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第73話「鬼化」

 そこには青いスーツに身を包んだ金髪の男性。そして、香水の臭いを感じた。鬼竜奏手だった。

「うちの大切な後輩に何してくれちゃってんの?」


「誰やお前? 見たことない顔やなぁ? どこのもんや?」

 西園寺は眉間にシワを寄せて鬼竜の顔を覗き込んだ。

「僕は鬼竜奏手。君こそ何者? まあ、その服装を見ていればわかるけどさ」

 西園寺は拳に再び青い炎を宿して両手の拳を突き合わせた。

「ワシは西園寺いうねん。よろしゅう…」

 西園寺は首だけ少し傾けて頭を下げる。と見せかけた。

 片方の拳が鬼竜の顔めがけて向けられる。鬼竜は片方の短剣でそれを防いだ。

「な!」


「鬼竜さん!」

「楓、来ちゃだめだよ、危ないから。はぁーあ、全く良い気分で眠って起きたと思ったら二人はいないしさ。二人の臭いを追ってようやくここまで来たよ。どうしてALPHAがこんなところにいて竜太がさらわれてるのか後でちゃんと説明してもらうからな。それまで勝手に掴まんなよ楓」

 鬼竜は青く光る短剣を西園寺に向ける。

「さてと、その前にこいつを片付けないといけないね。かわいい後輩に手を出したんだ。容赦しないよ」

「おいおいおい、随分と雑な扱いしてくれるやん。これでもワシはALPHAでNo3させてもらてんでぇ? そこらの雑魚と同類にしないでももらえるかぁ?」

 西園寺はそう言いつつも手応えのありそうな相手を前にしてはつらつとした表情を隠せないでいる。

「でも、お前はそこらの雑魚とは違いそうやなぁ。ヴェードもワシと同等やけど覇気が違うわ」

「当然だね、言っとくけど僕は強いよ」

「ほう、言うたな。ほな、見してもらおうか」

 

青の拳と双剣がぶつかり合う。

 二人の動きを楓は目で追うことすらできないほど高速だった。楓の視界の中であちこちに青い閃光が弾けていることだけは楓が視認できるのが唯一の情報だった。

 全く格が違う。楓は目の前で起こる戦闘を前にしてそう思わされた。これがALPHAそして、モラドの上位レベルの戦いであることに息を飲んだ。


二人は見合って対峙した。辺りは嵐が過ぎ去ったように風がやんだ。

「ええ腕しとるやん。気に入ったわ。いつ以来やろなこんなゾクゾクするんわぁ。最近雑魚ばっか相手で退屈してたとこなんよぉ」

 西園寺は首を左右に振って音を鳴らした。鬼竜は楓を助けるために投げたもう一本の短剣を西園寺との戦闘中に取り戻し、二本の短剣を西園寺に向ける。

「こっちも準備運動は終わったところだよ」

「ええなぁその強気。益々気に入ったわ」

 西園寺は自分の両の拳を突き合わせた。その衝撃波のようなものが空中を歪めた。

「でも、アカンわ~。ワシは準備運動にもなってへん」と西園寺は残念そうに言う。

 西園寺が立っていた場所には砂煙だけが残った。その途端鬼竜の目の前には西園寺が現れた。

 鬼竜は西園寺の振りかざさした拳を頬にもろに食らった。体ごと飛ばされたが空中で体勢を立て直して地面に足を擦りながら衝撃を吸収する。そして、外れた顎を自らの手で戻した。

 

「いってぇ。僕のきれいな顔に何してくれちゃってんの」

「渾身の俺の拳を食らってまだ立ってられるんか」

「渾身? そんなに頑張ってたの? お疲れ様。僕はまだ本気出してないけどね」

「おいおい、言うやん。口先だけだったらなんとでも言えるわ」

「じゃあ次は僕の番かな」

 鬼竜は両手に持った短剣をクロスするように振り切った。そして、西園寺は即座にそれを両腕を胸の前で交差してガードする。しかし、その西園寺の両腕は切り落とされて腕の断面からは血がにじみ出ていた。

 しかし、西園寺はまるでこのぐらいの怪我は当たり前だと言わんばかりに自分の両腕が切り落とされたことなんて全く気にしていないようだった。それどころか笑っている。

「何笑ってんのかな? 君の拳は切り落とされて使い物にならないでしょ?」

 鬼竜は両腕が使えなくなった西園寺に攻撃を畳み掛けるべく一気に攻撃を仕掛けて勝負をつけようとした。


 しかし、急に鬼竜の体が持ち上がる。

「誰が拳だけにヴェード仕込んどる言うた?」

 西園寺はコマのように体をねじって鬼竜の脇腹に青色に光る足で直接攻撃を入れた。鬼竜は凪飛ばされ鉄筋コンクリートのビルの壁面に体を打ちつける。 


 西園寺は壁に打ち付けられ座り込む鬼竜の前に仁王立ちになって見下ろす。

「一つ訊いてええか?」

 鬼竜は片目の眉を持ち上げて首をかしげる。

「お前が戦う意味は何や? ワシはお前の実力を認めたる。けど何なんや。なんで人間なんかのために戦う? お前もALPHAに来い。混血のガキと竜太と一緒にそれでこの場は丸く収まるやろ?」

 鬼竜は口元の血を手の甲で拭った。

「戦う目的? そんなの簡単だよ」

 鬼竜両手に持っている刀を構え直した。

「恩人の溜ためさ」


「そいつもこいつも大垣大垣言いよるなぁ。まあええわ、そんならならしゃーないな。お前とはここでお別れや。ざーんねん」

 西園寺は鬼竜のワイシャツをつかんで持ち上げようとした…。が、その瞬間、鬼竜の視線の先を青い弾丸が通過した。そして、シャツをつかむ西園寺の腕がぼとりという音を立てて落下する。通過した弾丸はコンクリートの地面にめり込んで煙を上げている。

 西園寺、鬼竜、楓の3人は銃弾が飛んできた方向を一斉に向いた。

 そして、鬼竜は思わず吹き出して笑った。

「わざわざ来なくてもよかったに。俺一人で十分だったよ」

 3人の視線の先には大柄の男が二人。一人はハットを深々とかぶり傍らにはこんな状況でものんきに鳴いてみせる猫がいる。もう一人は黒人の男性。その二人はルーカスとジャンセンだった。

「その面でよくそんなことが言えたな。お前はもっと自分の現状を客観的に認識する癖をつけたほうがいい」

 ルーカスは煙の出ているスナイパーライフルの銃口についた火薬のかすを素手で丁寧にふき取った。そして、手についた火薬を口で吹いて飛ばした。


「なんや次から次へとコバエがぶんぶんとどこからともなく沸いてきよる。お前ら俺のこと大好きか」

 西園寺は両足そして、残った片腕に再びヴェードを宿した。それは激しく燃え滾る炎のようにパチパチと音を出して弾けることを今か今かと待っているようだった。

「でもごめんなお前ら全員相手してる時間ないんだわ。一人で愛に応えることはでけへんねん。つーわけで、混血だけもらって帰るで」

 楓の正面から西園寺が首をつかもうととびかかり手を伸ばす。


「させない!」

 楓の前に青いスーツの背中が立っている。その背中は楓にとってより大きく見える背中だった。

 西園寺は片方の拳は鬼竜に向け、もう片方の拳ではルーカスが放った弾丸を止めている。そしてジャンセンは西園寺の後ろから腰を抱え込んで動きを封じ込めた。

「楓、お前がやれ!」

 鬼竜は後ろにいる楓にそう叫んだ。普段、余裕そうな口調で話してきた楓には訊いたことのない声だった。ピリリとした緊張感が肌に伝わってくる。

 楓は鞘にしまっていた刀を再び抜いた。白目が徐々に赤く染まり始めて、鞘から抜かれた刀は緑色に輝いている。

「離せやクソが! 何なんやお前ら4対1て恥ずかしくないんか! 男やったら正々堂々勝負せい!」

 楓は西園寺の言葉がまるで聞こえていなかったかのように鬼竜の後ろから現れて西園寺に刀を向けた。

「なんやお前、俺を殺すんか? こんな状況で? これはお前の力やないで」

 西園寺の眉間にシワを寄せて眼力がより一層増して楓をにらみつける。そして、説得を試みて語りかけるよにゆっくりと西園寺は言う。

「竜太はどうする? 俺を殺したらALPHAは黙ってないで? 竜太も裏切り者と思われて殺されるかもしれん。そしたら、お前が殺したも同然やん。そんなん友情ちゃうで自分がやろうとしてることをもう一度よぉ考えてみ」

 楓の刀を持つ手が震え始めた。しかし、楓は再び刀を強く握りしめて目の前の敵を鋭くにらみつけ頭の高さまで刀を振りかぶって西園寺の額めがけて振り下ろした。


 固いものが当たる金属音のような音が鳴った。

 楓が振り下ろした刀は間違いなく西園寺の額をとらえている。しかし、傷一つ付いていなかった。

「あーあ、奥の手使ってしもた。ここまでワシのこと追い込んだお前らをほめたるわ」

 楓にとどめを刺されそうになっていた時がまるで演技をしていたかのようにため息交じりに西園寺は言った。

 手応えを感じなかった楓は刀を引いた。すると、西園寺の姿が顕になる。

 頭部には黄色い角が二本そして、口元から下唇にかけて牙が伸びている。体全体も一回り大きくなって腰にしがみついていたジャンセンはすぐに振り払われてルーカスが放った弾丸は握りつぶされた。

「力がみなぎってくるワァ」

「まずい、楓。逃げ…」

 鬼竜が楓の方を振り返った1秒にも満たない時間の間に鬼竜の体は後方にあるビルの壁面に背中を打ち付けていた。

 西園寺は蹴り上げた紫色に光る足を下ろしてから楓に視線を戻した。


 スナイパーライフルのスコープを覗いて戦況を確認していたルーカスは頬に汗をにじませてつぶやいた。

「紫色のヴェード。最高ランク赤の次。これはまずいな」


「人間と仲良しごっこしてお前ら退化したんちゃう?」

 体全体が大きくなり、そして紫色に光る手は楓の頭を包み込みこめかみに指が食い込んで握りつぶすような勢いで鷲掴みしている。

「クソ、クソ、クソッ!」

 楓は必死に抵抗する。一撃だけどだけでもダメージを与えようと攻撃を繰り出すが刀を素手で掴まれてしまった。そして、ちょいっと刀を放り投げられる。ルーカスが後方から数発の援護射撃をしたが豆鉄砲でも弾くようにすべて振り払われて意味をなさなかった。


 頭を掴まれた楓は素手で殴りかかるが西園寺が巨大化した分、腕の長さが届かない。まるで子供と遊んでいる大人のように見えた。無力になった楓は指の隙間から目の前にいる鬼をにらみつけることしかできなかった。

 西園寺は楓を掴んだままゆっくりと前進する。やがて楓の背中に硬いものがあたった。それはひんやりと冷たくてそびえ立つ壁であることに楓は背を触れてから気がついた。

「気になるか? この強さ。鬼化っていうねん。ぶっ飛んでるやろ。ちと、力味わってみるかぁ」

 のんきにそういう西園寺は楓の右手を握手するように掴んだ。掴んだと言うよりつまんだという表現が正しいのかも知れない。それはまるで、大人が赤子の手を握っているような状態だった。そして、勢いよく腕を後方へ引いた。

「ああぁあああ! 腕がぁ、腕がぁ」

 引き抜かれた楓の腕は断面から血を吹き出しながら虚しく月光に照らされる地面に落下した。 


「ALPHAもなぁ混血混血言っとるけどこうやって独自に薬作って頑張ってんねん。でもなぁ、強さを手に入れてもどうしても死だけな乗り越えられんのよ。日光の下、心臓や脳をどつかれても生きていられるヴァンパイアはお前だけなんや。だからなぁ…」

 西園寺は手足をバタつかせてもがいている楓のことはまるで気にしていないように今までの苦しみを噛み締めるように話していた。そして、ニヤリと笑う。

「ワシらのために死んでくれや。お前の細胞取り込んだらもう完璧やねん。素直にこっち来い」

 西園寺は楓の頭を握る力を強めた。丸太のような太い腕に血管が浮きあがる。

「嫌だ、嫌だ…」

「もう降参せぇ。お前らに勝ち目はない。今だったらワシをこの姿にさせた褒美に頭かち割らんといたるわ」 

「…嫌だ」

「降参せえぇ」

 西園寺は楓の足首に掴んだ。大きな手はまるで爪楊枝でも握っているかのように細い楓の足を掴み軽々と引き抜いた。

「イヤだあぁあぁ!」

「自分ガキか! 駄々こねおって。もうええわ、細切れの肉ミンチにして持ち帰ったる。どうせ元に戻るんやろ」

 西園寺は息を吸って胸を膨らました。楓の頭を握る手に更に力が込められていく。

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