが無断で家を出たら、醜聞になる。

 でも、王族と婚約したくないと言う内容を絶縁状に書いたので、王族との婚約を嫌がって家を出たと判断されるだろう。ぶっちゃけると、その通りだし。

 

 さて、傷心旅行と洒落込みましょう。

ここまでお読みくださりありがとうございます。

キャラ名すら考えずに書いた作品です。

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― 新着の感想 ―
誤字報告がオープンしておりませんのでこちらで。 余分なひと文字あり。  準男爵令嬢が他国が派遣したスパイだったら、怒りの矛先を『ス』送り込んで来た国に向ければ良い。だが、この準男爵令嬢はスパイですら…
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