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第38話「武闘会①」

 ルーロに到着してから6度目の朝を迎えた。

 ルーロを照らす柔らかい光が暗闇に隠れていた街を顕にしていく。

 その光は並び立つ家々を照らし出した。それは、家という家の隙間から光が漏れ出し、カーテンの隙間から朝を知らせる。その光は当然の如く楓たちが泊まっている翔の家にも届いていた。


 旅の途中で出会った翔一家の泊まり込み楓と竜太は武闘会まで鋼星のスパルタ特訓を積んできた。

 旅の途中で彼と出会ってから楓と竜太は鋼星に強引という表現が似合うほど強さを磨き上げてきた。

 そして、ルーロの武闘会に憧れる少年と出会い、家に泊めてもらい、翔の家族とともに食事をし、盃を交わし、同じ屋根の下で短い間ながらも大切な思い出を積み重ねてきた。

 楓と竜太が強くなるためという目的で出場するルーロ武闘会に向けてやってきた厳しいトレーニングの全てはこの日のためにあった。そして、初めての国に訪れて鋼星と出会い、ディアス家と出会い、ルーロでは武闘会に出場するという事が国民にとって誇りであり、街の者たちは出場者を見ると酒を振る舞い、応援した。そして翔たちに出会って彼らの親切心と国の盛り上がりを知った。


 そして、今日この日。武闘会当日、旅の目的の第一歩が踏み出される。

「まずは一回戦突破を目指して、皆さん頑張ってきてくださいね。私達も見に行くので全力で応援します」

 翔の父親は出場する3人と固い握手を交わした。

「3人共応援してるからね」

 翔はそう言って3人と拳を突き合わせた。

「大会終わったら打ち上げしようぜ」と竜太は言った。

 そして、武闘会に出場する英雄3人に対して尊敬と憧れの眼差しで彼らを見送った。


 武闘会へ向かう道中、立華が言った。

「この武闘会で楓くんと竜太くんが優勝できるとは思ってないですけど、せめて成長したところは見せてくださいよ」

「はっきり言いやがって、少しは俺らの優勝を期待しろ」と竜太は口を尖らせて言う。

「でも、まずは一回戦突破しような」と竜太は楓の肩を叩いた。

「そうだね。僕は一回戦突破したら鋼星と当たるからちょっと不安ではあるんだけど」

 鋼星は陽気に楓の肩を組んで言った。

「絶対俺と戦おうぜ楓。お前の持ち前の粘り強さで下剋上してこい。俺はお前の本気を全力で受け止めてやるからな。アイツらも応援しに来るんだし恥ずかしいところ見せるなよ」

 まるで、すでに勝ったかのような言い方だったがそれでも、緊張の面持ちを見せる楓とは対象的に鋼星はさすが王者と言わんばかりに余裕の表情を見せていた。

「ディアス家は応援に来るの?」と楓が言った。

 すると、鋼星は残念そうに首を横に振る。

「それが来れないんだと。貴族同士のパーティーがあるって。みんな俺が武闘会に出るの楽しみにしてたんだけど、貴族にも上下関係があるからそういう付き合いはしょうがないよな」

 しかし、鋼星は残念そうな表情からすぐに開き直っていつも通りの自身に満ちた表情へ戻った。

「ま、優勝トロフィー持って帰ればみんな喜んでくれんだろ。とりあえず俺はディアス家の喜ぶ顔さえ見られればそれでいいからさ」

「さすが使用人だね」

「当たり前よ。貴族様が喜んでくれるんだったら俺は何でもするんだぜ。それに、使用人って言ってももはや皆家族みたいなもんだ」

「本当に仲良いなお前たちは。使用人ってもっと貴族と距離感を保ってるものだと思ってた」と竜太が言った。

 道中そんな雑談をしているといつの間にか武闘会が行われる闘技場に到着した。


 受付でエントリー時に配られたバッジと本人確認を済ませると立華が「ここから先は関係者以外立入禁止なので」と立華と烏丸は観客席の方へ向かった。

 しばらく無言だった烏丸が一度振り向いて楓のことを見て少し口角を上げた。


 そして、3人は出場者専用のロッカールームに入った。

 そこには大会開始の1時間前から、すでに体を温めるためにウエイトトレーニングをしている者や瞑想で精神統一している者、柔軟体操をしている者など全員本番前に余念がなくこの武闘会に出場者たちがかける気合と圧を感じる。

 楓と竜太は羽織っているローブをロッカーにしまって大会で使うヴェードなしの刀を手に取り打ち合いを始める。そして、鋼星も気合十分の2人を見てから素手でスパーリングを始めた。

 3人共軽く汗を流した後、選手入場口の方から騒がしい完成が聞こえてきた。

 楓たちはロッカールームに備え付けられているモニターで外の様子を見た。


 闘技場の中は360°見渡す限り満員の観客で埋め尽くされている。闘技場の客席は階段のように上に行くに従って上がっていく構造になっており、その段に皆腰掛けている。 

 そして、闘技場の真ん中はくり抜かれたような円形状の砂地で周りはコンクリートの硬そうなフェンスで囲まれている。その砂地を観客は上から見下ろすような構造になっており、その円形状の砂地で出場選手たちは戦うことになる。

 そんな闘技場の中から軽妙なトークで会場に来た客を盛り上げるアフロが特徴的な司会のトークが聞こえた。


「レディースエンドジェントルマン! みなさんご機嫌はいかがかな? 僕は絶好調だよ! なぜかって? そう、今日は特別な日だから。年に一度、このアガルタから戦いに飢えた猛者たちが力と力でぶつかりあい伝説を生み出す特別な日。ルーロ武闘会の日だからだ!」

 円形の砂地に1人ぽつんと立ってマイク片手に話す司会を360°に囲む観客は歓声を上げ、司会はそれを味わうように両手を広げてから何度か小さく頷いた。

 司会はその歓声を更にわき立てるように煽ってから背後に移されたモニターに体を向けた。

「皆さんもう知っていると思うけど知らない人のために念の為ルールを確認しよう」

 モニターには武闘会のルールが簡単に絵で表現された画像が映し出され観客の視線もそこに集まった。

「ルールは超絶シンプル。予め割り振られたトーナメント表の対戦カードで1対1のガチンコ真剣勝負。勝敗は相手が気絶、降参。そして、死のいずれかで勝敗が決する。しかし、ヴェード搭載の武器は使用不可。それ以外だったら何を使ってもいい。己の肉体、刀、銃、ハンマー使いたいものがあればなんでもオッケー」

 映像には可愛らしくデフォルメされたヴァンパイアが刀を相手に振っている映像が流され、勝敗が着くパターンをすべて簡単に表現した映像が流される。

 司会の武闘会についての説明が一通り終わった後、司会は更に観客を煽って闘技場は沸き立った。

 試合開始の時間が近づくに連れて会場のボルテージは徐々に上がってゆく。


「さぁ、皆さんお待ちかね。ルーロ武闘会記念すべき第一戦目はこの組み合わせだ!」

 モニターにはAブロック1回戦目第1試合の対戦カードの顔写真が映し出された。

 鋼星の名前はルーロ武闘会を見たことがあるものなら誰もが知っているし、見たこと無い者でも存在は知っているほど名前が知られいるため初戦として会場を盛り上げるには十分すぎるほどの対戦カードだった。

 鋼星は選手入場ゲートから堂々と対戦フィールドに足を踏み入れた。

 鋼星は入場ゲートから砂地へ3歩ほど歩いてから立ち止まって腕を組み、地鳴りのように鳴り響く歓声に数回頷いてから対戦相手のもとへ向かった。


 そして、会場は試合が始まってすぐに今日最高の盛り上がりを見せた。

 それもそのはず、鋼星は試合開始の合図からわずか10秒足らずで相手を気絶させ1回戦目を突破したのだ。攻撃は一撃の拳のみ。ワンパンチで勝敗を付けた。


 再び歓声を背に鋼星は入場時に入ってきたゲートへと消えていった。

 そこには竜太と楓が待っており、鋼星は2人とハイタッチをした。

「鋼星、さすがだな。想像以上だぜ」と竜太が言った。

 鋼星は大きな胸筋を揺らしながら勝利の笑みを浮かべる。

「歓声がうれしくてよ。テンション上がっちまったわ。もっとこの歓声を味わいてぇな。もっと、強い奴と戦いたくなってきたぜ」

 鋼星は有り余った力で強く拳を握った。まるで、戦いを単純に欲する少年のように澄んだ瞳をしていた。


 ついに始まったルーロ武闘会は鋼星の圧倒的な強さで幕を開けたのであった。

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