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第44話「狂楽④」

「アーニー辞めなさい!」 


 険しい顔つきで実験室に入ってきたのはアーノルドの父ディアス・バートンと母ディアス・ルーゼルだった。

 実験室の急な来客にアーノルドは顔を真っ青にしてたじろぐ。

「お、お父さん。お母さん。こ、これは違うんだよ。これはその…わけがあってね…」

「お前の言い訳なんか訊きたくない! なんでこんな事をしてるんだということだ。ちゃんと私とルーゼルに納得できるように説明しなさい!」

 バートンは頭の上から湯気が上がりそうなくらいの剣幕でアーノルドに怒鳴りつける。

 楓はいきなり目の前で繰り広げられる親子喧嘩をほぼ思考停止した状態で呆然と見つめていた。

 父、バートンは目の前で親子喧嘩が見られているなんてことは全く気にする様子もなく実験室の入り口からずんずんと歩いてアーノルドが持っている杭をむしり取るようにして奪い取った。

「お前というやつは親に黙ってこんな事をして、全く…」

 バートンは奪い取った杭を見つめる。そして、沸騰していた怒りが嘘のように消え失せて一つの溜息を吐いてから言った。


「全く羨ましい奴めぇ!」


 バートンは楓の方を向き、抑え込んだ怒りをこの一投に賭けるかのように野球ボールを投げるフォームで楓の額めがけてその杭を押し込んだ。杭はまるで、毛玉にまち針を指すようにプスッと入っていった。


「は?」


 楓は額に突き刺さる杭を緋色の瞳を上方に寄せて見上げる。

「あ〜、お父さんずーるーいー。頭は僕がやりたかったのにぃ」

「こんな良いおもちゃを独り占めしてるお前が悪いんだぞ。さ、次はルーゼルがやりなさい」

 さっきまでのアーノルドを叱っていたバートンの表情は消えて無くなり嬉々として家族との談笑を楽しんでいる。その姿はまさに家族を愛する父親の顔をしている。

「あら? いいのかしら?」

 アーニーは逸る気持ちを抑えつつ親の意見には従ったようだった。

 しずしずともう一本の杭を手にとって楓に向かって歩くルーゼルに対し、アーニーは「どうぞどうぞ」と手を添えてお辞儀をする。

 ぷすり♡と杭を刺したルーゼルが終わった後、アーノルドはわずかに残る額の面積に杭を刺せる余白を楓の前髪をかき分けながら探して額を指の腹で叩いて狙いを意識した。

「せいやぁ〜」

 楓の意識はバートンの杭が刺された時点でもう無い。

「うおぁーやべぇ。コウフンするぅ! うへぇーい。 ヤッバ!? チ●コびんびんになってきたぁ」

 アーノルドはパツパツに締め付けるの白ブリーフのゴムを広げて自分の局部を覗く。

「アーニーもまだまだ子供だな。このぐらいで興奮してしまうなんて」

 アーノルドは子供らしくテヘヘと満開の笑顔を見せる。

 そこでようやく、ディアス一家は楓が動かなくなったことに気が付いた。

「あれ? 壊れちゃったのかな?」とアーノルドは楓の体をなめるように見回した。

「これは壊れないんじゃなかったのか? もし壊れたら捨てるしか無いな」と父バートンは心配そうに眉を寄せて対応策について思索に耽る。

 すると、母ルーゼルは思いついたように手のひらに拳を落として言った。

「そうだわ。血を与えましょ! 機械でもオイルを入れたら動くでしょ? それと同じよ!」

 アーノルドとバートンは電撃が走ったように背筋を伸ばして「「ナイスアイディア、マム!!」」と親指を立てて親子同じポーズを取った。

 ルーゼルはどこからか持ってきたのか不明だが石油ストーブに石油を注ぐときに使うポリタンクのようなものを持ってきた。それは満タンに血液が入っているため外見は真っ赤に染まっている。

 力仕事は男の仕事よとルーゼルはアーノルドにそのポリタンクを授ける。

 四肢は切断され、白目を剥き、額には3本の杭が刺さって変わり果てた姿の楓にアーノルドはよいしょよいしょとシャツからはみ出る肉を揺らしながらポリタンクを引きずり、楓のそばに近寄る。そして、ポリタンクから出ているノズルを楓の口内に突き刺した。ノズルは初め喉の手前でつっかえたがアーノルドはノズルを回し込んで強引に体の中に押し込んでいった。

 アーノルドがノズルに付いているボタンを押すと電動音が鳴りポリタンクに溜まった血液が吸い上げられてノズルを通過し、楓の体内に強制的に注入される。

 すると、みるみるうちに楓の治癒しかけている腹は膨れていき1時間ほどが経過した辺りでその膨らみは萎んでいきいつもの細身の体に戻っていった。

 体に激痛が走り、手足が不自由になっている自分の状況を再度認識する。

 それは見たくなかった現実に間違いはない。


 


 楓は今までの出来事が夢であることを期待した。しかし、楓の視界に写る現実には楓の返り血で真っ赤に染まって談笑するディアス家の一家団欒を過ごすしている瞬間があるだけだった。

「ようやく元に戻った。やっぱ、血を与えないとダメなんだな。お父さん血液もっと必要になるからお小遣い増やしてよ」とアーノルドが言いバートンは「これは家族で飼うからその必要はない」と一蹴した。

 楓は「…血?」と短く聞き返すとアーノルドはキョトンとした。

「これのこと?」とアーノルドはポリタンクをひょいと持ち上げて楓の前に突き出す。

 ポリタンクの中には残り数滴だけの赤い液体が入ってるだけだった。

「それは?」と楓が問う。

「決まってんじゃん、人間の血液だよ。これは全部君が飲んだの。いや、飲んだと言うより直接注入したというのが正しい表現かもね。感謝してよ、昨日仕入れた人間の搾りたての血液なんだからな」とアーノルドはこともなげに言ってみせる。

「それを? 僕が…全部飲んだ?」

 信じがたいという表情で楓はぽつりぽつりと言葉を落としていく。 

「人の血を?」

 アーノルドは何を当たり前なことを訊いてくるのか? とでもいいたげに億劫そうな空返事だけしてから、テーブルを囲んで談笑する母と父の元へ去っていった。

 

「フフ…ハ、ハハ。ハハハハ」


 僕はあれを全て飲んだのか? ヒトの血を…提供されたものではなく殺されたヒトの血。コイツらに生命を絶たれたヒトの血。しかも昨日まで生きてたヒトの血。それを僕はあんなに飲んだのか?

 楓はふと立華が固形の血液を摂取した時の事を思い出した。

 その固形血液は楓が液体として摂取することに抵抗を感じているためモラドで特別に作らせたと言っていたものだったが、鋼星と行った特訓で大怪我をした楓だったがそれをたった2粒の摂取しただけで体の傷が癒えるスピードが早かったことを自覚していた。


 楓は拘束された体で視界が届く限り自分の体を確認すると、手足は繋がりえぐり取られた内臓も元に戻っている。


 笑みをこぼす楓にディアス家の3人は談笑を止めて憐憫のまなざしを送った。

「…こわ」


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