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落雷ブレイブガール!~TS転生勇者、子孫に惚れられる~  作者: もぬ
輝きの王都 / あなたのともだち
32/63

32. パーティーを組もう

 緑色のつややかな塊に向かって、剣を振り下ろす。


「うおっ」


 ぶよぶよとした感触。なんと、刃は通らず弾かれてしまった。

 なるほど、Cランクの“スライム”。物理攻撃に凄まじい耐性を持っているらしい。魔導師がいるパーティーでなければ依頼が受けられないのは、このためか。

 この粘性の不定形生物をやっつけるには、雷撃で焼き尽くしてしまえば良いだろうが……ちょっと、技の実験台にでもなってもらおうかな。


「はっ!!」


 剣に雷を宿す。これでも攻撃力は十分だろうが……

 オレは金色に輝く刃を、そのまま腰に下げた鞘に収めた。


「イガシキ、炎を貸してくれ」


 鞘に沿えた左手に、熱を感じる。

 ゆっくりと蠢く敵を見据え、柄を握る右手に力を込めた。


「名付けて……炎雷剣!!」


 つるぎを解き放つ。

 敵を穿つのは、金色の魔力の輝き――だけではない。電撃の閃きに混じって、赤い炎の魔力が刃に渦巻いていた。

 刃から放たれた2種の魔力はそのまま敵を舐めるように溶かし、スライムの身体を消し飛ばす。それはうまくコアを砕いたようで、彼はそのまま地面に染み込むように消えていった。

 魔物の遺した魔力のつぶが、首に下げた青い石に吸われていく。これで、討伐は完了だ。この加工魔石をスタッフに提示すれば、報酬を貰うことができる。

 さて。

 ……これは、なかなか使える技ではないだろうか? ただ雷の魔法剣を使うより、さらに威力が増していたように思う。それにイガシキが溜め込んでいた魔力を使っているからか、威力に対して自前の魔力の消費が少ない。

 彼の機嫌が良いときしか使えないという、あまりにも酷いデメリットのぶん、高性能である。必殺技たりえるのではないか。

 さあ、もう戻ろうか。オレは剣に乗った魔力の残光を振り払い、ゆっくりと鞘に収める。


『おい。やはり今の術技はうまくないな』

「ん?」


 格好良く決めたつもりだが、仕事仲間が口を挟んできた。

 今の魔法剣は、こいつの力によるものだ。以前火魔と戦闘した際に、彼がこっそり吸収していた炎の魔力。それを少し貸してもらったものである。その本人が何か意見があるというなら、耳を傾けるべきだろう。


『火炎は雷電と違ってオレの鋼殻には馴染まない。あまり多用すると、肝心なときに刃が溶け落ちるぞ』

「むむ……そうか」


 他でもない、刃にいつもしがみついているイガシキの言葉だ。剣の損耗状態にはオレより詳しい。鞘には刀身を回復する効果があるが、イガシキの貯めている魔力にも限界はある。あと、機嫌の良し悪しもある。あまり頼りすぎるものではない。

 珍しく助言などしてくれたのだから、聞き入れよう。炎雷剣を使うのはここぞというときのみだ。


「ふふ」


 討伐依頼をひとつ終え、王都の方へと身体を向ける。思わず漏れた笑いに、腰のやつが反応してきた。


『何を笑っている、人間』

「いや。少し、お前と仲良くなってきたかもしれないと思って」

『……バカを言うな。おぞましい』


 機嫌を損ねてしまったようで、また剣が抜けなくなる。気難しいやつだ。

 まあ、頑固なテルマハと比べれば、合理的な性格で付き合いやすいと思う。




「ん~」


 ギルドに寄せられる依頼が雑多に張り付けられた掲示板を眺め、唸る。

 オレはD級のハンターだが、探すのはCランクの魔物討伐依頼だ。本来ならば自分のものより上の階級の依頼は受けることはできないが、特例措置によりこれを認めてもらっている。

 討伐は命がかかっている分、報酬や評価が大きい。ハンターとしての名声を求めるのならば積極的に挑むべきだろう。

 しかしまあ、やみくもに依頼を受けていくのは効率が悪い。選り好みすべきだ。目を皿のようにして探しているのは、王都からそう離れていない場所が戦場になりそうな討伐依頼である。その方が早く終わらせることができるからだ。

 ……しかしそろそろ、やり方を変えた方がいいかもしれないな。王都の近場というのはやはり王のお膝元であるゆえか、人間たちの力が強く魔物の討伐依頼なんてものは少ない。オレは今、単独行動で荷物もほぼ持たず、現場と王都を常に往復しながら魔物狩りをしているのだが、国内の各地に現れる強力な魔物たちに目を向けるなら、これは効率がいいとは言えなくなってくる。

 慣れてきたハンターは複数の依頼を同時に受注し、国内をあちこち回って魔物を退治しながら王都へ戻ってくる、という方法をとるようだ。こちらの方が何度も王都と往復するよりも良い。

 だがこれをやるならしっかりと“旅”の準備をしないといけない。広い領内を回るとはそういうことだ。身体を休めるための町や村の位置も考慮しなければならないし、それができなければ野宿もすることになる。

 少々面倒だ。そこまで真面目に退治屋の仕事をやっていくなら、そろそろ仲間のみんなのパーティーに入れてもらいたいところだった。

 そのためには、Bランクくらいまでは自分の階級を上げないとな。


「おっ」


 王都近辺という文字を見かけた気がして、ある依頼書に手を伸ばす。

 とりあえず仲間に合流できる階級になるまではこうして、地道に働くしかあるまい。その間に王都の事件の方も進展があればいいが。

 用紙に手をかける。

 ……しかし、それにかけられた手は、ふたつあった。


「ん?」

「えっ?」


 気付かぬうちに隣にいた、その人物に目を向ける。

 少し驚いた。

 知り合いだったわけではない。初めて見る少女だ。ただ、その容姿が、非常に人の目を引くような美貌だった。

 腰まである絹のように美しい髪は、珍しい銀の色。目は長い前髪に隠れていてよく見えない。そのせいかどこか内気な印象だ。だというのに、鼻や唇の形だけで、その容貌は美しいと言えてしまう。不思議だった。

 儚げな雰囲気で、なんとも現実感のない、幻想的な容姿の少女である。美しい少女には見慣れているつもりだが、思わず息を呑んでしまった。


「あ、ごめんなさい。どうぞ……」

「……い、いえ。そちらに譲ります」

「え? えっと」


 甘く可愛らしい声で、少女が言葉をつむぐ。

 それで現状を思い出した。どうやら見繕った依頼書が彼女と被ってしまったようだ。特別こだわりもなく、他を探せばいいので、こちらが手を引く。

 何か言いたげな彼女から距離を開け、掲示板に向き直る。

 ……しかし、やはり隣の少女が、どうにも気になってしまった。

 横目にちらちらと様子を盗み見る。彼女は依頼書を興味深そうに読み込んでいる。背格好と顔のあどけなさからして、自分と同年代のようだ。服装は質の良さそうな綺麗なものを羽織っており、良いところのお嬢様を思わせる。……その特徴のどれもが、ギルドのハンターという荒くれのイメージと結びつかない。

 もしや依頼者の方だろうか。掲示板を見学でもしているだけかもしれない。だったら、彼女がその手の依頼書を戻すのを待ってしまおうか?


「……あ、あの」

「………」

「あのッ!」

「へっ!? な、なんですか?」


 掲示板を眺めながら、ぼうっと少女がいなくなるのを待っていると、当の本人から突然声をかけられた。か細い声を絞り出してきたのでちょっと驚いた。

 なんだろう。ギルドの案内でもしてほしいのかね。

 少女は両手で依頼書をこちらに見せつけ、震える声で話しかけてくる。


「こ、この魔物なんですけど。結構強いみたいなんです。Cランクの中でも報酬が多いみたいで」

「はあ」

「あ、あの、その。私と、組んでくれませんか! ひとりじゃ難しそうで」

「組む?」


 ……なるほど。なるほどなるほど。こうして勇気を出した声かけから、冒険者はチーム活動へとうつっていくものなのか。

 彼女の提案は具体的に言うと、自分と共に同じ依頼に挑み、報酬を分けようということだ。昔から言うところの“パーティー”というやつである。どうやら依頼者ではなく、れっきとしたハンターだったようだ。

 個人に入ってくる報酬が減るかわりに、その恩恵は大きい。ある仕事に独りで取り組むことと二人で取り組むことはまったく能率が違う。これは魔物退治においても同じことで、各々の得意分野を活かせば格上の相手でも殺しきることができるようになる。

 今までの旅の中でも散々実感してきたことだ。

 これは、ありがたい話だ。ギルドの知らない人間をこちらから仲間に誘うなど考えもしなかった。交流も広がって情報を得やすくなるし、オレ達の本来の目的を考えればメリットが多いのでは。

 もちろん、初対面の人間との連携に不安はある。そもそもこの子、戦えるのだろうか? 護衛役をつとめろという話ならば遠慮したい。

 ついじろじろと無遠慮に見てしまったのを不安に思ったのか、彼女はおどおどとした態度でなんとか口を回し始める。


「わ、私、魔法術が得意なんです。ケガを治せるし、遠くから魔物を攻撃できます。その、だから、前衛の人がいると、すごく、あの」


 こちらが何を考えていたのか概ね察していたようで、彼女は自分のアピールポイントをとつとつと語る。なるほど、魔導師か。

 話しながら彼女はちらちらとオレの足元に視線をやる。いや、あれはどうやら、腰の剣を見ているらしい。彼女なりの打算があって声をかけてくれたようだ。

 果たして実力はどうなのかとか、なんでこんな少女が退治屋を? とか、こちらもいろいろと不安に感じる部分があるが。……そうやって一生懸命にされると、無下にはできない。

 自分にとってもひとつの経験だ、この話に乗らせてもらおう。


「あと、当面はランクを上げられれば良くて。報酬の取り分はそちらが優位でいいので、それと」

「わかりました。いいですよ」

「私、あの……えっ?」


 笑みをつくり、手を差し出す。

 彼女はきょとんとして。やがて、嬉しそうに両手で握り返してきた。まるですべてがうまくいって終わったかのような表情に、苦笑してしまう。仕事はこれからなのだから。


「ミーファ・イユです。あなたは?」


 長い前髪の下から、ついに彼女の目が見えた。長い睫毛に縁取られた大きな眼。瞳の色は、金だ。


「マリンです。マリン・スモール。……よろしく、お願いします」





 マリンさんと共同で受けた依頼の魔物は、話によると4足歩行の素早いやつらしい。猫か犬のたぐいに近いヤツだろう。なるほど、素早い魔物となれば、魔導師ひとりでは相手が難しい。ティーダのような防御に秀でた術の使い方をすればうまくカウンターもとれるのだろうが、あれも並の術師にできる芸当ではないし。

 王都周辺の平原をしばらく西へ行くと、岩がまばらに転がるやや荒れた平野になる。先に進んでも人にとって有用な資源があるわけではないため、整備が遅れているのかもしれない。

 大きな岩は魔物たちが姿を隠す恐ろしいものでもあるが、こちらが身を隠すための遮蔽物にもなり得る。

 オレ達は岩の陰に身を屈め息を殺し、やがて静かに、ヤツの姿を覗き見た。


「間違いない。あれだ」


 小声でつぶやく。依頼書に描かれた姿や、受付嬢さんから聞いた情報に合致する。

 4本の足で地を掴み、鋭い牙や爪で人間を襲う獰猛な魔物。猫というよりは犬の方……狼の仲間に類する姿だ。

 ここからは殺し合いだ。とりあえず、マリンさんにはあまり無理をしないように言い含めてある。

 正直大抵の魔物はオレ一人で十分だ。彼女にもそれは言ってある。敵の注意が彼女に向けば危険なので、本当にオレがピンチの時以外は攻撃に参加しない方が、安全にことを進められるだろう。

 ……しかしまあ、さすがにそれは過保護というか、彼女に失礼な意見だ。何せマリンさんのランクはC級。オレの先輩である。

 ここまで地道に戦い続けてきた実績がある。ならば身を守る術だってひとつやふたつはあるだろう。もしも彼女が魔物の注意を引いてしまうようなことがあれば、それこそチャンスとして捉え、オレが後ろから斬り殺してしまえばいい。

 本人の言っていた通り、前後衛で役割分担して、魔物に挑もう。


 顔を見合わせ、頷く。鞘に手をかけ、オレは岩陰から躍り出た。

 狼は向こうを向いている。先制攻撃で終わらせるつもりでいく――!


「!?」


 なんと。

 剣が抜けない。

 内心舌打ちをしながら、オレは敵の懐へと飛び込む。魔力を右手に集め、剣の形にして解き放った。

 雷撃が獣の体毛を撫でる。……その身体には、ほんの浅い切り傷しか与えられていなかった。


「何……!?」


 耳をつんざくような咆哮。狼の遠吠えとよく似ている。不意打ちに激高した敵が戦闘態勢に入ったのだ。

 振るわれる前足の爪を、大きく後退してかわす。同時に雷の槍を投げつけた。

 よく目を凝らし、観察する。金の雷撃は、やつの体表面で弾かれている。ダメージが十全に通っていないのは明らかだ。

 思い当たる可能性を考える。雷属性、あるいは土属性を帯びた体毛、または魔法障壁。事前に得た情報には無かった防御能力だ。警戒すべきはスピードのみだと考えていたが、違った。C級の魔物でも上位になってくると、こういうこともあるのか……!

 やつを殺すには、より出力の高い技で攻めるか、他の属性を試さなければならない。……情けないことに、どちらも剣が無いと難しそうだ。今こそ例の炎雷剣の出番だというのに。

 今さらな話だが、もう一本、地魔の剣が使用不能になったときに備えて剣を持っていた方が良いか――


「ちっ」


 爪が腕をかすめた。肌を裂かれる痛みに視線を誘導され、赤い血が少し流れているのを把握する。

 この傷からわかったことがある。やつはオレの纏う障壁を突破した。雷の属性に有利な、地の魔力を帯びた爪である可能性が高い。

 腹が立ってきた。こいつは相性が有利だからといってオレを馬鹿にしているに違いない。こちらを睨み牙を剥いているあの口元も、にやにやと笑っているような気がする。

 冷静な分析は大事だが、相性不利など知ったことではない。獣の一匹も倒せないなど、雷の勇者として恥ずべきだろう。

 拳をスパークさせ、敵を睨みつける。魔力を溜めて、大技を食らわせれば!


『ギャウッ!?』


 やつが地面を蹴ってこちらへ飛びかかろうとした、そのとき。何かが光り、巨大狼が悲鳴をあげて怯んだ。

 思わずそちらを見る。……マリンさんが、指をこちらへ真っ直ぐに伸ばしていた。


「アローレイ!」


 彼女の指から熱線が奔る。それらは正確に魔物へと命中し、苦しむ様子を見るに、確実にダメージを与えているようだ。

 ……すばらしい働きだ。オレの窮地をしっかりと援護し、しかも術の威力は一線級のもの。侮っていたことを、後で謝らないと。

 少し頭が冷える。今は、ひとりで戦っているわけではないのだ。

 魔物が低く唸り声をもらす。その眼は、岩の傍に現れたマリンさんへと向けられていた。標的が変わったか……!

 全身の筋肉が緊張する。すぐにマリンさんの前で立ちふさがり、彼女を庇うか? いや、いますぐコイツに攻撃を加えるのがいいか。しかし体感的にまだ、魔力の溜めが十分ではない。

 視線が、彼女のものと交錯する。

 前髪から覗く眼が、力強くオレを見つめ返している。彼女は銀の髪をなびかせ、小さく頷いた。

 狼が少女へ殺到する。細身の彼女は、あの大口で噛みつかれればひとたまりもない。

 だけど。オレは彼女を、信じることにした。


「スピアレイ!」


 目の前に迫る魔物を前に、あの子は勇気を見せた。素早く振り下ろされた手には、大きな魔力が猛っているのがわかる。

 鋭く光る獰猛な牙は、しかし彼女には届かない。やつは虚空から落ちてきた槍に顔を貫かれ、強靭なあぎとを地面に縫い留められた。これでもう、人間を食い殺すことなどできないだろう。

 地面に伏した格好の魔物に、ゆっくりとにじり寄る。あとは彼を大地に還してやるだけだ。

 バチバチと腕の魔力が弾ける。この金色は、純度の高い雷属性の色。

 そして。彼女の腕に宿る眩い白の極光は……今まで見た、どの術とも違う。つまり、おそらく。

 光属性の、攻撃術だった。


「……雷神剣」

「ブラストレイッ!」


 光が魔物を飲み込む。

 後に残っていたのは、やつの身体を構成していた魔力の粒子だけだった。


「ふう」


 肉片ひとつ残さず焼き尽くされた彼に、内心で祈りを捧げながら息をつく。

 全く、思ったより苦戦させられた。それもこれも、オレの腰で居眠りをしているだろうコイツのせいだ。

 鞘を指ではじく。まあ、武器に頼るなどやはり人間は弱い、などとイガシキは返してきそうだが。そうなると正直言い返せない。

 どうしたことだろうか。ハンターの仕事をしている間、最近の彼はあまり土壇場でこうなることはなかったのだが。いざ苦戦しそうな敵が出てきたときにこれとは、まったく良い性格をしている。


 息を整え、討伐対象の粒子を魔石に吸い取らせながら――横目に、彼女を盗み見る。

 今の魔法術。間近で見てわかったが、オレの雷撃に匹敵する威力が確かにあった。

 珍しい攻撃術を使う。仲間たちの技とも、前世で見た闇の魔法術とも異なる属性だった。……消去法で考えれば、やはり“光”の術だったということになる。


「あの、ミーファさん。腕を見せてください。回復の術をかけます」

「ん? ああ、ありがとうございま――」

「治りました」

「――す?」


 自分の腕を見る。不覚にも敵にやられた、不名誉な傷がそこにあるはずだった。

 それがない。たしかに一瞬、その部分が温かくなったが、彼女が修復したというのか? ものの数秒で?

 自分が唖然としてしまっているのがわかる。彼女は不思議そうにこちらを見たあと、恥ずかしそうにうつむいた。


「す、す、すみません。ミーファさんが怪我する前に、援護できなくて」

「い、いえ……」

「あの……ありがとうございました。私ひとりじゃ、うまく攻撃を当てられませんでした。ミーファさんが引きつけてくれたから」

「とんでもない。こちらも助かりました」


 会話をしながら、彼女が放つ気配に五感を、それ以外の感覚をも傾ける。

 高威力の魔法術。凄まじい治癒術の腕前。月や太陽の光を返す美しい髪と瞳。

 まさか……。


 来た道とは違い、ふたりで会話をしながら帰る。共にひとつの戦いをくぐり抜け、少し距離が縮まったように思う。

 彼女は見てわかるように引っ込み思案だが、仕草は可愛らしい。それに確かな実力と芯の強さを隠しているようだ。

 良ければまた一緒に、仕事をしてみたいと思う。そう話すと、マリンさんも賛同してくれた。

 そんなふうに、話をしながら、ずっと。

 オレの目は、手袋に隠された少女の手を見ていた。


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