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剣の谷の狙撃手  作者: キャップ
第二章 秋津洲
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秋津洲

扶桑が生み出している利益の約7割は重工業が占めている。産業の米である鉄鋼の生産から建築や鉄道、造船、その他さまざまな用途に使用される精密な部品を作っては莫大な利益を上げ、さらにその利益をもとに工業が発展してさらに利益を生む。今ではこの国はおろか、周辺国においても並ぶ者がいないほどの技術力を保持していた。




「扶桑は本当にすごいと思います。伊勢には電気を知らない人も珍しくないですし、線路もありません。船は帆で風を受けるか人が漕がなければ進まないのが当然ですし、こんなに大きな建物がたくさん並んでいるのを見たら皆大変驚くでしょう」




「幕府は今、国中に線路を張り巡らせる計画を立てているそうだ。領地同士が大量かつ円滑に物資を売買、流通させられるようにあちこちで鉄道工事が進んでいる。もっとも、何十年もかかるような気の遠くなる話ではあるが、もし実現すれば伊勢と扶桑を半日で行き来できるようになるだろう。交通機関としての利用ももちろん計画に入っている」




「その頃には私も総長も腰が曲がって足元もおぼつかないでしょうし、ちょうどいいですね。刀や銃も持てないくらいに弱って鞍によじ登る事すらできなくなっていますよ」



「きっと、今の我々には思いもよらないような世界になっているかもな。今目の前に広がる光景も、私が幼い頃には想像もつかなかったものばかりだよ。」




「扶桑の技術がこの国がより良い方に導くことを願いますよ」




会話をしながら椿は墓標の正面にしゃがみこんだ。墓標の肌を人差し指でなぞるとざらざらとした表面に擦られ、指先が黒く汚れた。ぐりぐりと親指に擦り付けるが汚れはただ広がるだけだった。小さくため息をつく。




「でも今の幕府にそれができるんでしょうか?扶桑ではなく幕府が主導していると聞くと何だか胡散臭く感じてしまいますよ。幕府の役人たちは自分たちにとって有用な土地にしか興味を示しません。総長もあの発電所ができるまで幕府のお偉いさん方が扶桑をなんて呼んでたか知ってますよね」



今度は瀧人がため息をついた。




「埋もれ切った芋洗い場・・・だろう?」




椿が今度は近くにある雑草をぶちぶちと引き抜き始めた。



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