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第64話「特訓③」

「竜太にとって恐怖って何?」

 二人の視線は向き合ったまま楓は少しだけ首を傾げて竜太に聞く。

 竜太は楓から視線を反らして再び手に持っていた木刀を胸のあたりに掲げて見つめた。


「俺の恐怖は2つある。1つ目は俺も楓と一緒でやっぱり死だ。そんで、2つ目は圧倒的な力の差を感じた時」

「力の差か」と楓がつぶやいた時、竜太は胸の前で掲げていた木刀を下ろして楓に視線を向けた。

「意外だった?」 

 楓は頷いてから応える。

「小学生の時、上の学年の奴らが僕をいじめていた時いつも竜太が助けてくれたよね」

 竜太は「そんな事もあったな」と一瞬白い歯を見せてから、自分の広げた手のひらに視線を落とした。

「でもな、本当は相手に立ち向かっていくことがめちゃくちゃ怖いんだよ。楓を助けたときは人間相手だったから死なんて考えなかった。でも、今は状況が違う。ヴァンパイアになって高い生命力と身体能力を身に付けたけど一歩間違えたらすぐに死ぬ。キースと戦った時にそれを強く感じたんだ。それが俺の今感じる恐怖だ」

「…」

「楓、人の恐怖を聞いといて無視はひどくね? …っておい」

 竜太が言い終わっても返答がない楓に不審に思った竜太は一度下げた視線を楓に方へ再び向けた。


 すると、楓は瞳からぼろぼろと涙をこぼし、鼻をすすって泣いていた。

「ありがとう。竜太、本当に今までありがとう。そんなつらい思いをしてきたんだね。僕はそんな事も知らずに今まで助けられてばっかりで…何もできなくて」

「おいおい泣くなって親友が辛い思いしてたんだから助けて当然だろ」

「でも、」

 目をこする楓を見ている竜太は頬をぽりぽりと掻いてボソリと言った。

「まあ、たしかに上の学年に奴らにボコられたこともあったけどそれでも俺は今まで選んできた選択に後悔はしてないんだ。だから、辛かったなんて思っちゃいないよ」

 楓は瞳からこぼれ落ちる涙を手の甲で全て拭き取ると赤く晴らしたまぶたが現れてから笑顔を見せた。


 二人は過去の出来事についてしばらく感傷に浸ってからふと我に戻った。

「で、俺らなんの話ししてたんだっけ?」

 楓はズコーッと床に足を滑らせて状態を傾けて思わず昭和の芸人のようなリアクションを取ってしまった。

「ヴァンパイアの強さの源は恐怖とかネガティブな感情なんじゃないかって竜太がいい出したんだよ」

「ああ! わりぃわりぃそうだったな。そんじゃまあ、お互いに何に恐怖を抱いているかがわかってきたから今度は戦いながらそれを意識しようぜ。さっき楓がやったみたいになんか熱いものが湧き上がってくるかもしんないからな」

「そうだね。確かに今まで戦ってきて感じた恐怖は恐怖のままで力に変えるっていう考え方はしてなかったから新しい試みかも」


「まずはトップバッター。俺から試してみるわ」

 そう言うと壁に寄りかかっていた竜太は実験施設中央に歩を進めた。お侍2号も竜太の戦闘の意思を確認したのか鞘に収めていた木刀を抜刀し、一直線で向かい側の壁から歩を進め近づいてくる。

 2号に近づきながら竜太は小さな声でつぶやく。

「恐怖‥恐怖。あの時にことを思い出せ鮮明に…」

 竜太は少し顔をしかめた。そして、腹部、ちょうど左脇腹辺りにに手を添える。竜太の両肩が上下に揺れているのが楓の目からもわかる。歩を進める速さが少し遅くなり立ち止まりそうになるがなんとか足を前に出して無理やり歩いているようだった。

「あの時の痛みを思い出せ。絶対に同じことは繰り返したくない…」

 竜太が木刀を握る力が徐々に強まって握りしめる腕からは血管が浮き出ている。食いしばる口元からはヴァンパイア特有の牙が顔をのぞかせた。

 竜太はお侍2号の顔めがけて木刀を振った。2号は視線を竜太に向けたまま木刀が頬に当たる寸前のところで腕を持ち上げて攻撃をガードする。

 木と木が弾けるような乾いた音を施設内にこだまさせた。今まで木刀をぶつけ合った中でこの瞬間が最も大きな音を立てた。


 2号はすぐに距離を取ってから再び大勢を立て直して竜太に向かってくる。真正面から来る2号を竜太は仁王立ちしたまま迎え撃った。

 今まで2号は木刀を振るときは片手で振っていたが今度は両手でおおきく振りかぶって攻撃を仕掛けてきた。

 竜太はもう片方の手を剣先に添えて攻撃を防ぐと力では竜太が勝ったのか木刀を振り払ってから竜太は槍を突くように連続の突き攻撃を繰り出した。一度、手数だけで2号を上回ってやろうと竜太は連続攻撃作戦を行った時があったがその時とは比べ物にならないぐらいの速さと力強さで攻撃を続ける。

 2号には何発かかすり傷を作ったがおよそヴァンパイアとは思えないような動きで柔軟に体を曲げて竜太の攻撃を交わしてみせる。そのため致命傷を与えるような会心の一撃をお見舞いすることはできていなかった。


 ずっと連続して攻撃を繰り出していた竜太は息を切らして腰をかがめて構えていた。額には大粒の汗がにじみ出ている。

 一方、2号は準備運動は終わったかとでも言うように首を左右に曲げてから血が吹き出しているように見える頬から流出しているポリゴンのような四角い粒子を手で抑えた。

「クソ、体力が持たねぇ」

 片膝を着いて木刀を杖代わりにするように体重を支えていた。

 反動で動けない竜太に2号はゆっくりとそして着実に近づいてゆく。やがて、竜太の目の前で歩を止めて視線を下げて竜太を見下す。その瞳には感情などは宿っていないロボットとしての無機質な視線が降ろされている。


 それからの2号の攻撃は容赦なかった。いつでも容赦のある攻撃はなかったがまるで今までの攻撃をやり返しているように竜太が完全に動けなくなることを確実に認識するまで反撃する意思のない竜太に木刀を振り続けた。

 竜太は青紫色の痣だらけで顔を腫らしている。瞼の上にできている痣は視界を遮るほど腫れ上がっておりその顔は見ているだけでこちらが痛みを感じるほどの痛々しさだった。

「竜太一旦戻ったほうが良いってそのままだと危険だよ」

 楓は声を張って竜太にそういったが竜太はまだ諦めていなかった。壁際に追いやられて力なく壁に背中を預けていたが意識を取り戻したように手を離していた木刀を再び握りしめて地面に刺すようにして木刀を杖代わりにして体を支えて立ち上がった。

「なんかつかめてきた気がするんだよ。まだ諦めきれねぇ」

 竜太が立ち上がろうとした時、2号はそれさえ許さないようとでも言うように木刀を耳元に持ち上げて突き刺すような動作で竜太の左脇腹辺りに木刀を差し込んだ。

 竜太は一瞬息が詰まったように低い声を出して、嫌な汗を額ににじませ攻撃されたところを両手で抑える。

 そして、絞りだしたように言う。

「嫌なんだ。もう、あんな思いは二度としたくないんだ」

 掴みかけた木刀を一度手を離したと思ったらもう一度強く握りしめて今度はすぐに立ち上がった。再び木刀を強く握りしめて力を込めた筋肉が隆起したのがわかる。

 竜太が立ち上がった刹那、2号に突風でも吹き付けたかのように衣服が激しくなびいた。

 間一髪のところで2号は竜太が薙いだ木刀を交わしたが鼻先をかすめていたのか、鼻先からはポリゴンが流出している。 


 竜太は2号に距離を詰めてフェンシングの突きの攻撃をするかのように2号の額めがけて木刀を突き刺そうとした。

 2号はすぐに木刀を横にして竜太の突きをガードした。2号の木刀にはわずかなヒビが入り、力押しをしようと竜太は更に木刀を持つ手に力を込めた。

 2号は片手では足りないと判断したのかもう片方の手を木刀に添えるがそれでも竜太の力のほうが勝っており2号は少し体をよろけさせ、竜太はすかさずもう一撃を食らわせるために木刀を頭の高さまで構えて溜めを作った。


「くたばれ2号!」

 竜太が振り下ろした木刀は2号の脇腹に入り、2号はその木刀に巻き付くようにくの字に折れる。竜太が木刀を振り抜くと2号の体は持ち上がって地面から45°の角度で飛んでいき壁に叩きつけられた。

 壁に叩きつけられた2号はビタンと弾力のあるものが硬い壁に弾かれる音を出して音が反響しやすいこの実験施設ではよく聞こえた。壁に強く叩きつけられても2号の表情は一切替わること無く眉間にシワを寄せた険しい表情のまま壁に背中を付けたまま地面に擦り落ちていく。

 そして、力を出し切って膝をつく竜太にすぐさま楓が駆け寄って励ます。

「すごいよ竜太あんなに苦戦してた2号を一撃で倒しちゃった」

 竜太は楓が差し伸べた手を取って立ち上がり、上がった呼吸を整えてから言った。

「あの状態は体力的にも精神的にも結構きつかった。長期戦にもつれ込んだら持たないかもしれないな。でも、とりあえずノルマはクリアした。あとは楓だぞ」 

 

 竜太は楓の肩を叩いて励ました。

 

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