プロローグ
荒唐無稽という四字熟語を皆様ご存知だろうか。「荒唐」が根拠がなくとりとめのないという意味で,「無稽」が考え方に根拠がなくでたらめであるという意味だ。どちらにしろ「根拠がない」という意味があり,つまりは話の内容が全くもっておかしいことを指す。
では次に,その荒唐無稽というのを紙に書いてほしい。いや何を言い出すんだと思うかもしれないが,取り敢えずA4の紙でも和紙でも今日返されたテストの裏面でもいい。
で,荒唐無稽と書き終わったらその周りを「美人」と「元気」と「行動力」と「想像力」と書いていく。そうやってこの四字熟語に肉を付けていくとあら不思議,自然とコイツが出来上がるのだ。
俺がコイツについて人に説明する際にはいっつもこうやって話をし,その度に分かりづらいだの意味が分からんだの文句を言われるが,現にコイツはこの五つの要素で出来ていて医者もびっくりなほど簡単な作りをしている。人間の身体の大半は水で出来ているらしいが,コイツは水の代わりにアホという成分が凝縮されているに違いない。それか脳がどっちも右脳で出来てるとか。
アホと言っても全部がアホというわけではなく,腹立たしいことに学業においてはそれなりの成績を収めている。つまりは別段勉強が出来ない意味でのアホというわけではなく性格がアホなのだ。勉強が出来るのにどうして奥行きのある未来を考えた行動がコイツには出来ないのかが全くもって理解出来ない。政府はこの奇妙且つ危ない女をとっ捕まえて早急に身体をくまなく調べる必要があるだろう。
とまぁ,散々な言われようの「コイツ」とやらは,つい最近転校してきたばかりだというのに色んな意味でとんでもない知名度を誇る人物で,教師からは監視の目,友達からは好奇の目,そしてある一部の,極々一部の人間からは疲労の目で見られていた。その疲労の目をした人物こそ俺のことである。
ご本人曰く,「私とようやく対等な人間に出会えたわ!」というのが俺らしくて,転校してきた翌日には既に親友呼ばわりされていた。お前の中での親友像はたった数分の会話で出来上がる関係なのか。
そもそもコイツと対等なんざ,俺にとっては屈辱にも受け取れるし褒め言葉にも受け取れるし正直微妙な感じというのが率直な感想である。元気で勉強もそこそこという意味なら褒め言葉だろうが,自分と同じ狂ったおかしな人という意味であれば俺は憤慨するだろう。俺はこの学年きっての良心の塊であり最後の砦なのである。そんな人間とコイツみたいな人間と同じにされては困るのだ。
その証拠にコイツは自分の思った通りに事が進まなかったり気に障った発言をすると「死んじゃえ!」と言って俺の首を絞めてくる。本気ではないもののかなり怖いしビビるからやめていただきたい。
美人なんだから黙ってりゃモテるはずなのにこうなんだから呆れたものである。遠目から見て実際に接したことのない生徒が中学時代に爆死するという事件が何回か発生したことがあるらしいのだが,その人達にはお気の毒にとしか言いようがない。そして俺にもお気の毒にと言ってくれ。本当に毒なのだ。
何宮なんとかというのと気が合いそうなコイツはとにかく暇な時間を作りたくないらしく,休日は俺達を巻き添えにして遊んだり放課後も調べものをしたりなどとせわしない女だ。
取り敢えず話を始める前に言うべきことは大体話した。ようやく本題に入ることが出来るぜ全く。
え?もう話は始まってるんじゃなかったのかって?馬鹿だな,こんなぐらいで説明し切れる奴じゃないんだよ。
新作投下であります。
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