表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
落雷ブレイブガール!~TS転生勇者、子孫に惚れられる~  作者: もぬ
バルイーマ闘技祭 / ススの魔人
25/63

25. 舞台は炎上する

 アーサーはゆっくりと、戦いの舞台への階段を歩く。

 闘技大会・本戦第5試合。それはいわゆる準決勝戦であり、これを勝ち抜いたものは、いよいよ玉座を賭けた一戦に挑むこととなる

 残り3回の試合に向け、観客たちの興奮も最高潮に達していた。ここまで勝ち上がってきた闘士には、人々の惜しみない激励の声が浴びせられる。

 しかしその声も、徐々にアーサーの耳には入らなくなる。彼女は一段昇るごとに、己の内から不要な情報をそぎ落としていった。そうして、残すべき闘志だけを、鋭く研ぎ澄ませていく。

 やがて舞台へ上がった少女の目には、観客たちの声や姿は追い出され、生涯をかけて憎むべき敵の姿だけが、ただひとつ映っていた。

 闘士ロピカ。長い黒髪と紅い瞳、そして端正な顔立ち。それはフードを目深に被り人には見せることのない、アーサーの素顔とよく似ている。ふたりの身体が、血という強い絆で繋がっているからだ。

 だが、その肉体の中身は、いまでは違うものにすり替わっている。

 アーサーは激情にかられつつ、頭の中は怨敵を葬る算段でいっぱいだった。衆人環視の中であることなどはもう、関係がない。アーサーが今日まで生き抜いてきた理由は、目の前の敵を消滅せしめんがためだ。その後のことは、考えていない。

 そのはずだ。


 そう自分に言い聞かせ、合理的に戦いの準備に専念しようとするアーサーの脳裏を、しかし、ノイズのように“その後のこと”がよぎる。

 復讐を終えたあと。一緒に行こうと、言ってくれた人たちが、いた。


「お友達には話さなかったようね。偉いわ、シーク」

「なに?」


 ロピカが口を開く。まるで心の内を読まれたかのような言葉に、アーサーの思考が止まる。

 そして戦慄した。――なぜ、それを、こいつが知っているのか。


「ずっとあなたを見守っていたもの。ずっと、ね」


 ロピカは優しく微笑む。それはアーサーに、在りし日の母をはっきりと思い出させた。

 家族しか知らないはずのその慈愛に満ちた表情を、母の中に巣食った悪魔がさせている。そのことに、絶望の感情が頭をもたげてくる。

 そして。続く言葉は、幼いアーサーの心にとって、あまりにも大きすぎる悪意だった。


「あの頃からずっとそう。村の老人に引き取られたときも、孤児院に入ったときも。そのたびに、あなたの居場所を焼いてあげたわ」

「……え?」


 ロピカの言葉が、アーサーに染み込んでいく。

 アーサーのこれまでの数年。つらく、くるしかった。炎の魔力のせいで温かい場所にいられないことは、10にも満たない年齢の少女にとって過酷な生き方だった。だがそれは、自分で選んだことだと思っていた。

 違う。

 すべてあの日から、目の前の魔物が仕組んだことだった。アーサーがこうなるまでの長い年月など、この魔物にとっては、食事の出来上がりを待つ楽しいひとときに過ぎなかったのだ。

 目の前が、灰のように、真っ白になっていく。


「…………そん、な」

「そうだ。次は新しいお友達を燃やしましょう! あなたに安らぎなんていらないわ。強い怒りだけあればいい」

「あの人たち、を?」


 火の魔物はどこまでも、その汚らわしい炎で、大事なものを奪っていく。アーサーが死ぬまで、ずっとだ。

 力が抜けていく脚。暗い水中に沈められていくような感覚に、全身が重くなる。しかもその水中はあまりに熱くて、全身を熱病に侵されたかのようだ。

 ひとりはもう嫌だ。熱の日は誰かに、顔に冷たいタオルをあててほしかった。

 誰かの顔が浮かぶ。


「あの人を、燃やす?」


 アーサーの表情が変わる。

 少女は手を強く握りしめ、倒れないように踏みとどまった。

 思い描くのは、父の言葉に抱いた夢と、それが現実になったように現れた3人の大人たち。彼らもまた、アーサーのこれまでのように、魔物の悪意にただ塗りつぶされてしまうような存在だろうか?

 きっと、ちがう。


「あの人たちは勇者だ。お前なんかに、易々と燃やせるものか」

「……勇者だと?」


 そしてきっと、自分もそうありたい。力を持ち過ぎた化け物ではなく、誰かを救う勇者になりたい。優しかった父と母のように。

 アーサーは剣を掴み、正面に構えた。それは最初の内は、尊敬していた父の姿を拙く真似たものだったが、今では確かな力が宿っている。

 磨いてきた力は、悪鬼の腹を満たすためなどではない。打ち倒し、前に進むためだ。

 アーサーは、心を決めた。


「貴様を倒す。父と母の魂は、返してもらう」

「ふん。……何、父親? ……ああ、水の」


 魔物はいつの間にか、母親のふりをやめていた。

 しかしそれは、その邪気に満ちた魂を、取り繕わないということだ。

 母の端正な顔立ちが、悪意に歪む。


「返すも何も、あんなものを取り込んでも毒だからな。身体も魂も、灰にしてその辺に捨てたよ」

「っ―――」


 アーサーの思考が飛ぶ。

 気付けばすでに、大剣を握った手を、振り抜いていた。

 うまく狙いをつけられなかったそれは、わずかに立ち位置をずらしたロピカには当たらず、地面を激しく割り砕く。

 それが、戦いの始まりとなった。


「くく、母親にそっくりだな。男を殺したとき、そうやって激昂してきたよ。普段の私ってあんなに穏やかなのにね?」


 アーサーは何度も剣を振る。もうこれ以上その言葉は耳に入れたくはなかった。母の声まで使って激情を煽られては、頭の中に冷静な自分を置いたとしても、心はもう止まれない。

 大味な剣戟に対し、魔物は身をひるがえしてかわしていく。まるで人間のように。人間の動作を真似て、それが滑稽だと、あざけるかのように。


「そのロピカも、部屋ですやすや眠るお前を殺すと言ったら、みじめに跪いてきたがな」

「貴様あああーーーっ!!!」


 怒りを乗せた大剣がさらに振るわれ……そして、止められる。

 ロピカの背後から、立ち上がるように炎の魔人があらわれ、その強靭な腕で刃を阻んでいた。

 アーサーは、その紅い目だけが爛々と光っている魔人の容貌を認め、幼い頃の記憶を呼び起こした。


『その怒りの炎だ! それを食うために、これまでお前を生かしてきた!!』


 母の顔が狂喜にまみれ、魔人が手を伸ばしてくる。

 それを見たアーサーは、即座に状況を理解し、身を引いた。簡単に取り込まれてしまっては両親の無念を晴らせない。そう思ったからだ。

 怒りに歯を食いしばりながらも、アーサーは勝つための算段に取り組もうとつとめた。

 ……おそらく、あれが“本体”だ。あの日、厚いローブの下にいた火の怪物。自分の身を食らうために、本性を晒したのだろう。ならばあれを攻撃すれば。母の遺体を、傷つけずに済む。

 そんなアーサーの見当は、正解ではあった。

 だが。相手が本性を晒したということは、つまり、その本当の力を見せるということでもあるだろう。


「ああああっ!!」


 アーサーは左腕に魔力を集中させ、解き放った。

 大海嘯のごとき怒涛の青。予選でミーファに放ったものとは比較にならない力が秘められており、さらにそれを一体に向けて範囲を絞っている。

 魔力はもはや波の形ではなく、間欠泉のような巨大な柱となっていた。


『は。水の魔力など、捨ててしまえばいいものを』

「!?」


 水が押しとどめられている。ロピカの前に出た魔人の腕から、火柱が噴き上がり、アーサーの魔法術と拮抗していた。


『ちょうどよい。その水が枯れるまで絞り出してから、お前を食らうとしよう』


 魔力をゆるめず放出しつつ、アーサーは内心歯噛みした。

 水流に、火で対抗するなど。あの凄まじい高熱を発揮するために、あの魔物はどれほどの力を蓄えてきたのか。

 ……そのために、どれほどの人間を手にかけてきたのか。

 ぎり、と怒りを噛みしめる。身体を熱く、しかし腹の内は冷ますことを意識し、アーサーは、次の行動をしかけた。


『ち……小賢しく立ち回る』


 水の放出が終わる。辺りは2種の魔力のぶつかり合いによって発生した、高温の蒸気が霧のように立ち込め、魔物の視界をおぼろげな景色にしていた。

 目くらましからの奇襲。それは人間同士の戦いでは大いに有効であり、先に相手を捉えた方は有利に立ち回れるだろう。この場合、先に霧中へと身をくらませたアーサーが、攻勢をかけようとしている。

 しかし。アーサーの相手は、人間ではない。

 炎の魔人は、その独自の感覚器官を鋭敏に稼働させ、人間とは異なるビジョンを捉えていた。

 高温の霧に紛れて視え難いが、たしかにそれとは温度の異なる活動体が、迂回しつつ急速に接近してくる。

 そうして人体を色彩で認識した魔人は、背後から近づいてくる小さな体温の塊に向かって、腕をふるった。


『……!?』


 触れたそれはあっけなく、手ごたえもなく、崩れた。

 魔人は自分が手にかけたものの正体を悟る。それは水の魔法術を使い、矮躯の少女にみせかけた虚影であった。

 ならば、本物は?


(とった……!)


 アーサーはこのような搦め手を使った経験は、これまでにほとんどない。必要がなかったからだ。

 しかし己の魔力をもってしても圧倒できない敵が現れたとき、どう対抗するべきか。それを考えたとき、アーサーは経験の中から、誰かの戦いを取り入れた。

 そして今、その成果として、魔人の後ろから致命の刃を振りかぶっている。


「せえっ!!」


 咄嗟に振り返った魔人の肩に、巨大な刃が落とされた。

 どうやら腕部ほどの硬度はない。好機を感じ取ったアーサーは力を振り絞り、やがてその気勢は、魔人の炎の身体を斬るに至る。


『グオオ……ッ! きさま、このような』

「まだだッ!!」


 苦しげに呻いてはいるが、まだ魔人には声を返す余裕がある。切り裂いたのは表皮、あるいは衣といえる部分だけだ。それを認めたアーサーは、追撃を仕掛ける。

 燃え盛る傷口からのぞく、赤いマグマの血肉。そこに左手を押し当て、力を流し込む。青い、水の力を。


『ギアアアアアッッ!!??』


 耳をつんざく醜い悲鳴に、アーサーは手ごたえを覚えた。

 これまでとは反応が違う。魔物としての肉体に、ダメージを与えることに成功していた。

 このまま終わらせようと必死に張り付くアーサー。しかしそこに、思いがけない反撃があった。

 魔人の身体が激しく炎上し、至近距離にいるアーサーを火に巻く。炎に対する障壁をまとい、しばらく耐えていたアーサーだが、尽きないそれに根負けし、身を引いてしまった。


『アアアア……オオ……ッ!』 


 だがダメージは与えたはず。そう思いつつ、アーサーは瞬時に体勢を立て直した。敵が身体からわずかに黒煙を巻き上げ、苦悶の声をもらす今、攻撃を止めるのは悪手。

 アーサーはふたたび接近しようとし――それを、思いとどまる。

 敵の苦しむ様子が騙りで、自身を取り込むための罠であることを警戒し、中遠距離の位置から、魔人へと手をかざした。


「ハイドロレイ」


 水の魔法術が、動きを止めた魔人に、何度も叩きこまれる。何度も、魔力の限り、敵が消え失せるまで。

 魔法術による、嵐のような怒涛の攻め。それこそが、アーサーの最も得意とする戦い方だ。


「はあっ、はあ」


 長い攻勢が終わり、武闘台上は静かになる。

 魔物相手に息が上がることなど、アーサーには久しくなかったことだった。

 しかし、だからこそ。その成果は、確かだ。

 魔人の身体は火の勢いを弱め、それによって赤熱色だった体表は、纏っていた炎のその下の、黒く焦げたような皮膚をさらしていた。あれならば、大剣を弾くほどの硬い炎をまとうエネルギーは、もう残っていないかもしれない。

 アーサーは横に突き立てていた剣を掴み、肩にかついだ。ゆっくりと、膝をついてうなだれた母の身体と、魔人へと近づいていく。

 ……十中八九、誘いだろう。いくら自分が強くなったからといって、こうも容易く討ち取れる存在ではない。この程度なら、父と母が負けるはずはなかった。

 だが、あえて近づく。あのまま術で攻撃するべきなのだろうが、魔人の首は、父の剣で刎ねるものと決めている。

 幾通りもの予測を立てながら、アーサーは歩く。

 そうして、たどり着く。アーサーは重い大剣を片腕で持ち上げ、高く掲げた。

 魔人の首に向かって、断頭の刃が振り落される。


「シーク……お願い、お母さんを助けて」

「っ……」


 そこに、母が割って入った。

 ただ、それだけで。少女の剣は、いとも簡単に止められてしまった。

 ……わかっていた。魂の腐った魔物が、このような手を使ってくることは、事前に想定していた。対応策も考えてある。はっきり言って、あまりに粗末なやり口だ。姑息で、小癪で、猛り狂う炎の魔人のやることにしては、あまりに矮小な手口だ。

 ただ。

 結局、アーサーの身体は、動いてはくれなかった。誰かの愛情を求めていた少女は、この土壇場で、その手で母に別れを告げることが、できなかった。

 それだけのことだ。


 母の口の端が吊り上がり、弓のように曲がる。そこから目を逸らすように、アーサーはまぶたを閉じた。

 死から蘇るかのように、ふたたび身体を炎上させた魔物が、アーサーの腕を掴む。

 剣が手の中から落ち、がらんと重い音を鳴らした。


『さあ。ようやくだ。オレとひとつになろう。世界を焼き尽くそう』


 強く手を引かれると、アーサーの身体が、魔人の大柄な身体の中に沈んでいく。魔人が少女を、肉体ごと取り込んでいるのだ。

 当初、魔物はアーサーを殺し、魂を食らって身体を乗り換えるつもりだったが、予想以上に力をつけていたアーサーに苦戦し、咄嗟に方針を変えたのだった。取り込まれた肉体は魔人の体内で魂と共に消化され、力となる。肉体を乗っ取ることはできなくなるが、人間を食らうにはより手っ取り早い方法だった。

 魔物はアーサーの奮闘に業を煮やしてこの手段を選んだものの、抵抗もなく沈んでいく少女を見て、失策だと感じていた。これほどまでに動きを奪えるのならば、焦らず当初の予定通り、先に肉体を殺すべきだった。

 とはいえ、吐き出すというわけにもいかない。これでまた力を増すことができるのだから、その礼に、美味しく、丁寧に、食い殺してあげよう。

 魔人はやがて巨体の中にアーサーを取り込み終えると、満足そうに天を仰いだ。

 連動して、ロピカの身体が同じ動きをする。娘の殺害に加担したその身体は、心から嬉しそうに微笑んでいた。それはロピカの肉体に、怒り、涙を流すための本来の魂はどこにも残っておらず、魔物の手足となってしまっていることの証左だった。


『……ん? 消耗し過ぎたか。取り込むのに時間がかかる……』


 腹をさするような仕草をした魔人は、おもむろに周りを見渡した。

 彼が見ているのは、武闘台を円く囲む人々。闘技大会の観客たちだった。

 魔人の魂が発する命令を受け、ロピカの身体は舌なめずりをする。


『ならば主菜の前に、おやつでも楽しませてもらおうか』


 魔人が身を縮めると、急激に魔力の濃度が高まる。その異様なさまは、結界越しに見守っていた人々を不安にさせた。闘士アーサーはどうなってしまったのか? 試合はこれで終わりなのか?

 誰かが呟いた言葉は、的を射ていた。試合はもう終わっている。

 これから起こることは、ルールに守られた高潔な戦いなどでは、ないからだ。


『オオオオッ!!』


 魔人は身体の大きさを増していき、そこから突如、4本の火柱を噴出させた。

 火柱は四方に伸び、武闘台を囲む防護結界に到達する。あまりの臨場感に、人々は汗をかく。


「お、おい。あれ……」


 火柱には確かなカタチがあり、結界に張り付いたそれはまるで、巨大な手のひらのように広げられていた。

 やがて誰かが、結界に、あるはずのないひびを見つけた。

 誰もが目を疑う。これはバルイーマの手練れの魔導師たちが長い時間をかけて編み上げた、最高硬度の魔法障壁だ。内側でいかなる激闘が繰り広げられようとも、ほころぶことなどあり得ない。あっては、いけないはずだったのに。

 そしてあっけなく。今日まで人々の、単なる観客としての立場を守ってきた大結界は、薄氷のように、割れた。


「う、うわああああっ!?」

「いやあっ!? 何よこれ!!」


 燃える腕は客席に届き、火が人々を脅かす。

 逃げ惑う者たち。それを逃がすまいと、柱のような火の腕からさらに細い触手が伸び、人々の足や腕に取りついた。

 巻き込まれた彼らは火傷を負ってはいるものの、幸いにも死者はまだいない。それはこの腕が、人々に秘められたわずかな魔力を食らっているからだ。

 つまりこれは、幸いなどではない。わずかののち、魔力が尽きた人々は、肉体を焼き尽くされる運命である。

 彼らは一人残らず紅蓮のかいなに囲まれ、ここからは逃げられない。

 アーサーが魔人に取り込まれて、ほんの数十秒。

 人々の心のよりどころであった伝統ある闘技場は、地獄になった。


 魔人は地獄を見て、安堵のような感情を得ていた。

 彼にとってはこの光景こそが己のいるべき場所で、人間の世界に潜り込んだときから、ずっとこの瞬間を我慢していたからだ。

 我慢に我慢を重ねた末にある悦楽の、なんたる美味か。そして魔物は、人々の魔力だけではなく、絶望の感情をも食い物にしていた。

 地獄の中心で、魔人の魂の響きが伝播したロピカが、頬を赤く染める。その様子はあまりに妖艶で、とてもこの世のものとはいえない。

 魔人が笑う。人々の悲鳴と協奏曲を奏でるように、彼の哄笑が、世界を包んでいく。


 それを、切り裂くものがあった。


『何? なんだ、これは』


 4つの触腕からくる、魔人への食事の供給が、途切れる。

 炎の柱は既に消え失せていた。ひとつは突風に吹き散らされた。ひとつは刃によって悉く切り刻まれた。ひとつは五色の魔力の光によって消し飛ばされた。

 そしてひとつは、雷鳴によって砕かれた。

 炎上する武闘台に、ひとりの少女が降り立つ。

 見事な金の髪と、宝石のように紫紺に光る瞳を見て、魔物はまた舌なめずりをした。


『おや、決勝戦はまだ先だったはず。何か用かな、人間』

「大した用事じゃない。お前を斬りに来ただけだ、魔物」


 魔力のあらわれである髪と瞳の輝きは、極上の餌の証である。

 否。金色の髪と紫電の瞳は、雷を担う者の証明である。


 魔人のうちに囚われた少女を想い、ミーファは炎と対峙する。

 少女が悪しき火に取り込まれるまで、あと――、


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ