優しい工場
穏やかな明日を夢見ましょう
朝はまぁ、七時くらいに起きて、CMみたいなトーストを食べて
庭の花に水をやって、午後に食べるお菓子を作って
変わらない明日を夢見ましょう
テレビでは知らないところで知らない人が死んでいて、
悲しいニュースも流行のフラペチーノと一緒くたに紹介されて、
争わない明日を夢見ましょう
夕方には川沿いを散歩して、仲良しの犬と触れ合って、
脳が溶けるほど下らなくて、
心が死ぬほど馬鹿馬鹿しい。
日曜日は置いてけぼりみたいに目覚めて、
君と優しい工場に行く、
そこでは日曜日だって朝から働いているきんべんな人たちがいて、
私たちはそれを眺めるのだ。
芝生に座って、ガラス越しに彼らを見て、
時に笑いながら仕事をするのを見て、
いつか彼らにあこがれる。
生きていること、やがて死ぬこと、
たくさん間違いをして、決して一番にはなれなくて、どこにも名前は残らなくて、
数奇な運命はなく、世界を救う力はなく、知らない政治家を馬鹿にすることもあるような人々、
それでも生きていること、生きて、輝いて、大したことはできなくたって、未来をつないで、
生きていていいと言われること、君の生き方がすきだよ、と誰かに言われること、
そんな世界は私にとって、ガラスの向こう側にしかなかった。
優しい工場では誰かが誰かを時折傷つけて、傷つけられた誰かをもっと多くの人が慰めていて、
そんな何かを、愛みたいな当たり前みたいな何かを、君は頬杖ついて隣で見てた
何が違うのか、
彼らと私と何が違うのか、
私だってたくさん間違えるのに、一番には到底なれないのに、世界なんて救えるはずないのに、
涙がこぼれることはないけど、
ガラスは冷たくて、硬い
君はきっといつかあの優しい工場に就職するでしょう、
手元でいつも見もしないのに開いている単語帳をしまって、
君もきっといつかあの優しい工場に仲間入りするでしょう、
その時私は君を恨むでしょう。