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剣の谷の狙撃手  作者: キャップ
第一章 狙撃手
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狙撃手

観測手の指示を待つよりも早く、俺は眼鏡の丸く突き出たボタンを押し画像の倍率を上げた。2つの影から周辺まで確認できていた画像が、敵影の上半身にまで絞られる。合わせて一気に画像が荒くなったが、識別できないほどではない。そのまま狙撃銃の肩付けを固め、握把を握り直した。




火器用交戦装置から発射されるレーザーの射程距離は600メートル強。敵までの距離は約300メートル程度しかなく、当然のことながら実包の様に風や重力、湿度や気温によって弾道が変わることもない。




だがレーザーであるが故の弱点もある。実包とは違い、紙一枚葉っぱ一枚でも、発射されたレーザーの射線上に入ってしまえば、レーザーはいとも簡単に遮られる。




敵2名を隠している藪は、風に揺れてその体を隠したり晒したりを繰り返している。確実に損耗を与えるには、藪から離れ、完全に姿をさらした瞬間を狙うしかない。




しかし、オプションの消炎器を装着しているとはいえ、空砲による銃声と発射炎は確実に敵の視覚と聴覚に捉えられる。外せばこちらを警戒して二度とスリーエンドへは近づかないだろう。




それはそれで構わない。こちらの仕事が減り、なおかつ敵の移動経路に制限がかかるだけだ。この位置で伏せている限り、有効射程300メートル程度の小銃用交戦装置のレーザーで俺や隣の観測手を撃てる場所は皆無だ。遠距離からこちらを目視することは難しく、近くに来れば床が邪魔をしてレーザーは届かない。ありがたいことに安全管理上、赤部隊の隊員が電波塔へ上ることは禁止されている。




「どっちから撃ちます?」




どちらかが組長のはずだが、こちらからそれを判別することはできない。二人とも倒せるのであればどちらからでもいいだろうが、念のために観測手へ意図の確認をする。




「二人が藪から離れたら、確実に当てられる方から撃て、タイミングは任せる」




「了解」




冷たい空気を大きく吸い込み、そして吐き出した。白い吐息が月明かりに照らされてぼんやりと光り、そして消える。




当てずとも、こちらの存在を知らせてやるだけでも十分に抑止力になる。実戦ならともかく、今は射撃後速やかに移動するという手間もない。当てても当てなくてもどちらでもよいと思った。


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