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第60話「隠れ家」

 会議を終え楓とルーカス、鬼竜はモラド洋館を出る。当然ながらルーカスの愛猫である達磨はふてぶてしく澄ました顔をして飼い主の後ろをてくてくと付いていく。

 楓がタケルと文五郎とキャッチボールをしていた外の景色とは全く別世界になったかのように真っ暗な空が広がっている夜の闇。それは、ヴァンパイアの時間を意味している。辺りを照らす光は洋館の窓からわずかに溢れる光のみだった。

 そして、3人のヴァンパイアは洋館の門の塀に寄りかかって3人を待っていた竜太と合流した。


 竜太は楓と鬼竜の隣に立つ大柄な男、ルーカスとはどうやらすでに会話したことがあるようで楓の前でいつも通りに振る舞っていた。

 そして、集合した4人は暗闇へと消えていき目的地を目指した。


「あの鬼竜さんこれからどこへ行くんですか?」

「ルーカスの部下がやってるバーだよ。ここからあと15分も歩けば着くよ」

「経営しているのは俺だがな」

「バーって僕お酒を飲める年齢じゃないんですけど…」

 楓はまさかバーというお酒しか出さない店に連れて行かれるとは思わずに確かめるように聞いた。すると、鬼竜はそんなことはわかっているとでも言わんばかりに

「それは人間の年齢。でも、君はヴァンパイアだ。ヴァンパイアはね何歳でも酒は飲めんだよ」

 ヴァンパイアの世界にとって正論かつヴァンパイアである楓にとってぐうのねも出ない鬼竜の発言に暗闇の猫の瞳のようにわずかに輝く楓の緋色の双眸が竜太に援護を助けを求めるように向けられた。

「いやあ、この歳で堂々と酒が飲めるなんて。マジ、ヴァンパイアって最高だな」

 楓は竜太を見て期待したことを後悔した。


 楓たちは鬼竜の言った通り約15分ほど前進したというより、地下へ深く深く下ったという表現のほうが正しいほど地下通路の深くまで歩いていた。

 その地下通路は一切の光を通さないほど密閉された空間でドーム状の天井にひんやりうとしたコンクリートが両脇にそびえ立っていた。

そして、鬼竜とルーカスが立ち止まり鬼竜が「ここ」と指差した。しかし、そこは一見コンクリートの分厚い壁が続いているだけで周囲の景色と変わりは見えずこんなところに店があるなんて思えなかった。

 

 ルーカスは鬼竜が指差したコンクリートの壁を3回ノックするとそこから「どなたですか?」と声が聞こえる。その問に対してルーカスは「私だ。ルーカスだ」と簡単に答えるとドアの向こうからドアノブを回す音が聞こえる。

 すると、コンクリートの壁の向こうから顔を出したのはモラドの会議で定期報告で部屋を訪れたジャンセンだった。

 ドアを開けた隙間からルーカスの愛猫達磨はのんきな鳴き声を上げながら一番に店内に入っていきバーカウンタにある足の長い椅子に飛び乗って丸くなっていた。

 それをルーカスは幸せそうな顔をして見ている。


「ルーカスさんお疲れさまです」

 ジャンセンはルーカスに直角に頭を下げる。

 4人はジャンセンに促されて店内に入り着席した。ルーカスは着席する前にバーカウンターを指でなぞってから清掃が行き届いていることを確認すると数回小さく頷いていた。

「ああ、お疲れ。4人分の飲み物を出してくれ。もちろん俺と鬼竜のアルコールは強めでな」

 ルーカスはいつも通りの眼力を取り戻し、ジャンセンは返事をするとすぐにカウンターのすぐ正面のキッチンで赤い液体の入ったボトルと透明の液体が入っているボトルをやうやうしく銀色の砂時計のような形状をするカクテルシェイカーに注いで耳元でリズムを奏でるように靭やかな手首の運動が中に入った液体をかき混ぜる音を奏でた。


「ここはモラドの情報交換の場としても使ってるんだよ。まあ、殆どは飲み会だけどね」

 鬼竜がそう言っている間に4人の前で赤い液体とアルコールが注がれたグラスが置かれる。その液体は赤色にも関わらず鮮やかに透き通っていてグラスを通して向こう側が見えるほどだった。

「それじゃ、2人が無事に戻ってきたってことで」

 鬼竜はグラスを持ち上げて4人のグラスはカチンと高い音を鳴らし乾杯した。

 鬼竜と竜太はまるでジュースでも飲むかのようにグラスに注がれた酒を一気に飲み干した。

「もっと味を楽しみたまえ。2人とも」

 ルーカスはグラスに高い鼻先を近づけてグラスを回しながらまぶたを閉じて臭いを堪能している様子だった。

 鬼竜と竜太はルーカスの言葉が聞こえていなかったかのようにもう一杯注文していた。その様子を見てルーカスはため息を吐いた。

「ヴァンパイアの良いところは嗅覚が優れているところだ。人間には楽しめない酒の楽しみ方ができる。彼らのようにガブガブ飲んでいたらもったいないよな。なあ、少年」

 ルーカスはグラスの持ち手をぎこちなく握りしめる楓を高い座高から見下ろした。

 そして、楓は注がれた赤い液体の表面に視線を落とす。


「血…」

 

 つぶやいたその声は店のBGMでかき消されて隣に座るルーカスには聞こえてなかった。

 その赤い液体を見つめる楓はふと思い出した。

 楓がヴァンパイアになって自ら進んで吸血したことは1度だけあった。それは竜太を人間からヴァンパイアにする時だけ。以降、工藤に無理やり飲まされたときもあったがそれ以上に楓にとって記憶に鮮明に残っているのはディアス家の実験で血液を飲まされたときだった。

 透明のポリタンクに満タンに注がれた赤い液体。ノズルを無理やり喉の奥に突っ込まれて直接注入されるように飲まされた事を。


 楓は肩を上下させて呼吸が荒くなる。その様子を気にしたルーカスは心配そうにして言った。

「どうした気分でも悪いのか?」

「いえ、大丈夫です」

 そういってそっとグラスをテーブルの上に戻した。色白い楓の肌はその白さに青みが増していた。


 飲み始めてしばらく経ってから鬼竜も竜太もアルコールが回ってきたのか頬が少し赤くなっていた。鬼竜は初めて酒を飲んだにしては大健闘している竜太をえらく気に入ったようで弟子入りの勧誘をしてるほどだった。

 そして、ルーカスも口数が増えていき3人は盛り上がって談笑していた。素面の楓も時折会話に混ざって存在感を消さないように尽くしていた。そんな騒がしい店内を椅子の上で丸まっていたルーカスの愛猫達磨は何も聞こえていなかったかのように気持ちよさそうに寝息を立てている。

 そして、話題は好みの女性のタイプについて散々盛り上がって竜太が烏丸と人間の片桐ユキという二股楓の疑惑で散々いじられて盛り上がったあとモラドの話題に流れていた。

 その間、楓はグラスに一口も口を付けていない。素面の楓にとって初めて目の前にする酔漢たちとのテンションの差を感じていた。


「2人はなんれモラドに入ろうと思ったんれすか?」

 竜太はすっかり酔っ払ってそう言ったあとしゃっくりしていた。言葉ももはや乱れていて正気を保っているのかどうかも怪しい。

 ルーカスの隣で飲み比べを実施していた鬼竜も飲み始めたときはグラスの持ち手を丁寧に握っていたがテーブルに肘をついてグラスの口の部分を掴んでコロコロと回しながら「それ聞いちゃう〜」とむしろ聞いてくれとでも言いたげに昔の記憶に思いを馳せるように言った。

「昔はヤンチャしててさぁ。毎日こうやって朝方までダチと飲み歩いてたわけ。そしたらべろんべろんになってアガルタで飲んでたはずなのに目が覚めたら地上にいたんだよ」

 竜太は憧れの先輩の武勇伝を聞くかのごとくしみじみと頷いて聞いている。

「そしたらさなんか眩しいと思ったらもう朝日が昇ってんの。そんで体中大やけどしててさ、そしたら人間の女の子が目の前にいて日を遮って『死んじゃうよ!』っていって叩き起こしてくれたんだよ。その時思ったんだやべぇ人間優しすぎんだろってね。そんで、それから人間に恩返ししてぇって思ってなんかできないかなって人脈たどっていったら大垣さんに出会ったわけ」

「さすが鬼竜さんっす。出会い方が鬼竜さんらしい」と竜太は鬼竜を持ち上げるようにして言った。

「だろ? しかも大垣さんまじでいい人だしさその瞬間この人に一生ついていくわって思った」

「大垣さん本当にすごい人ですよね。俺もまじで尊敬します」

「お前もあの人の偉大さがわかるだろ?」

 竜太はしみじみと頷いて応える。

「大垣さんは酒ばっか飲んでて遊び回ってた俺のことをモラドに必要なヴァンパイアだって言ってくれてさ。フラフラしてた俺にとってようやく居場所を見つけた気がしたんだよね。だから、今もこの生活があるのは大垣さんのおかげだと思ってる」


 ルーカスは頷きながら訊いて他の椅子の上で丸くなって眠っていた達磨がルーカスの膝の上に登ってきて鼻の下を伸ばしながら撫でている。

「お前と初めて会った時はとんでもない勘違いヤローが来たと思ったがな。入ってすぐにモラドのヴァンパイアをナンパしては不埒な行為をしているという紳士的でない噂が広まって印象は最悪だった。まあ、それは噂というか事実だったわけだが」

「つってもこうやってモラドの幹部まで来たんだから大したもんっしょ! 楽しんでればなんとかなる。これ俺のモットーね」

「自分で言うのか。お前は全く軽い男だな」

「それが鬼竜さんのかっこいいところっす」

「よし! 決まり! 竜太は俺の弟子一号だ。気に入ったぜ」

「あざす!」

「鬼竜さん今まで部下とかいなかったんですね」

「コイツの部下になりたいやつはいたが毎日酒ばっかり飲まされて皆体壊して部下を辞めていくんだ。だから、ずっと部下がいないんだ」

 楓は苦笑いを浮かべるがそれに対して「俺もっと酒強くなります!」と竜太は意気込んだ。そして、鬼竜に敬礼して鬼竜はその意気込みを買ってジャンセンに指を2本立てて注文した。


「ルーカスさんはどうしてモラドに入ったんですか?」と楓はおもむろに聞いてみる。 

「俺か? 俺はそうだなぁ」とルーカスはしばらくの熟考を重ねてから言った。

「達磨のおかげだろうな」

 そうつぶやいた。隣に座る鬼竜と竜太はわんこそばのように再び飲み始めていた。

「だるまぁ?」と酔った鬼竜はろれつがやや回っていいない状態で聞き返した。竜太も「はえ?」と答えていてもはや酒に意識が侵されてえいる様子だった。

 

 ルーカスは膝の上に乗っている達磨に視線を落として言う。

「ああそうだ。俺はこの達磨が俺以外に懐いたのが大垣さんだったってことだろうな。こいつは今まで俺以外に懐いたことがないんだ。つまり、モラドが俺を求めているという神のお導きだろう」

 3人共キョトンとした顔をする。思わず鬼竜は手に持っていたグラスをテーブルに落としてパリンと音を立てて割れた。

 そして、鬼竜はジャンセンが急いで用意した布巾でテーブルを拭きながら言った。

「ルーカスは普段細かいことは気にするくせにそういうときは運任せだよね。」

「スナイパーたるもの相手に狙いを定めるときは経験に基づいた直感が物を言う時がある。人生の選択でも同様だ」

 ルーカスはグラスを口に運び喉を鳴らした。


「神…。神って本当にいると思いますか?」

「なにぃ? どうしたの楓ちゃん。神様に何かお願い事でもしたいことでもあるのかな?」

「きっとユキと烏丸ちゃんが二人共彼女になりますようにってお願いですよ」

「欲張りだねぇ楓ちゃんは。あれかな? 見た目に似合わず結構肉食系なの?」

「いえ、違いますって。今日大垣さんからアガルタと混血の存在について少し教えてもらったんです」 

 鬼竜は手に持っていたグラスをバーカウンターにそっと置いた。

「あーなるほどね。ま、ちょっと酔いも覚めてきたし真面目な話でもしようかな。ね、ルーカス」


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