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落雷ブレイブガール!~TS転生勇者、子孫に惚れられる~  作者: もぬ
バルイーマ闘技祭 / ススの魔人
19/63

19. 予選 その2

 第1戦の勝者である二人が、舞台の袖へともどってくる。

 先ほどしのぎを削っていた金の髪がきれいな少女は、ユシドとひとしきり笑い合い、そのままどこかへ出ていった。

 ……あの娘さんが、あいつと仲良くしているのを見ると、なんだろうな。あまり愉快ではない。

 理由は……そうだな。闘技を争う大会なのだから、あまりああいうふうに馴れあうものじゃない、と思う。少し距離が近すぎるんじゃないのか? 剣の腕は達者なようだが、それだけで心を開いてしまうのはどうなんだ。

 たしかに、初対面にしては、最後の背中合わせの連携など、よくやれていた。それにあの少女、明るく器量よしで腕もいい、前世のオレなら口説いていたかもってくらいだ。

 でも、ユシドの背中にいるべきなのは……ユシドには、もっと……


 ……今、オレは、何を考えようとしたのだろう。彼を見守る者として、あるまじき過干渉だ。

 これ以上はよくない。試合に集中できなくなりそうだ。


 会場に、次の試合がアナウンスされ、人々が歓声をあげる。

 第2戦が始まるらしい。せっかくだからオリトリ亭のみんなに、良いところくらい見せないとな。

 ぞろぞろと入場していく戦士たちの後ろについていく。

 試合を終えたユシドが、それを見ていた。すれ違いざまに声をかけられる。


「えっと……頑張って!」


 語彙に乏しいやつだ、と苦笑する。柔らかい表情と気楽な態度は、きっと、オレの勝利を微塵も疑っていないのだろうと思わせる。それくらいの気持ちでいるのが、ちょうどいいかもしれないな。

 少し、足を止める。

 ユシドが握手をしていたのは……右手、だったかな。

 オレは彼の右手をとり、自分の手で、固く握った。


「頑張ってくるよ、少年。見ていてほしい」

「う、うん」


 気が済んだ。

 では行こう。


 大闘技場の歴史は古い。この円形のコロッセオは、オレが生きていたときよりもさらに以前からあったものだという。

 しかしここで行われるのは、人間と人間の戦いだ。我ら勇者の敵はいつの世も魔物であり、オレ自身も人からほんの少しだけ外れている。だからあまり、興味がなかった。

 だが今回は、こんな催しものにユシドが参加したいと言った。思えば目立ちたがりでもなく、欲深くもないあいつが、なぜここに参加したいと意見してきたのだろう。

 きっと、やりたいことがあるんだ。


『では……試合開始の合図まで、10カウント!』


 ならばそれを見届けるのが、自分の務めだ。

 ユシドが勝ち上がったのならば、オレもそうしよう。できる限り近くで、彼を見ていたいんだ。

 腰の剣に手を添える。


『試合開始ィイーーーッ!!!』


 人々の歓声とともに、鋼鉄を抜き放とうとした。

 あれ? 抜けん。


「可愛い嬢ちゃんだなあ! 悪いが一抜けしてもらうぜえー!!」

「おおう」


 巨漢の振ってきた腕を適当にかわす。彼は、そう怖い相手じゃないな。フィジカルには目を見張るものがあるが、こちらが小柄だからか少し避けやすい。

 しかしこいつ。大事な時に居眠りかましやがって。……まあ、予選くらい、剣無しでちょうどいいハンデかもしれないな。相手に失礼ではあるが。

 相手のマッチョは腕を繰り出し続ける。攻撃の隙を探して、紙一重でかわしていく。

 魔法術で、倒すしかないか。

 彼のような武闘家にとって、我々魔法術使いは卑怯者に見えるのかもしれないが、使えるものをわざと制限するというのも失礼な話だ。まあ剣は今だけは仕方ないとして。

 魔物をひねり殺しかねないようなその肉体、間違いなく今世のオレよりは鍛えている。そちらが鍛錬のたまものを駆使しているのだから、こちらも、あまり加減はできんぞ。


「この!」


 彼はいま、焦れて大雑把な動きをした。人間同士の戦いではここが勝敗の分け目となる。

 腕の下をくぐり抜け、素肌を露出している足首に手を添える。そこから、痺れる電撃を送り込んだ。


「えい」

「ぬおおお!?」


 大柄の彼が膝をつくと、ようやく目線が並ぶくらいになった。

 さて、どうするか。雷術は人間を気絶させるのに向いていると聞くが、試したことはない。

 ちょうどいい。やってみよう、これも経験だ。……先代雷の彼女は、聖女のような顔をしておきながら、人を気絶させるのは大得意だった。倣おう。


「えい」

「むほおおおお!!??」

「こうか?」

「き、気持ちいい! そこそこ!!」

「ええ……? じゃあこれは?」

「あぎゃああああああ!!!」

「ん? 間違ったかな……。それ!」

「あっ」


 何度か攻撃箇所や加減を変えて試すと、男は白目を剥いて地面に沈んだ。

 触診する。死んではいないし、心臓は元気。彼が頑丈で良かった、勉強になったぞ。


「さて……」


 苦労して彼をステージの端まで引きずり、救護の手が届くようにしてやる。……ともすれば、引きずられたことによる擦り傷の方が酷いかもしれんと、いま気付いたが、まあいいだろ。

 ぱんぱんと手をはたき合わせて、周囲を探る。……やはり、乱戦状態だ。

 ふと、観客席のデイジーさんとおかみさんたちを見つけたので、手を振ってみた。なんか表情が微妙だ。はずしたか。


 腕を組んで考える。ややしゃがむと、頭の上を火の球が通り抜けていった。魔導師がいるらしい。

 このままみんなのつぶし合いを待ってもいいが、ちょっとつまらない。かと言って鼻息荒く勝ちを獲りにくのも、今日はいまいち気分じゃない。

 先ほどの、第一戦の顛末を思い出す。あまり気に入らないが、誰かと共闘すること自体は良いアイデアだ。

 強い魔力を発している人間を探して、武闘台の上を散歩する。

 やはりここまできた参加者たちには、それぞれ強みがある。オレが魔力、さっきの男が肉体ならば、洗練された武術であるとか、練り上げられた戦術であるとか、誰しも長所を持っている。我ら勇者が人類の中で最高の魔力を持っているとしても、簡単に勝てるとは限らない。

 実際、例えば前世で一時共に旅をしたハヤテ・ムラマサは、オレなど足元に及ばない剣の達人であった。本領は鍛冶の腕の方だったのだが。

 そういう技巧派の人物に声をかけてもいいが、武人という人種はこのような場では、誰かと手を組むことを嫌いそうだ。どうしようかな。


「ん」


 対面にまたひとり、闘士が現れた。

 フードで顔を隠しているが、オレよりもやや小柄だ。素肌をあまり露出せず厚着をしている。正体は読み取りづらいが、もしかしたらまだ幼い少年か少女かもしれない。自分の身の丈ほどもある大剣を背負い、こちらを警戒している。

 ……なんだ、この気配は。非常に強い魔力を感じる。おそらくこの子のものだ。

 まさか、勇者……?


「きみ、ちょっといいかい。ここはひとつ、手を組まないか?」


 声をかけてみる。どちらにせよ、おそらくこのブロックの参加者で一番魔力の濃い人物だ。……オレを上回っているかもしれない。

 手を組むのなら、彼以外にない。

 気さくな態度を心掛けたオレの提案に対し、相手は……手を、背の剣にかけた。


「おれに仲間など……必要ない!」


 巨大な刀身が降ってくる。重量を活かした縦斬りは、想定以上の攻撃速度だ――!

 身をひるがえす。すぐそこに大剣が叩きつけられ、舞台にひびを入れた。人を斬れないように刀身を布で厚く巻いているようだが、こんなものを脳天に喰らえば命はないぞ。適切な加減ができていないんじゃないか?

 スカウトは失敗だ。しかも、厄介な輩に目をつけられたことになる。応戦するしかない。

 地面に叩きつけられた大剣を見る。あの細腕で、これをまた持ち上げるのは簡単ではあるまい。その前に、武器を蹴とばしてしまえば。


「それに触るなッ!」


 少年は剣の持ち手を離し、回し蹴りを撃ってきた。腕でガードしたが、威力が強い!

 やつはそのまま再び、剣を持とうとする。おそらく横一線に斬るはず、跳んでかわせるか――?


「なっ!?」


 足が、なにかにすくわれる。

 水だ。少年が空いた片手で放った水流が、オレの姿勢を崩した。

 回避できない体勢。敵の剣が横薙ぎに振るわれる。オレは剣帯から、抜けない剣を鞘ごと外し、迫りくる刃を防いだ。

 ガンという衝撃。踏ん張ることも出来ずに、思い切り身体を吹き飛ばされる。

 場外に行く前に体勢をなんとか整える。ガードをしてもノーダメージとはいかない。今のは、腕が折れるかと思った。


『痛アアアッ!? ふざけるなよ小娘ェエーーッ!!!』

「あ、ごめん」


 鋼鉄のイガシキが、飛び起きてブチ切れるほどの威力らしい。悪いことをしたが、おかげで剣が使えるようになった。


『オレを使って防ぐな! あんなものはすべて避けろ!!』


 無茶を言う。

 相手のスタイルは、魔法と剣を使って攻めてくる、魔法戦士だ。体術も達者ときている。圧勝というわけにはいきそうもない。

 戦い方は、武器攻撃が主のように見える。ならばこちらは、魔法術で遠くから攻撃を仕掛けてみるか?


「しっ!」


 雷を投擲する。やつは真っ直ぐにこちらへ突っ込んでくる。

 ……水の膜が、雷の槍を弾いた。魔法障壁!


「うああっ!!」


 大剣に、鞘から抜いたこちらの剣を思い切り叩きつけ、剣閃をそらす。再び大重量のそれが、地面を叩き割る。

 水の障壁で雷の魔法術を弾くとは、すさまじい魔力だ。だが、いつまでも優位を取らせはしない。

 これならどうだ。オレは雷光を鋼鉄にまとわせ、少年に斬りかかる。魔法剣による気絶を狙う――!

 刃が迫る。自身の剣を振り切ったままの姿勢の少年は……しかし、その目で、オレを捉えていた。


「……『イラプション』」

「ぐっ! くそ……」


 何もない空間から水柱が立ち、オレと彼を阻む壁になる。

 無視して突っ込もうとしても、地面に対して角度をつけて出ているその水流は、思い切り身体を押してくるだろう。思わず後ずさり、距離をとった。

 相手は近距離にも遠距離にも強い。なら……。

 オレは術後の隙を期待し、剣に纏わせた雷を飛ばそうと、両手で構えた。中距離からの魔法剣。そこに、障壁を突破する威力を込める。

 間欠泉のごとき柱が消え、やがて水煙が晴れる。

 少年が、武器もない片腕を、思い切り振りかぶっていた。


「はああーーっ!!」

「おおおおッ!!」


 ――水の魔法術。

 それは多くの冒険者たちにとって、攻撃力の高い属性というイメージはない。飲み水を調達したり、身体を清潔にしたり、そういったことによく使われる印象だ。できることが多く、非常に利便性に優れることが特徴の術である。

 とはいえ、実は威力もすさまじいものがある。絞りに絞った水流で魔物を切り刻む魔導師を見たこともあるし、水の弾丸にも重い威力があるのを知っている。

 だが。

 彼のそれは、そのどれとも違っていた。

 これは、濁流だ。津波だ。押し寄せてくる大質量。こんなものを使われたら、武闘台の上は綺麗に洗い流されてしまう。

 前世で一度だけ、海を見た。まさにそれが目の前に、オレを飲み込もうと迫っている。

 あのトオモ村の魔物のように、湖の水を利用したのなら、まだわかる。

 やつは何もないところから、自分の魔力と、空気の中のわずかな水だけを元手に、これを生み出したということになる。あまりに規格外だ。

 水の壁が、迫ってくる。


 しかし、自分は何だ。

 前世のように風の勇者だったならば、もしかすると敵わなかったかもしれない。

 今は違う。このような困難に打ち流されることなどありえない。押し寄せる波を千々に切り裂いてこそ、雷の勇者――! 

 彼女がいたならば、きっと、そう言ったはずだ。


「雷神剣――ッ!!」


 使用する魔力量を上方修正。魔物の群れを焼滅せしめる金色の煌めきで、水禍に対抗する。

 巨大に伸長した雷の刃が、海を思わせる大津波にぶつかる。

 普通の雷と水が、こうしてぶつかることはきっとないのだろう。だがこれは、オレと彼の魔力の猛りだ。二色は拮抗し合い、びりびりと空間を揺らす。

 すさまじい力だ。だが……ここで負けたら、ちょっと、あとで、恥ずかしい。


「うあああああっ!!!」


 剣に力を込め、無理やりに刃を押す。

 ついにオレの剣は、水の壁を、切り開いた。


「!!」


 消しきれなかった波が、オレの周りだけを流していく。なんとか自分への被害だけ防げたようだ。

 ……今回はオレ一人の戦いだから、これでいい。だが、守るべき人が後ろにいるかもしれない場合を想像すると、ぞっとする。本来の雷の勇者ならば、水の属性相手にきっとこうはならない。オレも未熟だということか。

 思った以上の魔力の消耗に、片膝をつく。……まずいな、追撃が来たら、負けだ。

 剣を支えに立ち上がり、正面の敵を、見据える。

 少年もまた、雷の刃を受け、消耗していた。


「……わ、わたしの守りを……うぐっ!」


 彼は手で、自分の胸を押さえた。

 そこには一閃に、魔法剣が衣服を焼き切った跡がある。しまった、必死にやりすぎたか。あとで謝らなければ……


「お、お母さんから貰ったローブが……ぐ、く……うあああああッ!!」

「熱っ!?」


 熱い。

 身体にかかっていた水が、熱を発している。あたりを見渡すと、先の攻防で水浸しになったはずの舞台が、急速に乾いているように見える。

 蒸気が立ち込め、湿気と温度で闘技場の暑さが増している。その中心で、厚着をした少年が、ゆっくりと、大剣を持ち上げていた。


『試合そこまで!! 栄えある2名の勝者は……闘士ミーファと、闘士アーサー!!』

「へ?」


 進行の号令と、観客たちの声が、戦いの終わりを知らせていた。

 思わず周りを見渡す。……なるほど。あの津波と雷のせりあいで、巻き込まれた他の参加者たちは軒並みノックアウトされたらしい。当たり前の話だ。

 脱力し、尻もちをつく。ちらりと少年を見ると、さきほどあのように怒り狂っていたのが嘘のように、無言で大人しく剣を背負い直していた。


『では勝者へインタビューを……ああ、ちょっと!』


 声を無視して、少年はさっさと行ってしまった。不愛想な子だ。

 しかし、あれほどの魔法行使……もしや彼は、“水の勇者”ではないだろうか。声質からしてやはり少年の頃のようだが、あの若さで魔法術の規模は、ティーダのそれにも匹敵するレベルに思える。

 アーサー、といったか。目をつけておいた方がいいな。

 ……なんか、すでに嫌われたかもしれんけど。


『ええと……それでは! 勝利したミーファさんに一言、なにかコメント頂きましょうか』

「うん?」


 声が響き、やがて舞台にひとりの女性が上がってきた。

 彼女は小走りでこちらへやってきて、オレに筒のようなものをよこしてきた。立ち上がり、応対する。


『なにこれ? くれるんです……うわっ!』


 オレの声が拡大されて、闘技場中に響き渡った。みんなが笑う声がする。

 なんだこれは、新手のマジックアイテムか。とんだ恥をかいた。みんな田舎者だと思ってバカにしているだろうな。


『ではミーファさん、何か一言、観客の皆さんへ』


 筒を向けられる。なるほど、これに向かって話せということだな。もうとちらないぞ。

 えーと。……特にいうこともない。適当でいいか。


『えー。闘技場から歩いて少し。美味しい手料理と確かな目で選んだ酒、ふかふかのベッドがあなたをお待ちしております。“オリトリ亭”、オリトリ亭をよろしく』

『……はい! 宣伝でした!!』


 観衆たちの拍手に、愛想笑いを浮かべながら手を振り返しつつ、みんなを探す。

 おかみさんがぐっと親指を立てて見ていた。だんなさんは恥ずかしそうに顔を覆っていた。

 デイジーさんと目が合う。ふぁんさーびす、を期待しているようだった。

 ……ウインク、というジェスチャーがある。試しにデイジーさんに向かってやってみた。

 うまくいかず、両目をつぶってしまった。


 2戦目が終わり、オレは控えへと戻っていく。舞台の袖では、ユシドが待ってくれているのが見えた。

 ……あまりかっこいいところ、見せられなかったかな。それが少し、心残りだ。

 近付いていく中で、目が合ったので、もう一度あれを試してみる。

 やはり、両目をつぶってしまった。



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