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落雷ブレイブガール!~TS転生勇者、子孫に惚れられる~  作者: もぬ
輝きの王都 / あなたのともだち
30/63

30. ヤエヤ王国・王都

 ヤエヤ王国は、ヤエヤ地方に点在する人里を領土として法を敷く、長い歴史を持つ王国である。

 自然の恵みが豊かな土地と、堅実な王の治世によって、国民の生活は満足のいく基準を満たしているという。強力な魔物が流れてきやすいにもかかわらず、国を出ていく者は少ない。有能な王宮騎士たちや衛兵、強者ぞろいのハンターたちが人々を守るからだ。

 生活の充実は、国民をさらに次の段階へと進ませる。王都には大規模な教育機関である王立学校が存在し、教育の機会を充実させることで有能な人材を育て、さらに国が豊かになっていく。

 以上のように、ここヤエヤ王国は、現段階では成長著しく幸福度の高い国だと言えるだろう。


 門番と挨拶を交わしたのち、噂に名高い王都の入り口をくぐる。

 人々が生活を営む城下町の、奥のその奥。大きくそびえたつ白亜の王城に目を引かれ、オレ達は誰からともなく感嘆の声を漏らした。

 となりではユシドが珍しく目を輝かせている。オレはこういった王国には立ち寄ったことはあるが、この少年には初体験だったのだろうか。それとも、オレ達の出身地であるナキワ地方の王都とでも比べて、より荘厳なつくりのヤエヤ城に感じ入ったのかもしれない。

 歴史の長い国というものは観光のし甲斐があるというもので、城が民に解放されているならばそこを見て回るのも楽しみだ。また、これまでに訪れた町もそうだったが、人々の服装や家の形にも文化の違いがある。しばらくの間は、散策するだけでも充実した時間を過ごせることだろう。

 ……もちろん、目的を忘れてはならない。


 オレ達は門から続く大通りを進み、田舎者の丸出しのしぐさを隠さずきょろきょろとあちこちに目を向ける。

 まずは滞在の拠点となる宿屋を探す。広い都市にはいくつもの宿泊施設があるはずだが、その中からとりあえず当面の寝床となるひとつを見つけられればいい。よほどダメそうな宿でなければ、最初に見つけたところで決まりだ。バルイーマのように祭の時期でも無いなら、空きはそう苦労せず見つかると思う。

 そこに宿泊しているうちに、別のより良い宿を見つけて移ることもあるかもしれないが、それはまたしばらく後の話になるだろう。

 そうして街を練り歩くうちに、宿屋をふたつ見つける。目の前にある建物と遠くに見える看板、どちらを選ぶかを4人で協議。多数決というほんの数秒間の話し合いを終えたオレ達は、目の前の宿屋を今一度見上げる。屋根の高さからしておそらく二階建てであり、かつ土地面積も広く、外観は王都の小綺麗な雰囲気に溶け込んでいて印象が良い。

 荷物や鎧、武器をかちゃかちゃと鳴らしながらそこへと入っていく仲間たちを見て、オレもまた後に続いた。


「4人分の宿をとりたいのですが、部屋に空きはありますか」


 ユシドが受付の若い女性に尋ねる。

 オリトリ亭は酒場と兼業だったが、内装からしてここは違う。これだけのスペースをすべて宿屋として使っているなら、浴場の存在は期待できるかもしれない。


「4名様であれば、2人部屋がふたつ空いています。いかがでしょうか?」

「……では、それで」


 ユシドは我々の顔を一通り眺め、反対がないのを確認してから受付の言葉に頷いた。

 帳簿に名を記入するユシドの字を横から眺めながら、シークがにこにこと笑う。


「じゃあ、部屋割りはわたしとティーダさん、ユシドさんとミーファさんですねっ」

「え?」

「はっ?」


 突然の言葉に反応して出た声が重なり、思わずユシドと顔を見合わせる。

 ……同じ部屋だって? それは、まあ首を横に振るようなことではないが、しかし今は、その。


「いやいや、男女2-2で分けます。だよね、ミーファ?」

「あ、うん……いや、そうだとも」

「おや。いいのかミーファちゃん」


 いいのか、とは?


「ちょっ! なんで怒るの。おじさん確認取っただけだぜ? バルイーマのときはユシド君と同じ部屋が良いってごねてただろー」

「それは……」


 それは、そうだが。……男女が同じ部屋で寝泊まりなどよろしくない。そういうものだろう。いちいち確認をするな。

 ……ああもう、認めてやる。

 二人きりになんてなったら、さすがに気が気じゃない。満足に休めもしなくなる。

 少し前の自分のように、ユシドを同室に誘うなど、もうできない。ただの友人や師弟ではなくなってしまったのだから。


「あ、あんたこそ。シークと二人一部屋なんてどうなんだよっ。いいのか?」

「あー確かに、お子様と同じ部屋だと気を遣うなあ」

「お子様!?」


 視界の端で、シークが何やらショックを受けていた。苦し紛れに意地の悪いティーダへと反撃を試みたのだが、どうやらそれはうまく受け流され、こちらに刺さったらしい。

 そんな言い合いをしているうちに契約は済んだらしく、ユシドが部屋の鍵をひとつ、オレに投げ渡してきた。

 ほんの一瞬だけ、目が合う。

 ……やはり、同じ部屋というわけには、いかないよな。

 オレは踵を返し、玄関の端で膝を抱えているシークを猫に見立てて持ち上げ、そのまま荷物のように担ぎ、二階に続く階段を上る。彼女の大事な剣はティーダに任せておく。


「重っ」

「重い!?」


 シークは小動物のような見た目に反して、そこそこの体重がある。魔力による身体強化があったとしても、あのような大剣を片手で振り回すのだから、相応の筋肉がこの細く見える身体に詰め込まれているはずだ。

 別にけなしたつもりはないのだが、シークはまたしてもショックを受けていた。そういうお年頃ということか。

 鍵に振られた番号を確認し、目的の部屋を探し当てる。

 扉を開くと、ストレスのない広さと清潔さの保たれた、一等の寝室があった。王様のお膝元の宿屋だけあって、いい仕事をしている。

 ふかふかのベッドにシークを叩きつけると、彼女は久々の柔らかい寝床に嬉しそうな顔をする。

 オレは装備を外し、ガントレットやブーツに蒸らされていた手足や、首や胸元の汗を拭く。あいつと同じ部屋ではこのように素肌をさらすことはできない。この部屋割りで正解だろう。

 そう思いながら涼んでいると、シークがこちらをじろじろと見ているのに気が付く。何故か知らんが、妙に顔が赤い。


「シークのエロス」

「エロス!?」


 だって君の視線、脚とか胸元に感じるんだが。同性だからってそうまじまじと見るなよ?

 背中とか。


 さて、今日はもう魔物などと戦う予定はない。戦闘装備は身につけずともいいだろう。剣だけはどこにでも持ち歩くようにしているため、宿に置いていくことはないが。

 ここでしばらく休憩したら、観光でも……と、いきたいところだが。

 我々がこのヤエヤの王都へやってきたのは、光の勇者探しと、魔人族領への通行証を発行してもらうためだ。前者は地道に進めるしかないが、後者ははっきりとやることが決まっている。街並みを楽しむ前に、まずは王都の行政に赴いて、手続きなり審査なりをすべきだろう。

 部屋の窓を開けると、涼しい風が入ってくる。そこから少し身を乗り出し、左の方を見ると、あの大きな王城が見えた。

 あれだけ大きな敷地だ。王政府はやはり城内に設けられているだろう。もう少ししたら、みんなで向かうとしようか。





 ティーダやユシドが言っていた話だが、魔人族の領土に行くのに王国の許可が必要なのは、向こうの魔物がこちらの地方のやつに比べて強力だから、という理由らしい。

 たしかにオレの記憶でも、あそこの魔物は強く、また数も多い。200年も前の話だが。情勢が変わっていないのなら、国民を死地にあっさり通すわけにもいかないため、そのような決まりになっているのだろう。

 ちなみに、王都に腕利きのハンターや兵がよく揃っているのは、向こうの強い魔物がこちらへ流れてくることがあるからだという。


 宿を出たオレ達は、まるで山のように大きい王城のふもと、もとい、正門へとやってきていた。

 大昔は魔物や敵国の侵入を阻んだことだろう、頑健なつくりに豪奢な装飾が施された城門がそびえたっている。ひとしきり感動してから、門を守る兵たちに声をかけた。


「やあ、おはようございます。王城へはなんのご用向きですか?」

「ええと。魔人族の領土へと向かう大事な用がありまして。通行の許可を頂きたく参りました。政務官……というか、担当の機関はこちらにありますか」

「ええ、たしかに、そういった話であればこちらで伺うことになっていますが……」


 それはよかった。さっさと済ませてしまいたい。

 そう思ったのだが。どうも雰囲気が変だ。二人の門兵は顔を見合わせ、困った様子の顔をこちらへ向けてきた。先ほどの兵の相棒の方が口を開く。


「すまないが、今は通行許可の申請等には対応できかねるんだ。……文官たちの仕事が忙しくて、手が離せなくてね。しばらく後に来るといいでしょう」

「具体的には、どのくらい待てば」

「あー、っと……」


 彼らは困り果てた様子で言葉を濁す。困り果てるのはこちらなのだが。

 一体どうしたことだろう? 今になって気が付いたが、王城内部は王族の居住部分以外は国民にも広く開放されていると聞いていたのだが、誰一人ここを行きかうことはなく、門は閉ざされている。

 そして兵たちの煮え切らない物言い。……何か、あったのだろうか。

 彼らも口に戸を立てられているのか、それ以上情報を得ることはできず、オレ達は追い返される形になる。


「これからどうする、ユシドくん」

「ううーん……待つ、しかないですよね。ああ言われてしまっては」

「……ん? おおい! 君たち!」


 疑問を巡らせながら通りを歩いていると、そこに、聴き慣れた仲間たち以外の声がかけられた。呼び止めてきた人物は全身を包んだ鎧を鳴らしながら、忙しなく走り寄ってくる。

 そうしてやってきたのは……知らない人物では、なかった。

 鎧の衣装や掘られた紋章は、ヤエヤを守る衛兵たちと共通している。そして、その腰に下げた細身の剣。あの特徴的な柄と鍔は、“カタナ”だ。

 顔を見上げる。気さくで明るい顔をした青年、バルイーマで出会った闘士、イフナがそこにいた。


「イフナさん! お久しぶりです」

「ここで君たちに会えるとは。どんな用事で来たんだい?」


 ユシドと彼が握手を交わす。二人は舞台の上で剣を交えた仲だ。

 そういえば、彼はヤエヤ王国の衛兵だと大会で紹介されていた気もする。地元というわけだな。

 イフナは火魔との命がけの戦いに参加してくれた恩人のひとりでもある。勝手の分からない新しい街に、このような信頼できる人間がいるのはありがたい。


「なるほど。事情はわかった。……君たちも、どうにも運が悪いな」


 先ほど門番から追い返されたときのことを詳しく話すと、イフナは何か知っているような顔をした。彼も王の元で働いている人間のひとりだ、何が起きているのか知っているかもしれない。


「宿はもうとったのかい」

「ええ」

「ふむ。……みんな、これから俺の家へ来ないか。友人たちの、王都への来訪を歓迎したい」


 イフナはオレ達の顔を順に見て、恥ずかしげもなく言う。彼にとっては、我々はすでに友人らしい。

 悪い気は、しなかった。いや……嬉しい。一度共に戦えば友だというのが彼の考えだとして、それを勇者という怪物じみた人間たちにも適応できるのは、お人よしなのか豪胆なのか。


「それと。今この国で起きていることについて、俺が知っていることを教えよう」


 どうする? とイフナは問う。

 オレ達は顔を見合わせ、頷いた。






「少し奥で話そう」


 イフナの子どもたちの相手をシークに任せ、オレ達は彼の書斎に案内される。

 部屋の扉を閉め、聞く姿勢を整えると、彼は優しい父親だった先ほどまでの顔を変え、真剣な表情をつくった。


 イフナの口が開く。

 ユシドの声が、それを復唱した。


「――魔導師失踪事件?」



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