表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
落雷ブレイブガール!~TS転生勇者、子孫に惚れられる~  作者: もぬ
機甲都市グラナ / ヘビー・アームズ・アース
11/63

11. 風魔テルマハ

「ぢょっどドイレ行っでぐる」


 湯浴みを終えたような真っ赤な顔で、紫紺の目をぐるぐると回転させながら、ミーファはおもむろに立ち上がった。

 おぼつかない足取りで、目的地へと蛇行しながら進んでいく。心配だ……。


「ああそうだ。お前の剣、もう治ってるぜ。今返すよ」


 すっかりいわゆる飲み友達になってしまったカゲロウさんが、脇に立てかけていた剣袋を手渡してくれる。

 あのとき、地魔の魔法攻撃を受け止めヒビが入ってしまった僕の剣を、鍛冶師である彼に預け、見てもらっていたのだ。

 自分もまた、机に立てかけていた長刀を、カゲロウさんに返却しようと手に取る。風魔の剣が直るまでに借りていた代用の武器だ。七魔から創りだした剣には及ばないまでも、これもまた見事な逸品で、正直なところ返すのは惜しいほどだった。武器屋に並べればしかるべき価格で売れるに違いない。

 しかし、カゲロウさんは、それを手で制した。


「それはあげるよ。いらんなら、ミーファちゃんのスペアにでもしてくれ」

「いいんですか? こんなに素晴らしい刀を」

「そんなもんでいいならいくらでも打てるさ。鉱山採掘や石の流通が復活しさえすればな」


 彼はやはり、腕に覚えのある素晴らしい鍛冶師だ。そう歳を重ねていないが、間違いなく熟練の域だろう。ミーファの手足になる剣を生み出せるのは彼しかいないと、改めて思う。ティーダさんは友人のよしみで彼の元に客を連れていくのではなく、実力に見合った依頼を持ち込んでいるのだ。

 しかしこの刀。ミーファの使い捨てにしてしまうには惜しい。魔法剣にもある程度なじみ、頑丈さと切れ味を高いレベルで兼ね備えている。魔物との戦闘に何一つ不足はない。また、片側に刃のある美しい刀身は妖しい光を備え、造形にも価値をつけられそうだ。

 気付けば僕は、あまりに礼を失したことを口走ってしまっていた。


「……これ、どこかで売ってお金にしてみてもいいですか」

「お? いいよー。そしたら参考までに、いくらでさばけたか教えてくれよな」

「こいつ商才は全然だからな、ユシド君、そういうの教えてやってくれよ」

「優雅にまったり暮らせるくらいには稼いでるわ、別にいいっての」


 頭を下げ、礼を言う。

 カゲロウさんは気の良い返事をしてくれた。そんな返答をしてくれることを、心のどこかで感じ、期待していたのだろう。自分は狡い男だ。

 刀を再び自分の側に戻す。そして次に、受け取った風魔の剣を、鞘から抜いた。

 ……傷ひとつない。美しい刀身は、まったく元の姿のまま。ひびなど最初から無かったかのようだ。

 流石はカゲロウさん。そう賞賛したくて顔を上げると、彼はどこか煮え切らないような、苦笑いをしていた。


「それさ。ひとりでに直ったんだよ」

「え……?」


 彼の言うには。

 剣を台に置き、少し席を外して戻ってきた、その瞬く間の時間。いざ作業をしようと刀身を見ると、確かにあったはずのひびが消えていたらしい。

 また他の異常として、部屋に材料として置いてある風属性の魔石が、いくつかは魔力を失った状態になっていたという。

 ……つまり、この剣が、自ら魔力を食って再生したと。


「風魔から創ったっていう話、俺はもう心底信じたよ。この剣は、生きている」


 剣が生きている。

 今までそんなふうに思ったことはなかった。……武器に関することで、カゲロウさんの言うことに間違いはない。


「しかしね、問題をひとつ見つけた」

「問題?」

「ああ。ほら、この前地下迷宮に行った日だったっけ。オレの前で魔法剣を使って見せてくれただろ。そのとき感じたんだが……この風魔の剣はおそらく、君を主人とは認めていない」

「えっ……?」

「だから、本来の性能のほんの一部しか発揮していないと思う」

「なっ!? ……そんな」


 思わず席を立ちあがり、また、座る。

 剣は生きていて、それが僕を持ち主と認めていない? たしかに、こいつの持つ戦いの歴史に見合う戦士に、僕はまだまだ届いていないという自覚はある。

 しかしそれが、剣の側にも意思があり、未熟さを見抜かれているとは。

 ……本来の力を、見せていない?


「風の魔力の伝導力、許容量、そして増幅機能。ぜんぶこんなものじゃない。何なら機嫌が悪いときは、こいつに注いだ魔力の何割かは食われてるかもよ。めちゃくちゃ燃費が悪いときはないか?」

「ええ!?」


 全っ然心当たりがない。今までの戦いで、この剣は不自由なく僕の道を切り開いてくれている……と、思っていたのだが。

 ごくりと喉を動かす。今の段階でも、風の魔法剣がよくなじむという点で、普通の剣よりまったく上等だ。そこにさらに、カゲロウさんの言うような力が秘められているとしたら。


「……剣に認められるには、いったいどうすれば?」

「う~ん、さあなあ。地道に使い続けて力を示していくか……あ、胸に抱えて一緒に寝たら、夢の中でお話できるかもよ? なんて」

「僕ちょっと今日はこれで失敬します。ティーダさん、あの作戦、ちょっと詰めておいてください」


 いくらかの金を机に置いて、急ぎ二階に借りた部屋へ駆けあがる。

 試さずにはいられない。絶世の剣だと思っていたものに“上”があるなんて……!

 部屋の戸を開け、中へ入る。少し考え、装備をまとったままの状態でベッドに横になった。

 風魔の剣を眺め、心の中で語りかける。

 お前に話がある。どうか、どうか応えてほしい。

 剣を胸に抱え、目を閉じる。酔いが少し入っているせいか、眠るのにそう時間はかからなさそうだった。




「う~い……あれえ、ユシドはあ?」

「ちょっと用事があるってんで、部屋に戻ったよ」

「なんでえ!? や、やっぱりオレ、避けられてるのかなあ」

「おちつけミーファちゃん。そんなわけないだろー?」

「ただの用事だって。ほら、水だよー美味しい水だよー」

「用事って何さあ! こんな時間にぃ、なんかあるわけないだりょ!!」


…………


「わかった。風魔の剣か。……ちょっと行ってくりゅ、ごちそうさまでした」

「行ってらっしゃい」

「おやすみ~」

「………」

「………」

「あ、おいバカ、どこへ行くムラマサ」

「だってよお、美少年と美少女の夜の逢瀬だぜ? 心の栄養だろ?」

「デバガメはやめとけよ。……こういうのはさ、朝までここで待って、一緒に降りてくるのをいじるのがオツなんだ」

「ティーダ……」

「ムラマサよ……」

「朝まで付き合うぜ!」

「ああ!」





《何か用か、ウーフの小僧》


 闇の中で厳かな声がして、目を開く。

 自分は、自分以外に何もない場所に立っていた。

 いや、今のは最初の印象だ。正確に言えば、あるはずのものはそこにある。立っている地面もあるし、肺を満たす空気や爽やかなにおいもある。そして、吹きすさぶ風の音も。

 しかしそれとは逆に。いつも腰に帯びている、風の剣だけが、そこになかった。


《どこを見ている。オレはここにいるぞ》


 風の音と思っていたものは、僕の頭上から聞こえていた。

 その荘厳な姿が、目の中で吹き荒れる。

 見上げるほどの大きさをした、翠色の毛をもつ馬の姿をした魔物。

 その背中には、一対の翼がある。人間に飼いならされた馬たちと違い、そこに荷や人を乗せる機能など、己にはありはしない。そう主張しているかのようだ。

 翡翠の目は怒りを押し隠しているかのように揺れ、僕を静かに見下ろしている。そしてその上……頭頂部には、根元から折れた角のあとがあった。


「お前が、かの風魔か」

《そう呼ばれたこともあるな》 

「……用件を言う。僕に、その力を貸してほしい」


 単刀直入に、ここへ来た理由を告げる。

 わずかな無言の間が、重圧となって身体にのしかかるようだ。


《貴様などにオレの風は扱えん。ただの剣の役割なら果たしているはずだ》

「それでは足りないんです。その力が必要だ」

《――フフフ。武器の性能に頼るような軟弱が、風の勇者を名乗っているとはな》


 わらった。だが、決して愉快だから笑ったのではないとわかる。

 むしろ、怒り。沸点を超えてしまい、やがて暴力をふるう寸前の、原始的な本能の笑い。

 強い追い風が、僕の全身を刺し始める。


《どうしてもというなら、貴様自身の力を見せろ。……さあ、戦え》


 折れていた風魔の角が、翠色に輝く風の魔力で新たに形作られる。けたたましいいななきと暴風をまき散らしながら、やつは前足を高く上げて踏み鳴らした。

 やはり力を示さなければ、彼がこちらを認めることはない。仕方ないが、全力を見せるんだ。

 慣れた動作で腰の剣を抜こうとする。

 ……そして、気付く。そこに剣はないということに。


 眼前で、輝く角が、ほんの軽い動作で振られる。

 僕は竜巻に、全身を叩きのめされていた。


「がああッ――!?」


 切り刻む風ではなく、鈍器のような、いや、壁のようなそれに吹き飛ばされる。

 地面にみっともなく転がり、血反吐を吐く。……痛い。夢の世界だというのに、身体のそこら中が軋む。

 口元を拭い、震える脚に力を入れ、なんとか立ち上がる。


《ただの一撃でそのざまか。風の勇者が風に押し負けるのか? 剣が無ければ、何もできぬとは》


 呆れるような声色。

 まったくだ。自分でも笑いが出る。それこそ怒りの笑いだ。

 ミーファから教えてもらった魔法剣。先祖から受け継いだ武器。すべて自分のものにできていない。


《このような者に手綱を握られるなど、耐えがたい屈辱だ。……よくぞここへ来てくれた、お前はもう死んでくれ》


 再び角先から、嵐がほとばしる。僕は全身の血を沸騰させ、敵と同じように、両手から風を呼び起こした。

 正面からぶつかる二つの魔力。負けたのは……、


「う、ぐ、ぎ」


 いくら踏ん張っても押し返せない。僕の身体は竜巻に切り刻まれる。鋭い痛みが、四肢や顔を襲う。

 まだ。まだ全身がバラバラになったわけじゃない。魔力を放出する要領で、身体中から力を飛ばし、自分を包む竜巻を散らす。

 晴れた視界の先。風魔が角を、一閃に振り下ろした。


「ぐああああ……!」


 風の刃。自分にとっても、得意とする技のひとつ。

 しかし風魔のそれは、切れ味がこちらの比ではなかった。

 膝をつき、斬撃の刻まれた自分の胴に触れる。するどく焼け付くような痛み。赤い血。

 ……死んでしまいそうだった。涙が情けなくあふれかける。夢の中だというのに、自分の身体は正直だった。

 傷は負ったが、胴はまだ離れていない。それは攻撃の瞬間、身を包んだ魔力の防御が、紙一重だった証拠だ。

 だけど。折れた膝がいうことを聞かない。立ち上がることが出来ない。

 ただの三度の攻防で、僕の心は、五体は、やつに屈しかけていた。


《泣きたいのはこちらだ、小僧。そんな様では、シマドの名も知れたものとなろう》


 その名を聞いて、自然に拳を握っていた。

 だけど意思に反して、全く力の入らない手足は、まるで眠っているかのよう。それにつられて、意識もまた。

 情けなくうずくまり、小鹿のように震える。


 そこに。

 僕の目の前に、金色の小さな光が現れた。

 握りこぶしほどのあたたかい輝きが、眼前でゆらめく。


《……ほう。風の勇者、シマドの魂がお前につきまとっているようだな。やつもとうに野垂れ死んだだろうに、未練たらしい。寿命の短いヒトの妄執だな》

「シマド、様……?」

《しかし良い趣向だ。さあ、先代の前で無様にひれ伏すがいい。自分には世界など背負えません、とな》


 ……そうだ。

 僕は勇者の器じゃない。誰よりもわかっていたことだ。懸命に旅を進めることで、そこから目を逸らしている。

 シマド様。あなたのようには、なれない。

 金色の光が、やさしく僕を照らす。


「い、いて!」


 光がゲシゲシと頭にぶつかってきた。修行のとき、ごくまれにミーファから拳骨をもらってしまったときのように、絶妙に痛い。

 光が語りかけてくる。それはなぜか、威厳ある男性のようにも、透き通る女性のようにも聞こえた。

 「ここで倒れるような者に、風を託した覚えはない。立て」

 そう、言っていると、思った。


「……はは」


 この拳骨の痛みに比べたら、今の身体の傷がなんだ。

 力の入らない手足を、意思だけで無理やり伸ばし、虚無の大地に脚の根を張る。

 金色の光が細く伸び、剣のような形に姿を変えた。

 思わず手を伸ばし、握る。あたたかい熱が手に伝播する。心に、誰かが寄り添ってくれているようだった。

 それにしてもなさけない。ご先祖さまに、わざわざ武器まで用意してもらうなんて。僕はいつまでこうなんだ。


《ああ。もうやめてくれ。お前は醜態を晒しすぎる》


 ……まったく、気が合う。

 風魔の頂く角の輝きが、これまでにないほどに濃くなる。

 荒れ狂う暴風。あれほどの風を見たことがない。人間がそれに巻かれれば、たちまち身体は千々に切り刻まれ、肉片はどこか遠くへと舞い飛ばされることだろう。

 光の剣を、両手でそっと握る。剣は僕に、力の限り勝てと言っている。

 だが、四肢には何の力も入らない。

 そしてそれ以上に……剣であいつを打ち倒すのは、僕にとっては、何かが違うと思った。


 終わりの神風が、ただひとりに向かって吹きすさぶ。

 鼻の先まで迫る死の気配。耳鳴りがひどく、触れもしないうちから肌が斬りつけられている。

 しかしなぜか。鼓動は安らぎ、落ち着いていた。誰かが手を握ってくれているかのように。


 ――風神剣・凪――


《何……?》


 烈風を一刀で切り裂き、かき消す。なぜこんなことができたのかわからない。夢の中だから心の問題かもしれないし、剣に余計な力が入らなかったからかもしれない。

 最大の一撃を放ち、隙を見せた風魔に向かって、飛ぶ。

 剣を振りかぶり、斬りつけようとして――やめた。

 触れる距離まで近付けたことに気付き、僕は彼の首を撫でた。

 毛並みが良い。良いもの食ってるな。


《何の真似だ? そうまでして死にたいか》

「失礼」


 眼前の地面に降り立つ。僕は風魔の目を見上げ、再度気持ちを伝える。


「僕はあまりに未熟者だ。あなたには勝てない。だから、もっと強くなってから、また来る」

《みすみす逃がすと思うのか?》

「……いいじゃないか。これからも一緒に戦ってくれるなら、いっぱい風の魔力を食わせるよ。魔力の量だけなら自信あるんだ」


 手足の気張っていた根性も抜け、尻もちをつく。もう限界だ。負け負け。


「あと、怒らないで聞いてほしいんだけど……僕、あなたと馬が合いそうだ。賢いひとは好きだし」

《不愉快が過ぎる》

「気難しいな。力の全部を貸してくれなくても、今の分だけでも最強の剣だと思うんだ。これ以上頼ろうなんてたしかに軟弱だった、反省しました」


 そうだ。彼の真の力は魅力的だが、どう転んでも僕の最終目標にその手は借りられない。

 自分の力だけであの子に勝たなきゃ、気持ちを伝えられないのだから。

 目先の困難くらい自分で何とかすべきだろう。ミーファの言うように、あの地魔の身体を己の力で持ち上げられるようにならなきゃ。いつか風魔の力を借りるにしたって、まずはそこからだ。順番が違う。


「う……」


 上半身を起こしていられなくなり、地面にあおむけになる。

 頭上から、翡翠の目が、こちらをのぞいていた。

 落ち着いた状態で彼の起こす風の音は、どこか澄んでいる。


《お前のような惰弱を、戦士とは認めん》


 厳かな響きと、微風。

 まぶたが、落ちる。


《認めんが……人間にしては気持ちのいい風を起こす。シマドよりまだ礼儀を知っているようだ》


 あれほど痛めつけられたのに、なぜだろう。今はまるで、草原で昼寝に興じているかのように心地よい。

 さわやかで、涼しい。

 ……そういえば直接本人からは、聞いていなかった。

 あなたの、名前は?


《我が名はテルマハ。お前が己の力を真に息吹かせたならば、多少は力を貸してやってもいい。機嫌が良い日だけな。――何より、オレもあの業突く張りの虫けらは、昔から好かぬ》





 目が覚める。

 十分な睡眠をとることができたような、すっきりとした目覚めだ。

 だからといって。

 目の前で、想い人が添い寝していることを、正しく認識するのには、時間がかかる。


「マ゜ーーーーー」


 奇声を上げて飛びのこうとして、互いの両手を繋ぎ合わせていることに気付く。

 解こうとしていると、アメジストの輝きが、瞼を持ち上げていた。

 眠たげに身体を起こし、目を擦ろうとでもしたのか、手を持ち上げる。当然、こちらの手も、持ち上がる。

 それを見た、寝起きの少女の白い肌は、みるみると色づいていった。


「あっ、その……おはよう」

「う、うん」


 互いに距離を開ける。手のぬくもりが離れることを、名残惜しく思ってしまった。

 しかしなんでミーファがここに。いや。彼女なら勝手に人の部屋で眠ってもおかしくはないが……だけどそれにしては、こんなにしおらしく顔を伏せて、らしくない。


「テルマハには会えたのか?」

「え? あ……」


 抱えて寝たはずの風魔の剣が、ベッドから落ちて転がっていた。

 拾う。これまでは無機質な剣にしか思えなかったが、手の中にあるそれには、呼吸をしているような息吹や鼓動を感じる気がする。

 これはあくまで印象だが。落とすんじゃないと、メチャクチャ怒っているかのようだった。


「怒ってるっぽい」

「性格暗いからな~」


 笑って返すミーファを、不思議に思った。

 彼女はまるで、風魔に会ったことがあるように話す。


「ああいや、そういう先代勇者の記録を読んだことがあるんだよ。……キミが読んでいるべきだぞ、まったく」


 そういった彼女の様子は、何かをごまかしているように感じた。

 ……まあ、ささいな違和感だ。そんなことより、お、おっ、同じ布団の中にいたことの方が問題である。

 何がどうなっていたのか、あまり聞かないことにして、僕はぼさぼさの髪を撫でつけながら、階下を目指して部屋を出る。

 後ろからミーファが追ってきた。僕たちは並んで、階段を下りていく。

 隣からわずかに、体温が伝わる。


 あの光のぬくもりは、シマド様の魂だけじゃなくて、となりで寄り添っていたミーファの熱が反映されたのかもしれない。おかげで心を落ち着けることができた。無謀な挑戦から生きて目覚めることができたのは、彼女のおかげということか。

 ありがとう、ミーファ。

 そう心の中でつぶやき、彼女に視線を送った。


 そのあと、朝までここで飲んでいたらしいティーダさんとカゲロウさんの盛大なからかいが、僕たちを待ち受けていた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ