第108話「京骸、美波 VS A、キース『Aという名』」
京骸の2本の青く輝く刀と鬼化したAの紫に輝く鉄扇を交えて刀と鉄扇越しに睨み合う。
「京骸、お前もALPHAに来い。その強さをモラドなんかで使うにはもったいない。あALPHAにはお前の強さを正当に評価してくださるお方もいる」
「いい加減にしろ。お前みたいなやつをモラドから出したのは俺たちの失態だった。ここでお前を処分する」
京骸は鬼化しているAに力で負けることなく、鉄扇を振り払いAの腕に刃を立てAは刺された腕を抑えて苦しそうにしている。
「容赦ないな鬼化してもお前にはまだ足りないのか。でもな、いい加減にするのはお前たちの方だ。お前たちが信じる大垣は本当にお前たちの味方だと思うか?」
「何言ってる。お前は大垣さんのこと何もわかってないだろ」
「果たして、そうかな? 俺がモラドを追放されたことだってどう考えても大垣の都合の良いように働いたとしか思えない」
「お前がモラドの人間を襲ったから大垣さんに追い出された。だから、大垣さんのことを恨んでんだろ?」
Aは京骸が言うことに不敵に笑って聞いている。もはや過去の出来事なんて開き直っているかのようだった。
「そうか。そうだよな。お前らにはそれしか聞かされてないんだな。わかった、俺らはモラドとALPHAの関係だ特別に教えてやるよあの時のことを」
◇
俺は大垣さんに会った時から大垣さんのことを心から尊敬していた。
争いの絶えないこの世界にうんざりしていた俺だったが、モラドにいるヴァンパイアや人間の雰囲気を見て明るい未来を想像した。だから、俺は大垣さんにモラドに入らないか聞かれた時、即答で首を縦に振ったんだ。
「えっと、まだ名前を聞いていなかったね」
俺と大垣さんは地上の洋館の中の大きなテーブルを挟んで話していた。この部屋には人間である大垣さんとヴァンパイアである俺が1人。さすがモラドの代表、人間がヴァンパイアと一対一で話しているのに全く動じない。
「名前は…ありません。生まれた時から親がいなくて」
「そうか、今まで大変だったね」
大垣さんはまるで自分が俺と同じ状況で育ってきたみたいに悲しそうな顔をした。そして、大垣さんは一度テーブルの上に下げた視線を上げて再び俺を見る。
「そうだ。今、君の名前を私たちで決めようか。う〜む、何がいいかな?」
大垣は何か面白そうに笑い、目を輝かせてそう言うと次に顎に手を当てて俺の名前を思案し始めた。
俺の第一印象から思いついた名前を大垣さんはいくつか上げてくれた。
俺もしばらく悩んだ。生まれてから1人で生き抜いてきた俺は誰かと名前で呼び合うような状況になったことがないからだ。今更自分の名前なんて…そう思った。
「Aでいいです。簡単で呼びやすいですし、自分の存在なんてそこらへんのヴァンパイアと変わりませんから」
大垣さんは「本当にそれでいいのかい」とまだ何か物足りなさそうで、何か他に名前はつけられないかまたいくつか候補を上げたが俺は断った。
俺は「A」でいいと大垣さんに頼み込むと大垣さんは「君が決めたことならそれでいい」と満足そうな表情へ変わった。
それから、俺がモラドに入ってから今までみてきた世界が変わったようだった。今まで日々を生きるために戦ってきたが、モラドでは同じ目的で戦う同志たちがいる。この生活がずっと続けばいいとあの時までは思っていた。
ちょうどモラドの交流会が始まった時だった。地下世界からも地上からも人間とヴァンパイアが同じ屋根の下で充実した時間を共有していた。
俺はモラドに入ってまだ日が浅く広い洋館の中をあまり知らなかった。だから、地面のすぐ下にあんな古びた書斎があることも俺は知らなかった。
慣れない人の多さに疲れて俺は洋館の裏庭を散歩している時、小さな穴が空いているのに気がついて、不審に思った俺はそれを覗き込んでみると、中にはどうやら部屋らしい空間が広がっていた。
俺はその穴を自分が入れるほどの大きさにまで広げて中に入ってみると、そこは、豪華な洋館とは一変して古びていてカビの匂いもする四畳半ほどの広さの書斎があった。
部屋の中を見渡してみると四方には本がびっしりと詰め込まれた本棚が並んでいて部屋の中心に机がある。
俺はその机の一番上の引き出しを開けてみた。すると中には、年季の入って紙が茶色に変色して、所々虫食いだろうか? 破れている薄い書物があった。
「大垣…日記?」
かろうじてそれだけ読めた。昔の人の字は同じ日本語でも読み取りづらいが、なんとなくで読み取ってみるとそんな文字が書いてあるようだった。
「大垣さんの日記かな? 何書いてあるんだろちょっと見てみよ」
俺はしばらくその日記の内容を読める範囲で読んでいた。夢中になって読んでいたから後ろに人が立っていることに全く気が付かなかった。
「こらこらA、人の日記を勝手に読むなんてよくないぞ」
「あ、すいません大垣さん。たまたま、見つけちゃったんでつい。気をつけます。ハハハ」
俺がその日記を引き出しに戻して大垣さんが入ってきたドアからその部屋を出ようとした時だった。
「A、その日記どこまで読んだかな?」
「半分も読んでないと思います。でも、昔の人の字は僕にはよくわからなくて正直何が書いてあったのかよくわかりませんでした」
いや、本当はわかっていた。だから、こそ早くこの場を去りたかったんだ。
俺は一旦落ち着こうと洋館にある自分の部屋に入ろうとしてドアを開けた。その瞬間だった。
ドアを開けてまず俺の視界に入ってきたのは血だらけの人間の女性だった。俺が入ってくるのを待っていたかのように俺の姿を確認すると俺の胸に向かって倒れ込んできた。
「きゃあ!!」
部屋の前を通りかかった使用人がその光景を見て悲鳴を上げた。その声につられて人間もヴァンパイアも俺の部屋に集まってくる。
「A、お前」とモラドの1人のヴァンパイアが俺に言う。
「ち、違うこれは俺じゃない。本当だ、ドアを開けたらこの人が死んでてて俺に倒れかかってきたんだ」
「その証拠はどこにある? その人間からはお前の匂いを強く感じるぞ」
俺はこの状況を打破できるほどの証拠も、味方をつけるほどの人望もなかった。
すぐに連堂に呼び出されその部屋には大垣さんと京骸がいた。初めに連堂が口を開く。
「A、動機はどうであれお前が行った行為はモラドでは重罪だ。よって、弁明の余地はない」
「そ、そんな。俺はやってないですよ。大垣さん、信じてください」
「A君、君がやったとは信じたくない。けれど、証拠も出揃っているし、亡くなった女性からは君の歯形も検出された。監視カメラには君が部屋に入る映像も残っている。これは揺るぎない証拠なんだ。それとも、私たちを納得させるだけの証拠を提示できるかな?」
呆然とする俺に連堂は容赦無く俺に言った。
「ここのルールは知ってるな? モラド内で人間に手を出したら永久に追放する
。よってお前は今日から、いや今この瞬間からモラドではない」
希望が崩れ去っていく音が聞こえた。
俺はあっという間にモラドを追放されて気がつけば地下世界にいた。そして、なぜだかわからないが、地下では俺の名を知っているヴァンパイアが何人かいて俺はそいつらに何度も命を狙われた。かなり強い敵だったが、なんとか返り討ちにしてやった、だから両目の視力を失っただけで済んでよかった。
急にこんなことが起こるなんて、きっと大垣が仕組んだに違いない。あの時の出来事で気になるのはそれだけだ。カメラは大垣が仕組んだことで間違いない。俺は実際あの時間に部屋にいなければ、大垣はIT企業の社長と繋がりがあることも聞いていた。だから、監視カメラの映像を作ることなんてどうってことない。
それよりも、気になるのはあの日記だ。あの日記には一体何が書いてあるんだ? まるで、タイミングを知っていたかのように、モラドを追放されてからもなぜか俺のことを襲ってくる奴らがいた。どう考えても仕組まれてるとしか思えない。
俺はこの日以来、今まで味方だと思っていた大垣、そしてモラドと言う存在を疑うようになった。そして、俺と同じことを考えていたヴァンパイアは俺だけではなかった。
「A君。君の考えは正しい」
そう俺に言ったのは、中性的な顔立ちに綺麗な銀の髪色でヴァンパイアにしては珍しい鮮やかな青色をした瞳を持つヴァンパイアだった。
モラドに対して不信感を抱いていた俺はルイと名乗ったヴァンパイアの言うこと聞いて、それに共感した。いや、この世界で共存なんて夢物語を語る不気味な集団よりもルイの言う目的の方が現実的な気がしたからだ。
ALPHAに入ったのは大垣への復讐でもあり、ルイ様についていきたいと思った忠誠心でもある。
ある時ルイ様と手合わせさせていただいた時だった。
「A、君は強いんだね。ALPHAの中でも4番目に強い」
「では、ケニーとランクを変わることはできますか?」
しかし、ルイ様は首を横に振った。それもそのはずだ、ルイ様が何を言うか俺には想像できた。
「Aのことは仲間として信頼してる。でも、元モラドにいたヴァンパイアだ、まずは周りの信用を集めてほしい」
「というと、何をすればよろしいでしょうか?」
ルイ様はその綺麗な瞳を細めて少し笑って言った。
「人間を殺してくれる?」
ルイ様が言うなら何人でも殺す。俺にはその覚悟がある。
だから、俺はルイ様のために尽くしてきた、そしてこれからも俺をどん底から拾ってくれたルイ様のために戦い続ける。
ルイ様は影みたいな俺に生きる意味と目的を与えてくださった、尊敬できるお方だ。




