表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
剣の谷の狙撃手  作者: キャップ
第二章 秋津洲
69/304

秋津洲

決してたどり着かぬ街の灯のような消えかけの蝋燭。揺らめくその火が照らすのは表面が削り落とされた硬い岩の塊だった。俺は手にしていた大ぶりな鶴嘴を振り上げ、叩きつけた。




岩の一角が砕け落ちる。その代償として手のひらから肩にかけて強い衝撃が走った。それは関節や骨にすさまじい激痛となって襲ってくる。




手のひらの感覚はまだ残っていた。しかし痛みはあれど力は残っていない。手を赤黒く染まった柄に手拭いで縛り付け、再びそれを振り上げる。




俺だけではなかった。鉱石を採掘した際に出るズリを後ろで延々と運び続けている長身の痩せた男は、死人のような顔ですくっては捨てすくっては捨てを繰り返している。その手のひらは俺と同じく、全ての皮が剥けきっているだろう。




途絶える事のない鶴嘴が石を打つ音。ズリを運ぶ台車の車輪が軋む音。そして許しを請う懇願の叫び。




今が朝なのか夜なのかすら分からない。「俺達」に憎悪と蔑みの視線を飛ばし続けている見張り曰く「知る必要はない」との事だ。




まだに手に皮が残っていた頃、鶴嘴を振りながらその意味を考えていた。




「決められた範囲を掘り終えるまで」「決められた量を掘り終えるまで」


一切示されていない仕事の終わりが来るまで外に出ることはない。そういう意味なのだろうと自分に言い聞かせていた。




振り上げていた鶴嘴を再度叩き込む。骨が砕けたのではと錯覚するほどの激痛を受けてなお俺は笑っていた。




愚かで甘く、淡い希望を抱く自分自身を、俺は笑った。




悪夢にも救いはある。目が覚めれば悪夢は終わり、それ以上追いかけてくることはない。たとえ夢の中で何が起ころうとそれは現実ではなく、頭の中の空想でしかない。




不意に何かが崩れ落ちる音が鳴り響いた。それに合わせて耳に入る見張りが走り寄る足音と苦痛の喘ぎ声。そして続く耳障りな怒声。





振り返る必要はなかった。なんて事はない。ここに来てから何度も見てきた光景だ。




苦痛の喘ぎはすぐにすすり泣きへと、そして命乞いの叫びへと変わっていった。




俺だけではない。誰一人として叫びの主に目を向けようとはしない。そして聞こえる鞭が肉を叩き刻む音と、先ほどまでとは比べものにならないまでの激しい悲鳴。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ