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キャラ名無き作品 その1

キャラの名前を考えずに、気晴らしで書いた作品です。

息抜きのように勢いで書いたので、キャラクターの名前はありません。これだけはご了承下さい。


エピソードタイトル

身に覚えのない冤罪で責められたから、言いたい事を全て言った

 もうすぐ夕刻に差し掛かる時間。水分補給としてお茶を一杯入れて貰い、飲んで休息を終えた時にその馬鹿五人はやって来た。見張りの侍従が不在時を狙って来たのか。

 その馬鹿五人の先頭にいるのは、自分に公務の書類仕事を押し付けて遊んでいるこの国の王太子だった。顔を見るだけで腹が立つのに、部屋に押し入るなり身に覚えのない事でガタガタ文句を言われた。話を聞くと、顔も名前も知らない令嬢が自分に罪を擦り付ける為に行った自作自演としか思えない内容だった。てかさ、その令嬢は『もしかしたら○○様かもしれない』としか言っていないのに、何で自分の仕業になるのよ? 

 調べたのかと尋ねたら『大泣きしながら言っていたから間違いない』と王太子は断言した。それを聞いて、何かがプッツンと切れた。

 一瞬で怒りが頂点に達し、不敬だとか、そんな事が頭からすっぽ抜ける。目の前にいるのは王命の名の下に強制的に婚約にさせられた王太子だが、我慢出来なくなった。

 執務机を叩き割る勢いで、両の拳を叩き付け、力一杯心の声を叫ぶ。目の前にいる五人が目を丸くしたが気にしない。

「黙っていれば、このカス。いい加減にしろ、この大馬鹿ーっ!! 顔と身分だけの能無しっ!! 役立たずっ!! 人に仕事を押し付けて遊び惚けるド無能っ!!」

「「「「「え? ……えぇ?」」」」」

 五人は困惑した。そして、自分の叫び声を聞いて、ドアの向こうにいる護衛兵が、何事かと部屋に転がるように入って来た。無視して執務机を叩きながら叫ぶ。

「顔と身分しか、取り柄の無いあんたが、学校で遊んでいる間、こっちはずっと王宮で、王宮に住み込みで、日の出から深夜まで、王太子教育と言う名の、書類仕事をしているのよ!! あんたが無能過ぎて、こっちは学校にすら通わせてもらえないのよっ!! 留学する予定だったのに、どうしてくれるのよ、クソ無能!!」

「く、クソ、無能……」「「「「えっ?」」」」「……あちゃ~」

「無能なあんたが! 令嬢一人引き留められないせいで! こっちは留学を、王命で強制的に、取り消されたのよぉっ!! 人の人生を踏み躙っておいて、何様のつもりだ!! このクズッ!」

 叫びながら何度も拳で叩いていた内に、硬い木材で作られた頑丈で瀟洒なデザインの大きな執務机の天板に、ビキッと亀裂が入った。執務机の材質を知っているのか、王太子の護衛役の令息が顔を引き攣らせた。状況を正しく理解した護衛兵が頭を抱えた。

「そもそも、二年間も校内と学校行事で、まっったく、顔を合わせていないのに、何で気づけないのよ、この鳥頭っ!! 王命で決まった婚約者の顔すら覚えられないの? 痴呆になったの? それとも、猿並みの記憶力しか無いのかっ! 馬鹿猿っ!」

「あ、いや、その……」

 口答えをしようと口を開いた王太子を殺気を込めて睨み付けた。すると、王太子は肩を震わせて直立不動となり『な、なな、何でもありません。ごめんなさい』と顔を引き攣らせた。王太子の取り巻きと護衛の令息は顔を強張らせて縮こまっている。護衛兵はどこかへ走り去った。

「ねぇ、日の出から深夜まで『王太子妃だから賃金は要らないでしょう』って、タダ働きさせられているのに、一体何時、顔も名前も知らない、会った事すらない、日程的に会えない令嬢を、虐める時間がど・こ・に、有るって言うのよ!? そんな時間が有ったら家に帰って寝たいわっ! あんたが馬鹿過ぎて、こっちは一日も休めねぇんだよ!! 陛下と王妃様ですら、五日に一度は休んでいるのに、お前が猿並みの知性しか持っていないから、二年間休めず仕事してんだよ!! なのに、労うどころか、碌に調べず冤罪で人を詰るとは……良い度胸ね。ゴミ野郎」

 ギロリと、目の前にいる五人を睨み付ける。殺気立っているからか、五人は震え上がった。

「もうやっていられない。出て行け! 下の緩い放蕩猿共っ!! カス野郎とは婚約破棄だっ!! 死んで詫びろドクズっ!!」

 執務机を真っ二つに叩き割ってから力一杯叫んだ。五人は『ひぃ』と悲鳴を上げて部屋から去った。

 自分は、荒れた呼吸を深呼吸して落ち着かせた。

 執務机を叩き割ってしまったが、幸いにも、机の上には書類が無かった。王妃が付けた侍従(過去三人は賄賂収賄罪で新しく来た四人目)が書類を持っていたあとで良かったと今になって思う。ペンとインク瓶は執務机と独立した、隣接するもう一つの机の上に置いていたので倒れていない。しかし、よくインク瓶を投げ付けなかったな。我ながら感心する。頭からインクを浴びせれば良かったわ。

「すぅ、はぁー……よし、出て行こう」

 呼吸を整えたら部屋から出る。見張りの侍従も護衛兵もいない今がチャンスだ。王宮内の自室へ走って向かう。誰かに見られても無視だ。重いドレスとハイヒールで少し走り難い。



 走りながらどうしてこうなったのか回想する。

 遡る事三年前、宰相 (筆頭公爵)の養女になる前の、まだ『子爵』令嬢だった二年前になるのだが、その前にこの国の王太子妃に成る為の条件を確認しよう。

 条件は幾つか存在する。

 高位貴族か中位貴族――最低でも伯爵家以上の令嬢である事。その他に、学力や礼儀作法の習熟具合を始めとした条件の中で、最も重要視されるのが『語学力』だ。

 この大陸には共通語なるものが存在しない。その為、王太子妃になるには隣接する国々と同じ数を、最低でも母国語以外にも『六ヶ国語』を日常会話が可能な程度に使えなくてはならない。

 だが、運の悪い事に、この国に隣接する六ヶ国は『大陸で言語習得が難しい十ヶ国』に数えられる言語を使う国々だった。この内二ヶ国が大国(しかも、片方は最も習得が難しい言語)なので、外交を考えると語学力は必須になる。けれども習得が難しい為、どれ程出来て最大三ヶ国だった。大体の令嬢は三ヶ国語しか使えない為、必ずと言って良い程にここで躓く。減らせば良いのに『外交が~』の一言で減らない。外交部の無能っぷりには腹が立つ。

 猛勉強をして一早くに六ヶ国語を習得した令嬢が、国内の政治バランスを無視して王太子妃に選ばれる事もあった。当然のように国内は荒れた。だが、外交を考えると仕方が無いと言う事になり、候補から外れた令嬢達は泣く泣く諦める。

 立候補者の中から決まるのはまだ良い方で、下手すると語学堪能なだけで結んでいた婚約を王命で白紙にされ、王太子妃に据えられたケースも存在する。

 更に、語学堪能ならば下位貴族の令嬢を高位貴族の養女にして、何てケースも存在した。自分はこのケースだ。

 


 自分は本が好きだった。この世界は意外な事に娯楽小説が溢れかえっていた。

 子爵の父親の関心は後妻似の異母妹にだけ向いていた、知識が得られる本が好きだった。本好きが高じて、気づけば母国語の他に十二ヶ国語の読み書き会話が出来るようになっていた。

 十四歳なったばかりの頃、父親が自分の戸籍を不正に弄っていた事を知った。

 庶子の異母妹と戸籍を入れ替えられていたのならば、留学する振りをして他国へ逃げようと決めた。平民でも通える学校(数え年で十五歳から入学可能)へ試験を突破して留学を決めたが、タイミング悪く父の戸籍改竄が国に発覚した。

 家は家宅捜索を受け、自分は不当に扱われていた子供として保護された。父と後妻と異母妹は平民向けの衣服と銀貨十枚を渡されて国外へ追放となり、家は没落した。その後の末路は知らない。

 残された自分は『平民として留学するから家が没落しようが構わない』と言って、逃げようとしたが掴まった。母国語の他に十二ヶ国語が出来る事がバレ、筆頭公爵の娘に強制的に養子縁組が決まった。そのまま王命で王太子妃に据えられてしまい、日の出から深夜まで書類仕事をする羽目になった。いや、最初は礼儀作法の確認とかやったよ。一日で終わったが。留学は知らない間に王が取り消していた。国内の貴族学院にすら通えなくなってしまったので、マジで国王を怨んだよ。

 王と王妃を始めとした国家の重鎮 (特に外務大臣)が自分の御機嫌取りに奔走しているけど、書類仕事を減らせ、学校に行きたいと当たり散らした。

 ここで自分の御機嫌取りに奔走している顔触れの中に外務大臣が含まれているのは、理由がある。自分に書類仕事を大量に割り振っているのが、外務省なのだ。知らん顔で関係の無い仕事を割り振って来るせいで、仕事が山のように膨れ上がっている。無能な外務省の連中は仕事を突き返してもやらない。外務大臣にも何度か訴えたが、三日経つ頃には元に戻ってしまう。外務省の連中は『学校に行かないで仕事をしてくれないと政務が回らない』と叫び、王と王妃も便乗するから学校に行けず、王宮からも出られない。朝から晩まで見張りが付き、食事も執務室で三食取っている。

 更に腹正しい事に、『自分にやらせてしまった方が早くに終わる』とか言って、王宮の文官の中には、自分に仕事を押し付けてサボる奴までもが出現した。そんな事をした奴は片っ端から、サボり期間分の給料没収・慰謝料支払い・解雇・王都追放・鉱山で十年間強制労働の五点セットを食らっていなくなったが、半年に一度のペースで一人出現する。

 悪質な事に、自分に付けられた侍従を買収する馬鹿まで出て来た。買収された侍従は国王から五点セットを渡されていなくなった。それでも、今の侍従で四人目だ。



 過去を振り返っていたら自室に到着した。

 素早く自室に入ったらドアの鍵を閉める事も忘れない。素早く重いドレスとハイヒールから、簡素なワンピースとブーツに着替えて外套を羽織り、事前に纏めていた荷物を詰めた鞄(王宮に来る前の私物は全て道具入れの中で、鞄の中身は小銭と暇潰し用の本と着替えの衣服)を手に取る。

 現在、平民向けの衣服を着ているので、この格好で王宮内を闊歩するのは難しい。だが、ここは王宮だ。緊急逃走用の隠し通路が存在する。それは、王太子妃に確定している自分の部屋にも、隠し通路の出入り口が存在する。

 見つけたのは偶然だったが、この際利用出来れば、そんな事はどうでも良い。

 部屋に隣接している、ドレスや小物を仕舞っているウォークインクローゼットのドアを開ける。

 ほぼ同時に、自室のドアが蹴り開けられた。

 やって来たのは、近衛騎士団長を引き連れた、国王と王妃に外務大臣の四人だった。

 四人は自分の前で、身分とか色んなものを捨てて土下座しようとしたが、そんなものは許さない。風属性の魔法を使い、四人の前で大気を破裂させて四人の動きを止める事で、土下座を阻止し、素早くウォークインクローゼット内に入ってドアを閉め、魔法で凍り付かせてドアが開かないようにする。

 野生の熊 (魔物ではない普通の熊)と素手で殴り合って勝利したと豪語していた近衛騎士団長がいるから、緊急の壁としては、そう長くは持たないだろう。さっきも部屋のドアを蹴り開けていたし。

 魔法で『ドア自体』を強化してから、小物を仕舞う高さ一メートルのチェストを横に動かす。チェストの後ろには、隠し通路の出入り口でもある小さなドアが存在した。

 背後でドアを破る為に叩いている音と、『考え直して』と叫ぶ王と王妃の声が聞こえるけど、全て無視してドアを開けて隠し通路に入った。ドアを閉めてから通路を埋める魔法で作った氷塊を置き、隠し通路内を飛翔魔法で移動する。

 空間転移魔法を使って逃亡したいけど、厄介な事に、大陸でも有名な魔法使いが残した防犯システムの影響で、王宮『敷地内に存在する建物内』では空間に干渉する魔法が使えない。空間転移魔法を使ったら、どこに出るか分からない。水の中ならまだいいが、流石に土の中や、分厚い壁の中は嫌なので、地道に移動する。道中に下り階段が存在するから飛んでいるだけだ。

 この隠し通路の出口は、王宮の厩舎管理用の物置小屋だ。

 何故ここなのかは知らないが、『馬に乗ってとっとと逃げろ』と言う奴なのかもしれない。

 時間を掛けてやっと出口に到着した。

 ドアを開けて外に飛び出す。現在位置は王宮の中でも端の方だ。そこらに植えられている木々の中で最も高く伸びている木に上る。

 空間転移魔法が使えないのは、王宮敷地内の建物内だけだ。分かり難いが、『建物の中限定』で使えないと言えば判るかな。

 要するに、外に出てしまえば空間転移魔法は問題無く使える。木に登ったのは、使用するところを見られない為だ。一先ず、空間転移魔法で王宮敷地内から脱出し、臣民街へ向かう。

 現在時刻は夕方なので王都と外を繋ぐ門が閉まる時間だ。明日の朝以降には検問が敷かれている可能性を考えて、今日出て行くのが良い。だけど、王都から出ても、他の大きな街の門も閉まっている。

 今日は宿に泊まって明日以降の予定を立てよう。



 臣民街の宿屋に駆け込み、部屋を確保してから屋台街に繰り出す。

 平民向けの宿屋 (料金前払い)で出て来る食事は基本的に朝食のみで、昼と夜は出て来ない。これは万国共通だ。貴族向けの宿なら、朝と夜の食事が出て来るけど、昼は外で食べる。

 そんな事情から、髪と瞳の色を魔法で赤と碧に変えて、顔を正しく認識出来ないようにする認識阻害用のイヤリング型の魔法具を身に着けてから外を歩く。

 夜に女が独り歩きすると男から目を付けられやすいが、腰にサーベルを佩いていれば問題は無い。

 この世界には冒険者と言う職業が無い。魔物が存在するのに本当に不便だ。魔物を狩るのは国が保有する騎士団か雇われ傭兵のみだ。数は少ないが女の傭兵もいるから、サーベルを所持していても不審に思われない。

 屋台で焼き鳥のような見た目の串焼きを買い食いし、中華まんのような角煮が入った蒸しパンを買って食べて、久し振りに満腹になるまで食べた。

 ここまで食べたのは久し振りだ。宰相の養女になる前までは自炊していたから、三年振りかな?

 今になって思い出したけど、宰相はどうしているかな?

 王命で強制された養子縁組だったし、何より宰相は国の事しか考えない人間だった。国の利になから養子縁組を受け入れただけで、義理親子としての交流は一切なかった。それは宰相夫人も同じだった。

 婚約破棄を王太子に叩き付けていなくなったから、怒っているかもしれない。でも、自分を探す事はしないだろう。労力の無駄だし。

 果実水を購入して、宿に戻り眠った。



 翌朝。宿屋の食堂で朝食を食べてから、朝市に向かう。当面の間の食料をここで購入する。ついでに屋台でお昼の分を購入した。この国には『市民証』が存在しない。王都の入退場時に支払う料金(平等に徴収される)を支払って、堂々と王都から出た。

 この国の食文化はそれなりに発展している。でも、貴族向けの料理は薄味で量も少ない。お菓子は存在するけど、手掴みは行儀が悪いと見做されている。なのでクッキーは存在せず、ナイフとフォークを使って食べるフルーツを盛り付けただけの硬いパイ生地を使ったタルトか、プリンのようなスプーンで掬って食べるものしか存在しない。

 大きい国だとお菓子の種類は豊富らしい。料理の味も国によっては濃い目だ。

 王都を出て暫くのんびりと歩き、周囲の人気が無くなったところで、飛行用の魔法具を宝物庫から取り出して空を飛ぶ。

 留学は出来なかったけど、お金が尽きるまでは物見遊山しよう。

 幸いにも留学が取り消された時、留学の準備費用は全て手元に戻って来ている。支払い済みだった入学費の返還は判るけど、それ以外は国から返金不要の支度金として支払われた。支度金と言うのは表向きの理由で、実際には王が留学を強制的に取り消した慰謝料だ。この二年間使う時間が無かったから丸々残っている。

 稼ぐ方法――冒険者と言う職業は無いけど、魔物の一部を買い取ってくれる場所が存在する――あるからお金の心配はいらないだろう。


 さぁ、長い休暇の始まる。

 最初の目的地は、留学予定先の国だ。

 


 三年後。

 祖国では王太子の廃嫡が決まり、国王が王弟の公爵に行為を譲るなどの騒動が起きていた。

 そうそう、王太子を誑かした令嬢は自分が王都を去ってから十日以内に家を潰されて平民になり、一家離散状態で国外に追放されたらしい。令嬢の家族もグルだったって事だ。

 興味は無いからどうでも良い。

 自分はそんな事よりも、大陸中の絶景を見て回る事にはまっていた。


ここまでお読みくださりありがとうございます。

キャラ名すら考えずに書いた、冤罪にキレて逆に婚約破棄を言い渡す作品となりました。

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