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本作は2020年9月8日に最初の投稿をさせていただきましたが、その後編集を一時中断しておりました。以前は2章まで進んでおりましたが、今回内容を再編集し改めて1章から投稿させていただいております。一新したわけではないので以前の内容と重なる箇所もあると思いますが、再スタートした本作を丁寧に書き進めて参りますので楽しんでいただけましたら幸いです。
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体が揺れている。縦に横にと忙しなく、揺れている。
黒く塗り潰された視界。自分の瞼が閉じているのか、開いた上でどこかがおかしくなっているのかさえ分からない。
けれど分からないなりに、後者の可能性が高いような気がしていた。全身の自由が利かず、手足の感覚が酷く遠くに感じられたから。脳の指令である電気信号の受け取り先が消えたと錯覚してしまうほどに――つまりどこかおかしくなってしまったと思える程度には、鞘は自分の体の異常を感じ取っていた。
こわい。
ぽつりと一つ、頭に言葉が浮かぶ。
か細いそれを掻き消すように本能が叫びだす。
得体の知れないモノがすぐそこまで迫っていることを。
命を脅かさんとする危機がもうそこに在ることを。
叫ぶ。
叫ぶ。
それは鼓動を走らせ血液を追い立てると、頭頂から爪先まで余すことなく恐怖を通わせていった。
心音より少し遅れて脳に響く振動が鬱陶しい。これさえなければ簡単に意識を手放せるのに。簡単に理性を、自分を手放せるのに。
「こわい」
聴いて初めて、震えるそれが自分の発したものであることを知る。不動を貫いているはずの表情筋が痙攣していたことを知る。歯の根が合わず、口内からカチカチと間抜けな音が鳴っていた。いつから?
その時。
「ああ、怖いな」
応じる言葉があった。
どれほど驚いたことか。
どれほど救われたことか。
頭上から降る声は輪郭が朧気で距離が掴めない。けれど、鞘の頬を掠める熱い空気の流れ、ぬるま湯の様な心地よい温もり、肩や足に巻き付き体を支えている大きな何か。どうして今まで気付かなかったのだろう。外界にほんの少し注意を傾けてみれば、自分が一人ではないことをありありと知ることができた。
守られている。
目頭に熱が滲んだ。眼球に張り付く水膜が膨れ、熱い雫となって頬を駆ける。その足跡が瞬時に冷却されると、顔から始まって少しずつ、忘れていた寒さを全身が思い出してゆくようだった。
熱い。
痛い。
寒い。
きつく締め付けられるように喉の奥が痛む。呼吸は酷く苦しいのに、目覚め始めた感覚が拾い上げる情報に潰されそうなのに、これ以上ないほどに深く安堵していた。
同時に、それと同等の悲しみに打ちひしがれてもいた。理由は分からない。ただ、予感があった。嫌な予感だ。煙を掴むような不確かなそれは、無視してしまうにはあまりに大きな不安を胸に刻みつけてくる。
ああ、と思考を巡らせた時、霞む視界の中で微笑む人を見た。
きっとこの人は■■■■■■――。
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