第61話「お侍」
「なるほどね。ま、ちょっと酔いも覚めてきたし真面目な話でもしようかな。ね、ルーカス」
「少年はどこまで話を聞いたんだ」
楓は午前中に文五郎とタケルと地下の書斎で大垣が話したことをすべて語った。
楓の話を聞き終わった鬼竜は少し上体を反らして視線を上げて言う。
「まあ僕らが知ってんのもそんなとこだよなぁ。なあルーカス」
ルーカスは頷いて応える。
「混血が少年だけではないことは聞かされていた。はるか昔に大垣さんの祖先が出会ってその後どうなったかはわからないがな。そして、アガルタの成り立ちや光にについてだが私達もやはりそれは把握していない。だから、色んな説が飛び交っている。神による創造。人工的に作られた。地殻変動によってできた。だがどれも証拠がなく現在もアガルタの学者たちは研究を進めている。ただ、」
ルーカスは途中まで言ってから話を続けた。
「その光はある場所から昇りそして沈む。恐らく、そこにこの世界のヒントが隠されているかもしれないと皆推測しているがそこはALPHAの国バスティニアにあるため誰も近寄れない。私が送っている偵察隊でさえもだ」
「アイツらそこを拠点にしてるってことは何か秘密がありますよって言ってるようなもんだよね」
「僕はその秘密について知りたいです。混血の存在もそこになにか秘密がありそうですし、父がもしいるのなら会いたいです。会って話がしたい」
ルーカスは店にかけられた時計に目をやって時刻を確認した。
「そろそろ朝になる。混血である君も色々と気になることはあるかもしれないがこれから君と彼は缶詰め状態になる。話はその後になるな」
ルーカスは鬼竜の隣でカウンターに突っ伏していびきをかいている竜太に視線を送った。
「竜太も一緒なんですか?」
「ああ、君と一番付き合いが長い親友も一緒にいた方が精神的支えになるだろう。これは大垣さんの配慮だ」
「頑張ってこいよ。悩みがあったらいつでも聞くから」
鬼竜は竜太を叩き起こしてこの日の飲み会は終わった。
次の日のちょうど日が落ち、辺りは薄暗くなって夜への準備が進められているような雰囲気を感じさせる時刻。楓と竜太は西郷が経営する株式会社CATsを訪れていた。
CATsの研究センターは東京から離れた郊外にあり普段山の中にあるモラド洋館とCATsの研究センターは自然に囲まれていてあまり雰囲気も変わらなかった。
「ようこそ! CATsへ、二人共待ってたよ」
そう言って広々としたエントランスから出迎えてきたのはCATsのCEOで以前交流会で出会った西郷だった。西郷はランニングシューズのような靴に上下ジャージというラフな姿だった。一方で隣に立っているのは西郷よりも身長が高くスーツをビシッと着込んでつり上がったようなメガネをしている秘書のような人だった。
楓と竜太は二人に簡単に挨拶したあとエントランスの応接間に通されて西郷は今後の計画について話し始めた。
「じゃあまずは僕らが作ったホログラムAIを見せようか」
西郷は腕時計型の端末を操作して空中に現れたタッチパネルを操作して何かの承認ボタンを押した。すると、西郷が座る隣に二体の刀を持った中年男性ぐらいでちょんまげをして眉間にシワを寄せて険しい顔付きをした侍姿のホログラムが2体現れた。
「これから君たちが戦ってもらうのはこのお侍シリーズ1号、2号だ」
「「お侍シリーズ?」」
二人は声を揃えて聞き返すと西郷はその反応を待っていたかのように含みをもたせた笑みを見せる。
「そうお侍シリーズ。これはね様々なヴァンパイアの戦闘データを元に動くようにプログラムされている戦闘型AIなんだよ。今回弊社では戦闘型AIは初の制作になったんだけど君等で実験してうまく言ったら商業利用も視野に入れているほどだ」
竜太は自分の近くに立っているホログラムを指で突いてみたが触れた感触はなく空を切っただけだった。
「西郷さん俺らこんな空気と戦うの?」
「いや、これはまだ実体化してない状態で実体化をONにすると…」
竜太はもう一度隣に立っているお侍を指で突いてみるとそれは確かに実態があり確かな感触を感じた。
「なんだろう。人よりもちょっと硬い感じかな」
「このAIは体重も皮膚の柔らかさも実際の人間に近づけて作ってあるんだ。もちろんその刀も実体化してあるから触ると危険だよ」
「訓練ってこの刀を使ってやるんですか?」と楓は西郷に訊ねる。
「いや、これはオプションで変更できるようになっている。今回は長期戦になるだろうから木刀にしておこう思う。もちろん君たちも木刀でやることになるよ」
西郷は両膝に手をついて「さてと」とつぶやいてそのまま立ち上がった。
「製品の紹介はここまでにしてトレーニング施設に急ごうか」
竜太と楓も立ち上がり西郷が言うトレーニング施設に向かった。
トレーニング施設までは楓たちがいた研究センターから来るまで15分ほど走ったところにあり山を少し登って辺りの景色はより一層緑色の自然に包まれていた。
トレーニング施設は山の中に堂々構える建物に入ってからエレベーターで地下へ降りて到着した。
「ひっろー!」
竜太は体をのけぞらせて施設の天井を見上げた。
視線の先にあるのは学校の体育館一つ分ほどの大きさでその中に3人の姿がポツンと存在していた。そして、そこは全面真っ白な床で囲まれており天井には煌々とした明かりが降り注いでいる。
竜太の反応に満足げな西郷はキュッキュッと足とを鳴らして光を反射する白い床の上を歩いて楓と竜太の前に立って両手を広げた。
「ここは実験施設に使ってるんだよ。核爆弾を使っても壁が凹みすらしないぐらいの強靭なシェルターだ。思う存分暴れてくれ」
西郷は指をパチンと鳴らして秘書を指差した。
「では、ルールを説明しよう」
隣に立つ秘書は腕時計型の端末を操作して楓と竜太の前にスライドが投影される。
「まず今回この特訓の期間は2週間。目的は楓君の暴走する力をコントロールしてこのお侍シリーズを倒すことが目的だ。もちろん竜太君も自身のレベルアップのために楓君と切磋琢磨してもらいたい。と言っても楓君の暴走するトリガーが判明していないからそれを間近で見ていた竜太君も協力してほしいんだ。いいかな? 竜太君?」
「オッケー! 任せとけ」
「うん、ありがとう。一応、君らの戦闘における動きや心拍数など天井の測定機器を設置して観測しているから必要な情報があったら言ってくれ。それじゃあ…」
西郷は腕時計型の端末を指でなぞって操作を始めるとお侍シリーズの1号と2号のホログラムが現れて徐々に実体化する。それらは相変わらず眉間にシワを寄せて険しい顔付きをしており腰にはそれぞれ一本の木刀を携えている。
「君等が攻撃を初めたらお侍たちも戦闘モードに入るからそのつもりでよろしくね。では、健闘を祈る!」
そう言って西郷と秘書は実験施設を出ていった。
「つってもなんか弱そうじゃね? 2週間と言わず案外すぐに決着着いちゃったりしてな」と竜太は手に持った木刀をバトンのようにクルクルと器用に回して振っていた。
「油断しないほうがいいんじゃない?」
「あ、」
竜太が回していた木刀がお侍2号の頭部をかすめてから竜太が地面に落ちた木刀を拾おうとした時だった。
「いってぇ!」
西郷はこのお侍シリーズのことを赤い着物を1号、青い着物を2号と読んでいた。そして、竜太の脳天を容赦なく叩いたのは青い着物の2号だった。
「2号てめぇ!」
強烈な不意打ちを食らいこれから特訓が始まった。




