第115話「真実」
「大変な思いをしてきたんだね」
大垣は操作パネルでプログラムのコードを打ちながらそう言った。タイガは小さく頷いて息子である楓に目線を向ける。
「俺たち混血みたいな強い力を持って生まれると、こういう運命なのかもしれないな」
タイガは混血としての運命を背負わせてしまった我が子の頬に手を添える。
「なあ、楓。俺らの間に混血として生まれたことを後悔しているか?」
「そんなことない。2人が僕の親だったから、僕が混血として生まれたから、今大切な仲間と出会えたんだ。そして、僕らがその仲間も人間も罪もないヴァンパイアを守るって決めた」
「そうか、立派に育ったな。楓が俺たちの子で本当によかったよ」
大垣はまたパネルでコードを打ち込みながら首を横に振った。
「私たちが二度とそんなことはさせないよ。タイガ君も私たちモラドで保護し、私たちの下で安全な生活が遅れること約束しよう」
「ありがとうございます、大垣さん」
タイガも一緒に楓に頭を抱き抱えられながら動かせる範囲で小さく頭を下げた。
「ところで、モラドってなんだ楓」
「人間とヴァンパイアの共存を望む団体だよ。大垣さんはその代表で僕もあそこにいる烏丸さんも空太もその1人」
「そうか。そんな団体があったんだな。俺ももっと早くそういう団体に気がついていればよかったな。そしたら、俺たちも普通の親子として暮らしていけたのかもな」
「大丈夫だよ父さん。これから、またやり直そう。大垣さんについていけば僕たちも幸せになれるから…」
楓がそう話している途中だった、父のタイガが急に気を失った。血を抜かれすぎて気を失ったのかと楓は疑ったが、タイガの額には一本の細い針が刺さっていた。
楓が針が飛んできたと思われる方向に振り向いた時、楓の額に冷たいものが触れた。
「どういう…ことですか?」
楓はその針を突きつける人物に視線を向けた。そして、その針を持つ人物の名前を呼んだ。
「大垣さん」
大垣の後方ではすでに神原、立華、烏丸が目を閉じて眠っている。そして、楓の手の中では伊純タイガが眠っている。
大垣の操作していたパネルには空中に表示されているモニターにはYESとNOの2択を選ぶ画面で止まっていた。
そこまで画面を進めた大垣はそれ以降の操作は終わったのか、大垣は注射器のような針を先端に装備し、ピストルのような形をした発射可能な麻酔銃の引き金に手をかけていた。
「悪く思わないでくれるかい、楓君。私も私の目標のために長く苦労してきたんだよ」
額に針を突きつけられた楓は何かの間違いであってほしいと願いながら首を横に振った。そして、額に突きつけられた針を掴んで言う。
「この針を退けてくれませんか?」
「それはできないな。でもそうか、それもそのはずだね、今の楓君からしたら考えられないことを私はしてるのだろう。そうだね、全ての準備が整ってからゆっくりと話そうか」
そう言って、大垣は指をかけた引き金を引いて針を楓の額に打ち込んだ。楓はその麻酔が効いたのか溶けるように眠気に誘われて地面に崩れ落ちた。
それからしばらくの時間が経った。
楓の目が覚めた時は視線の位置が高く、地面を踏みしめている感覚はなく、体が宙に浮いているような感覚だった。そして、楓は少しの時間を要して自分の体が壁に貼り付けらていることを理解した。
楓の視線の先では無数のカプセルとまだ眠りについたままの烏丸、立華、神原の姿を確認できた。そして、横を向いてみると同じように壁に貼り付けらた父、伊純タイガの姿がそこにはあった。ただ、意識はない。
楓の視線の下で大垣は装置のいじるタッチパネルを操作していた。時に何かを考え、そしてコードを打ち込んではまた何かを考えている。すると、長く眠っていた楓たちに向かって大垣は言った。
「おはよう、楓君」
「大垣さん、これは一体どう言うことなんですか?」
「私にも事情があってね。実はこの瞬間が訪れるのをずっと待っていたんだよ」
黙々と操作パネルを押しながら作業している大垣を見て、信じ難い状況に楓は恐る恐る聞いてみる。
「僕らをどうするつもりなんですか?」
「神原という優れたヴァンパイアの科学者がいると聞いていたけど、まさかこんな素晴らしい装置を作れるとは私も驚いた。ルイに仕込まれたのかそれともルイ以上の頭脳を持っていたのか。まあ、この装置が完成しているんだからそんなことはどうでもいいか」
楓の質問に対して素直に答えない大垣に楓は大垣の名前を叫ぶように呼んだ。そして、大垣は操作しているパネルの動きを止めてゆっくりと視線を上げて伊純親子を見る。
「素晴らしい力じゃないか。不死身だなんて。その力があれば人間とヴァンパイアの頂点に立てる。私はその力がどうしても欲しい。人間とヴァンパイアの統べる者になりたいんだよ。お願いだ楓君、私のために死んでくれるかい?」
楓は貼り付けられた壁から抜け出そうともがくが全く拘束が外れる気配がない。それでももがきながら楓は声を飛ばした。
「モラドの今まで活動はなんのためだったんですか! 人間とヴァンパイアが共存できる世界を作るのは嘘だったんですか?」
大垣は楓の言葉を自分自身にしっかりと浸透させるように何度か頷いてから言った。
「嘘なんかじゃないさ。本当だよ。ただ、その実現に君たちの力が必要なだけだ」
大垣は、頭でこれから話すことをまとめるように操作していたパネルから離れて数歩歩き出した。
「楓君、君はまだ18歳だ。人生経験が少ない分、背負ってきたものの数も少ない」
大垣はどこか遠くを見つめ始めてどこか遠い目をしている。
「私はねえ、モラドを大垣一族で築いた時から何百年と大垣家を背負ってきてるんだよ。モラド自体大垣家そのものでもあるんだ」
「モラドを築いた時って、洋館の地下にあったあの書庫に何か書いてあったんですか」
大垣はその言葉を聞いて思い出したように天井を見上げた。
「ああ、あれは大切な日記でね。あの書庫にあった本は勝手にどれを読んでも構わないが日記だけは見られないように隠していたつもりなんだけど、見られてしまってはしょうがない。楓君は見つかっても仕方がないとしてもあの2人から情報が漏れることは避けたかったんでね」
「まさか…」
「そうだよ。そのまさかだ。これも目標を達成するための尊い犠牲の一つなのだろう。今ままでALPHAと戦ってきて失った命たちと同様に仕方のない死だ」
「そんな、ひどい。今まで信じてついてきたのに。大垣さんを信じてついてきた人間やヴァンパイアを裏切ってなんとも思わないんですか! やってることはALPHAの連中と変わらないじゃないですか」
「自分が今までやってきたことの意味を私は十分に理解している。そして、何ひとつ後悔をしていなんだよ」
大垣はしばらくタッチパネルを操作すると、何も迷うことなく「START」と表示された画面をタッチした。
すると、部屋中に低く唸るような機械音が鳴り響き始めた。
「再起動までまだ時間があるから最後に話そうか。モラドについて、あの日記の内容について」




