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剣の谷の狙撃手  作者: キャップ
第二章 秋津洲
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秋津洲

今のように幕府としての機能が一部死んでいるような状態だったならば、扶桑と金剛はどちらかが、もしくは両方とも今存在していなかったかもしれない。どうあることが最善であるのかは分からないが、いずれにせよ今できることが最善であることを信じてやり抜く他は無かった。




瀧人自身、父でもある領主、扶桑賢英の舵取りに疑問を持ったことがない訳ではない。決して正しいとは思えない父の行動に冷や汗をかいたことも一度や二度ではなかったが、その度に、最終的にはただ自分が先を見据えていなかっただけだという自己嫌悪にも似た感情を抱くだけであった。




幕府の命を無視してまで発電所の建設を強行した時もそうだ。まだ電気という存在を疑問視していたのは瀧人だけではなく、技術者でさえも全員が全員その仕組みを理解しているわけではなかった。農地での働き手までを徴用してまでの価値があるのだろうかという考えを持たない方がどうかしている。




だがそれは賢英が発電所が完成し、町の主要施設に通電が開始されるまでその存在を徹底的に極秘としていたこともある。建物の建設に携わった者でさえも、自分が担当する箇所以外に立ち入ることは強く制限されていた。それはたった一言の他言でさえも処罰の対象となるほどの徹底ぶりであったが、高額な賃金と「図面一枚紛失につき担当者全員に鞭打ち十回」「情報漏洩者は家族共々島流し」等の連帯責任制の処罰一覧表が張られた環境において不正をする者は誰一人としていなかった。




もっとも、一部の技術者を除いて自分が作っているものがいったい何に使われるのかさえも分からない者が大半である以上、万が一秘匿すべき情報が流れた場合その元になるであろう人物は限られていたため、良からぬ事をしようにもできないというのが正しかった。




もしこれらの技術が盗まれ、他の地において万が一先立って使用されることがあれば幕府による扶桑の扱いも変わっていただろう。

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