秋津洲
「馬や火砲はそのままに兵士だけが姿を消していた。焚き火や暖かい食事もそのまま放置されていたらしい」
「日本軍の奇襲を受け、交戦した可能性はないのですか?」
「それはあり得ない。部隊と指令部との距離はほんの数キロ程度しかなかったらしい。一個旅団が戦闘を始めて気づかないはずがないということだ」
「そうですね・・・。もし戦闘を行っていれば日本軍側にも記録が残っているはずでしょうし」
「もちろん日本軍側に交戦した記録や捕虜を捕った記録は残っていない。部隊から離れて警戒に当たっていた兵士達を取り調べても1発の銃声も聞いた者はいなかった」
「今でもその兵士達は行方不明のままだ」・・・と国友は付け加えた。
「死体も見つかっていないのですか?」
「1人の死体も見つかっていない。ついさっきまで確実に存在していた人間だけが、わずかな時間で移動した痕跡も残さずに消えてしまった」
「神隠しの様なものですかね」
「そんな感じだろうな。まぁ何年も前にテレビ番組でやっていた話なんだがな」
「幹部学校で日中戦争の教育を受けましたが、そのような事は教えられませんでした」
畑根はカップを掴み上げ、コーヒーを少しだけ残してカップをテーブルに置いた。全て飲み干してしまったら国友がまたコーヒーを淹れ直すかもしれないという気まずさからだった。
自分でできたならば気にも留めない。だが、わざわざサーバーの使い方を聞いてまで2人分を淹れ直すのは正直二度手間に思えた。
「他にも色々やっていたな。「飛行機ではない何かに追われている」という通信を最後に消息を絶ったオーストラリアの新人パイロットだったり、フランスで造られたが、日本に帰ってくる途中で行方不明になった日本帝国海軍の軍艦だったりと」
「日本でもその様な事が?」




