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第50話「救世主登場」

「肉肉肉ぅ…あぎゃっ!」


 楓を食らうヴァンパイアたちが一体二体と次々に倒れていく。 

「楓! 待ってて絶対助けるから!」

 遠くで誰かが叫んでいる。

 楓は崩れかけた顔で朦朧とする意識の中で聞こえたような気がしたが、自分自身が深海に埋もれていくようにその意識も消えて無くなってゆく。


 しばらくして、楓は失っていた意識を取り戻して目を覚ます。 

 僕は一体、何を…。

 っつ…。

 ひどい頭痛、頭が割れそうだ。

 しかし、その痛みが吹き飛ぶほどの目の前に広がっている状況に思わず素っ頓狂な声を上げてしまった。

「え?」


 楓は回りを見返して見ると自分を襲ってきたはずのヴァンパイアたちが横たわっている。そして、楓にのしかかっていたヴァンパイアで塞がれていた視界が開けている。そして、その死体たちはゴミのように乱雑に放り投げられていた。その死体の殆どが刀など鋭利な刃物や鈍器で殴ったような形跡はなく、強引に首を引きちぎられている者や腸をえぐり出されているもの、体の肉を引き剥がされている者、壁に叩きつけてこすりつぶしたのか赤い液体が弾けそんだような跡が壁についているなどそれは凄惨な光景であった。


 その屍の中心にポツンと一人立っているのは楓だけ。その静寂の中にどこかで水が滴る音が聞こえてくる。

 楓は自分の体を触って噛みちぎられた箇所を手で触って確認する。治癒途中ではあるものの体のいくつかの部分は噛みちぎられて無くなっている部分もあったが痛みは感じていない。それよりも、


「これは一体? 誰がやったんだ?」

 誰かが来てやったのかもしれない。楓はそう思って周りをくまなく調査して回ったが自分以外の誰かがいた痕跡は残っていない。

 壁に傷跡もなければ武器の破片が落ちているわけでもない。そもそも、楓のことを助けたならその人物がこの場に姿を見せてもおかしくないはずだ。

 つまり、誰かが来たわけではない。そう思った楓は嫌な予感がつま先から脳天を突き抜けるように寒気を感じた。

 楓は恐る恐る自分の手のひらを確認するとどこの誰だかわからない肉片を握りしめていた。楓は慌ててそれを放り投げる。そして、もう一度確認して見ると真っ赤に染まるその両手は切り傷や両手指の付け根に大きな痣が滲んでいた。

 

 すると、遠くから自分の名前を呼ぶ声が聞こえる。洞窟のような閉鎖された空間になっているこのゴミ溜めにはその声がよく響いた。

「楓!」

 声と足音は勢いよく、そして段々と近づいてきて、ついに自分の前にその姿が現れた。

 そして、烏丸は楓の胸に飛び込むようにして抱きしめる。

「よかった、もう会えないかと思った」

 楓は抱きつく烏丸に腕を回そうと思ったが少しの逡巡をして持ち上げかけた腕をもとに戻した。


「来てくれてありがとう」

 何事かまだ状況を把握していない楓はの棒読みで言った。

 そして、烏丸は楓の決してたくましいとは言えない胸板に心音を訊くようにして顔を寄せている。そして、楓の心臓が脈動する音は一定のリズムを刻んでいた。

「烏丸さん。でも、なんでここが? それに、さっきのは…」

 楓はそう言いかけたが続きを言うことを止めた。

「鋼星が楓を連れ去るのを見たの。だから、アイツが行きそうなところとか目撃情報を調べてやっとここを突き止めたの」

「…鋼星? あ、」

 楓の反応に烏丸は首を傾げて問いかける。

「もしかして鋼星になにかされた?」

「いや…何も」と楓はかぶりを振った。

「そっか」と烏丸は言って周りに見回した。

「じゃあ、これ全部楓がやったの?」


 烏丸が楓の回りに散らかる死体の山を見回してからそう言った。

「いや、それもよくわからないんだ。意識を失ってて何が起きたんだかわからなくて…」

 楓は血に汚れた手で白髪の頭を掻きむしってそう言った。

 そして、楓は思い出したように顔を上げて言う。

「竜太と空太は一緒じゃないの?」

 烏丸は瞳に滲ませていたものを指の腹で拭き払ってから、

「闘技場でALPHAが来て新地と立華が戦ってる。でも、せめて楓だけは連れ帰れって立華と新地が私を庇って私が楓を探しに来たの」

 楓は竜太の名前を訊いてハッとした。

「竜太が!?」

 烏丸は頷く。そして、「帰ろう」と楓の手をとって引っ張ったが楓は動かなかった。

「置いていけないよ」

「でも…」

「ダメだ。竜太を置いていけない。空太も絶対に助けないと。竜太をヴァンパイアにしたときに約束したんだ。僕が竜太に起こることの責任を取るって。だから、竜太を置いて自分だけ逃げるなんてことはできないよ」

 楓の手を引いて走りかけて背中を向けていた烏丸は楓の手を離す。

 そして、烏丸は両手の拳を力強く握りしめて肩を震わせる。

「私がここで楓を力づくで止めたらどうするの?」

 楓は後ろを振り向いたままの烏丸に真剣な眼差しを向けて言った。

「死んでも行く」


 烏丸は震わしていた肩をストンと落として肩の力を抜いて、溜息を吐く。そして、楓の方に振り返った。

「一つだけ約束して」

 楓は首を傾げて聞き返した。

「絶対にむちゃしないで」

 そして、烏丸は腰に携えていた刀を楓に差し出した。

「これは?」

 楓は烏丸が差し出した刀を受け取って鞘から刀を抜き出す。

「ヴェード付きの刀。一応、持ってきてたの。もう一本は新地に渡してあるから安心して」


 2人はすぐにルーロの闘技場に向かって走り始めた。しかし、その道中あの大量のヴァンパイアたちをどうやって全員倒したのか楓の脳内ではまだ、その疑問について完結しないままでいた。


 それでも楓は烏丸に導かれるままに2人はしばらく走ってから闘技場に再び舞い戻った。

 そして、楓が目の前で見た光景は予想もしていないものだった。

 キエスでチンピラのヴァンパイアを完膚無きまで押さえつけていた立華の姿はまるで嘘だったかのように弱々しく両手を地面に刺された杭のようなナイフで固定され、そしてあの時、志木崎に腹部を刺された場所が赤く染まってる竜太は小動物のような何かに怯えているような瞳を携えて手足を鎖で拘束されていた。


「竜太…」

 竜太は楓が来たことに気がついて視線を向ける。声は聞こえてこなかったが口元が動いていることは確認することができた。

 竜太の隣で退屈そうにあぐらを抱えて葉巻をくわえるヴァンパイア。ALPHAのキースは楓が来たことに気が付く。

「ほほぅようやく来たねぇ」

 キースはそう言うが楓の視線はキースには向いてなかった。それよりも注意を向けなければいけないものが楓の目の前では広がっていたからだ。

「何だよこれ…」

 呆れるように言う楓は闘技場の360°取り囲む観客席を1周全て見渡した。

 そこには、試合中楓に声援を送っていた観客の変わり果てた姿があった。

 真っ赤に染まった観客席で生きている者の気配がない。さっきまで試合が行われていたとは思えないほどの静寂が闘技場を包み込んでいた。野外の闘技場であるにも関わらず血の匂いが楓のヴァンパイアとしての鼻を突く。


 楓が観客席を見渡してみると視線に二組のヴァンパイアが目に止まった。

 初めて楓たちがルーロに来て商店街に行った時、ルーロの武闘会に出場するバッジを見て楓たちに酒を振る舞ってくれた額のシミが特徴的なヴァンパイアとその周りにいた者たちの死体。「ルーロのヴァンパイアって優しんだね」そんな事を言っていた記憶が楓の脳裏に蘇る。

 そして、ルーロで偶然出会って武闘会開催まで家に泊めてくれた家族の変わり果てた姿。ルーロに到着してから毎日鍛えて楓や竜太が強くなっていくことに期待して見守ってくれていた翔の家族。男臭い野郎4人を快く家に泊めてくれた翔の家族。楓や竜太よりも誰よりも武闘会を楽しみにしていた翔。

 目の前に広がる死屍累々に楓は崩れるように地面に膝を突き、引きつった笑みを浮かべる。


 (もういい加減してれ…。次から次へと一体何なんだよ。僕が何したっていうんだよ。)

 (なんで皆死ななきゃいけなかったんだよ。皆が何をしたの?)

 (ああ、きっと話してもわからないんだろうなぁ。)

 (フフッ。)

 (もういい。)

 (どうにでもなれ…。)


 キースは葉巻を手のひらで握りつぶして消火し、立ち上がる。そして、闘技場全体を見渡しながらキースは燦々と輝く光を浴びるように両手を広げて言った。

「見てくれぇ。この光景を。私は君をここに向かい入れるために邪魔者は全員消したんだ。これは君に対する我々の最大の敬意なんだよ」

「これが敬意だ?」

 楓はおかしく笑ってカクっとほぼ直角に首をかしげる。

 キースは「ああ」と簡単に返事をして不敵な笑みを見せ、下から覗き込むように楓の反応を眺めていた。

「そうだ少し会話しないかい? 私はおしゃべりが好きでねぇ、君とはゆっくりと会話を楽しみたいんだ。そのために場を整えさせてもらったんだよぉ。おっと、その前に…」


 キースは白い隊服の襟元を正してから右腕を胸元に絡めつけるようにして一礼する。

「私はキースというものだ。君を正しい方向へ導くALPHAという組織のものだよ。以後お見知りおきを」

 楓は依然として不敵な笑みを浮かべ続けている。そして、楓の意識は目の前にいるキースを見ているようだが目の視点が合っていない。

「お前の名前なんてどうでもいいぃ。これは全部お前たちがやったんだよなぁ? 全部殺したんたんだよなぁ?」

 楓は指で囲んでいる観客席を指し示してそういった。そして、一礼するキースを楓は血走った目で睨みつけている。元々緋色に染まる眼球は白目の部分も徐々に赤くなり始めた。

「ああそうだよぉ。そんなことより君はおしゃべりが好きかな? あぁ、安心してくれたまえ君とは戦うつもりはないんだ。今日、私はあくまで交渉で来ている」

 キースは挑戦的な目で楓を見てそう言った。

「そんなことより…か」

 楓は思わず吹き出して笑いながら言った。


 そして、楓は急に地面に膝を着いたかと思えばネジが全て飛んでいってしまったように肩を揺らして笑いだしてあまりのおかしさに顔を抑えた。

「フフッ。ハハハ…。ハッハハハハアッハハハハッッハ」

 隣に立つ烏丸は様子のおかしい楓を心配してしゃがんで覗き込むようにして見た。

「楓? 大丈夫?」

 楓は手に持っていた鞘に収められた刀を抜く。その刀はヴェード付きの刀でいつもの楓だったら白く光っていた。しかし、今回は鮮やかな青緑色に光り輝いている。

「邪魔だ。どけ」

 楓の両肩に手を置いて楓の心配をしていた隣の女性の腹部に楓は青緑色の刀が突き抜ける。

 血走った眼球は依然としてキースに向けたまま楓は付いた膝を持ち上げて立ち上がる。

「か、えで。どうして?」

 烏丸は刺された腹部を抑えたまま地面に額をつけたままうなだれる。

 楓は隣で崩れ落ちていく女性のことは目もくれず、自分の刀に付着した血液を地面に叩きつけるように振り払ってキースに向かって歩き始める。

 楓の事を見ていたキースはうずくまる烏丸を一瞥してから楓を見て目を見開いた。


「素晴らしい…」

 思わず言葉がこぼれ落ちたかのようにキースは言う。

「コ…ロス。お前をぶっ殺す。ヒヒ、ヒヒヒッ」

 楓はしゃっくりでもするように首も肩も揺らしてケタケタと笑う楓にキースは言った。

「実験の成功は不死身だけではなかったのか。ルイ様はなんと素晴らしいお方。そして、君は素晴らしい成功体だ。この私も久しぶりにゾクゾクしてくるよ」

 キースは口元から垂れ流されるよだれを拭き取って逸る気持ちを落ち着けるように一度深呼吸をする。そして、刀を引き抜いて楓に向けた。

「でも、残念だなぁ。穏やかな話し合いは望まないということだねぇ」

 楓にそう言ったが楓にはその言葉は届いていなかった。首を左右にコキンッコキンッと鳴らして刀をキースに向け前進する。

 その歩はゆっくりとそして着実に一歩一歩キースに向かって近づいていった。


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