秋津洲
容易ではないが両立はしなければならない。領主への発言を許されている政治家として、有事の際は部下と民の命を背負って戦う戦人として。
そして自分が何らかの理由で「それ」を成すことができなくなった時、椿は「それ」を継がなければならない。そしてさらに椿の後を継ぐ者の為に椿はそのための道を示す義務を負うことになる。
[総長]と「副総長」、立場こそ違えどその責務の重さにさほどの違いはない。信頼と責任をすべて負わせる可能性がある以上は、その後に楓が衆を率いて団結をさらに強固なものにするとともに、前任者を超える扶桑衆の長であることを民に認識されなければならない。
もしそれが成らなかったならば、その全ては前任者である瀧人の責任となる。それは扶桑衆のみならず扶桑家の信頼も失う事と同義であり、結果敵対勢力を除いて誰一人として幸せになる者はいない。
「難しいな、人というのは」
「難しい?何がです?」
瀧人が長々と考えていた間同じく黙っていた椿は、ようやく口を開いた瀧人の言葉に疑問を投げかけた。しかしその答えが分からない瀧人にその答えを出すことはできない。
「いや、何でもない。独り言だ」
瀧人はその場に立ち上がり腰を回した。関節の鳴る音が小さく周囲に響く。
まだ明るいが日は落ち始めている。だが秋の日はつるべ落とし。ここから暗くなるまでの時間は長くはない。
「そろそろ戻ろう。次はもっと余裕をもって来るとしようか」
「そうですね。」
名残惜しくはあったが、墓参りはあくまで仕事の「ついで」だった。発電所の視察がこの町に来た目的であり、それが終わった今、明日一番の機関車で衛戍地へと戻らなければならない。
今年も残り3か月程だがしなければならない事はたくさんある。近いうちにはこの墓地全体の整備も必要だろう。ここに眠っているのは「彼」だけではない。朽ちかけている全ての墓も含め、ここは極めて神聖な場所だ。




