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剣の谷の狙撃手  作者: キャップ
第二章 秋津洲
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秋津洲

問題の集落へ伸びる進路上には複数の履帯跡が確認されているが、それがどの程度の規模の部隊が通過した跡なのかについては今の所不明となっている。




だが少なくとも大規模部隊が集落より我方に続く唯一の国道を使った形跡はないというのが斥候より送られた情報に基づいた上での師団の判断だ。




「敵部隊が存在していた様だが、その敵部隊がどの程度の規模で、今現在どこで何をしているのかは分からない」という事以上に国友に認識できていることはなかった。




明日、別の普通科連隊から一個中隊を索敵の為に集落地域へ展開させることが決定している。しかし、これで敵情が解明されるかも知れないという期待と共に、これまでに感じた事のない不気味さを国友は感じていた。




「畑根1尉は「中国兵士集団失踪事件」を知っているか?」




畑根は伏せていた視線を国友に向けた。




「いえ、聞いたことはありません」





「日中戦争時に起きたと言われている、名前の通り中国軍の部隊がまるごといなくなったという事件だよ。まぁオカルト的な話でその真意は怪しさ満点ではあるが、今の状況と何か似ているなと思ったんだ」




「細部をお聞きしてもよろしいですか?」




国友は軽く咳払いをした。




「1937年の12月に日本軍が南京を占領したことは知っていると思う。少し間が空くが1939年12月に、中国は南京を取り返すため、約3000の兵士を前線に配置したんだ。」




「3000の兵士・・・1個旅団くらいですかね」




「国や時代によって部隊の人員数は変わるので一概には言えないが、今の陸上自衛隊に当てはめればそんなところだろうな。そんな1個旅団の展開が終わったということで部隊の指揮官はそれを報告するため後方にある指令部へと馬を走らせたんだ」




ペラペラと早口で喋ってしまったが、少なくとも機嫌とりで畑根がこの話を聞いてきたのではないことはその真っ直ぐな眼差しから読み取ることができた。




「だがしばらくたってから部隊と無線連絡が取れないという報告が指揮官に伝えられた。当然今と違って一人が一台スマホを持っている様な時代ではないので、指揮官は元来た道に逆戻り。すると・・・」




「すでに部隊は姿を消していたと?」




国友は残っていたコーヒーを全て飲み干した。畑根は国友に合わせて一口だけコーヒーを口に含むとカップを再びテーブルへ戻した。



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