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Fifth Candy ; 初キスの予感

 武術のクラスが始まろうとしていた。キララが急いで体操服、侍の衣装みたいなの、に着替えて、木造の稽古部屋に入ると、履物を脱いで一礼した。20人ほどの生徒が集まって、壁のそばでお喋りしたり、男の子達が、棒を振り回して戯れたりしている。

 一口の目の前の壁には、「千里道一歩」と書かれている。

キララの姿を見つけたろくろ首とその周りの女の子達が、私に手を振っている。

「ティナ殿遅いではないか。」とろくろ首がキララのところまで、にゅいーんと首を伸ばして言った。このちょっとぽっちゃりめのろくろ首は、首美お乱。頭を江戸美人スタイルにして、いつも派手なかんざしでバッチシ決めている。食いしん坊の彼女に知らない料理はない度のグルメである。

「いやね、ちょっと野暮用があってね。」とキララはあのいじめのことを話そうかどうか、考えていた。

「我ら、殿方のことについて話しておったのじゃ。」と蛙女が私の目の前に飛んできた、蠅をぱくっと口を開けて、舌ベロで捕獲しながら言った。どこの世界でも、恋話だけは、永遠につきることがないのねー。

「で、誰が一番ホットか考えてたわけー。」とNYギャル風のムッチな悪魔が、くるくるに巻いた金髪の髪の毛の先をもてあそびながら言った。

「で、キララ殿は、誰が一番の殿方だと思う?」とお乱が、私の体に首を巻き付けながら訊いてきた。

「ええ、私あまりそういうの興味ないしなー。」お乱の首を外しながら答えた。

「また、また、一人位いるんでしょう?ゴシップなしは禁則だぞ。」とムッチが言った。

「いやだな本当にいないんだっては。」

「まあ、良いわ、私達は、早乙女兄弟がやりやりだと思うんだけど、ティナどう思う?」

「その事なんだけど、早乙女ってだれなの?」とキララは、あのいじめについて考えながら訪ねた。

「ええええ?」と女の子達が顔を見合わせながら、驚きの声を上げた。

「あんた、早乙女を知らないの?あの、いとも美しい美少年を。」

「ちょっとティナあんた熱でもあるんじゃないの。」とお乱がぐぐっと顔を近づけてきて、私を抱えると、おでこに手を当てた。

「いや、知らない者は知らないので」とキララは口ごもりながら言った。

 きゃあ、と女の子の黄色い歓声が入り口の方から上がった。キララはお乱の太い腕に抱きかかえられながら、歓声の方角に顔を向けた。一人の悪魔の少年が入ってくるところだった。

 女の子達が、明らかに色目を使って体をくねらせている。しかし、それほどまでにきれいな顔の少年だった。私の世界で言えばジャニーズね。長身なうえに軽く筋肉のついた若々しい繊細な体つきがまぶしかった。髪の毛は漆黒のように、恐ろしいほど美しい切れ目の瞳や首元に垂れ下がっていた。背中からは、コウモリのような翼としっぽが生えている。だけど、なんだか気に入らない。誰一人にも挨拶しようともしないし、人を馬鹿にしたように、周りの女の子にも目を向けようとしていなかった。

「ティナ殿、ティナ殿、早乙女の弟君じゃ。」と興奮して私の体を揺さぶってくる。

 やつが、私達に近づいてくると、ムッチは、大きな目で明らかに好き好きオーラを出して、手を振る始末だし,蛙女は興奮のあまり倒れるし、私と言えば、お乱が突然手を離したので、地面に叩き付けられてしまった。

 キララは、痛む腰を押さえながら、立ち上がると、その少年に目をやった。少年を取り囲むようにして、女の子達が集まっている、それでも、話そうとも、目を向けようともしなかった。

 嫌だな。とキララは思った。鼻につくやつに頼み事をするほど、嫌なことはない。だけど、約束は約束だし、あの弱虫な男の子を助けるためだ。私ってなんて良いやつなんだろう、キララは、正義感に酔いしれながら、早乙女に近づいた。

 女の子の群れをかき分けて、真っすぐと彼の前に立った。明らかに、話そうとしているのに、向こうにそういう意志がないことにキララは腹が立っていた。

「あんた、早乙女サリュウでしょう。私に、霊魂玉の玉ひとつくれない?」と大声で手を差し出しながら言った。

 あたりが、しーんと静寂になった。みんなが、固まっている。視線がキララにそそがれた。あれ、あれ、私何か悪いことでも言ったかしら?ときょろきょろと潜水艦の望遠鏡のようにあたりを見渡してキララは、戸惑っていた。霊魂玉ってなんかのアクセサリーの事だよね。

 お乱が私のところに重たい体で駆けつけてくると、そのばから 引きずりだして、隅の方に連れて行った。

「ティナどの、気でも触れたのか?」と訊いてきた。

「霊魂玉ってビーズのことでしょう?」

「なにを言っておる。霊魂玉とは、生きる者の魂の一つ。その手に入れ方は、」お乱は、顔をまっかにして口ごもった。

「入れ方は?」

「相手の方と、相手の方と、せっぷ。」と最後の言葉を濁らせた。

「え?」

「接吻しててにれることができるのじゃ。」

「せっぷん?!」と私はスットンキョンな声を出した。

せ、接吻ってキスのことだよね。じゃあ、キララは、見ず知らずの少年に、しかも大人気に、キスをしてくださいと頼んだって事?ああー、気が遠くなりそうだ。キララは、頭を抱えて、その場にしゃがみ込んでしまった。思春期の女の子が男の子にそんなことを訪ねるなんて、しかも大声で。恥ずかしい。穴が入りたいとはこのことなんだわ。

 それから、その日一日中、校内は「霊魂玉」の噂で一杯だった。噂の感染率の高さにはいつも驚かされる、霊魂玉の話は、ものの数分の間に、強力な感染菌の様に学校中に広まったと思うと、様々な形でささやかれた。キララは、一日中うつむいた。霊魂玉の名前がささやかれるたびに、顔を真っ赤にした。おまけに早乙女ファンクラブ通称、SFCから嫌がらせを受けたりもした。うう、しかたないじゃないか、キララは何も知らなかったのだから。

 しかし、そんな地獄の午後の終わりを告げる鐘が鳴った。キララにとってその鐘の音は、救いの手だった。助かった。我一番と、一目散に教室を飛び出そうとした。

 だが、扉の外には、黒い影がそこに立っていて、止まる暇もなくキララの体がその影にぶつかった。

「いてて、だれだよ。まったく」といって、悪魔の少年がキララの胸に顔をのせていた。

ぎゃあ、とキララは一声うなると、男の子をばしばしと、ほうきの柄で、叩き付けた。

「この、スケベやろう!」

「おい、やめろよ。そんなに荒れるなって。」とって、私から離れる。

「お前、霊魂玉の魔女だろ?」

「それが、何なのよ!」といって、ほうきの柄を握る手に力が入った。

「いや、面白いなと思ってさ。おれ、あいつの親友のマタロウだ。」

「はあ、それが何か?」

「そんなに怒るなって、霊魂玉欲しいんだろう。どうだ、今度の棒術の実践大会で、こいつと戦って、勝ったら霊魂玉をやるって言うのは?」と言って、誰か、そこにいる者の肩に手を回した。それが、あの、早乙女あったというのは間違いないだろう。キララは、顔を真っ赤にしてうつむいた。

「な、こいつは、いやだって行ってるんだが、俺は面白いからやってもらいたいと思う。」

それって、あんたの楽しみのためかい。

「いいじゃんか、何も失う者はないんだし、こいつの霊魂玉って言ったら、学校運中の乙女諸君が喉から手を伸ばすほど欲しがってるんだぜ。こいつが嫌がろうが、そのチャンスが今お前の手に飛び込んできたんだから、断るのはもったいないぜ。」

「そんなの、絶対にいやよ。」とキララはきっぱりと断った。そこまで、私ががんばる理由ってあるかしら。それに、勝ってもあいつとキスなんかして手に入れるなんて、まっぴらごめんだ。キララは、きびすを返すとその場から去ろうとした。

「だけど、あいつを助けるんじゃなかったのか?」

「あいつってだれよ?」

「あの、3人の恩あの子にいじめられてひいひい言ってたやつ。」

「なんで、あんたがそんな事知ってるのよ。」

「わるいな、面白そうだったから見物させてもらったよ。お前、面白かったな。ほっときゃ良いのに。」

「あんたには、関係ないでしょ。」

「でどうするんだ、やるか、やらないか。やらなきゃ、あの子がまたいじめられるんだぜ。お前は、そんなに冷酷なのか?」とキララの人情をせめて来る。

「やるわよ、やればいいんでしょ!!」

 ああ、これでもう引き下がれない。

「それでこそ、お前らしいよ。じゃあ、契約成立な。ここんところにサインしてくれ」といって、契約の紙を差し出す。キララは、渋々とサインをした。

マタロウは、早乙女の後を追いかけながら、遠くから私に叫んだ。「お前の胸真っ平らだな、ちゃんと喰ってるのか、そんなんじゃ、男できないぜ。」

 ウギャア、むかつく。


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