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第25話「人類の脅威」

 地下水路で楓たちとの戦闘後、ゼロのパワードスーツ「アトン」を身に着けた山本隊の隊長、山本純也。そして、その部下である木並麻帆(きなみまほ)鷹橋悠真(たかはしゆうま)はパワーアップした身体能力で東京都新宿区にあるゼロ本部に向けて快足を飛ばしていた。

 移動している道中、木並はまだヴァンパイアを追い詰めて撤退したことについて山本に不満をあらわにしていた。しかし、それ以上に気になることがあった。本当ならば人類の最大の脅威となる存在について山本に報告した。


「僕も見たよ。あの白髪のヴァンパイアは胸から血を流して本来なら死んでいる重傷を負っているはずなのに生きていた。もし、これが他のヴァンパイアでも同じことが起こるというなら大変なことになる」

「ただ、あのヴァンパイアたちが庇っていた死体は胸を貫かれて死んだような傷跡でした。だから、全てがそうだと決めつけるのは早いかも知れません。でも、死ななかったバケモノがいたのは真実です」と木並は言った。 

 

 数十分の移動時間を要して朝方に、スーツを来た会社員が新宿区になだれ込むように来る中、山本隊一行は車道を車と同じぐらいの速度で走りながらゼロ本部に近づいていた。


 やがて本部に到着し、3人はビルの入口で歩を止めた。

「とりあえず近藤さんに連絡しよう。今回の件は収穫もあった。きっと、今後に生かせるはずだよ。情報を得たらまずは組織で共有すること。これはチームプレーの基本だからね」

「また、山本さん怒られますね。僕らのせいで…」と鷹橋は心配そうにつぶやいた。

 すると、山本は鷹橋の頭を撫でて言った。

「そんなこと気にしなくて良いんだよ鷹橋。今回は情報もつかめたし、相手を追い詰めることができたんだよ。新人の君たちからしたら十分過ぎる活躍だよ。だから、心配しなくていいよ。責任を取るのはいつだって上司の役目さ」

 すると、3人は首元のボネックレスを触れた。すると、アトンが首元のネックレスに吸い込まれるように一気に萎んでアトンを装着する前に着ていた服装に戻る。


 3人は30階建てのゼロ本部のビルに入り。エレベーターの27階のボタンを押した。

 エレベーターが1階から27階に登るまでに数回の途中で人の出入りがあり27階に近づくにつれてその頻度は減っていき、エレベーター内は3人だけになりしばらくしてエレベーターは27階で停まる。

「2人はここで待っててね」 

 

 山本はゼロ吸血鬼対策室室長の近藤がいるヘアのドアをノックした。

 扉の向こうから「入りなさい」と野太い声が聞こえてくる。

 山本は27階の窓から東京の街を見下ろす近藤の背中に向かって挨拶し、近藤が今回の活動の成果を報告するように促して深夜に起こった事象を山本は全て話した。

 ヴァンパイアを1人も殺すことができず帰ってきたことに対しては当然のことながら叱責をくらったが格上の相手の登場に隊員を1人も失わなかったことに対してはゼロの隊員としてその功績だけは近藤室長も認めたようだった。

 ただ、話題は心臓を貫いても死ななかったというヴァンパイアの話の方が近藤の興味を的になっていた。

 近藤は山本の方へ振り向いて言った。

「その件について君の話を元にA級隊員以上で午後対策室で急遽会議を行うことにしよう。この情報はA級以上の隊員と君の隊員以外にはまだ内密にしておいてくれ。まだ、不確かな情報だ」

 山本は頷いた。

 近藤は再び山本に背を向けて窓の外を眺める。

 さっきまで晴れていた空は急に機嫌が悪くなったように灰色の雲で覆われている。

「もしそれが本当なら今後のヴァンパイアとの戦いは我々が不利になるだろう」

 眼下に広がる東京の街は天気の機嫌など関係なしにいつものように人が大量に行き交っていた。


 

「2人ともお持たせ」

 自動販売機前のベンチで木並と鷹橋は真ん中に多めに間を空けて腰掛けていた。まるで、今の2人の距離感を表しているようだった。

「山本さん私が話した件どうでした?」

「午後からそのことについて会議があるんだ。あと、このことはまだ誰にも言わないでほしい。もし、国民に情報が漏れたらパニックになりかねないからね。鷹橋もいいね?」

 鷹橋は「はい」と返事をして頷いた。

 そして、山本は近藤の前で力が入っていた肩を落として「さてと」と息を吐きながら言った。

「ちょうど朝ごはんの時間だし報告終わったから3人でご飯でも食べに行こうか。新人2人の初成果のお祝い。もちろん僕の奢りでね」

「ホントですか!」

 それを訊いた木並は瞳を輝かせてお腹をきゅるると鳴らしてすぐに顔を赤らめた。


 3人はゼロ本部の近くにある定食屋に来ていた。店員に案内されて完全個室の部屋に通される。

「この仕事をしていると完全に昼夜逆転するから2人も慣れるまで大変になるね」

「大丈夫ですよ。訓練生の時から生活リズムは整えてますから」

「そうか。でも、ご飯食べたらしっかり休息を取るんだぞ」

「山本さんこそ休まないんですか? なんかA級やS級の人ってずっと働いてますよね?」

「やることが多いからね。これから午後にやる会議の資料を作らないといけないし」

 山本があくびを噛み殺している途中に3人の元へ注文した定食が運ばれてきた。

 鷹橋の隣に座る木並はもりもりと定食を食らっていたが鷹橋はなにか考え事をしているようでさっきから視線をテーブルに落としたまま箸を手に取らないでいる。

「鷹橋どうした? 食欲ないのか?」

「……」

「まったく。せっかく隊長が奢ってくれたってのに何なのその態度」と木並は鷹橋のことを肘で小突いた。

 そして、鷹橋は今まで考えていたことを整理するようにややあってからしっかりと山本の目を見て言った。

「ヴァンパイアって全員が悪者なんですか?」

 隣に座る木並が目を丸くした。手に持っていた箸を落としかけてぎりぎりのところでキャッチする。

「は? あんた何言ってんの? 人殺しのバケモノを庇う気? マジでありえないんだけど」

「だってあの時、木並も見ただろ。おま…」

「ありえないから!」

 鷹橋が話を続けようとして所を木並は遮って主張した。

「木並、落ち着いて。2人とも何かあったのかな?」

 鷹橋は木並を殺そうとしたヴァンパイアが木並のことを庇ったことについて山本に話した。しかし、鷹橋が地下水路から出る際に交わした会話のことは言わなかった。

 山本は鷹橋の言うことを頭ごなしに否定せずにうなずきながら鷹橋の目を見て訊いていた。

「そんなヴァンパイアが本当にいるのなら俺も初めて訊く事例になるな。スーツを着たヴァンパイアはその他のヴァンパイアに比べると凶暴な者は少ないのはわかっていたけど人間を庇うなんて行動を起こした者は今まで一匹もいなかったからな」

 山本は「うーん」と唸って腕を組んで考え込んだ。

「しかし、それでもゼロの隊員がスーツのヴァンパイアに深手を負わされている事例は多くある。だから、まだそのヴァンパイアを信用するわけにはいかないよ。たった、一匹の行為でも今までヴァンパイアが人間にしてきたことが清算されるわけじゃない」

「そうよ。あの時、庇ったわけじゃないかもしれないし、私達に心臓を刺しても死なないヴァンパイアがいることをあそこで見せつけたかったのかも知れないでしょ。いずれにせよ、ヴァンパイアに味方するなんて考えないでくれる」

 風船のように僅かに膨らんだ期待を針で刺して弾け飛ばすかのように木並は鷹橋にそう捲し立てるように言った。

「一旦その話は僕らの中で留めておこう。上層部は今頃、白髪のヴァンパイアのことで定一杯だろうし、その件は後で話しても遅くはないだろう」

 山本は箸を持って「冷めないうちに早く食べようか」と茶碗を手にとった。

 


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