狙撃手
・・・・・と考えていたがやめる事にする。2発で2人とも仕留める。そう決めた。
もうこれ以上狙撃手を続ける気はなかった。12月中に行われる中隊長との面接で、脱狙撃班を受け入れられなかった場合、退職の意思があることを伝えるつもりでいた。
まともな中隊長であれば、必ずそこで折れるだろう。3等陸曹の階級を持つ隊員が、職務への不満を理由に退職を申し出ることは中隊長としては汚名を被るも同然だ。部隊の編成を的確に管理できなかった責任は決して無視できない。そんな下らない理由でキャリアに傷をつけるくらいなら、俺一人のわがままくらい渋々受け入れるだろう。
そんな甘えた期待を持っているわけだが、もし本当にやめる事になったとしてもそれはそれで構わない。退職時に行われる連隊長との面接時に、これまで溜まりに溜めた中隊や中隊長への不満を洗いざらいぶちまけるだけだ。転属希望さえも握りつぶされた俺の恨みは決して小さくはない。
何一つ良い思い出のない職務ではあったが、検閲は終わり、射撃検定は特級を取り、あとは他部隊の訓練の手伝いをするくらいのものだ。もしかしたら手入れ以外でケースから銃を取り出す機会すらないかもしれない。
これが狙撃手最後の仕事ではないとも言い切れなかった。最後くらいは真面目に仕事をしようと、突然そう思ったのだ。
相変わらず2つの影は藪の影から動かない。敵も狙撃手の存在は知っているはずなのでそれを警戒しているはずだ。恐らくは大よその位置も予想しているだろう。
彼らはきっと月明かりがあるとはいえ、遠距離から自分たちを発見するのは困難だと考えているのだろう。照準暗視眼鏡は狙撃班にしか装備されていないため、その存在と性能を知らないものも少なくない。
不意に藪の隙間から2つの影が消えた。再び倍率を戻し、周囲を広く見まわす。暗い闇一色の世界が広がっているだけだった。
「消えました。そちらから何か見えますか?」
問いかけたが観測手は低く唸るだけだった。舌を打ちそうになったが、それをこらえ、堤防の切れ目を凝視し続けた。
根拠に乏しい考えではあるが、逃げたわけではない。俺はそう考えた。
1時間以上をかけてここまでやってきたにも関わらず、こんな短時間の偵察だけで帰投するとは考えにくい。ここは通れないと判断したにしろ諦めが早すぎる。




