第95話「ルーカスVS桐ヶ谷②『共通の趣味』」
「ほう、おもしろい狙撃手がいるもんだ」
こんな状況でもルーカスは顎に手を添えて、ほれぼれとしている。
「流石ゼロですね。私達も見たこと無いような面白い武器を使う」
「それになんと言ってもあの猫だ。あの毛並み、あの丸い目、ぺちゃんこの顔すべてが美しい」
「?」
桐ヶ谷を追尾していた5発の弾丸が着弾し、姿が煙に巻かれている。
その間、ルーカスは追尾機能を有した弾丸を放った狙撃部隊の隊長に声をかけようとしたが、それよりも隊長のほうが早かった。
「おい! そこのヴァンパイアたち」
ルーカスとジャンセンは辺りを確認して桐ヶ谷以外のヴァンパイアを探したがようやく自分たちに言われてるんだと自覚して声のする方を振り向いた。
「貴様らだモラドの。このS級隊員若松、ヴァンパイアに協力するのは癪に障るがこの際止む終えぬ。この戦でお前らに協力してやる。ありがたく思え!」
「…」「…」
ルーカスはフッと吹き出した。そして、持っていたライフルを持ち上げてから肩に乗せた。
「なるほど。共闘というわけか。これは救われた。よくやったぞ達磨」
「なー」
二種の架け橋となった達磨はルーカスに向けて鳴いた。
すると、刀を持った部下らしき男。若松と会話している時の声が聞こえたときは竹岡と呼ばれていた者はいたたまれなくなって3人間にある沈黙を破った。
「隊長、自己紹介している余裕はないです見てください」
弾丸をもろに受けたはずの桐ヶ谷は倒れておらず、顔を守った腕にあたって弾丸を食らって凹んだ腕が徐々に修復している。
「竹岡ぁ、お前は私のためにいいるのだ。大船に乗ったつもりで付いてこい」
額には2本の角、顔には目玉が3つ、後頭部にも目玉が1つ。鬼化した桐ヶ谷は顔を前方にいるゼロとモラドの狙撃部隊に向けて、後方にいるルーカス達を見た。
「どいつもこいつも仲良しごっこで調子に乗りやがって」
桐ヶ谷は紫に光るクナイから滴り落ちる紫色の液体の毒を舌を出して一舐めする。
「お前ら全員殺して食らう」
若松は再び隊員に発砲命令を下すと、今度は追尾機能のある弾丸や桐ヶ谷の目の前で弾けて閃光を放つ弾丸、ヴァンパイアの過敏な嗅覚を利用して悪臭を放つ弾丸などヴァリエーション豊かだった。そのすきに何発かは桐ヶ谷に着弾した。
桐ヶ谷の後ろの目で制されて動けなかったルーカスたち若松達が攻撃を開始したことで意識が前方に向いて動きやすくなった。
「逃さん!」
桐ヶ谷が懐から取り出した手裏剣がルーカスとジャンセンに向かって飛んでくる。
ここはジャンセンが刀で全てを薙ぎ払う。
「ルーカスさん、急ぎましょう」
「ああ、そうだな」
ルーカスとジャンセンは若松達と合流した。
敵がひとかたまりになることを桐ヶ谷は望んでいたかのようにルーカス達が合流してからそこを取り囲むように再び円を描き走り始めた。鬼化をしてから更にスピードが増して桐ヶ谷が何人もいるように見える。
ルーカスは少しの間、愛猫の達磨をなでてから、若松は再び愛猫のペルシャ猫をなでてから二人は背中を会わせて銃を構える。
背中越しにルーカスは言う。
「素晴らしいな」
「何がだ?」
「決まっている、猫だ。名はなんという?」
「狩魔だ。14歳の老猫。私がゼロのA級になった時から一緒にいるかけがえのない家族だ。で、お前さんのとこのは?」
「達磨だ。まだ2歳、私のかわいい娘みたいなもんだ」
「狩魔と達磨か、お互い良いコンビになりそうだな」
二人は再び手に持ったライフルの銃口を顔の前に差し出して引き金に指をかけた。
「よろしく頼むぞ。ワカマツ」
「もちろん、ルーカス」
二人は同じタイミングで銃を構え、笑う。そして、部下に視線をやる。
「では、ジャンセンいつも通り囮作戦で行こう」
「気張れよぁ、竹岡ぁ」
言われた二人は同時にため息を付いた。お互いの上司の前に一歩出て、そして顔を見合わせる。
「お互い大変ですね」と竹岡。
「全くです」とジャンセン。
「「毒にだけは気おつけろよ」」とルーカス、若松。
A級隊員の竹岡、黄緑色のヴェードのジャンセン。鬼化したALPHANo.6の桐ヶ谷相手にもし2人が1対1で戦っていたら確実に瞬殺されていたかもしれない。しかし、ここまで戦いを優位に進められているのは、ライフルを持ったルーカスの巧みな位置取りと精密な射撃がダメージを与え、若松率いる狙撃部隊の奇天烈な攻撃方法が桐ヶ谷のスピードを抑制させたことで戦況は予測を上回ってモラドとゼロの連合軍のほうが優勢だった。また、今日はじめて会ったはずのルーカスと若松の連携が恐ろしいほどうまくいっていたことも功を奏した。
ALPHA上位クラスのヴァンパイア桐ヶ谷はあっけなく、連合軍を前にして壁際に追い詰められる。
「…」「…」
ルーカスも若松もその狙撃部隊も無言で追い詰めた桐ケ谷に対して鉛玉の雨を浴びせかける。桐ケ谷の体は電気ショックを受けているかのようにビクビクと衝撃で時折体が弾んでいる。弱点だけは腕で必死に守っているが徐々に肉がすり減ってきて防御は意味をなさなくなっている。
桐ケ谷はふと思った。
(俺は死ぬのか? 人間相手に平和ボケしたヴァンパイア相手に? …いや、死ねるわけがない、死んじゃダメなんだ。ルイ様のためにも俺は生きて混血を捉える)
桐ケ谷は悪くなる一方の視界でクナイを掲げて反射する自分の顔を見た。
「なんて面してんだ俺は。ルイ様にずっとついて行くって決めただろ」
◇
俺は地下世界の中でも地上に伝承された忍び文化が色濃く残る国で生まれ育った。生まれた時から周りには忍びのヴァンパイアだらけで、国内の忍び同士の争い、他国との戦争など争いは絶え間なく続いていた。
そんな忍びの国で生まれた俺の身体能力は地上に出ては人間を狩って食料を調達することに何ら困ることはなかったし、地下でも国を出ればそこらのヴァンパイアには喧嘩で負けることはなかった。人間はそこらのヴァンパイアよりも身体能力が高い俺達の一族にとっては捉えることなんて容易だった。
忍びの国でも特に俺は人間をそこらの忍びよりも多く狩った。俺が仕切ってたグループでは一番強かったことは覚えてる。しかし、そんなある日だった。
「霞、お前もこれ出てみろよ。お前が出たらもっと盛り上がるんじゃねぇか?」
いつも通り人間を売買していると、客の一人が俺にチラシをよこした。
そいつがよこしたチラシの内容を見てみると今の商売で一生をかけても手に入らないような賞金額が手に入るデスファイトがあると知らされた。
俺はこの時結婚を前提に付き合っていた彼女がいた。名は紗夜。忍びの国で俺が小さい時から一緒にいる幼馴染だ。戦いの多いこの国で俺はすぐに親を亡くし、幼馴染の紗夜だけが唯一の家族のような存在だった。結婚するまで色んな道に踏み外して今まで多くの迷惑をかけてきたけど、生涯愛したいと思える最愛のパートナーだ。
しかし、紗夜は生まれつき体が弱く、12年前に知り合ったときは快活な少女を思わせたがたったそれだけの月日で今ではそれを見る陰もなく1日中ベッドで横になったままの生活を続けている。
地下世界では地上にない地下世界特有の病原菌が存在している。普通のヴァンパイアなら風邪のような症状で治まり、1時間もすれば体調はもとに戻る。しかし、ヴァンパイアの中でも特に生命力の弱い紗夜は生まれつきその病原菌に対抗できるだけの免疫力がなく、病魔に蝕まれていった。
だから、紗夜の病を治すには莫大な資金が必要だった。その資金がこの深夜に行われるデスファイトで優勝すれば払うことができる。
俺はその客の提案に二つ返事で承諾して、チラシに書かれている住所に向かいすぐにデスファイトへ参加を申し込んだ。
俺はこの国では負け知らずの最強。そう思っていたし、実際負け知らずだった。
しかし、その自信はこのときに打ち砕かれた。このデスファイトではそんなのは幻想であることを思い知らされた。
全国から集ってくる最強のヴァンパイアたち。ただ俺はこの時自分が見ていた世界が狭くて弱いものだと理解した。
準決勝までなんとか進めたものの決勝で俺は敗北した。それも、あと一歩なんて惜しいどころではなく1日中寝たきりになるほどの重症を受けての大敗だった。
俺の強さを認めて今までまとめ上げてきた部下たちは俺がデスファイトでボコボコにされてからそんなリーダーのもとでは働きたくないと俺の右腕だったやつがそれだけ言い残して全員俺の元を離れた。
大会が終わって、病院のベッドで横になっている時、ふと俺の目の前に中性的な顔立ちをして、銀色の髪、華奢な体つきの少年が現れた。ヴァンパイアにしては珍しい、鮮やかな青い瞳をしている。
近くにいるヴァンパイアの気配は全て把握していた。けが人の治療している医者や看護師、俺と同じように重症で寝たきり状態になっているものも、どれだけの距離に誰がいるか把握していたつもりだったが、この少年だけは全く把握できなかった。
少年はベッドの脇に立って俺の手を握った。その手はスラリとした細長いのになぜかその奥には強さも感じる。そのせいか、少し鳥肌が立った。
「桐ケ谷霞…君。辛かったね」
「お前は?」
俺がそう問いかけるとその少年は、名乗り遅れたことを申し訳無さそうにしてから自己紹介をした。
彼は名前をルイといった。荒くれ者が多いこの国の国立図書館で司書をやっていると言った。俺については数々の戦争が記録された書物を読んで存在を知ったそうだ。確かに、派手に戦って戦績を上げてきたからそういった書物を読んでいれば嫌でも俺の名前を知ることが出来たのかもしれない。だから、俺の名前や外見を知ってることは納得できた。
ルイと言った少年は俺が大会に出るまで負け知らずだったこと、紗夜の病気のことやそれをきっかけでこの大会に出場したことなど俺の生まれてから今までを知っているかのように俺のことを話した。
もし彼じゃないヴァンパイアが俺を気遣うような言葉を言っていたら俺は不貞腐れて力づくで追い払っただろう。そして、彼が俺の手を握る直前までそうするつもりだった。でも、何故だろう? なんで俺は見ず知らずの少年を前にしてみっともなく大粒の涙をこぼしているんだろう。ただ、それよりも驚いたのはその少年も同様に涙を流していることだった。
その少年に影響されたのか知らないが自然と俺は声をこぼした。
「もっと俺が強ければ、紗夜を救うことが出来たのに」
俺はルイの握る手に力を込めて握り返した。そして、ルイも同じように強く手を握り返した。そして、もう片方の手をそっと添える。
「僕は君の力がこんなもので終わるとは思ってない」
「そんな訳あるか。俺はデスファイトの決勝戦で負けた。俺の力はそこまでだったんだ」
自分にはもう限界がある。勝てないやつには勝てないし、勝てるやつには何度でも勝てる。力は有限で俺は今その行き止まりにいる。決勝でボコボコにされて俺はそう思った。
しかし、ルイはそうでないと言った。
ルイは俺の握っている手を離して両手を大きく広げて俺にはまだ強くなれる可能性があると語った。その時、俺は初めてルイが考えている大きな計画を知った。
ヴァンパイアの鬼化、不死身の吸血鬼を使うことでヴァンパイアを不死身化することができる。
つまり、今以上の圧倒的な強さを手に入れて不死身の力を手に入れれば紗夜とずっと一緒にいられることができる。
ルイは改めて俺に手を差し伸べた
「一緒に来てくれる?」
俺はこの時からルイ様の元で自分の力を使うことに決めた。ルイ様のために、紗夜のために。




