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第94話「ルーカスVS桐ヶ谷①『希望の音』」

東京都の地上、都心のビル群が立ち並ぶ都会の中に白い隊服に身を包んだALPHAの大群。その中から、一人が桁外れのスピードでモラドのNo.5ルーカスの元へ走って近づいていくものがいる。

 ALPHAのNo.6桐ヶ谷霞(きりがやかすみ)は手に持ったクナイを前方のルーカスに投げる。そのクナイは戦っている者たちの間をすり抜け空気を切り裂く。ルーカスはそれを紙一重で交わす。

 しかし、そのクナイはルーカスの高級な革のコートをかすめた。


「そこの忍び、誰の服にコートを付けているかわかっているのか」

 ルーカスはコートの懐からハンドガンを取り出し、前方から迫ってくる桐ヶ谷の額に向けて銃口を向けた。

「もちろん、お前の命で弁償してくれるんだろうな?」

 かなりの至近距離であり、ルーカスの射程圏内。即座にルーカスは引き金を引く。青緑色に光る弾丸が銃口から顔を出して、桐ヶ谷の額に向けて放たれる。


 高い音と火花が散った。それらの後、桐ヶ谷は自分の額の前でクナイを構えていた。どうやらこの至近距離で打ったルーカスの銃弾を瞬時にクナイで弾いたようだった。

「ほほう、なかなかやるもんだ」

「モラドのNo.5ルーカスがこの至近距離でも俺に傷一つつけることが出来ないとは、モラドはそんな戦力でこの戦いに勝とうってのか?」

「貴様!」とジャンセンは桐ヶ谷に飛びかかろうとしたが、ルーカスはジャンセンの肩を掴んで止めた。そして、耳元でこっそりという。


「クールじゃないぞジャンセン。感情的になってはいけない。いつだってクールに最適な選択肢を選び取るんだ。故に、挑発には真正面から乗ってあげるものだ」

「ルーカスさん?」

 ルーカスはコートの乱れた襟を正して、再び桐ヶ谷に向き直った。

「桐ヶ谷と言ったか。確かに君は強いようだな。では、どうだろう? お互い正々堂々と良い戦いをしようじゃないか。コートの件はもう忘れていい」

 ルーカスは桐ヶ谷に握手を求めて手を差し出した、桐ヶ谷はルーカスの元へ一歩前進した。徐々に近づいて片方の手を差し出した。その時だった…。

 ルーカスのコートの袖口から手のひらサイズほどの小型ピストルを一丁スルリと取り出して身を翻しながら桐ヶ谷に向けて一発放った。

 しかし、桐ヶ谷はそのぐらいの不意打ちは当たり前のように交わす。そして、ルーカスが手に持っていたピストルの銃口がちくわのようにさっくりと切り取られ、銃としては使い物にならないようになっていた。

「それが真正面から乗ったということですか…。とりあえず、ルーカスさん相手かなり速いですよ。私達には分が悪すぎます」

「ああ、わかっている。正直、今のも全く反応できなかったのは事実だ。このままではこの戦いは俺達の不利だろう」


 ルーカスは目にも留まらぬ速さでまた、袖口から拳銃を出して桐ヶ谷の額めがけて撃った。

 ルーカスの拳銃は一丁のみだと思ったのか、意外にも不意を突かれた桐ヶ谷は額に迫ってくる弾丸への防御が遅れた。…と思ったが、よく見れば防御すらしていなかった。

 弾丸は弾かれて、軌道を反らし、明後日の方向へ飛んでいった。桐ヶ谷の額から出ている角に弾丸があたり、衝撃で傾いた首をもとに戻してから、首を左右に曲げて音を鳴らした。


「さっきから、姑息な手を使っているが、勝てないとわかったらこれか。所詮は平和とやらを謳うだけあって、平和ボケした連中しかいないんだな」

 さっきまで冷静だった桐ヶ谷も不意打ちが続いた戦闘に辟易して、苛立ちの色を隠せないでいた。

「ほう、コイツも鬼化とやらをするのか」

「ルーカスさん、だからやめたほうが良いって…」

 ルーカスはジャンセンを手で制して発言をやめさせた。

「スマートにこれで終えられると思っていたんだがな。私の考えを改めなくてはいけないようだ」

 ルーカスはジャンセンの背中を押すとジャンセンは前に一歩踏み出して、驚いた様子だった。

「そもそも俺は接近戦が得意じゃない。お前が相手して俺は後方から援護する。その方がこの状況よりも有利になるはずだ」

 不服そうだったがジャンセンは承諾して、桐ヶ谷と対峙した。

 ジャンセンと桐ヶ谷が刃を交えている間にルーカスは物陰に隠れては狙撃を行いながらジャンセンの援護をしていた。桐ヶ谷の進行方向にある建物や電柱などを狙撃して行く手を阻みジャンセンに有利になるように援護したり、時には弱点を狙い決めに言った一撃を放つこともあった。

 鬼化した桐ヶ谷と退治するジャンセンと比べると桐ヶ谷のほうが剣捌きでは上を言っていたがルーカスの援護で、互角の戦いを繰り広げていた。


 そして、ついに素早い桐ヶ谷の後ろを捉えて、ルーカスのスナイパーライフルで十分に狙いを定めた弾丸が放たれた。銃声は消音され、静かに放たれた鉛弾が桐ヶ谷の後頭部めがけて飛んでゆく。

 しかし、その弾丸は勢いを失った。

 なぜなら後ろ向きのままの桐ヶ谷に片手で握り潰されたからだった。


「What!? コイツ後ろに目でもついてんのかよ!」とジャンセンは悔しがる。

 弾丸の方向と桐ヶ谷の察知能力から隠れても無意味だと悟ったルーカスは物陰から姿を出して、ジャンセンに言った。

「ジャンセン、残念ながらそのようだ」

 桐ヶ谷が後頭部で弾丸を握っていて見えなかったが弾丸を手放して、手をどけるとちょうど後頭部に野球ボールぐらいのサイズの瞳が眠りから目覚めたように見開いた。それと同時に、刃を交えるジャンセンの方も正面からは額のもう一つの目玉が見開いて、ジャンセンと目があった。


 交わっていた刀の力は拮抗していたが、桐ヶ谷の鬼化が始まってからクナイの色は紫色に変化してからは違った。ジャンセンは明らかに力で押されていた。ルーカスも、援護射撃をするも、後ろにある目がそれを察知して、素早く反応され、当たらない。


 気がつけば、二人の周りをぐるぐると竜巻のような風が立ち始めた。二人を取り囲んで桐ヶ谷が高速で走り始めていたからだ。あまりの速さに桐ヶ谷が複数人いるように見える。そして四方八方から手裏剣が飛んできてルーカスやジャンセンはそれらを自分に当てないように防ぐのが精一杯だった。

 ルーカスとジャンセンはどこから飛んでくるかもわからない手裏剣に備えて背中を会わせて構える。


「おいジャンセン、これはピンチというやつじゃないのか?」

「ええ、たしかにそうかもしれません」

「ふふ、久しぶりに私も本気を出そうか」

「そんなことよりルーカスさん、冗談言っている場合じゃないですよ。コートの傷を見てください」

 ルーカスはジャンセンの発言を不思議に思い、桐ヶ谷のクナイをかすめたコートの傷に視線をやった。

 そこはまるで、酸でも触れたかのように鋭くついていた傷は溶けて広がっていた。

「なるほど、毒を使うってわけか」

「毒使いに囲まれるのはまずいですよ。ここは私が囮になるのでルーカスさんはそのすきににやつから距離をとってください」

「バカをいえ、部下を置いてなんて行けるわけ無いだろ」

「ルーカスさん…。でも、私のことさっき押し出しましたよね?」

「まあ、クールになれ。ほら、」

 ルーカスはこの万事休すの中、悠然と耳に手を当てて音に集中した。

「それに、そんな横暴に出る必要はない。よく耳を澄ませてみろ、希望の音が近づいてくる」

「いや、でもこんな状況で耳なんか済ませてられないですよ」

「いいから」

 ジャンセンは訝しんでいたが、よく耳を済ませてみた。すると、地面から感じる微振動、いくつもの音が交互に規則正しく鳴っている。その音は一人ではなく複数人。声も聞こえる、色んな人の声。その中に1つ、異彩を放つ声もあった。


「にゃー」「にー」

 こんな窮地に陥った自体でも当たり前のようにのんきに鳴いてみせる、猫が、2匹。潰れたような顔をしているブサカワの猫とふわふわと触り心地の良さそうな毛にぺちゃんこの愛嬌のある顔のペルシャ猫が戦闘に蛍光オレンジのパワードスーツアトンを着たゼロの隊員たちを連れてやってきた。

 そのうちの一匹はてててっと隊を率いている頭頂部がハゲた40代前半ほどの男の元へ駆け寄って、彼の足に頬ずりをした。

 男は険しい顔が一気に緩まり、その猫をなでた後また険しい顔付きに戻る。

「総員! 撃て!」

 10名ほどの隊員は片膝をついて、風のように回る桐ヶ谷に向かって一斉に発泡した。ルーカスとジャンセンを取り囲んでいた突風は止んで、無風の状態に戻り、桐ヶ谷の姿は一つになる。

 10以上の銃口が桐ヶ谷に向けられる。それから、弾丸の雨が降り注ぐようにゼロの部隊は容赦なく打ち込んだ。ジャンセンとルーカスは急いで物陰に身を隠す。

 しかし、ALPHAの上位クラスの桐ヶ谷はこの程度ではかすり傷を作る程度にしかダメージを与えることは出来なかった。

 

 部隊に指示を出していた隊長が部下からライフルを受け取ると、威嚇射撃か、スコープを覗いてから発砲した。銃口にはオレンジ色のビー玉ほどの光の塊が出来て先端が鋭くなり、それが弾丸の形に変化して、さらに光の塊は5つに分裂した。

 鋭く空気を切り裂いて進み、桐ヶ谷に向かう。桐ヶ谷は難なく交わすがその弾丸は空中を「く」の字を描いて急カーブし、再び桐ヶ谷に向かう。避けきれなかった桐ヶ谷は5発全て食らった。

「人間なめるなよ! 追尾機能くらい搭載しとるわ!」

「にー」

 ガハハハと腰を反らして愉快に笑うゼロの狙撃手とのんきになく猫。

「ほう、おもしろい狙撃手がいるもんだ」

 こんな状況でもルーカスは顎に手を添えて、ほれぼれとしている。

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